シャバカ・アンド・ジ・アンセスターズ来日目前 UKジャズの王者とアフリカを巡る物語を紐解く
Rolling Stone Japan / 2023年10月24日 17時30分
UKジャズの頂点を突き進むサックス奏者、シャバカ・ハッチングス率いるシャバカ・アンド・ジ・アンセスターズ(Shabaka And The Ancestors)が11月6日(月)・7日(火)ビルボードライブ東京で初来日公演を開催する。コメット・イズ・カミング、サンズ・オブ・ケメット、アンセスターズという3つのプロジェクトを跨いでシーンに衝撃を与え続けているシャバカ。南アフリカとイギリスを背景に、八面六臂の活躍を見せている彼のストーリーをジャズ評論家・柳樂光隆が紐解く。
※bbl MAGAZINE vol.190より加筆・修正して転載
※ビルボードライブ公演のチケットプレゼント実施中、詳細は記事末尾にて
2010年代末から盛り上がり続けるUKのジャズ・シーンを世界に紹介したのは『We Out Here』というアルバムだった。ここには2023年のマーキュリー・プライズを受賞したエズラ・コレクティヴやヌバイア・ガルシアなど、今やシーンの顔ではあるが、当時はまだ世界的にほぼ無名だったころの若手が名を連ねていた。この歴史的なアルバムをミュージック・ディレクターとして束ねていたのがサックス奏者のシャバカ・ハッチングス。シーンの中で「キング・シャバカ」とも呼ばれ、別格のリスペクトを集めている存在だ。
カリブ海のバルバドスで育ち、ロンドンへ移住してジャズ・ミュージシャンとして活動しているシャバカはジャズだけでなく、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドやエチオピアの巨匠ムラトゥ・アスタトゥケ、最近ではフローティング・ポインツなどともコラボしているロンドンの音楽シーンの重要人物であり、マカヤ・マクレイヴンやカルロス・ニーニョともコラボするなど、USのシーンでもその存在がどんどん大きくなってきている。そんなシャバカはサックス奏者としてだけでなく、様々なコンセプトの活動を同時並行で行ない、常にシーンを刺激し続けている。
シャバカが面白いのは3つのグループを同時並行で動かしていること。シャバカのサックスとチューバに2台のドラムを加えた「サンズ・オブ・ケメット」ではラテン系のリズムやアフロビートを織り交ぜたパワフルでダンサブルなサウンドを提示し、「コメット・イズ・カミング」ではシャバカのサックスにドラムとシンセサイザーを組み合わせて、UKのクラブ・カルチャーとロック・カルチャーが交差するようなコズミックなサウンドを奏でている。この二つはロックフェスなどにも進出しジャンルを超えて評価され、シャバカの名を世界に知らしめるきっかけにもなった。
そんなシャバカのもうひとつのバンドがシャバカ・アンド・ジ・アンセスターズ(以下、アンセスターズ)だ。南アフリカのミュージシャンとのコラボという特殊なプロジェクトで、シャバカの活動の中でも最もディープでスピリチュアルな音楽性で知られている。
実は南アフリカのジャズ・シーンは近年、世界的にも注目を集めている。南アフリカのジャズはUKのシーンとも共振するようなハイブリッドな音楽性で、その中に南アフリカ特有の音楽要素が入っているのが特徴だ。そんなサウンドを世界的なジャズのトレンドや技術を身に着けられる高い実力を備えた若手ミュージシャンたちが演奏している。その様子は『Indaba is』という2021年のコンピレーションによって紹介され、世界的にも話題になった。そこからピアニストのボカニ・ダイアーが『We Out Here』『Indaba Is』をリリースしたブラウンズウッド・レコーディングスからデビューしたり、ボーカリストのタンディ・ントゥリがシカゴのインターナショナル・アンセムと契約したりしているし、ピアニストのンドゥドゥゾ・マカティにはブルーノートと契約し、世界的な評価を得ている。すべてはこの3年の話で、その注目度は着実に高まり続けている。しかし、シャバカは南アフリカのシーンが取り上げられるよりもずいぶん前から現地のミュージシャンたちと交流し、ともに作品も作ってきた。
シャバカ・アンド・ジ・アンセスターズ(Photo by Tjaša Gnezda / Mzwandile)
そんなシャバカの動きを語るには、南アフリカとイギリスの音楽シーンには歴史的にかなり密接な関係があることにも触れておくべきだろう。もともと南アフリカがイギリスの植民地だったこともあり、両国の距離は近く、その中でもジャズに関してはかなり交流があった。南アフリカ政府のアパルトヘイト政策に反発するジャズ・ミュージシャンたちの多くが亡命先にロンドンを選んだ経緯もある。例えば、南アフリカ・ジャズ史の最重要バンドのブルーノーツは南アフリカ政府からの弾圧に耐えかね、クリス・マクレガーやドゥドゥ・プクワナ、ルイス・モホロといったメンバーたちはイギリスに亡命し、ロンドンのシーンに多大な貢献をした。また80年代には南アフリカの名ピアニストのベキ・ムセレクがロンドンに移住し、華々しい活動を行い、コートニー・パインらロンドンの若手を大いに刺激している。彼らが積極的にイギリスのミュージシャンとのコラボレーションを行ったこともあり、南アフリカから移住したミュージシャンたちはイギリスのジャズ史を語るのには欠かせない存在にもなっている。むしろ、南アフリカのジャズからの影響がなければ、現在のイギリスのジャズシーンは存在しないとさえ言っても過言ではないだろう。
