Dirty Hit新世代 Pretty Sickが語るグランジ、日本の音楽、ファッションからの刺激
Rolling Stone Japan / 2023年11月1日 18時30分
昨年、Dirty Hitからのデビューアルバム『Makes Me Sick Makes Me Smile』をリリースしたプリティ・シック(Pretty Sick)。バンドを率いる中心人物のサブリナ・フエンテス(Sabrina Fuentes)は10代前半の頃からモデルとしても活動し、ファッションの世界と繋がりながら、NYのインディ・ロックシーンでその名を轟かせてきた(現在は活動の拠点をロンドンに移している)。親友だというディレクター/アーティストのマノン・マカサエットはじめ、彼女の交友関係は広く、その相関図を見ていくことで現在のインディペンデントな音楽シーンの様子が浮かび上がってもくる。
今回、X-girlの撮影で日本を訪れたというサブリナが、プリティ・シックとして下北沢BASEMENTBARにてフリーライブを敢行。Luby Sparksの出演とともに嬉しいサプライズとなった翌日、サブリナにインタビューを実施した。聞いてはいたものの、想像を超える日本フリークに驚くばかり。「日本は2018年に初めて来て以来、毎年足を運んでる」「日本語のサウンドってすごく綺麗で、独特なリズムのフローを作るよね」と語る、彼女のフレッシュな感性をお届けする。(質問作成:つやちゃん/インタビュー:小熊俊哉)
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【写真ギャラリー】Pretty Sick サブリナ・フエンテス撮り下ろし(全13点)
Photo by Kana Tarumi
―よろしくお願いします。
サブリナ:(インタビュアーの着ていたスピーディー・ワンダーグラウンドのTシャツを見て)あなたのTシャツいいね! 私の友達のレーベルだよ。
―そうなんですか?
サブリナ:ええ、友達と(ダン・)キャリーが運営してるレーベル。
―ロンドンで活動するようになって、しばらく経つと思いますが――。
サブリナ:もうすぐ6年かな。
―どういった方と仲が良いんですか?
サブリナ:ヴィジ(Viji)は仲良しだよ。彼女のバンドもスピーディー・ワンダーグラウンドに所属してて、Suzy Clueっていうんだ。あとはエレクトロニック・パンクとダンスミュージックをやってるbassvictim。それからxmalも仲良し。クールなエクスペリメンタル・ミュージックを作ってて、ポストパンクも好きな人たちだね。もちろん、ビーバドゥービーも。
―ロンドンに移って、何が良かったですか?
サブリナ:ミュージックシーンと、人との出会い! 街は大きすぎて、寒いし雨ばかりだけど、人と音楽は素晴らしい。ロンドンにはクールな人がたくさんいる。私が知っているロンドンの人たちは音楽への情熱に溢れてるんだよね。新しいことに興味を持って、積極的にトライする。要するに、失敗を恐れないってこと。ニューヨークは恥をかくことを恐れて、新しいことに挑戦する人が少ない気がしたかな。チャレンジ精神のある人がロンドンにはたくさんいる。
―ちなみに、ニューヨークにいた時はどういう人たちと繋がりがあったんでしょうか? 前任のドラマー(オースティン・ウィリアムソン)はOnyx Collectiveのメンバーだったそうですが、あのバンドはロックというよりジャズに近いのかなと。色んなシーンと繋がりがあったんですか?
サブリナ:オースティンの作る音楽は大好きだし、もちろんOnyx Collectiveも好き。そうだね……他にはWiki、Hello Mary、Clovis、それからTaranehにComet。Aspartameも好きだし……The Dare、Genesis Evansもかな。
―Wikiなど、ラッパーのアーティストとも繋がりがあるんですね。
サブリナ:ええ。ジャンル関係なく好きだから!
―ところで昨夜のライブ、素晴らしかったです。バンドの演奏もフロアの熱狂もクールだと思いました。プレイしてみていかがでしたか?
サブリナ:最高に楽しかった!もっと日本でライブしたいな。
―最後に披露された「Dumb」は名曲ですよね。
サブリナ:「Dumb」はマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、特に「You Made Me Realise」からインスピレーションを受けて作った。それからビョークも。その2組に強く影響されてできた曲なんだよね。歌詞は自分を見失い、迷いの渦の中にいる時期に書いたもので。どうやっても抜け出せないトラップの中にいるような感覚。まさに、どうしようもできない状況で生まれた詞だった。
―今おっしゃったようなフィーリングは、いつもどこからやってくるんですか?
サブリナ:幼い頃に感じた孤独だと思う。みんなのように、周りの人たちと打ち解けることが私にはできなくて。自分と同じような感覚を持っている人たちに出会うまで時間がかかったけど、今は自分の居場所を見つけられたと思う。
―曲作りは13歳から始めたんですよね。当時、何かきっかけがあったのでしょうか?
