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シンガーソングライター・ずみをが語る、上京して騙されたこと 身の回りのことを歌う理由

Rolling Stone Japan / 2023年11月7日 18時0分

ずみを

シンガーソングライターの「ずみを」が、2023年10月25日に新曲「初恋チャーハン」を配信リリースした。「UBのワンルーム」に続く2カ月連続配信リリースの2曲目となるこの曲は、まったりとした心地良い演奏に乗せて過去の恋愛が回想されており、誰しもが気持ちを重ねることができるはず。また、昨年リリースされた1stアルバム『つぎの日曜日』の中には、日常で起こる、ほんのちょっとした非日常的な出来事がユーモラスに描かれていたりと、その独特の視点による歌詞と、スッと体に染み込んでくるような歌声が耳に残る。いったいどんなアーティストなのか? 初めてのインタビューは、とんでもないエピソードから始まった。

―2カ月連続配信リリースということで、9月27日に「UBのワンルーム」が、10月25日には最新曲「初恋チャーハン」がリリースされました。反響は結構気にする方ですか。





ずみを:気になります。ライブハウスだとファンの人にしか届かないものが、サブスクでリリースできると、一般の人とかも聴いてくれるじゃないですか? どこで聴かれているかっていう報告がサブスクから毎週メールで届くんですけど、台湾で聴かれていたりするんです。海外でも聴かれているんだって、すごく嬉しいですね。

―いろいろ気になることがあるんですけど、まず「ずみを」というアーティスト名の由来を教えてください。

ずみを:これは、高校時代のあだ名なんです。女子高だったんですけど、女の子っぽくしてなかったので、友だちが私のことを「女じゃないよ。「ずみを」だ」って呼んでいて、それが自分の中で気に入っていたので、何も考えずにつけました(笑)。

―意外とそんなに深い理由はないわけですね(笑)。2018年に上京してギター弾き語りで都内ライブハウスで活動を始めて、同年に初の自主製作CD『グラスホッパー』を会場で販売したとのことですが、曲を聴くと〈夢追いかけて来ました東京 ギター背負って言われるままに座った自動契約機〉という歌い出しから〈一夜にして手にした100万円で買ったのはバッタモンの夢〉と続きますよね。どういうエピソードからできた曲なんですか?



ずみを:地元がすごい田舎で、本当に何にもなくて小学校の同級生が5人しかいないぐらいのところで育ったんですよ。そこから「音楽で売れてやる!」みたいな感じでギターだけを持って何もわからずに急に東京に来て、最初に路上ライブをやっていたんですけど、そのときに声をかけてくれた人が小さい事務所の社長みたいな人で、何もわからずにホイホイついて行ったら、「とりあえず活動費として100万円払ってくれ」って言われて、持ってないから消費者金融に連れて行かれて。

―いやいや、どうしてついて行っちゃったんですか?

ずみを:消費者金融がどういうものなのか知らなかったんです(笑)。それで、「ここに行って、こういうふうに言えばいいから」ってセリフみたいなことを書いた紙を渡されて、一晩で複数の消費者金融を渡り歩いて150万円を借りて、そのうち100万円を事務所に収めたんです。

―その100万円ってその後どうなったんですか?

ずみを:そこからライブハウスに出るようになって、「こういう事務所にいるんですけど」って、いろんな人に相談したんですよ。そうしたら「それはおかしいよ」って言われて、どうやらおかしいらしいっていうことを知って、このままいてもどうにもならないから「辞めます」って言ったら、「じゃあ100万円は自分で払ってください」って言われて、借金だけが残ったんです。5年かけてつい最近、完済して今はスッキリしてます。

―とんでもない経験からスタートしてますね(笑)。でも諦めずにそれをちゃんと曲として昇華させているっていうのがすごい。

ずみを:ただ100万円なくしただけじゃちょっと悔しいから、音楽でちゃんと100万円返すまで辞めないって決めて、曲にもしてやろうと思って「グラスホッパー」という曲を作りました。



―そもそも何もない地元で育ったという人が、どうして東京に出て音楽で売れてやろうと思ったのでしょうか。

ずみを:地元で大学に行ってたんですけど、自分はやりたいことを見つけられなくて。大学3年生ぐらいにみんな就活を意識し出して、私も何となく就職するのかなっていろいろ悩んでるときに路上ライブをしてみたんです。音楽は好きで、友だちがギターを始めたのに付き合う感じで自分もギターで弾き語りするようになったんですけど、地元の宇都宮で路上ライブをしたときに、誰も聴いてくれなかったんですよ(笑)。田舎で人があまりいないっていうのもあるんですけど、誰も聴いてくれなかったことがちょっと悔しかったんです。自分の中で、これをもっといろんな人に聴いてもらいたい、それには人がたくさんいる東京に行くしかないって思ったんです。私はもうすぐに行きたかったんですけど、やっぱり親には大反対されて。「大学はちゃんと卒業してから行ってくれ」って言われて、話し合いの末、大学を出てから上京しました。

