1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 芸能
  4. 音楽

ザ・キルズが語る、ギターミュージックの新たな地平を開拓し続ける原動力

Rolling Stone Japan / 2023年11月1日 18時20分

Photo by Myles Hendrik

ゼロ年代初頭にストロークスやリバティーンズが牽引したロックンロールリバイバルの一翼を担った存在――アリソン・モシャートとジェイミー・ヒンスからなるザ・キルズ(The Kills)に、そんな古臭い枕詞はとっくに不要だろう。彼らはデビューから20年以上が経った現在も果敢な音楽的前進を続けている。

ノワールで退廃的なガレージロックを世に問うた『Keep On Your Mean』(2003年)、エレクトロニックな質感を強めた『No Wow』(2005年)、ヒップホップ由来のビートを導入した『Midnight Boom』(2008年)、原点回帰と言われつつ、レゲエやダブも意識していた『Blood Pressures』(2011年)、そしてレゲトンやブラジル音楽にまで手を伸ばした『Ash & Ice』(2016年)と、彼らはアルバムごとに必ず新たな領域へと足を踏み出してきた。無論、その姿勢は2023年10月27日にリリースされた最新作『God Games』でも変わらない。いやむしろ、彼らはここで過去最高レベルの跳躍力を見せていると言っていいだろう。

大迫力のブラスサウンドと妖艶なギターリフが絡むアルバム冒頭の「New York」からして、過去作とは明らかにタッチが異なる。「Love and Tenderness」からはヒップホップ~トリップホップの匂いが嗅ぎ取れるし、「LA Hex」に至ってはダビーな音響の中でロックやヒップホップやマリアッチが混じり合い、さらにはゴスペルのクワイアが荘厳な空気を加えている。これほど多種多様な音楽を衝突させても情報過多にならないのは、どの曲も音数は絞ってミニマルに仕上げているからだろう。また、その音楽性を大胆に更新させる一方で、あからさまにデジタルな光沢を放つ音色は使わず、アナログの温もりを大切にしたプロダクションを採用し続けているのは、デビュー当初から一貫したキルズらしさを聴き手に印象付けるのに一役買っている。

今回ジェイミーとアリソンとのインタビューで印象的だったのは、ノスタルジアをきっぱり拒否する姿勢と幅広い音楽への好奇心、そしてギターミュージックの可能性に対する厚い信頼だ。それこそが、いまも彼らが新たな地平を開拓し続ける原動力となっているに違いない。




―あなたたちはアルバムごとに必ず新しいサウンドに挑戦してきましたが、『God Games』はこれまででもっとも大胆で、驚きのあるサウンドになっていると思います。

ジェイミー:俺はつねに、これまで聴いたことのない音楽的に新しいものを探していて、そうした要素を採り入れていきたいと考えているんだ。それが俺にとってはとてもエキサイティングなことだからね。でも、明白な方法でそれをやる必要は決してないと思っていて。例えば俺たちの2ndアルバム、『No Wow』もエレクトロニックミュージックとエレクトロニックギターを融合させたサウンドになっていると思うけど、それも決して明確な意図を持ってそういった方向性を取ったわけじゃない。後からアルバムを聴き返してみて、そうだったのか、と気付く感じだね。今回は、MFドゥームとか、『荒野の用心棒』のサウンドトラックみたいなカウボーイサウンドとか(笑)、それにメタリカみたいなアメリカっぽいサウンドを全部入れたかった。そういうものを聴いていたから。

―今回はギターではなく、アリソンはキーボード、ジェイミーはキーボードとトランペットのサウンドを使って曲作りをしたそうですね。それはソングライティングの時点からこれまでとは違ったものを追求したいという意識の表れだったのでしょうか?