サブリナ:歌うことが好きだったから、音楽はずっと作りたいと思ってた。幼い頃、楽器のいらないボーカルだけの曲を自分で作ったりもしてたし。でも当時、私の周りには楽器を演奏できる人も音楽に興味がある人も、誰ひとり見当たらなかった。だから、まずは一緒に音楽をやる人を探そうと思って、現バンドメンバーでドラマーのエヴァ(・カウフマン)と出会ったんだ。それからずっと、一緒に音楽をやってる。
―自分の楽器としてベースを選んだのはなぜ?
サブリナ:実は好きでベースを選んだわけじゃないんだよね、本当はギターがやりたかった。あまり上手じゃなかったけど(笑)。サマーキャンプのギターレッスンに参加しようとしたら、申し込みのタイミングが遅くて、もう予約は埋まっちゃってたんだ。だから、代わりにベースを選んだ。今となっては良かったかも。ベースは好きだよ、ギターよりもはるかに簡単だし。私、本当にギターが下手なんだよね(笑)。
Photo by Kana Tarumi
―ちなみに、生まれて初めて作った曲はどんな感じでしたか?
サブリナ:(歌を口ずさむ)”Sweet love of mine, please be mine. I love you so. Sweet love of mine, all the birds in the sky. Why oh why, I love you so. Sweet love of mine.”ーーこんな感じだったかな。
―今より明るいメロディですね! どのタイミングで曲調が暗くなったのでしょう?
サブリナ:どうしてだろう(笑)! きっと大人になっていく中で痛みを知って、鬱々としたティーンになっちゃったのかも。
―ちなみに、ティーンの頃に憧れていたアーティストは?
サブリナ:グランジは好きだったな。王道のニルヴァーナにスマッシング・パンプキンズ。きっとサウンドに惹かれたんだと思う。すごくクールで衝撃だった。90年代のサウンドには、今でもノスタルジーを感じる。歌詞も好きだったしね。それから、シューゲイザー。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインは好きだった。あと、ビョークは今でもずっと好き。エレクトロニックミュージックもよく聴いてた。
ファッションの世界との繋がり
―その頃からファッションモデルもされていたと聞いています。こちらはどのようなきっかけで?
サブリナ:モデルを始めたのは、確か14歳の頃。ファッション業界でインターンとして働いていたら、モデルをやってみないかって誘われたんだよね。
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―ミュージシャンとモデル、2つのアイデンティティを10代前半の頃から両立してきたことは、自分の生き方や価値観にどんな影響を与えていますか?
サブリナ:2019年にモデル業を辞めたから、今はやってない。両親はモデルの仕事のことをかなり斜めにみていて、色々と口うるさく言われた。きっと私に没頭してほしくなかったんだと思う。私自身も、あまりモデル業について真剣に考えたことはなくて、若い頃にお金を稼げて良かったなって思ってるくらい。レーベルに所属する前に『Deep Divine』と『Come Down』(2020年、2021年発表のEP)を制作していたから、レコードとかライブの費用とか、そういった面での足しになった。モデルの世界で出会った人は素敵な人たちだったけど、モデルが世間に与えるボディ・イメージはよくないよね。親からは「減量しろって言われても、真に受けるな」って言われていたし。私は特にトラブルなく仕事ができてたからラッキーだったと思う。もし、今からモデル業界一本で働くとしたら、こんな気持ちでいられる自信はないかも(笑)。
Photo by Kana Tarumi
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―90年代と比べて、ロックとファッションのシーンは交流が減ってきている印象です。その中でも、あなたは両方のカルチャーを行き来して創作をしていますよね。
サブリナ:ソニック・ユース(のキム・ゴードン)がやっていた頃の、初期のX-girlは特に好きだったな。ファッションデザイナーをしている友達がたくさんいるんだけど、みんなはイベントやライブのために服を作ったりしてる。モデルをするより、そういった形でファッションと関わる方が私は好きなんだよね。
―以前、2019年にマノン・マカサエットとX-girlのエキシビションでライブするために来日していますよね。マノンとは親友だとか。何がきっかけで知り合い、いつから交流があるんですか?
サブリナ:日本には2018年に初めて来て以来、毎年足を運んでる。マノンとの出会いは高校生の時にVFILES(NYのファッションソーシャルメディア)で働いてた時で、その頃からずっと親友なんだよね。マノンはいつも私の音楽を応援してくれてる。もう音楽を辞めようって思った時期に、「続けた方がいい」って背中を押してくれたのは彼女だった。ディレクター、デザイナー、彫刻家、グラフィックデザイナー……あらゆる方面の才能に溢れていて、優しくて、まさに完璧。マノンは、今まで出会った中で初めての最高の友達。一緒にいると学ぶことがたくさんある。いつも私を応援してくれて、私も尊敬できる人と一緒にいられるなんて幸せだなって思う。
マノン・マカサエットがMVの監督を務めた「Bet My Blood」
―マノンとの友情を通じて、ファッションや音楽関係の交流が広がったところもありますか?
