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メタリカのラーズ・ウルリッヒが語る、還暦目前の現在地とハードロックの現状認識

Rolling Stone Japan / 2023年10月16日 17時0分

Photo by Tim Saccent

メタリカが1983年にデビューアルバム『Kill Em All』をリリースした時、ラーズ・ウルリッヒはまだ19歳だった。リリースを重ねるごとにファンベースが拡大していくなか、1991年に発表された『Black Album』は、「Enter Sandman」や「Nothing Else Matters」等のヒットにも支えられ、過去30年間で最も売れたアルバムとなった。以降リリースされたアルバムはすべてチャートの1位または2位を記録しており、最近では『ストレンジャー・シングス』に起用されたことがきっかけとなって、80年代のアンセム「Master of Puppets」が再び脚光を浴びた。

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トレードマークであるギターリフの応酬とともに、歳をとることに伴う葛藤を歌った最新作『72 Seasons』で、現在59歳のラーズはタスマニアデビルも顔負けの凶暴なドラミングを披露している。アルバムのタイトルは生後18年間を指しており、「Lux Æterna」「Too Far Gone?」「72 Seasons」等の楽曲はすべて、バンドの初期の作品に見られたスピードとエネルギー、そして焦燥感に満ちている。その一方で、本誌は同作について「単にスピードを追求していた頃とは違う、明確な目的意識を感じさせる」とレビューしている。

メタリカがヘッドライナーを務めたPower Tripフェスティバルでのパフォーマンス前に、本誌の取材に応じたウルリッヒは、バンドが築き上げたレガシーと自身のスキルに対する自信が、現在のプレイスタイルの根拠の一部になっていると語った。「過去のレコードの中には実験を試みたものもあったけど、ここ3作では俺たちが最も得意とすることを全面に押し出そうとしている」と彼は話す。「だからこそすごく自然だと感じてるんだ」



ーメタリカは少し前に結成40周年を迎えました。その事実を踏まえた上で、どのような経緯で『72 Seasons』のようなレコードを作るに至ったのでしょうか?

今の時代、新作を出すことにはいろんな課題がつきまとうし、正直リスクもある。「何の意味があるんだ?」とか、一体誰が聴くんだっていう声もあるからね。正気を保ち、心身ともに健康で、バンドとして存在し続けるためにレコードを作る必要があるっていう事実が、今の俺たちの自信になっていると思う。それは俺たちのアイデンティティの重要な部分だ。俺らと同じように長く活動しているアーティストの中には、(新譜を出すことの)必要性を疑問視している奴も多い。それでも、たとえ誰も聴かないとしても、俺たちはきっとレコードを作るだろう。必要なのはクリエイティブであろうとする姿勢なんだよ。

このアルバムのアイデアが生まれたのは、先が見えないパンデミックの最中だった。つまり最初から前途多難だったわけだ。誰も聴かないんじゃないかとか、このご時世にアルバムっていうフォーマットにどんな意味があるのかとか、そういう疑念は確かにあった。でも蓋を開けてみれば、友人やファン、ミュージシャン仲間、俺たちが信頼する人々の反応はポジティブそのものだった。(プロデューサーの)グレッグ・フィールドマンと作ったレコード(『Death Magnetic』『 Lulu』『Through the Never』『Hardwired』等)の中では、これまでで一番評判がいいんじゃないかって感じてる。


肉体面において、今の俺たちはここ数年で最もいい状態にある

ーメタリカのファンは、あなた方が今でもテンポが早くてヘッドバンギングできる曲を書いていることに満足しているのは確かなようです。

エネルギーや性急さ、それに歌詞やテーマという面でも、『72 Seasons』はオーディエンスが求めているものと合致したんだと思う。歳をとることっていう、誰もが経験するテーマに正面から向き合い、脆さを露呈することで共感を得られたんじゃないかな。メンバーの2人は60歳を過ぎたし、他の2人ももうすぐ還暦だ。俺らはその事実を隠したりせずに、むしろ祝おうとしてるんだよ。そういうことを考慮しても、今回のアルバムに対する反響の大きさは想定外だったね。

ー歳をとることというのは『72 Seasons』の重要なテーマです。還暦を目前に控えた心境について語ることで、ファンとの関係性に変化があったと思いますか?

何もかもオープンにしようとしたわけではないけど、人としての欠点や透明性っていうのは、今でも俺たちにとって重要なテーマであり続けている。メンバー全員が歳を重ね、個人としてもバンドとしてもライフステージの後半を迎えるなかで、俺たちは様々なマインドセットや理解しようとしていること、そして理解できずにいることを他人と共有しようとしているんだ。そのトピックについてのファンとの対話はすごくピュアだと感じてる。歳をとるにつれて、若くあり続けるための手段を追い求めたりしなくなるし、過去の栄光にすがるような真似もしなくなる。前に進むしかないんだよ。40年が経った今でも、未来のことしか考えないっていう姿勢は変わっていないんだ。

ー「Lux Æterna」や「Too Far Gone?」のように、今作には極めてテンポの速い曲が多く収録されています。同世代のアーティストの大半がテンポを下げようとするなか、メタリカはなぜ速い曲にこだわるのでしょうか?

