XLミドルトン、モダンファンクの伝道師が語るLAシーンの熱気と日本勢へのリスペクト
Rolling Stone Japan / 2023年10月19日 21時0分
LAを拠点に活動するラッパーでモダンファンクアーティストのXL・ミドルトン(XL Middleton)が、10月下旬に来日公演を行う。日程は27日(金)・28日(土)の二日間。28日は東京都町田市の「CLASSICS」、29日は東京と渋谷区の「DESEO」に登場する。
沖縄にルーツを持つ日系アメリカ人のXL・ミドルトンは、Gファンクとモダンファンク、シティポップを繋ぐような活動を行っているLAのアーティストだ。2000年代前半にはGファンクを中心としたラッパー兼プロデューサーとして、LAのヒップホップシーンで活躍。自らキーボードを弾いて制作するファンキーなスタイルで、西海岸ヒップホップファンの間で支持を集めた。DJ PMXやGIPPERなど日本のヒップホップアーティストともたびたび制作しており、ここ日本でも人気の高いアーティストだ。
しかし、キャリアを重ねるにつれ、その音楽性には変化が見られた。2012年のアルバム『From the Vault, Vol. 1』などを聴いてみると、ラップはしているものの、ヒップホップやGファンクというよりも「ブギー」や「モダンファンク」と呼ぶ方が似合いそうなスタイルを披露している。自身のレーベル、モーファンク・レコーズ(MoFunk Records)から送り出したシンガーのモニークア(Moniquea)にしてもかなりブギー寄りのアーティストである。さらに、2021年には全曲で日本の曲をサンプリングしたアルバム『XL Middleton & Delmar Xavier VII』をリリース。ブギーやモダンファンクだけではなくシティポップも視野に入れ、Gファンクと他の音楽の共通点を示し続けている。
ヒップホップシーンから登場したXL・ミドルトンだが、その活動や音楽性は既にヒップホップだけで語れるものではない。むしろ初期からキーボーディストとしての側面も持っており、かなり「ミュージシャン」らしいアーティストと言えるだろう。今回はそんなXL・ミドルトンのメールインタビューが実現。LAの文化やモダンファンクシーンの熱気、さらには日本のシーンへの関心まで様々なトピックを語ってくれた。
―あなたはラッパーであり、プロデューサーであり、キーボーディストであり、DJであり、レコードショップのオーナーと多彩な顔を持っていますよね。音楽の道には何から入りましたか?
XL・ミドルトン(以下、XL):僕が幼い頃、父親が演奏と楽譜の読み方を教えていたんだ。父親が持っていたのはキーボードのDX7、ドラムマシン、4トラックのカセットレコーダーというシンプルなセットだったけど、自宅に自分のミニスタジオがあったんだよね。それがローファイなカセットテープサウンドを僕が愛することになったきっかけだと思う。
10代の頃は父親のセットアップを使ってたくさんのビートを作ったよ。いつかそれらをリリースするかもしれないね。父親はほかにも、主にプログレッシヴ・ロックやいくつかのジャズを集めたレコード・コレクションを所有していたんだ。それが自分もレコード・コレクションを始めて、店をオープンする道へと導いたんだと確信しているよ。
―ラッパーとしては誰のスタイルにインスパイアされましたか?
XL:面白い組み合わせに聞こえるかもしれないけど、好きなラッパーはナズとシュガ・フリーの二人だね。 ナズについては、映画を見ているかのような歌詞の視覚的な側面が大好きなんだ。シュガ・フリーは、独特のユーモアのセンスと人生観を持っている。彼は面白いけど奥が深い。アンドレ3000も僕のお気に入りだね。
―プロデューサーとして憧れた人についても教えてください。
XL:ロジャー・トラウトマンの大ファンなんだけど、ヒップホップ・プロデューサーとして最も大きな影響を受けたのは、DJ・クイック、バトルキャット、ウォーレン・Gかな。美しいコードとハードなリズムを組み合わせるプロデューサーが好きで、彼らはその中でも最も共鳴することができるんだ。
―キーボーディストとして研究やよくコピーしたアーティストはいますか?