―上京して、路上ライブをやりながら、曲作りも始めたんですか? 音源もライブハウスで売っていたそうですけど。

ずみを:上京して、音楽の専門学校に通うようになったんです。最初は、そこで知り合った先生に頼み込んで、格安で音源制作をやっていただきました。そこからどんどん自分で曲を作り出して、オリジナルでライブをやっていた感じですね。

―どんな曲を歌おうと思ってオリジナルを作り始めたんですか。

ずみを:高橋優さんを一番よく聴いていたんですけど、高橋さんは結構生々しさとかリアリティを歌にしている人なんですよね。自分も東京に出てきたばっかりの頃はお金がなくてもう本当にボロボロのアパートに住んで、日々食べるものが買えるかどうかみたいな生活をしていて。そういう不満とかがあったので、そういう気持ちを歌にすることが多かったです。

―なんか昭和のアーティストっぽいエピソードというか、なかなかの苦労人ですよね。

ずみを:いや、自業自得なので(笑)。でも、上京して2年くらいは路上ライブを中心にやっていたんですけど、聴いてもらえるようになってきて、ライブハウスでも徐々に自分目当てで来てくれるお客さんができたりとか、X(ツイッター)とかで自分のことをつぶやいてくれたりすると、すごく嬉しくなったりしましたし、だんだん自信もついてきました。

―アルバム収録曲の「下北晩杯屋」を聴いたら結構毒づいている感じもあったので、もともと尖った人なのかなと思ったんですが、どうなんですか?



ずみを:そうだと思います。専門学校で、曲の作り方とかも授業でやるんですよ。そこで「売れるため、みんなに聴いてもらうために、もっと人の印象に残るような歌を作りましょう」みたいなこと言われて、いつもそのことばっかり考えていて、どこか人と違うものを作ってやるっていうネタ探しみたいなのを毎日していたので、そういう尖った曲とかが多くなっていました。

―「下北晩杯屋」は実際にあったことを曲にしているのでしょうか。

ずみを:下北沢のライブハウスでライブをしたときに、みんなで近くの居酒屋さん「晩杯屋」で打ち上げをしていたんですけど、向かいの席で飲んでる男女がいて、みんなで様子を伺っていて、その一連の様子を「ずみを、曲にしてよ」ってライブハウスの人に言われて作ったんです。

―マッチングアプリで出会った男女であろうと思って見てた?

ずみを:そうであろう、という想像で書きました(笑)。これは最近の中でもかなりエグみがあるというか尖った曲なので、歌うときはすごく疲れます。歌って、作って終わりじゃなくてずっと歌っていくじゃないですか? その時々の気持ちで作っているので、尖った曲ほど、作ったときの気持ちと歌うときの気持ちに差があると楽しくないというか(笑)。だからもうちょっとほっこり優しい歌を作ってみようかなと思って、今回の「初恋チャーハン」はそういう曲になりました。今の気持ち的には、「初恋チャーハン」ぐらいの感じで行きたいんですけど、やっぱりライブだといろんな歌があった方がいいと思うし、「下北晩杯屋」は「あの曲良かったよ」ってすごく評判も良いので、頑張ってこれからも歌います。



―「初恋チャーハン」はどんなときに出来た曲なんですか。

ずみを:きっかけは、家でギターを何となく弾いているときに、そのときに弾いていたコードが曲になりそうだなと思って作りました。



―アルバムは全曲弾き語りでしたけど、連続配信リリースの2曲はバンドサウンドですよね。

ずみを:ずっとバンドをやってみたかったんです。弾き語りでずっとやってきたんですけど、やっぱり自分1人なので自由度はかなりあるんですけど、バンドでやってみると、みんなで音合わせたときの楽しさっていうのは弾き語りでは味わえないものがあるなと思って。それでちょっとやってみようと思って去年ぐらいから、ライブハウスの人にミュージシャンを紹介してもらったりとか、徐々に知り合いの知り合いとか探して、参加してもらいました。

―「初恋チャーハン」は、すごく温かい印象で聴き心地の良い音、演奏だと思います。ずみをさんの理想のバンドサウンドって言葉にするとどんな感じですか?

ずみを:やっぱり弾き語りがベースにあるので、アコースティックな感じにはしたくて。あまりシンセとか音を重ねすぎたくはないです。生楽器、アコースティック楽器をベースにして、やっぱり歌を聴いて欲しいので、そこがあまり隠れないように、歌に寄り添う感じのシンプルな編成がいいなっていうのは考えています。



―「UBのワンルーム」は「初恋チャーハン」と連作になっている印象を受けました。

ずみを:いや、そういうつもりはなかったんですけど、リリースするタイミングが何かそうな感じになってしまったんです。「UBのワンルーム」は、ちょうど秋に差し掛かるときに急に寒くなった日の朝、駅に行ったときにコンビニからホットコーヒーを買って出てきた人がいたんですよ。それを見て「秋だな」と思って、そこから作って行きました。本当に日常から曲を作ることが多いですね。