アリソン:ごく自然な流れだったと思う。違うやり方も試してみたいとずっと思っていたから。ジェイミーが気軽な感じで「キーボードを買ってみたら?」と言ってくれたんだけど、私はすっかりキーボードに夢中になっちゃって。それで、全部の曲をキーボードで作ってみようと思ったんだ。これまでと違うメロディやリズムが浮かんできて、とても面白かった。これまでにキーボードを演奏したことさえなかったし、最初からキーボードで曲作りをしてみようと思って始めたことではなかったんだけどね。

ジェイミー:アコースティックギターでこれまでと違った曲を書くのって、なかなか難しいことだと思うんだ。アコースティックの音色以外の音を感じるには、想像力をめいっぱい働かせなければいけないからね。もちろん、自分の想像力を最大限に使って他の音色を聴き取ろうと挑戦することは好きなんだけど、それも長時間やっていると本当に疲れるんだ(笑)。ギターをかき鳴らしてみたり、ピッキングしてみたり、色々試してみたりして。俺はただ、違った角度から自分のサウンドを聴きたいだけなんだ。

アリソン:ラジオの番組に出演した時に、このアルバムの曲をアコースティックギターで演奏するのも面白かった。(ギターを使って曲を書いていないから)どういう風に演奏すればいいのか分からなかったりして(笑)。

ジェイミー:すごく良かったよね。まるで曲そのものを再発見したような気分だった。

―さっきジェイミーは、新作は多様な音楽を取り入れていると言いましたが、ゼイン・ロウとのインタビューでは「LAの街角でヒップホップやマリアッチやロックなど色々な文化の音楽が同時に聴こえてくることに刺激を受けた」と話していましたよね?

ジェイミー:それは、「LA Hex」という特定の曲について話したことだね。マリアッチとか、そういう音楽性とリンクした曲になっているから。



―その「LA Hex」でもそうですし、アルバム冒頭の「New York」でも、ブラスサウンドが効果的に使われています。ただ、いわゆる伝統的なマリアッチを連想させる使い方ではないようにも感じました。

ジェイミー:俺たちのサウンドはとてもミニマルだよね。音楽の中に空間があるような作りになっている。「New York」に関して言えば、ひとつの楽器で幾つもの楽器の役割を果たせるようなものを探していたんだ。そこで、チューバがパーカッションのような役割を果たせることに興味を惹かれた。チューバのサウンドを聴くと、どこか浮遊感を感じるというか。メロディとかそんなものじゃなく、もっとパーカッション的な、アクセントをつけてくれる面白さがあると思った。

アリソン:すごくリズム的だよね。

ジェイミー:ギター以外の色々な楽器の音を入れたいと思っていたんだけど、ギターは言ってみれば俺にとっては銃のようなものなんだ。銃をぶっ放して、また弾を込めて、少し沈黙を保ってからまた撃つという感じ(笑)。その中で、ブラスの持つリズムを使ってみたかった。パーカッションのような役割をトランペットにさせたりね。

神が不在のスピリチュアルなレコード

―『God Games』ではゴスペル隊も印象的に使われていますが、あなたたちにとってゴスペルとはどのような意味を持つ音楽でしょうか? 

アリソン:とにかく素晴らしい響きを持つ音楽。

ジェイミー:これほどまでにソウルを感じる音楽は他にはない。信心深くある必要はないんだけど、集まった善良な人たちがひとつの信仰を掲げて、それに向かって歌を捧げる素晴らしさは、他のものには決して辿り着けない境地があるよ。

アリソン:すごくパワフルだよね。

ジェイミー:俺たちでは人数が足りなくて聖歌隊を組むことは出来なかったから(笑)、俺たちはキルズという信仰だけを掲げて、あとはゴスペルガールズに唱ってもらったんだ。彼女たちのゴスペルは、まるで自然が生んだ楽器のようにコードを奏でてくれた。キーボードなんかの楽器は使っていないのに、俺にコードを感じさせてくれたんだ。とても人間的な温もりがあって、ミニマルだったね。


Photo by Myles Hendrik

―「神が不在のスピリチュアル(godless spirituals)なレコードを作りたかった」というジェイミーの発言が本作のプレスリリースで引用されています。あなたたちは、音楽とはそもそもスピリチュアルなものなんだと思っていますか?