XL:コードに関して言えば、ジョージ・デュークやロイ・エアーズのような人たちかな。ロイ・エアーズはもちろんヴィブラフォンの演奏で最もよく知られているけど、彼のコード進行は研究する価値があると思う。リードラインとベースに関して言えば、バーニー・ウォーレルだね。
―キーボーディストとしてサポートミュージシャンやスタジオミュージシャン的な仕事を行ったことはありますか?
XL:スタジオではいくつかのことをやったね。ステージでもライブをしたり、いくつかのバンドと一緒に一回ショーをやったよ。80年代のブギー・ファンク時代の二つの伝説的なグループ、プリンス・チャールズ&ザ・シティ・ビート・バンドと、サークル・シティ・バンドのライブステージでキーボードを演奏したことがあるよ。
―あなたはビッグ・チャイナ・マック(Big China Mack)やデルマー・ザビエル・7(Delmar Xavier VII)など別名義を多く持っていますが、そういった活動のやり方は何からインスパイアされましたか?
XL:音楽の通称を作成することが、自分の創造性を高める楽しい方法だからこういった活動をやっているんだ。名前以外にもたくさんの意味があるんだよね。宇宙全体を創造しているかのようにこのアーティストの別名が何を表しているのかを決めて、音楽を超えて世界観として全体を創造するのが最高に楽しいからやっているよ。
―名義はどのような基準で分けていますか?
XL:ビッグ・チャイナ・マックは、90年代初頭から中期にかけてのアンダーグラウンド・ギャングスタ・ラップ・テープのオマージュだったんだ。それはデス・ロウのGファンク作品へのオマージュというよりは、むしろベッドルームで録音されたようなDIYのプライベートプレス作品へのオマージュだった。ビッグ・チャイナ・マックの曲でラップするために作った他のキャラクターもいたから、本当に独自の世界感だったね。彼らはそれぞれ独自の名前、声、そしてユニークなラップスタイルを持っていた。
デルマー・ザビエル・7は、DJエディットやサンプルベースのトラックを制作する時の別名なんだ。これからこの名前で聴くことになるものが、XL・ミドルトンのサウンドから期待されるものとは異なるものであることを確立するために楽しんでやっているよ。
―あなたは初期にはヒップホップとしてのGファンクに取り組んでいる印象でしたが、ある時期からよりブギーやモダンファンクと呼ぶ方が合いそうな音楽性になった印象があります。
XL:そうだね。2000年代はファンクとソウル・ミュージックを深く掘り下げていたんだけど、一番興味を持ったのは80年代のシンセファンクだったんだ。当時は「ブギー」という言葉を聞いたことがなくて、LAではそれを単に「ファンク」と呼んでいたんだ。
他の都市では「ファンク」と言うと、ジェームス・ブラウンやミーターズを思い浮かべるかもしれない。でも、LAで「ファンク」と言うと、ほとんどの人はザップ、Pファンク、ザ・バーケイズのようなアーティストを思い浮かべるんだ。それでその時代の音楽を深く掘り下げることで、Gファンクと僕たちが現在ブギーとして知っているものの関係を理解するようになった。そこからかなりインスピレーションを受けて、ヒップホップに分類できない音楽をどんどん作り始めたんだ。
モダンファンクも、最初はその言葉を知らなかったんだ。それからデイム・ファンクを発見して、彼が毎週やっていたパーティーの「ファンクモスフィア」に通い始めたんだよね。そして、この音楽を愛するコミュニティがあることに気付いたんだ。あれは人生を変えるものだったよ。
―あなたはアメリカを拠点に活動していますが、以前ヨーロッパでもツアーを行っていましたよね。フランスなどヨーロッパにはGファンクを作るプロデューサーも多くいますが、あなたがツアーで訪れた際にLAとの共通点を感じたことはありましたか?
