Skaaiが語る「一度死ぬ」理由、求められる役割の認識と新たな挑戦
Rolling Stone Japan / 2023年10月31日 19時30分
2022年にEP『BEANIE』で鮮烈なデビューを飾ったラッパー、Skaai。トレードマークの眼鏡姿も印象的で、繊細さと大胆さが共存する言語センスとフロウで、複雑なメロディも乗りこなす新世代ラッパーとしてリスナーたちの話題をさらっていった。多くのライブやフェスへの出演もこなす中、先日、2作目となるEP『WELL DIE THIS WAY』をリリース。この1年で起こった出来事や感情の変化、表現者としてどのようにリスナーと向き合っていくのかなど、多岐にわたって話を聞いた。
【写真を見る】Skaai
―約1年前に1stEP『BEANIE』がリリースされて、今回は2作目のEPです。この1年で、生活にも大きな変化があったのではと思うのですがいかがですか?
『BEANIE』は、これまでの23年間の歩みを歌にしたという感じだったんですけど、今回の『WELL DIE THIS WAY』は、アーティストになってからどういう気持ちになったのか、1年間のストーリーを歌にしたという内容なんです。だから、表現する対象自体が全く違うので、だいぶ新鮮な気持ちですね。
―EPのタイトルからして挑発的な様子もありますし、何かの終焉を表しているのかなと感じました。
”Skaaiの変化について語る”、というのが、このEPの大きなコンセプトなんです。前のSkaaiから現在のSkaaiに変わっていく変遷を描いたEPで、タイトル”we”は、過去のSkaaiと今のSkaaiを含めた”僕ら”という意味。かつての自分は、「Skaaiが出てきたぜ、シーンのみんな、分かるか?」みたいな強気のテンションだったんです。その上で、セルフ・マネジメントをしたり、曲調に影響を与えたりしていた。
―「とにかくイケイケ!」みたいな? EPで言うと、「PRO」とか「SCENE!」には特にそうしたヴァイブスが満ちていますよね。
はい。でも、それにすごく疲れちゃって。本来、音楽ってそういうものじゃなくて、自由な気持ちで作るものだと思うし、葛藤があったんです。なので、ここで過去の自分を一回捨てようと思って。そういう意味で、”一度死ぬ”というコンセプトにしています。
―前半は強気な曲が多くて、後半の「TEMPO A」や「REM」はとても繊細な歌詞とメロディですよね。個人的には、Skaaiさんがだんだん鎧を脱いでいくような印象を受けたんです。今のSkaaiさんは、アーティストとしてどんな心持ちで活動していますか?
楽しむっていうことですかね。とにかく楽しむことを最優先に考えていて、そういう意識の変化はあります。
―変化のきっかけは?
音楽を始めてから、急激に体調が悪くなっちゃったんですよ。そもそも風邪なんて滅多に引かなかったのに、この一年で何度も風邪を引いてしまって。突然、自分の体の不調を認識するようになったので、「これは何かを変えなきゃいけない」と思い始めたんです。毎日、「Skaaiはどうやって動くべきか」とか、シーンから見たSkaaiのイメージを意識しつつ戦略を練っていたんですけど、多分、それ自体がストレスだったんですよね。だからそれを止めて、楽しんで、踊って、好きなように歌って、友達と遊んで、ってことをしたほうが、一番いいはずだ、とマインドが変わっていったんです。
―猛スピードでキャリアを築いて行っているなという印象があります。アーティストを生業として毎日を過ごす中で、理想とのギャップを感じることはありますか?
やっぱり、息苦しさはたまに感じることがありますね。自分が発した言葉が切り取られて……と言う話はよく聞きますけど、まさにそうだなと思いますし、逆に、なんでもないときに発した言葉が自分の歌詞以上に注目されたりすると、「音楽聴けよ」と思ってしまうこともあります。
「それでも俺は表現をしちゃうんだ」っていう、諦めに似た感情
―EPの冒頭は「PRO」という曲から始まります。ここでSkaaiさんが定義する”プロ”とは何ですか?
結構、センシティブかつオフェンシブなコンセプトなので、なかなか断定はしにくいんですけど、「PRO」は世の中のアーティストに向けてプロとしての姿勢を問うた曲ですね。探究者はプロだと思います。自分の可能性を永遠に広げていくという姿勢はプロだと思うし、外側だけ着飾って中身は全く伴っていない姿を見ると「アマチュアだな」と思う。やっぱり、常に前を見て進んでいる人はプロだなと思います。
―全体を通して、コーラスの入れ方や声の揺らぎ方、アドリブの感覚など、ディテールの細かい変化を感じました。
より遊ぼう、という感覚はあったかもしれないです。あまり完璧を求めないようにしよう、と思って。未熟な発想だとしても、それを取り入れようというイメージです。
―以前、他の取材でお話を伺った時に「書けなくなった時期があった」とおっしゃっていたのが印象的だったんです。
今年の夏くらいですかね。「完全に終わった」と思いました。もう、自分というものを出し切っちゃったんだなと。引き出しの少なさにも絶望したし、”言うことがない”という状況にも絶望しました。EPに入っている「WELL DIE THIS WAY」という曲は、インタールード的な短い一曲なんですけど、この曲を作った時に光って聴こえたんですよ。曲を書けない時期が3、4カ月あったんですけど、この曲のビートを聴いた瞬間に歌詞が浮かんできたんです。なので、これはタイトル曲にしなきゃ、と思いました。そもそも、EPのタイトルは最初から決めていて、そのタイトルにもしっくり来た曲でもありました。
―歌詞の中に入っている「gross」というフレーズが気になって。気持ち悪いとか、悍ましいとか、ポジティブな意味の単語ではないですよね。「この1年、Skaaiは何を見てきたんだろう?」と逆に想像力を掻き立てられました。