アリソン:うん、そういう風に感じている。

ジェイミー:そうだね。

アリソン:音楽はすごくパワフルなものだから。私たちが信じることが出来る、気分を高揚させてくれる力を持っていると思う。私にはステージで演奏する時の気分しか語ることができないけど、それはもう本当にワイルドな体験だから。この気持ちを他の人にどう表現していいか分からないくらい。

ジェイミー:ポール・マッカートニーが言ってたけど、「なぜちっぽけな音楽が聴き手を泣かせることが出来るのか、なぜ鳥肌を立たせることが出来るのか」ってね。音楽は涙を流させることもあるし、気分を高揚させて幸福な気持ちにさせてくれることもある。それはどうしてなんだろう? 意味が分からないよね。それはきっと音楽が持つ魔法の力なんだ。過剰にドラマチックなことは言いたくないけど、俺は音楽にはある種の超自然的な力が備わっていると思うよ。

アリソン:パリの郊外でイギー・ポップを観た時のことを覚えてる? もう本当に息が出来ないくらい素晴らしかったよね。芝生にしゃがみ込んじゃって、「よし、もう大丈夫」ってなるまで動くことも出来なかった。あれはワイルドな体験だったな、本当にすごかった(笑)。



―このタイミングで「神が不在のスピリチュアルなレコードを作る」という発想に至ったのは、パンデミックを経験したこととも関係があると思いますか? というのも、パンデミックは誰もが予想できなかった出来事で、人間の無力さやちっぽけさ、そして人知を超えた力を想起してしまうようなところがあったからです。

アリソン:私たちは誰もが自分なりの考え方を持っていて、時には黙考したり内省的になったりする。そして、それが色々な種類の曲を生むことになる。でも、私たちは決してパンデミックに関するレコードを作りたかったわけではなくて。それどころか、パンデミックについて歌うことは一切したくなかった。そうすべきではないと感じたから。だから、曲の幾つかは何度も書き直したりして。でも、自分の人生で経験したことは全てシュールな現実として受け入れるべきだとは思っている。

ジェイミー:間違いないね。曲を書く時は、いつでも自分たちについて書いているんだから、自分がどこにいようが関係ないと思うんだ。近未来的なサイエンスフィクションを書こうが、過去の自分を回顧するような曲を書こうが、結局は今、この場所にいる自分が感じたものについて書いていることは間違いないんだから。

―パンデミックについての曲は書かないにしても、パンデミックで結果的に時間の余裕が生まれたことは、このアルバムで意欲的なサウンドを追及することに影響を与えたのではありませんか?

アリソン:自分たちのその時の状況は、回顧的に振り返ることしか出来ないけど、もしあの時スタジオに入ることが出来て、そこで曲作りをしていたらきっと違ったサウンドのレコードになっていたと思う。その時に書いた曲はその時にしか書けないだろうし、それをその時に出来る形でレコーディングしたわけだから。状況が違っていたら、今回と同じようなサウンドは生まれなかったかもしれないし、前作からこんなにブランクが空くこともなかったかもしれないしね。

ジェイミー:でも俺はやっぱり、時間の余裕がなかったらピアノの弾き方を学ぶこともなかっただろうし、ブラスサウンドに着目して、それをすごく生っぽいやり方でレイヤーを重ねていくような時間もなかったと思う。世界がシャットダウンしている間に、実験を重ねる時間がたっぷりあったのは確かだと思うな。諸刃の刃ではあるけど、惨めでもあり、自由でもあったね。牢獄に閉じ込められている一方で、同時に解放的でもあったというか。

―「My Girls My Girls」ではある種の後悔や反省が歌われていると同時に、音楽が持つエクスタティックな高揚感も歌われているように感じます。この曲はクワイアが参加していることもあって、教会での懺悔のようにも聴こえました。

