ザ・ローリング・ストーンズ、18年ぶり新作アルバムが「半世紀ぶりの傑作」である理由
Rolling Stone Japan / 2023年10月20日 17時0分
ザ・ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)の新作スタジオ・アルバム『Hackney Diamonds』がついにリリースされた。彼らは2023年の今、半世紀ぶりに誰もが何度でも聴き返したくなるアルバムを作り上げた。ローリングストーン誌US版のレビューをお届けする。
ザ・ローリング・ストーンズは2016年リリースのブルーズ・カバーアルバムを除き、ジョージ・W・ブッシュ政権時代の1枚を最後に、新作をリリースしていない。2005年の『A Bigger Bang』は、勢いのあるアルバムだったが、特に印象に残る作品とは言えなかった。それから約20年が過ぎ、ストーンズ自身も、これ以上新しい作品を出す必要があるかどうか迷い始めていた。長いブランクの後で再び新作を出してツアーをするというプロセスに、バンドが(ファンも巻き込んで)突き進むなら、それなりの価値がなければ意味がない。ところが驚くべきことに、ストーンズはしっかりと心得ていた。まさか2023年に、(ちょっと古臭い言い回しだが)ノリの良いバンガー揃いのストーンズの新作アルバムが聴けるとは、思いもしなかった。ニューアルバム『Hackney Diamonds』は、単なるストーンズの新作というだけではなく、エネルギッシュでまとまりのあるアルバムに仕上がっている。久しぶりに、棚へしまい込む前に繰り返し聴きたくなるストーンズ作品だ。
初めて起用したプロデューサー(アンドリュー・ワット)のおかげか、テクノロジーの魔術か、あるいは私たちにストーンズの存在感を再認識させようという目論見に効果があったのかは分からないが、これほど生き生きとして統一感のあるアルバムは半世紀ぶりだ。キース・リチャーズとロン・ウッドの息の合ったギターは切れ味がよく、かつてのルーズにかき鳴らすだけのギターは鳴りを潜めた。ミック・ジャガーは、時にはぶっきらぼうに、時にはイライラしたり、もしくは愛情を求めたかと思えば、無関心を装ったりと、曲ごとに違った表情を見せる。ミックのブリティッシュ・アクセントの歌詞もまた、曲にマッチしている。シングル曲「Angry」でミックは、「1カ月も雨が降らず、川も干上がった/ずっと愛の営みが無いが、理由を知りたい」とわめき立てる。ロックの歌詞っぽくはないが、ジャガーの歌がこれほど曲と融合したのは、カセットテープ全盛期以来ではないだろうか。「Depending on You」は、将来のアルバム用にキープしておくための気だるいバラード曲のひとつとして、埋もれてしまっていたかもしれない。ところがジャガーは切ない歌声で、世界へ向けて訴えかけている。
あらゆるエレメントが融合し、奇跡的に若返りの泉が湧き出した。2021年にこの世を去ったドラマーのチャーリー・ワッツは、「Live by the Sword」と「Mess It Up」の2曲に参加している。「Live by the Sword」の後半では、盛り上がるギターとミックのボーカルが絡み合う。今が21世紀だということを忘れてしまいそうになる。プロデューサーのアンドリュー・ワットがサウンドに磨きをかけたことで、ボツにされそうになった楽曲も蘇ったようだ。「Mess It Up」では、ストーンズを聴いたことの無い30歳未満の若者たちと、ミックが何とか繋がろうとしている。「俺の写真を彼らは友だち全員と共有している/あちこちに拡散したところで、何の意味もない」とミックは愚痴を言う。そして恋人に「コード」(核兵器の発射コードを扱う人間で無い限り、これは「パスワード」のことだと思う)を盗まれた、と不満を漏らす。しかし、ミックの急降下するボーカルとチャーリーのパーカッシブなスウィングが、単なるダンスミュージックの殻を破っている。また「Mess It Up」では特に、ミックのポップ・スタイルとキースのロックが、『Bridges to Babylon』(1997年)の頃よりもシームレスにバランスが取れている。