表現をするということは、簡単じゃないんだな、と思うんです。自分が外に発信しているものと、その対価が見合わなくてしんどいなと。特にヒップホップって、自分の意志を大事にするジャンルだし、フェイクであることが嫌われるじゃないですか。なので、物事を断定してしゃべらないといけない時もあるんですけど、そもそも、言葉を使って自分の気持ちを断定するなんて出来ないじゃないですか。言葉って揺れ動くものだし、解釈も人によって違う。そういうことを意識していると、そこにもストレスを感じるようになったんです。それが嫌で、「表現したくないな」と思うこともあるけど、そういう感情が次の創作に繋がるときに「救えねえな」と思うんです。そこの難しさとか気持ち悪さ。結局、「それでも俺は表現をしちゃうんだ」っていう、そういう諦めに似た感情もあります。
Photo by Yukitaka Amemiya
―才能がある故の葛藤なんですかね。
優れたアーティストって、社会的に求められる役割が必ずあると思うんですよ。それに応えるかどうかはアーティスト自身の判断だけど、それ自体がすごく稀有なことだなって思うんです。Skaaiにも多分、その役割があると思うんですよね。だから、その役割を自分で認識しながらそれに応えようとしていたんですよ、これまで。僕のところに届く言葉の節々にその期待を感じるから、「俺はこの期待に応えることがベストなようだ」って仮説を立てて走ってきたんですけど、それが「どうやら違いそうだな」と。なので、僕からは応えないことにしました。
ーSkaaiさんはAbemaTVで放送されていた「ラップスタア誕生」に応募して、そこでの健闘っぷりを見てファンになった方も多いと思うんです。私もそうですけど、そこからのSkaaiを知っているからこそ、一曲一曲が全て繋がっているというか、表現者・Skaaiがどのように成長しているのかをリアルなドキュメンタリー・コンテンツとして受け止めている感覚もあって。だからこそ、グッと思い入れが強くなるという側面もある。
でも、逆に僕はそのドキュメンタリーぽさをここで断ちたいんですよ。僕のキャリアって「ラップスタア」から始まってるので、Skaaiがどこから来ているのかっていうことをみんなが分かっているんですよね。実家の景色までテレビで映っているわけだし。それが、つらいと感じる時もあるんです。だから、ドキュメンタリー性だけをなくして、新しいチャレンジをしたいなと思っています。
「Skaai第2章」に向けて
ー今回のEPに対するリスナーの方の反応はいかがですか。
やっぱり強気な曲の方が人気なんだなとは思います。「みんな、ラップが好きなんだな」って。「PRO」とか「F.N.A.P.」、「SCENE!」などは、リスナーのみんなが受け入れやすいだろうなと思って作ったし、逆に「REM」や「TEMPO A」は共感しにくいのかな、と感じています。僕は(作品を)出せたことに意味があると思っているので、全然それでもいいんですけど。
ー普段、制作する上でリスナー受けみたいなことは気にしてますか?
アーティストって、迎合したら終わりだと思っているので、それはずっと胸の中にあります。
ーこの数年間で、ファンの母数もどんどん増えていると思います。Skaaiさんにとって、ファンの方はどのような位置付けですか?
ファンかどうかというよりも、僕の曲を一回でも聴いてくれたことがある、という人にはすべからく感謝しています。あと、僕の曲はライブでシンガロングしづらい曲も多いと思うんですけど、それでもめっちゃリリックを覚えてきてくれる人がいて。そういう人を見ると「すげえな!」と驚いてこっちも泣いちゃいますね。
―Skaaiさんと全く同じ経験をしているわけではないけれど、Skaaiさんの言葉に救われたり、この表現が好きだ、と感じている人がたくさんいるわけですよね。間もなくツアーも始まりますが、意気込みはいかがですか。
ワンマン・ツアーって、本当に自分の中で大きな変化があったり、全国の人々に伝えたい何かがあったりしないと実行しないと思うんです。今回は「Skaaiがこんなふうに変わったよ」って言いたいからこそ、ツアーをする。これからは、楽しくいろんなものを創作していくという意識なので、ツアーをする必要はないかなとも思っています。ただ、あくまでソロではしない、というわけであって、他の形態ではツアーをするかもしれないですけど。
―ツアーを経てからは、また新しいSkaaiのキャリアが始まるという感じでしょうか。
そうですね。"Skaai第2章"ですかね。やったことないことをしたいっていう思いがあるので。ひとまずは音楽で自分が作ることができる音楽の幅を、その可能性を探りたいと思うんです。僕って、真面目なインテリみたいなイメージがあると思うんですけど、本当はクラブ超大好きだし、(クラブに)行ったら踊り狂ってるし、ヴァイブスで生きてる自分もいるんですよね。でも、ブレちゃうからこれまではそういう面を出さなかったんです。でも、今回のEPで以前のSkaaiは自分の手で殺めたので、これからはそうした面も存分に出していきたいなと思っています。一回、リミッターを超えたい。これからは、これまでのSkaaiでは見ることのできなかったSkaaiを見せることになると思います。
Photo by Yukitaka Amemiya
<INFORMATION>
Skaai ”DEAD” TOUR
11月4日(土)東京・Spotify 0-EAST
11月13日(月)大阪・BIG CAT
11月14日(火)福岡・DRUM Be-1
『WELL DIE THIS WAY』
Skaai
Mary Joy Recordings
配信中
https://skaai.lnk.to/WDTW-ep
1. PRO (produced by HYESUNG)
2. SCENE! - Skaai, Bonbero (produced by uin)
3. F.N.A.P. (produced by uin)
4. WELL DIE THIS WAY (produced by Iamdl)
5. TEMPO A (produced by Qunimune)
6. REM (produced by Shin Sakiura)
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