シャバカはそんなイギリスと南アフリカのジャズの歴史的な交流をも視野に入れながら、誰よりも早く深く21世紀以降の南アフリカのフレッシュなシーンをフックアップしてきた。その中心にあったのがアンセスターズというプロジェクトだ。
アンセスターズ初来日公演がスペシャルな理由
もともと南アフリカのシーンに根強かったジョン・コルトレーン~マッコイ・タイナー由来のスピリチュアルで壮大な世界観を軸に、より自由で即興演奏に比重を置いているのがアンセスターズの特徴だ。2016年のアルバム『Wisdom Of Elders』で聴かれたようにシャバカは多くのプロジェクトでリズムに特化した演奏をすることも多いが、アンセスターズではリズムに縛られずに自身のイマジネーションを最大限に表現するようにサックスを奏でていることも多い。即興演奏家としてのシャバカのより自由な側面が聴けるのがアンセスターズだ。
そして、名門インパルスに移籍してのアルバム『We Are Sent Here By History』(2020年)では南アフリカ屈指のドラマー、トゥミ・モゴロシをはじめとした敏腕メンバーたちが南アフリカ固有のリズムを駆使しながらシャバカと一体化し、まるで激しいメディテーションをするように唯一無二のパフォーマンスを聴かせている。サンズ・オブ・ケメットやコメット・イズ・カミングで聴かれるようなUKのクラブミュージックやグライム、ジャングル、カリブ海由来のレゲエやダブ、ソカなどの影響も取り込んだハイブリッドなサウンドとは異なり、パワフルかつ瞑想的なサウンドは儀式を思わせるもので、言葉そのままに”スピリチュアル”な音楽性を感じさせる。音楽ジャンルとしてのアフリカやスピリチュアルジャズではなく、アフリカ由来の”スピリチュアルさ”をここまで深く探求した音楽はUSやUKではほかに思い当たらない。アンセスターズの音楽はそのくらい他に類を見ないものだ。おそらく彼らのライブはショウというよりは、その世界に巻き込まれるような「体験」になるのではないかと僕は思っている。
ちなみにシャバカ・ハッチングスは近々サックス奏者としての活動を一旦やめることを明言している。近年は日本で買った尺八を愛用し、新たな表現を模索している。つまり、奇才のサックスを日本で聴くことができる(当面の)ラストチャンスになる可能性もある。
彼はちょうど、今年の9月にLAのハリウッドボウルでフローティング・ポインツとともにファラオ・サンダースに捧げるコンサートを行なったばかり。フローティング・ポインツが生前にファラオ・サンダース、そして、ロンドン交響楽団とともに制作した『Promises』を再現するもので、シャバカは故ファラオ・サンダースの代役的なポジションでこのコンサートに抜擢された。ファラオがずっと君臨していたスピリチュアルジャズにおける唯一無二のポジションの重責を今、担うことができる存在がシャバカなのだ。
あの高い評価を得たLAでのコンサート後、シャバカが日本で演奏することがスペシャルであることは間違いない。今回の来日公演を見逃す手はない、と僕は断言する。
シャバカ・アンド・ジ・アンセスターズ来日公演
2023年11月6日(月)・7日(火)ビルボードライブ東京
開場17:00 開演18:00 / 開場20:00 開演21:00
サービスエリア¥9,400-
カジュアルエリア¥8,900-(1ドリンク付)
>>>詳細・チケット購入はこちら
〈メンバー〉
Shabaka Hutchings / シャバカ・ハッチングス(Tenor Sax, Clarinet)
Siyabonga Mthembu / シヤボンガ・ムテンブ(Vocals)
Mthunzi Mvubu / ムトゥンジ・ムヴブ(Alto Sax)
Ariel Zamonsky / アリエル・ザモンスキー(Bass)
Tumi Mogorosi / トゥミ・モゴロシ(Drums)
Gontse Makhene / ゴンツェ・マクヘーネ(Percussion)
【チケットプレゼント】
シャバカ・アンド・ジ・アンセスターズ
11月6日(月)・7日(火)にビルボードライブ東京で開催される来日公演の1st / 2nd Stageに、Rolling Stone Japan読者2組4名様ずつご招待します。
【応募方法】
1)X(Twitter)で「@rollingstonejp」と「@billboardlive_t」をフォロー
2)ご希望の日程・ステージ(1st/2nd)を明記のうえ、下掲の投稿をリポスト
【〆切】
2023年11月1日(水)
※当選者には応募〆切後、「@billboardlive_t」より後日DMでご案内の連絡をいたします。
【チケットプレゼント】
シャバカ・アンド・ジ・アンセスターズ
11/6(月)・7(火)ビルボードライブ東京
1st/2nd 2組4名様ずつご招待
①@rollingstonejp @billboardlive_t をフォロー
②ご希望の日程・ステージ(1st/2nd)を明記のうえ、この投稿をリポスト
▼詳細はこちらhttps://t.co/GuqmGmZT84 — Rolling Stone Japan (@rollingstonejp) October 30, 2023
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