XL:そうだね。彼らのスピリットは全体的に同じで、ファンクへの愛も同じ。でも、ヨーロッパや海外の多くの人々がLA、アメリカをテレビや携帯電話の画面でしか見ていない。だからこちらから行って、生でパフォーマンスを見せることでみんなのそういった気持ちが高まればと思うね。
注目する新進ラッパー、日本のモダンファンク
―昨年リリースしたアルバム『Chrome Springs Eternal』はインスト作品ですが、あなたのディスコグラフィの中ではソロでのインスト作品はそう多くはないですよね。
XL:なかったからこそ、『Chrome Springs Eternal』を出したかったんだ。ずっとインストのアルバム、ビートシーンであるような「ビートテープ」を出したいといつも思っていたんだ。僕のアーカイブには、『Chrome Springs Eternal』をあと数作品出すのに十分なトラックが保管されているよ。だから、今のところこれが唯一のインストゥルメンタルアルバムだけど、今後もリリースし続けるつもりだね。
―DJ・フレッシュ(DJ.Fresh)との制作も行っていますが、彼との出会いについて教えてください。
XL:彼との出会いは、彼が僕の曲をサンプリングしてくれたのがきっかけだったね。繋がりを持てる素晴らしい機会だと感じたし、一緒にアルバム『The Fonk Vibes』を出せて本当に良かった。DJ・フレッシュがカレンシーと出した『The Tonite Show with Curren$y」のプロジェクトで、「Funny Money」を共同プロデュースしたりもしたよ。
―最新作はザッキー・フォース・ファンクとのコラボアルバムですが、彼との出会いのきっかけはなんでしたか?
XL:一緒にモーファンク・レコーズを始めたエディ・ファンクスターを通じて彼と知り合ったんだ。エディとのコラボ曲を作っていた頃に、エディとマイク・ガオがプロデュースした「Don't Fake The Funk」という曲を聴いたのがきっかけだね。それでエディにザッキーを誘おうと言って、名曲「Press Play」が完成したんだ。
―ザッキー・フォース・ファンクとのアルバムのコンセプトや、どういうものを目指した作品なのかを教えてください。
XL:ずっとザッキー・フォース・ファンクのフルアルバムをプロデュースしたいと思っていたんだ。彼のアルバムには、複数のプロデューサーが参加していた。プロジェクト全体を一人のプロデューサーが担当するというのは「昔ながらのやり方」だと思われるかもしれないけど、僕のプロデュースだけでザッキーのアルバムを作ることが、オーディエンスが聴きたがっているものだと感じたんだ。反響はとても大きかったから、これが最後のコラボレーションアルバムにならないと確信しているよ。
―ザッキー・フォース・ファンクのどんなところが好きですか?
XL:彼は自分のやり方で音楽をやっている。いつも「ラップの仕方も、ビートの作り方も、歌い方もわからないけど、オリジナルのスタイルは持っている」と言っているんだ。彼が「Don't Fake The Funk」と言っていることは、そういうことだと思う。彼は自分の感性を人に共有することを全く恐れない。彼の話を聞くと、彼がラップしているのか、歌っているのか、それともこれまでにやったことのない他の第三のことをしているのかわからなくなるくらいだよ。
―モーファンク・レコーズに長く所属しているモニークアについては、どんなところに惹かれましたか?
XL:モニークアと僕はLAの同じ地域、パサデナの出身なんだ。この街にはそこで育たなければ知らないことが沢山あって、僕たちには共通点があったんだよね。一緒に仕事をし始めた時がちょうど僕がブギー・ファンクについて本格的に勉強していた頃だったんだけど、彼女の声はそのサウンドに対する僕のビジョンを実現するのに最適だと思ったんだ。僕の制作にインスピレーションを与えた音楽は、彼女が聴いて育った音楽でもあるんだよね。だから、とても自然に制作してこれているよ。
―最近のラッパーでプロデュースしてみたいラッパーはいますか?