ジェイミー:そうだね、あれは俺の悔恨がベースになっている曲なんだ。過去を振り返ってみて、自分が起こした幾つかのことについて後悔があって、今だったらもっと違うやり方をしていただろうって、この曲を書いた時に感じていたんだ。ある意味、謝罪の気持ちから書き上げた曲だね。でも、曲作りというのは、最初は自分が経験した実話を元に始まって、Bメロではまた別の経験を持ってきて、Cメロは完全にフィクションになっているというのはよくあることなんだ。1つのアイデアが元のアイデアを凌駕して、また新しいアイデアがそれを越えていくというのが好きだから。



―この曲の歌詞は、まさにそういう広がりを持っていると思います。

ジェイミー:だから、スタート地点は俺の他の人に対する懺悔だったけれど、そこから死というものに考えが広がっていった。俺たちは皆いつかは死ぬし、それは避けられない。その時に後悔したくないと思ったんだ。何と言えばいいのか分からないけど、例えば、いつか傷つけた人たちと、またひょんなことから再会出来るかもしれない。そうしたことを繰り返していくうちに、死を迎える時に心残りがなければいいなと思ったんだ。この世は美しいものと愛に溢れているんだから。そんな結末にしたかった。この曲の始まりは悔恨だったけれど、終わりは人生賛歌のようになっていると思う。

―この曲のサウンド自体は、どこか高揚感のあるものになっていますよね。そうした歌詞の世界観が、サウンド自体に影響を与えたところもあると思いますか?

ジェイミー:そう思うよ。特にクワイアが入っているしね。賛美歌のような雰囲気はあると思う。

アリソン:このアルバムの曲は、歌詞はどこかダークでも、歌い手としてはすごく綺麗なメロディに喜びを感じる。悲しいことや解決しなければならない悩み事、疑問といったものが美しいメロディで昇華されて、ひとつの輪として融合していくような。メロディがその役割を果たしていることもあるし、クワイアがそれを担っていることもあると思う。暗澹とした歌詞が喜びに満ちたメロディで昇華されるところに希望があるっていうか。そういうコントラストがあるほど、面白い曲になると思う。だから、私はこのレコードをとても愛しているの。みんなもその対比に戸惑うのではなく、ハッピーになって欲しい。

―「LA Hex」で歌われる「けれど確かに私もかつては気鋭の新人だった / そして今は違うと分かってる / 私にはまだ私なりのやり方があるんだよ」というラインも印象的です。ここには一抹の寂しさと同時に、時代の荒波に揉まれながらもキルズというバンドを続けてきたプライドのようなものを感じました。

ジェイミー:俺はあんまり気に入ってないんだけどね。この曲はLAが舞台になっていて、とある美しい交差点での出来事を歌っているんだ。大都会の中に上手く溶け込めたと思った1分後には、自分はそこに属していないことを思い知らされるというね。パンデミックの時期、LAの街角から人が消えて、まるでSF映画の世界みたいだった。自分はかつてこの街に来て上手くやっている気になっていたけど、今ではパジャマを着たまま家に引き籠もって、ピアノを練習してるっていうね(笑)。

ギターミュージックの可能性と幅広い好奇心

―『God Games』のサウンドテクスチャーは非常に刺激的です。例えば『Blood Pressures』ではヴィンテージのテープエコーを使ったり、ギターは7つのアンプでそれぞれ別の音を出したりしていたそうですが……。

アリソン:(爆笑)。

ジェイミー:なんだよ、笑うなよ(笑)。

―(笑)今回のサウンドテクスチャーを完成させるためにおこなった実験や挑戦があれば教えてください。

ジェイミー:俺たちの音楽はとてもミニマルなんだ。俺は色んな楽器を入れたり、色んなサウンドが過剰に入っているのは好きじゃなくて……なんかゾッとしちゃうんだよね。楽曲の中に、スペースや静寂を持たせることで、ひとつの核心に迫る音を生み出したいと思っている。俺はヒップホップやR&Bの低めの柔らかなベースの音がすごく好きで。ギターミュージックにはああいうソフトなベースってなかなかなくて、ギターでどうにかベースの代わりになるソフトな音が出せないか試行錯誤したんだ。それで、ひとつのアンプにはオプティックペダルを繋いで、重低音を出して……という感じで、4つのアンプからそれぞれ違った音を出せないか、かなりの時間をかけたね。それぞれのアンプから出るギターの音でオーケストラのような効果を生みたかったんだ。俺は自分のギターが他の誰かと同じような音になるのは嫌なんだよ。



