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DJシャドウ、新たな方向性を模索し続けるヒップホップ・イノベイターの軌跡と現在地

Rolling Stone Japan / 2023年10月30日 17時30分

Photo by Koury Angelo

ベイエリア出身のベテランプロデューサー、DJシャドウ(DJ Shadow)が新たなアルバム『Action Adventure』をリリースした。近年はラン・ザ・ジュエルズやデ・ラ・ソウルなど客演を迎えて作品を作ってきたシャドウだが、今作はゲストを入れず自身のプロダクションのみで聴かせる作品だ。歌声をサンプリングした「You Played Me」を除く全曲がインストで、ヒップホップを軸にしつつエレクトロニカやジュークなどとも隣接するシャドウの越境的なセンスが光るものとなっている。

本人のInstagramによると、この方向性の変化は「パーソナルになり、再び自分自身のために音楽を作る必要があった」「作曲全体を『自分のもの』にしたかった」ことから生まれたという。先行シングル「Ozone Scraper」のリリース時に発表したステートメントでは、「これは私と音楽との関係について。コレクター、キュレーターとしての私の人生。他の誰のものでもない、私のレコードとテープのすべてだ」と語っている。実際に今作ではサンプリングを多用した制作スタイルを取っており、そのコレクターとしての側面が強く出ている。




『Endtroducing.....』の衝撃

シャドウは、この「コレクター、キュレーター」としてのイメージが強い人物だ。それは1996年にリリースしたソロとしての1stアルバム『Endtroducing.....』のレコードショップでの様子を切り取ったアートワークと、サンプリングベースで制作されたプロダクションによるところが大きいだろう。「Organ Donor」など多くの名曲を収めた同作は、新作と同じく客演を入れない自身のビートで聴かせる作品だ。ビョークやニルヴァーナなど多彩な音楽をコラージュしたその越境的なサウンドは各種メディアで高い評価を獲得。インストヒップホップの可能性を開拓した重要作であり、同作がなければ近年のローファイ・ヒップホップの隆盛もなかったかもしれない。

『Endtroducing.....』は、UKのレーベルMo' Waxからリリースされた作品だ。アルバムのリリース前にも、「In/Flux」と「Lost and Found (S.F.L.)」の2枚のシングルを同レーベルから発表している。また、1997年にはMo' Wax主宰のジェイムス・ラヴェルによる流動的プロジェクトのUNKLEに参加。1998年にはUNKLEのアルバム『Psyence Fiction』で、クール・G・ラップからトム・ヨークまで多彩な面々を『Endtroducing.....』の延長線上にあるようなサンプルベースのサウンドに迎えた。UNKLEの例のようにシャドウは早くからアメリカ以外のアーティストとの交流があり、マッシヴ・アタックやDJ KRUSHなどの作品にも参加。その先鋭的な作風を世界中に広げていった。





「ベイエリアの一員」にして「未来的すぎるDJ」

しかし、シャドウは世界的なアーティストであるだけではなく、地元のヒップホップシーンとも繋がっている人物でもある。キャリア初期にはリリックス・ボーンやラップデュオのブラッカリシャスなど、地元ラッパーたちと共にレーベルのソールサイズで活動。2002年の2ndアルバム『The Private Press』でも、ソールサイズ仲間のラティーフ・ザ・トゥルース・スピーカーを迎えていた。


ラティーフ・ザ・トゥルース・スピーカーが参加した「Mashin' On The Motorway」



「地元シーンの一員としてのシャドウ」という側面が最も色濃く出たのが、2006年にリリースした3rdアルバム『The Outsider』だ。この時期のベイエリアのシーンでは、ミニマルなシンセを鳴らすハイテンションなスタイル「ハイフィ」が盛り上がっていた。同作では先行シングル「3 Freaks」を筆頭に、「Turf Dancing」や「Dats My Part」などシャドウ流の一癖あるハイフィ路線を多く収録。客演にもQ・ティップやリトル・ブラザーのフォンテのような従来のスタイルと親和性のあるラッパーだけではなく、キーク・ダ・スニークやターフ・トーク、フェデレーションなどハイフィを代表する面々も迎えていた。