―日常から曲を作るということは、ありきたりなことを歌うということにも繋がるように思えるんですが、そこはどう考えていますか。

ずみを:「ありきたり」と、「人の評価を得る」ってすごく紙一重というか、同じように見えて、多分違うと思うんですよね。ありきたりな言葉を使わずに、誰でも感じたことがあるような感じを思い起こさせるような曲を作りたいんです。「UBのワンルーム」だったら、「ホットコーヒー」とか「ジャンプ」とかっていう単語が出てくるんですけど、そういう固有名詞に限定することで、「あ、私にもある」みたいな、その人の思い出を思い出させるようなことをしたいなって考えています。



―自作のイラストを使ったMVもいくつか拝見しましたけど、「みんなのうた」っぽくて良いですね。

ずみを:ありがとうございます。「みんなのうた」っぽいとはよく言われますね。母が美大出身で、小さい頃から一緒に絵を描いていたんです。母も子供のときは漫画家になりたくて、絵を書くのが好きなので、それを見て私も母みたいに絵が上手くなりたいと思って、ずっと描いていました。

―イラストと音楽は結び付けて考えているんですか。

ずみを:そうですね。曲のイメージを人に伝えることが結構苦手で、うまく伝わらないかったりすると、自分でやった方が早いって思ってしまうので(笑)。その結果、自分でイラストを描いてMVを作ってみたんです。

―なかでも、「あいこそ」という曲のアニメーションMVが印象的だったんですけど、〈飢えこそはないが 戦争こそはないが 幸せとは金か? 「豊さ」ってなんなのか〉と歌っていますよね。これはそういう自問自答みたいな時期があって書いたんですか。



ずみを:この曲は、本当に上京して1年ぐらいのときに作った曲で、結構ひもじくて電気とガスが止まったんです。それで、電気を開通させるために電力会社に電話しても全然繋がらないんですよね。電気代を払えなかった私が悪いんですけど、「金がすべてか、くそったれ」と思って勢いで作った曲ですね(笑)。

―逆ギレじゃないですか(笑)。今、他国の戦争のニュースが日常に侵食してきてると思いますが、歌にしようかなとか思ったりはしませんか。

ずみを:関心はあるんですけど、曲にして何か力になろうとかっていう風にはあまり考えられなくて、やっぱり自分の身の回りのこととかに起きていることを歌詞にすることが多いです。

―世の中のこと全部を自分ごとみたいに受け止めちゃうと、しんどいですもんね。

ずみを:そうですね。自分の身の回りのことを歌っていきたいです。

―趣味は映画鑑賞ということですが、映画が曲づくりに影響することもありますか。

ずみを:あります。例えば「UBのワンルーム」は、「花束みたいな恋をした」を見て、川沿いのアパートに一緒に住んでいるシーンからインスピレーションを得て書きました。

―だいたい邦画からインスピレーションを受けることが多い?

ずみを:邦画が多いんですけど、1曲だけ洋画の『500日のサマー』から作ったのが、「すっぴん」という曲です。あの映画は、男の子と女の子が付き合えるんですけど、結局最後別れちゃうんですよね。別れるときに女の子が、「朝起きたときに、好きじゃなかったことに気付いたの。あなたと私の気持ちが違うことに気付いたの」って言ったセリフに、ワーッと思ってそこから作りました。

―観たことありますけど、あれは男性がかわいそうだなって思いましたけどね(笑)。

ずみを:そうなんですよ(笑)。だから「すっぴん」も男の人には「ひどいよ」って言われるんですけど、女の子は「すごくわかります」って言う人が多いです。気まぐれじゃないけど、やっぱり気持ちっていうのは変わっていくものなのでと言ってしまえばすごく冷たいですけど(笑)。それは仕方ないのかなと思います。

―今後はどんな活動をしていきたいか教えてください。

ずみを:ライブはこれまで弾き語りメインだったんですけど、ここ1年ぐらいでバンドを始めてメンバーも揃って楽しくなってきてるところなので、そっちの方でもライブを増やしたいなと思っています。作品としては、日常から曲を作るっていう今までのスタンスでやっていきたいです。曲を作り込んでしまうとかなり時間がかかるので、もっと簡単な歌というか、それこそ「みんなのうた」みたいな、あまり歌詞も多すぎないっていう曲を作ってみたいなって思います。

―今は上京したときのように「売れてやるぞ!」みたいな気持ちではなくなりましたか。

ずみを:いろんな人に曲を聴いてほしい気持ちはもちろんあるんですけど、紅白に出たいとか武道館でライブをしたいとかそういう方面ではなくなっている気がします。昔は「有名になりたい」と思っていたんですけど、今は何かを作ることが好きで、曲を作ることに重点を置いているところがあって、ライブをしているときよりも、曲を作ってるときの方が楽しいんですよね。それをできるだけ多くの人に聴いたり見たりしてもらいたいです。


<リリース情報>

ずみを
『初恋チャーハン』
2023年10月25日リリース
https://linkcloud.mu/359367a3

ずみを
『UBのワンルーム』
2023年9月27日リリース
https://linkcloud.mu/9580097c

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