―さきほどジェイミーからMFドゥームの名前が出ていましたが、ドラムビーツのプロダクションをするときにMFドゥームをよく聴いていたそうですね。ヒップホップはこのアルバムにおいて重要な影響源だと言えますか?

ジェイミー:そうそう。『Madvillainy』は多大な影響を与えてくれたレコードだよ。実際に楽曲の中にそうした要素を聴き取ることはないと思うけどね。言ってみれば、そのスタンダードの高さだ。例えば、俺たちの音楽にフィオナ・アップルの要素は全く感じないだろうけど、彼女の『Fetch the Bold Cutters』が本当に好きで、そのスタンダードの高さは類い希なるものだと思ってる。MFドゥームもスタンダードが本当に高いし、カニエ・ウェストも非常に高いスタンダードを誇っている。そうしたものにとても影響されているんだ。キルズの音楽性にそうした人たちからの影響を感じ取ることは出来ないと思うけど、「フィオナ、すげえっ!」みたいなものが根底にあって、それが俺たちを高みへと押し上げてくれていると思うんだよね。




―アルバムには、ヒップホップだけでなく、レゲエの影響も感じられます。

ジェイミー:うん、プロダクションの面においてはね。リー・スクラッチ・ペリーとか。ヒップホップにしてもレゲエにしてもR&Bにしても、音楽的な要素はそこまで採り入れていないけど、プロダクションの面ではすごく影響を受けているよ。ひどく刺激的で衝撃的で、「どうやったらこんなこと出来るんだ!? なぜロックミュージックはもっとプロダクションのディテールひとつひとつに気を配って世界を押し広げていかないんだ!? これってどうやってるんだ!?」ってね。俺はちょっと興奮し過ぎかもしれないけど(笑)。

―今回のプロデューサーであるポール・エプワースは、キルズの初期にサウンドマンをしていたそうですね。まさにプロダクションのディテールを追及する上で良いパートナーだと思いますが、このタイミングでまた彼と仕事をしようと思った理由を教えてください。

アリソン:曲も書き終わってスタジオに入る準備が出来た時にプロデューサーを迎え入れようということになって、誰がいいか話し合っている時に、ポールと一緒にやれたらクールだと思って。ポールとは2004年に彼が私たちのライブのサウンドエンジニアをやっていた時以来、一緒に仕事をしたことがなかった。それでポールにコンタクトを取ったら、ロンドンのザ・チャーチっていう素晴らしいスタジオで働いていることが分かって(注:ノースロンドンの教会を改修して作られた名門スタジオ。ユーリズミックスのデイヴ・スチュワートが所有していたが、デヴィッド・グレイの手に渡り、現在はエプワースが所有)、そこに行ったの。彼のプロダクションのクオリティは本当に素晴らしくて、メロディの魅力を最大限に引き出してくれたし、サウンドを完璧にしてくれた。それに、彼とは最初に話し合いを重ねる必要がなかったのも良かった。まるでバンドの一員みたいに、「ハーイ、ポール。久しぶり!」って感じで(笑)。