『The Outsider』はハイフィだけではなく、ロック路線や南部ヒップホップ的なクランクなども収録した混沌とした作品だった。その大胆な作りは賛否両論を招き、以降シャドウはハイフィ路線を封印。『The Outsider』の次にリリースした2011年のEP『I Gotta Rokk』と4thアルバム『The Less You Know, the Better』はロック風味の部分だけ引き継ぎ、再び越境的な方向性を模索するような作品となっていた。

しかし、この2枚も決して「回帰」に終わる作品ではなく、エッジーでダンサブルな「Def Surrounds Us」のように新たな試みにも挑んでいた。その挑戦的な姿勢は作品だけではなくDJにも出ていたようで、2012年にはマイアミのイベントで「未来的すぎる」としてプレイを止められるトラブルが発生。その時にプレイしていたのはオランダのプロデューサーのクランプシャフトによるジュークの「Spit Thunder」で、シャドウの新たな音楽への関心が窺える。

以降もシャドウは2014年のEP『The Liquid Thunder』で「Def Surrounds Us」系の先鋭的なダンスミュージックを制作。2015年にはプロデューサーのG・ジョーンズとのユニット、ナイト・スクール・クリックでのセルフタイトルEPでトラップやグライムの影響下にあるスタイルを披露していた。



今のシャドウにしか作り得ない最新作

2016年にはMass Appealからの5thアルバム『The Mountain Will Fall』をリリース。初期に取り組んでいたようなサンプルベースのスタイルと、2010年代前半のシンセを用いたエッジーなスタイルを織り交ぜた作品に仕上げていた。2019年のMass Appealからの2作目『Our Pathetic Age』はインストのディスク1、とラッパーを迎えたディスク2の二枚組。ベースミュージックにも隣接する刺激的なものや初期作品にも通じるものなど、それまでのシャドウの集大成のような作品だった。




しかし、新作アルバム『Action Adventure』は『Our Pathetic Age』とはまた違った意味で集大成のようなムードが漂う作品だ。先述したシャドウのInstagramでの投稿でも「やっていることや感触は『Endtroducing.....』や『The Private Press』に近いと言えるが、スロウバックではない」「プロデューサー、ソングライターとしての私の進化を象徴するような曲ばかり」と語られている通り、初期作品に近い質感を備えつつもこれまでの試みを通過したスタイルを提示している。シンセを使ってもここ数年での刺激的なアプローチよりも、成熟を感じさせる落ち着いたものが目立つ。



さらに、「Time and Space」の跳ねるようなドラムパターンはデム・フッドスターズによるハイフィ名曲「Get Ya Grown Man On」を想起させるものだし、「All My」はかつて「未来的すぎる」と止められたジュークの要素を取り入れている。長いキャリアの中で好意的ではない評価も受け取ってきた試みに、近年培ってきたテクニックで再び挑んだような作品でもあるのだ。

また、「You Played Me」での分厚いシンセベースはトゥー・ショート作品などに通じるものだし、8ボール & MJGがE-40やマック・モールと共に制作した名曲と同タイトルの「Friend or Foe」ではGファンクのような高音シンセも使用。これらの曲からは、近年はあまり強調してこなかった「ベイエリアのシーンの一員」としてのシャドウも感じられる。

金字塔『Endtroducing.....』を生み出しつつも、同じことを続けるのではなく多くのコラボレーターと共に新しい方向性を模索し続けたシャドウ。そんなシャドウが再び一人で自分自身のために音楽を作ったことで生まれた最新作『Action Adventure』は、回帰でありつつも回帰ではない作品となっている。この成熟した魅力は新進アーティストには出せないし、過去のシャドウにも出せないものだろう。今のシャドウにしか作り得ない、ベテランのヒップホップ作品として見事な一枚だ。





DJシャドウ
『Action Adventure』
発売中
配信・購入:https://djshadow.lnk.to/actionadventure

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