XL:ドレッティ・フランクス(Dretti Franks)というテキサス出身のアーティストが最高だね。彼は間違いなく、南部と西海岸の90年代ラップスタイルを継承していると思う。アキーム・アリ(Akeem Ali)とかもピンプな雰囲気を持っていて格好良い。
オクラホマ州タルサでは新しいアーティストの動きが活発で、最前線にいるのはダイヤル・トーン(Dial Tone)とステフ・サイモン(Steph Simon)かな。次にヒップホップファンが新しいラップの才能を探して注目し始めるのはタルサかもしれないと感じているよ。
―以前Milk Talkのリミックスを制作していたり、今度リリースするコンピレーションにもMilk Talkの曲を収録していますよね。Milk Talkのどういった部分に惹かれましたか?
XL:彼らのやることは全て楽しい風変わりさがある。でも、常に非常にうまく制作されているから、馬鹿げているように見えることがないんだよね。Milk Talkの二人は何百キロも離れて住んでいるんだけど、彼らの音楽を聴いていると、そんなことは決して分からないくらい最高な仕上がりの音楽を制作しているね。
―あなたがSpotifyでキュレーションしているモダンファンクのプレイリストにCHAIの「PARA PARA」が入っていて驚きました。
XL:友人でDJ仲間のチャンテック(Chungtech)がその曲を教えてくれたんだ。最高にモダンなファンク&モダンなシティポップチューンだと思うよ。
―今気になっている日本のアーティストはほかにいますか?
XL:G.RINAやKzyboost、MALIYAも本当にヤバい。脇田もなりも素晴らしいね。
―今回来日にあわせてIITIGHTと共に日本のプロデューサーのビートに乗ったEPを制作しましたが、T-GROOVEさんのことは以前から好きだったとインタビューで読みました。今回一緒に制作してみていかがでしたか?
XL:そうなんだ。IITIGHTと一緒に「The II Tight EP」というプロジェクトをリリースするよ。これは、日本の色々なプロデューサーのビートで僕がラップするものなんだ。僕はずっとT-GROOVEとコラボレーションしたいと思っていたんだけど、彼は僕と同じようにモダンなディスコやファンクを沢山やっているから、僕たちの最初のコラボレーションがヒップホップになったのはびっくりだったね。それが音楽の面白さで、作品がどうなるかすごく楽しみだよ。
―久々の来日ですが、楽しみにしていることはありますか?
XL:2019年以来日本に行っていないから、本当に久しぶりだよ! 何年も会っていなかった日本のみんなと一緒に楽しめることが本当に楽しみだし、ライブでパフォーマンスできることが楽しみだね。それと、レコードを掘るのが本当に楽しみ!
僕はパートナーのカイスターと一緒に「東京ラブソング」というパーティーを毎月LAでやっていて、そこではシティポップとモダンな日本のファンク&ソウルだけをプレイしているんだ。そこでプレイできるような宝物を持ち帰っていきたいと思っているよ。
―今後のリリース予定について、言える範囲で教えてください。
XL:ダンスミュージックでは、ソウル・クラップ・レコーズ(Soul Clap Records)から出る『XL Middleton Presents: New Directions in Funk Vol.1』というタイトルのコンピレーションをキュレーションしたところだね。モダンなファンクの世界とダンスミュージック、ハウスミュージックのコラボになってるいよ。音楽的に言えば、モダンファンクとハウスはすでに「従兄弟」だと思うから、これらのジャンルがさらに融合することを期待しているよ。
それとは別に、次のモニークアのアルバムと僕の次のソロアルバム『Tap Water II』を制作しているよ。あと、近いうちにMilk Talkの新しいリミックスと、The Jack Moves & Saucy Ladyのリミックスをリリースする予定だね。ザッキーと僕のもすぐに次のアルバムの制作に取り掛かることになっているよ。
「IITIGHT MUSIC PRESENTS XL MIDDLETON JAPAN TOUR 2023」
"EPIC NIGHT"
2023年10月27日(金)町田 CLASSIX
"STEELO NIGHT"
2023年10月28日(土)渋谷 DESEO
詳細:http://www.2tight-shibuya.jp/shopdetail/000000007893/
XL Middleton
『The II Tight EP』
※イベント会場で先行販売、各種プラットフォームでの配信は11月頃を予定
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