ジェイミー:彼は魔法を操れて、とても数学的でアカデミックな視点を持っているんだ。全ての曲を書き終えてみて、そのほとんどにギターが入っていなかったんだけど、彼は本当に素晴らしいサウンドにする方法を熟知していた。それは、俺たちのことを良く知っていて理解してくれている人でなければ為し得なかったと思う。それに、俺たちの音楽がどこから始まっているかをね。俺たちのいちばん最初のレコードが、古いフェンダーのアンプを使っていることを知っていなければ。もし新しい人に任せて、その人が俺たちが2002年にどんなことをやっていたか知らなければ、洗練されたデジタル製のリズムの上に土台も理解せず色んなものを積み重ねていって、すごく散らかった感じになってしまっていたと思うよ。ギターと、生っぽいサウンドの歌という土台の上に今回俺たちが作ったものをレイヤーしていくことが必要だったんだ。ポールは初期の頃からやってくれているから、俺たちのソウルというものを理解してくれていたんだよ。


2003年の楽曲「Fried My Little Brains」(『Keep On Your Mean』収録)

―エプワースとスタジオに入った時点では、ほとんどの曲にギターが入っていなかったということですが、ソングライティングでもギターを使わなかったんですよね? 前作リリース時のインタビューで、ジェイミーは「今の若者はコンピューターとソフトウェアだけで音楽を作るから、ギターバンドがもうどこにもいない」と話していました。そういった実感と、レコーディングの段階までギターを使わなかったこととの間には、何か関係はありますか?

ジェイミー:いや、俺はギターミュージックはジャンルを超えてその限界を押し広げて来たんじゃないかと思っている。ロックンロールの持つノスタルジアをお手本にしながら、限界を超えて画期的なサウンドを生み出してきた。俺自身も、ギターをプレイする時はいつもそういうものを見つけたいと思ってるんだ。

前作のアルバムの時にフェスティバルツアーをやったんだけど、バスに乗り込んだ午前11時から1日中、ギターの音はほとんど耳にすることがなくて、ずっと(テクノのビートを口ずさみながら)そういうのが聞こえてきてさ。でも、俺たちがギターをかき鳴らすと「なんなんだ、これは?」って感じでみんな食いついて来た。ギターミュージックは横ばい状態で、瀕死の状態にあるって言われてるけど、俺はそんなことはないと思う。今の19歳のクールな若者がバンドを始めるとすれば、きっとギターを手にしてギターバンドを組むと信じてるんだ。自分の感情を表現するのに、エレクトロニックギター以上のものはないと思うから。クラシック音楽が不滅なのは、他の音楽が取って代わることのできないものを持っているからだよ。ギターミュージックは、俺にとってはそういう存在なんだ。


Photo by Myles Hendrik

―前作『Ash & Ice』のリリースは2016年で、当時はギターミュージックが本当にスポットライトの陰に隠れてしまっていたように思います。でも最近は、マネスキンがアメリカでもブレイクしたり、ウェット・レッグがインディの最大公約数的に人気を博したり、ハリー・スタイルズやオリヴィア・ロドリゴみたいなポップアクトもギターミュージックを取り入れたりと、ゼロ年代とは違った形でギターミュージックが注目を浴び始めているようにも感じますね。

ジェイミー:その通りだね。今現在も面白いアーティストがたくさん出て来ていると思うよ。例えばピクチャー・パーラーとか、ババ・アリとか、デヴィッド・ロスとか。面白いことをやっている人たちが出て来る昨今の状況は、とても健康的だと思うね。そういう素晴らしい音楽をやっているギターバンドが、俺たちを影響を受けたバンドに挙げてくれたりするのは、本当に嬉しいし、信じられないよ。

アリソン:ギターミュージックは今でも素晴らしいものだと思う。とても人間的なサウンド、人間的な表現方法だから。アートを自分の手で作り出すことに夢中になるのは、いつの時代でもとても素敵なことだし。私自身もエレクトリックギターのサウンドが本当に好き。それ以上好きな音はないから。

ジェイミー:エレクトリックギターは音楽のジャンルではなくて、単なる楽器の一種なんだよね。だから、ギターミュージックが優れているか、エレクトロニックミュージックが優れているかという議論はナンセンスだと思う。色んな音楽を全部ごちゃまぜにして、ジャンルの垣根を越えるべきだと思うんだ。でも、俺自身はEDMやダンスミュージックを1日中聴くことは出来ないな。4時間くらいが限界で、それ以上聴いたら頭がおかしくなる。クラシック音楽にしてもそうで、1日中聴くことは不可能だ。違う音楽を色々聴きたいよね。