(キース率いる)エクスペンシヴ・ワイノーズのオリジナルメンバーで、チャーリー・ワッツの代役としてストーンズのツアーに参加したスティーヴ・ジョーダンが、アルバムのほとんどの曲でドラムを担当した。スティーヴはチャーリーよりもハードにプレイするが、思ったほど不自然な感じは無くバンドに溶け込んでいる。アルバム収録曲の中で最も注目すべき楽曲「Sweet Sounds of Heaven」には、あらゆる要素が凝縮されている。ホンキートンク調のゴスペルにアレンジされた曲で、ミックは飢えゆく人々を想い、自らの物欲を満たそうとする姿を歌う。さらにスティーヴィー・ワンダーのピアノに乗せて、レディー・ガガが熱情的なコーラスで盛り上げる。キースもまた、覚醒した。『Some Girls』(1978年)のハイライトとなった「Before They Make Me Run」以来、ストーンズのアルバムには欠かせない存在となったキースのソロ作品も、徐々にインパクトを失いつつあった。しかし今回のアルバムに収録されたキースの「Tell Me Straight」は、90年代のグランジを彷彿させるシンプルで陰のあるギターリフが印象的で、アルバムの他の収録曲と同じように緊張感のある作品に仕上がっている。また以前のように粘り気のある歌い方ではなく、一語一句を大切に伝えようとしているように聴こえる。
未知の領域へと踏み出したストーンズ
『Hackney Diamonds』には、ストーンズと同世代のアーティストによる晩年の作品によくある、過去への回帰は見られない。ベビーブーマー世代のロッカーが、ツアーを続けるだけでなく新曲を書き続けている。彼ら自身だけでなく、現在の我々にとっても未知の領域へと踏み出した。我々は、ロックの歴史の中でも特に魅力的な時代に到達したのだ。世代の先駆けとして、残りの人生に向き合い怒涛の過去から最近の生活までを振り返ったり、時には世界情勢や政治についての曲を聴きながら、私たちは、70代から80代に差し掛かったボブ・ディランやニール・ヤング、ポール・マッカートニー、ポール・サイモン、ジュディ・コリンズらの心の内を垣間見ることができる。
アルバムのそこかしこでミックは、自分の世界に没頭している。ジグザグなギターパートに乗せて「俺がかつて歩いた街には、割れたガラスが散らばっている/周りを見渡すと、どこにも昔の思い出が落ちている」と歌う「Whole Wide World」は、混沌とした時代に生きる我々を元気づけてくれる。カントリーシャッフルの「Dreamy Skies」では、懐かしいAMラジオから流れるハンク・ウィリアムズのレコードを聴きながら、煩わしい日常から解放されたいと願う。
表現も非常に奥深い。ミックは「お前にもっと近づきたい」とか「俺がお前のためにめちゃくちゃにしてやるんだ、とお前は思うだろう」といったコーラスを好む。チャンスを逃した気もするが、ミックの頭の中を覗いてみたいとは思わないだろうか。それには「Bite Your Head Off」を聴いてみるとよい。「綱になど繋がれない/鎖に繋がれることもない/お前は俺を奴隷扱いするが/俺がお前の脳みそをぐちゃぐちゃにしてやる」というフレーズは、かつての「Get Off My Cloud」(1965年)から歳を重ねた男によるイライラした怒りの声だ。それよりも「リッチになりたければ、偉くなれ」と歌う「Live by the Sword」の方が、よりナチュラルに聴こえるかもしれない。
しかし「Bite Your Head Off」は、ポール・マッカートニーの控えめに聴こえるベースのおかげで、音楽的におしゃれなひと捻りが加わっている。さらにエンディングのキースとウッドによる熱狂的なギターは、最高の音のジェットコースターだ。アルバムを締めくくる「Rolling Stone Blues」は、マディ・ウォーターズの「Rollin Stone」をミックとキースが2人だけでカバーした曲だ。明らかに時代は巡っている。ストーンズのスタンスが正しいのだと思う。『Hackney Diamonds』がバンドとしての最後のアルバムになるかならないかに関係なく、「Bite Your Head Off」をはじめとする収録曲は、バンドのみならずロックの歴史を代表する作品として記憶に残るだろう。
【関連記事】ザ・ローリング・ストーンズが語る、新作『Hackney Diamonds』知られざる制作秘話
From Rolling Stone US.
ザ・ローリング・ストーンズ
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国内盤全4形態で発売
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③CD+ブルーレイ
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