サブリナ:ええ、たまにね。バンドを始めた頃は、ミュージシャンとしてじゃなくモデルとして見られてるんじゃないかって不安になることもあった。今となっては過去の悩みで、そもそも「私はモデルだ」って強く思ってなかったことも大きいのかもしれない(笑)。もちろん、ファッション業界で出会ったみんなはとても素敵でずっと憧れてる。私は本当にツイてたんだと思う。
―今回の来日でも、モデル/アーティストの酒井いぶきさんやヒステリックグラマーの北村信彦さんらと交流している様子をInstagramにアップされていましたね。
サブリナ:いぶきとノブはすごく才能に溢れたアーティストだよね。2人が一緒に作った作品はすごく好き!
音楽への底知れぬ情熱、Dirty Hitと契約するまで
―昨年リリースされたデビューアルバム『Makes Me Sick Makes Me Smile』のリリースから約一年が経ちました。改めて、どんなアルバムを作りたかったのか教えてください。
サブリナ:高校生の頃からずっと、クラシックなグランジのアルバムを作りたかったんだ。曲の歌詞は、胸の内に溜め込んでいたものを吐き出していく過程で生まれてきた。それまでの数年間、私は精神的に追い込まれていて、どうにもうまくやっていくことができなくて、すごく辛い状況にいた。そんな状況下で作ったこのアルバムが、私の傷みを癒してくれた。それはまるでセラピーのような経験で、このアルバムのおかげで、過去を乗り越えて、私は前に進むことができたんだと思う。
―アルバムを作っているとき、日本の音楽をたくさん聴いていたそうですね。具体的にはどういったものを聴いて、どんな影響を受けたのでしょうか。
サブリナ:ドラマーのエヴァは、シティポップ、ジャパニーズ・ディスコの大ファンだよ。私はバンドが好きかな。プレイリストがあるから見せるね! Aya Gloomy、Asobi Seksu、ゆらゆら帝国、ヤプーズ、溶けない名前、World's End Girlfriend、Seventeen Years Old And Berlin Wall(17歳とベルリンの壁)、フリッパーズ・ギター、my dead girlfriend(死んだ僕の彼女)、Lamp、Luby Sparks……。
―へぇ!
サブリナ:日本の音楽は好きだよ。日本語のサウンドってすごく綺麗で、独特なリズムのフローを作るよね。英語の音楽とはまるで違うリズムだから、刺激を受ける。
―さらに60年代のフランス音楽、キューバ音楽もよく聴いていたとか。
サブリナ:父がキューバ人だから、よくフランスで過ごしてたんだよね。フランスってロマンチックで大好き! フランソワーズ・アルディ、セルジュ・ゲンスブール……昔のアーティストが好きかな。ドゥーワップも。50〜60年代の初期のドゥーワップにはすごく影響を受けてる。
Photo by Kana Tarumi
―プリティ・シックの音楽性については、90sグランジ/オルタナロックの影響を指摘されがちですが、一方で実はクラシックロックやハードロック、サイケロック、パンク等の要素も感じます。そちらの方で、好きなバンドはいますか?
サブリナ:ブロンディ、チープ・トリック、ビートルズ、ビーチ・ボーイズ、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドはお気に入りのバンド。それから、ジャニス・ジョプリン、ピンク・フロイド、ローリング・ストーンズ。
―本当に幅広く聴かれるんですね。
サブリナ:音楽が大好きだから。音楽しか聴いてないよ! ポッドキャストも聴かないし、テレビも見ない。音楽以外に好きなものなんてない(笑)。唯一ハマってるテレビドラマは『マッドメン』で、3周くらい観てるかな。たぶんまた観る。
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―2020年にDirty Hitと契約を結びましたが、当時のあなたにとってDirty Hitはどのようなイメージのレーベルでしたか?
サブリナ:正直、レーベルと契約するなんて思ってもいなかったんだよね。長い間、全部自分でやってきてたから、そういう選択肢があることすら忘れてたくらい。2020年の3月だったかな、私が日本に滞在中に、ビーバドゥービーのマネージャーのクリスから連絡があったんだ。彼が私の音楽を気に入ってくれて、「ロンドンに戻ってきたら一度会いたい」って。数週間後、ロンドンに戻って彼と会った。その後コロナ禍に入っちゃって、私たちはパンデミックの最中に契約することになった。『Deep Divine』と『Come Down』は、コロナ禍にリリースされたんだ。パンデミックが収束した後、ツアーができたのはとても嬉しかった。レーベルのみんなは親切で、今のチームと出会えて幸運だと思う。特に、私のマネージャーのアマンダを紹介してくれたことにはすごく感謝してる! 彼女とは親友だよ。
―ご自身では、プリティ・シックのどのようなところが評価されてレーベルにジョインすることになったと思いますか?
サブリナ:クリスは、デカいスマッシング・パンプキンズのタトゥーを入れてるんだよね!
―(笑)。
サブリナ:ってことは、彼もグランジが好きでしょ? それに、当時はヴィジもレーベルに所属していたし、クリスと会った時に、彼はヴィジやビーバドゥービーがロックをやってるってことを話してくれた。すごくいいムードを持ってるレーベルだと思ったんだ。
―ありがとうございます。最後に、プリティ・シックは今後どのような存在になっていきたいか教えてください。
サブリナ:世界一のバンドになる!
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