Cannons初来日公演レポ コーチェラも席巻したエレクトロポップに浸る極上の一夜
Rolling Stone Japan / 2023年10月20日 17時15分
からっとした秋晴れの陽気で過ごしやすい一日となった10月16日の月曜日。LAからやってきたドリーミーなシンセミュージックが心地良い注目の3人組、キャノンズ(Cannons)による一夜限りの初来日公演が東京・代官山Space Oddにて開催された。
渋谷駅から10分ほど歩いた場所にある会場に着き、地下2階のフロアに降りる。筆者は開演の20分前に到着したが、フロアで聞こえてくる話し声はほとんどが英語で、最近の海外アーティストの来日公演と同じかそれ以上に外国人が多い印象を持った。というのも、キャノンズはすでに米国では大人気で、今年4月にはコーチェラ・フェスティバルのGobiステージ(同ステージには今年来日したイヴ・トゥモア、ゲイブリエルズ、The xxのロミーなども出演)を満員にするほど大盛況だったのだ。このように国際的な注目度も高いバンドだが、日本ではまだそこまで知られていないと思われる。まずは簡単にプロフィールを辿ってみよう。
キャノンズの結成は2013年。10代の頃から音楽制作を共にするライアン・クラファム(Gt)とポール・デイヴィス(Ba, Key)という幼馴染の2人が、シンガーを募集しているバンドを探していたミシェル・ジョイとインターネットの掲示板サービスを介して出会ったのがキッカケだという。翌年には初のEP『Up All Night』を自主制作でリリース。その後も着実にリリースを重ねていった。2019年の2ndアルバム『Shadows』からのシングル「Fire For You」が、パンデミック期間に大ブームとなったNetflixのコメディドラマシリーズ『私の"初めて"日記』の劇中歌として使われたことで大ヒット(本稿執筆時点でSpotify再生1億5000万回を突破)。本国での知名度を一気に高めた。コロムビアと契約した彼らは昨年3rdアルバム『Fever Dream』をリリース。そして今年11月には4thアルバム『Heartbeat Highway』のリリースを控えている。現在はその新作アルバムのタイトルを冠したキャリア初となるワールドツアー「The Heartbeat Highway Tour」で世界各地を周っている最中で、今回の初来日公演もこのツアーの一環である。すでに10年のキャリアがあるバンドだが、ここ2、3年で大きな注目を浴び始めたというわけだ。
さて、ライブの話に戻ろう。全体としては新曲を含め2ndアルバム『Shadows』以降の楽曲をバランスよく織り交ぜたセットリストだった。開演時間を10分ほど過ぎた頃、ティナ・ターナーによる1984年の代表曲「What's Love Got to Do with It(愛の魔力)」とともにメンバーは入場。70〜80年代のエレクトロポップの影響を受けているキャノンズの音楽性と非常によくマッチした選曲だ。長いブロンドヘアーにグラマラスなドレスを身にまとったボーカルのミシェルのゴージャスな姿がまぶしい。
Photo by Hajime
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そのまま大歓声の中「Shadows」で幕を開ける。音源のゆったりした雰囲気とは裏腹に、激しく熱のこもったパフォーマンスで一気に会場を暖める。ミシェルによる「Tokyo!」のコールに対して大歓声で反応するオーディエンスと、会場を染め上げる真っ赤な照明。あたりは一瞬でキャノンズの世界観に包み込まれた。続いて『Shadows』や『Fever Dream』からの楽曲を中心に披露。ツアーメンバーとして参加しているBen Hilzingerの強烈なドラミングによってライブはアグレッシブに進んでいく。特に、「Talk Talk」ではミシェルの囁くような歌声がドリーミーな音の海に溶けていくのを体感できたのは極上のひとときだった。また、ミシェルが観客ひとりひとりに微笑みかけながら、手を伸ばして最前列の人々と触れ合っていたのも印象的だった。この規模感でキャノンズのライブを観ることができるありがたさが身に染みる瞬間だ。「新曲やるよ!」というMCのあとに披露されたのは「Can You Feel My Heart」。これ以降も来たる新作アルバム『Heartbeat Highway』から6曲も披露してくれたが、そのどれもが素晴らしいクオリティで俄然リリース日が待ち遠しくなってしまう。
Photo by Hajime
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人気曲「Hurricane」のイントロがかかると、一際大きな歓声が上がる。ミシェルは観客に手を挙げさせたり、ギターのライアンと向き合って踊ったり、ステージ上で数回転したりと、終始ハイテンションだ。曲後のMCでは回りすぎちゃったと言って会場の笑いを取る一面も。「Lightning」ではミシェルは椅子に座って歌っていたのだが、この日最も落ち着いた雰囲気の曲でのみミラーボールが光っていたのも粋な演出。続く「Ruthless」は、これまでリリースされた音源の中で唯一「E」マーク(Explicit Content)の表示がある楽曲。これは歌詞に”Fワード”が含まれているためである。キャノンズの歌詞には基本的にはそういった卑語が出てこないのだが、この曲は浮気された時の痛みや怒りを率直に表現している。「そういう言葉じゃないと表現できない気持ちもあるよね」というミシェルのMCも茶目っ気たっぷりだ。
ライブ本編も終盤に差し掛かる。続いてプレイされたのは、自主制作時代のシングル曲「Spells」。ネオソウル的な粘っこいグルーヴと情感たっぷりのギターソロが聴ける初期の楽曲だ。来たる新作アルバムからの2曲を挟んで届けられたのは『Fever Dream』でも異彩を放つ「Purple Sun」。レゲエ風のリズムが用いられた陽気な一曲で、ライブでは演歌のような歌い出しが印象的。リズムへのこだわりも垣間見えるキャノンズの幅広い音楽性が示されていた。最後の1曲に入る前に、ミシェルは10年の音楽活動で今回が初めてのワールドツアーであることをしみじみと述べ、東京公演に集まったファンたちに感謝の気持ちを伝えていた。本編を締めくくるのは、キャノンズの転機にもなった代表曲「Fire For You」。コーラスではシンガロングも起き、大盛況のうちに幕を閉じた。
Photo by Hajime
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アンコールの拍手に呼ばれて戻ってきたキャノンズは新作アルバムから先行リリースされている「Desire」を演奏し、ファンキーなリズムに乗って観客は大いに飛び跳ねる。最後に披露されたのはバンドを組んでから初めて作ったという「Evening Star」。徐々にボルテージが上がり、全てのエネルギーを振り絞るような熱演であった。
演奏を終えるとミシェルが「おやすみ東京!」とフロアを見渡し、ステージ袖に消えていった。バンドのこれまでの歩みとこれからの展望を一挙にプレゼンするようなセットで、ライブバンドとしても確かなキャリアを積んできたことが分かる充実のステージだった。”アメリカン・インディー・エレクトロ・ファンクバンド”とも称されるキャノンズの本領が見事に発揮されていた分、今回はベーシストのポールが不在だったのが悔やまれる。是非とも来年の夏フェスあたりで再来日して、新作アルバムも含めた万全の状態のキャノンズを体感したい。
Photo by Hajime
公演セットリストのプレイリスト:https://smji.lnk.to/CannonsJPNSetlistRS
キャノンズ
最新シングル 「Crush」
再生・購入:https://smji.lnk.to/CannonsCrush
最新アルバム『Heartbeat Highway』
2023年11月10日リリース
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