肉体面において、今の俺たちはここ数年で最もいい状態にあるんだ。いうまでもなく、俺たちの曲の演奏にはかなりの体力を必要とするけど、調子がいい時もあればそうじゃない時もある。ロックダウンが終わってまたライブをやり始めた時、ステージに立ち続けるためには健康管理と賢明な「ライフスタイルの選択」が何よりも重要だって悟ったんだ。

このアルバムの曲をライブで演るのはすごく楽しいよ。しっかりコントロールできてると感じてる、曲に振り回されるんじゃなくてね。ライブで演れない曲を書くアーティストもいるけど、それは俺たちのやり方じゃない。12曲のうち8曲をこれまでにライブでやったけど、残りの4曲もステージでどう再現するかを決めてるし、エキサイトしているよ。







今作は音がいいって言ってくれる人も多い

ーアーティストとして、『72 Seasons』で新たな扉を開いたと感じていますか?

不自然だったり、ワンパターンに陥ることなく、エネルギーとスピード感、そしてパワーに満ちたレコードを作り上げたことは誇りに思ってる。曲作りの過程で生まれてきたエネルギーを、しっかりと音源に内包させることができたから。

あと、今作は音がいいって言ってくれる人も多いんだよ。16年間一緒に仕事をしているグレッグに、俺たちは絶対の信頼を寄せてる。俺たち4人とも、それぞれの楽器をイメージ通りの音で鳴らすことに徹底的にこだわったから、完成させるまでにすごく時間がかかった。でも俺がどういうドラムの音を欲しているかを、グレッグに言葉で伝える必要はほとんどなかった。互いのことをよく知っているから、言わなくてもわかるんだよ。過去のレコードと比べても、今作ではグレッグが各メンバーの音だけじゃなく、バンド全体としてのサウンドをうまくまとめてくれたと思う。

音に対する好意的なコメントの多さには驚かされたよ。AirPodsや他のヘッドフォン、あるいは昔のMemorexのCMに出てくるようなどデカいスピーカーだったり、リスニング環境に関係なく評判がいいんだ。ありがたいことにね。

ーサウンドに関することですが、「Inamorata」の最後ではメンバーの1人が「最高のボタン」なるものについて語っています。アルバムの最後を締めくくる部分ですが、あれはレコーディングに関することですか?

ボタンっていう言葉は曲の終わりを指してるんだ。つまり最後の数ヒット、あるいはアウトロのことさ。バンドが10組いるとしたら、10組とも自分たちの間でしか通じない意味不明の言葉をたくさん使ってるはずだよ。俺たちの場合、曲の最後を指す言葉がボタンなんだ。



ー本作には新たな試みも見られます「You Must Burn」におけるボーカルハーモニーは独特で、超俗的な印象さえ受けます。

曲の他の部分との対比という意味で、あの部分ではドリーミーな雰囲気を出そうとした。ストレートな歌ではなくて、ムーディでミドルエイト的なものが欲しかったんだ。(ベーシストの)ロバート(・トゥルージロ)があの部分を歌ってる。曲の一部だけど、独自の作品としても成立しているんじゃないかな。



ーステージで演奏するようになってから、楽曲の解釈はどのように変化しましたか?

より明確な緩急をつけるといったアレンジはしているよ、特にイントロはね。このブレイクは長くして、代わりにこの部分を短くするとか。でも劇的に変化したものはないかな。曲を書いてレコーディングして、ライブで演ろうってことになる。その段階になって改めて曲をさらって、練習を重ねてステージで披露し始める。今の段階を数値にすると8ってところだけど、感触は悪くない。きっとこれからよりディープになっていくだろうね。向こう1年間はライブの予定が入っているから、それが終わる頃にはきっと8以上になっていると思う。楽しみだよ。


Photo by Tim Saccent



メインストリームど真ん中の存在ではないのも事実

ー1989年に初めてグラミー賞にノミネートされて以来(メタルバンドではないジェスロ・タルがメタル部門で受賞し波紋を呼んだ)、リリースしたほぼすべてのアルバムがチャートの首位を獲得しています。当時と比べて、ヘヴィミュージックに対するメインストリームの認識は変化したと感じていますか?

ヨーロッパとアメリカでのチケットの売り上げに限って言えば、この夏は新記録を打ち立てたんじゃないかな。42年間活動してることを考えれば、マジで信じられないことだよ。その一方で、ハードロックはもうメインストリームではなくてサブカルチャーになっていると思う。

MTVやAOR系のラジオ局、それにローリングストーンやKERRANG!等の雑誌が中心だった80年代は、ハードロックが今よりもメインストリームに近い位置にいた。俺たちが記録した数字は誇るべきものだし、ガンズ・アンド・ローゼズやスリップノット、ゴースト、ディスターブドなんかもすごく売れてるけど、メタリカが活動を始めた頃と比べれば、ハードロックがメインストリームからは外れたサブカルチャーになっていると感じる。

俺が20〜30年前のようにシーンを正確に把握できているかどうかは怪しいし、正直以前ほどメインストリームにこだわらなくなってもいる。ハードロックが今でも多くの人々に支持されていることは確かだけど、俺たちがもう時代を象徴するメインストリームど真ん中の存在ではないこともまた事実なんだよ。

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from Rolling Stone US

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