―今は音楽シーン自体が、色んな音楽がごちゃ混ぜの状況ですよね。ラテン圏の音楽、メキシコのリージョナル・メキシカン・ミュージック、西アフリカのアフロビーツ、韓国のK-POPなど、様々な国の音楽が世界的にヒットしており、ジェイミーがLAの街角で感じたような文化のメルティングポット的な状況がメインストリームで起きています。そういった意味でも『God Games』は非常に現代的だと言えるわけですが、あなたたちはそのような音楽シーンの現状をどの程度意識していましたか?

アリソン:敢えて意識する必要はないと思う。どこにいても耳に入ってくるから。トップヒットになっているような曲はどこでも流れているし、大都会、特にLAでは色々な音楽をごちゃ混ぜに聴くことが出来る。街角の至るところで違う音楽が流れていて、それが上手く調和しているから、それを私たちは飲み込むだけ。まるで毎日がパレードみたいな気分。

ジェイミー:俺たちが子どもの頃は、自分が属する音楽属性みたいなものを自ら選ぶ必要があった。自分はパンクでいこうとか、モッズだ、ロカビリーだってね。でも、今はそうする必要がなくなったと思うんだ。K-POPはちょっと違うから語るのは憚られるけど……俺自身はBLACKPINKが好きで何度か観に行ったりもしてるけどね。とにかく、現代は地球の至るところを旅しているようなものだ。インドにいると思ったら、ニューヨークのブルックリンにいたり。ジャンルのクロスオーバーはどこにでも存在していて。でも、俺はそういうことにはあまり興味がないんだよね。自分自身が好きな音楽に正直であるべきだと思うから。自分の好きな音楽が、自分自身に影響を与えているのは間違いないからね。

過去を振り返るのは好きじゃない

―2020年にはゼロ年代にリリースしたB面曲やレア曲をまとめたコンピレーション『Little Bastards』をリリースし、2022年にはチャド・ブレイクによる『No Wow』のリミックスアルバムをリリースしました。これらを機に、改めて過去の自分たちを振り返ってどのように感じたかを教えてください。

ジェイミー:あれは俺は全然好きじゃなかったなぁ。

アリソン:私にとっては興味深かった。ちょうどパンデミックの真っ最中だったから、不思議なトレーニングのようなものだった。もちろん飛行機も恋しかったし、レコーディングも、ツアーに出ることもすべてが恋しかったけど。そういう状況の中で自分たちのやってきたことを振り返るというのは、正直に言ってあまり居心地のよいものではなくて、変な気分だった。私たちはつねに前進して、いつも新しいものを作り続けてきたから、この歳になって自分のやりたいことに後れを取るとは思わなかったな。

ジェイミー:あの頃は、本当にとんでもない時期だったよね。世界中の誰もが同じような気分になっていた……将来についての不安があって、待ち受けている未来がどんなものになるのか想像もできなかった。それで立ち止まって過去を振り返った時に、家族のことなんかも考えるようになって。俺たちはその頃、既に新しいアルバムの曲を書き始めていて、未来が待ち遠しくて興奮してたんだ。それなのに過去の作品をもう一度振り返ってノスタルジックな気分に陥る羽目になってしまって、俺は嫌だったな。俺はとにかく前だけを見て、俺たちの新しいレコードを作って、世界に聴いてもらいたかった。もちろん、世界中のすべての人にとって非常に難しい時期ではあったんだけどね。

アリソン:もちろん変な気分になるプロジェクトではあったけど、昔の曲を聴き返すことは、私は嫌いじゃなかった。昔の曲のビデオや写真を見返したり。特にB面の曲は、10年前に4〜5回演奏してそれっきりというものも結構あったから、こういう機会があって聴き返すことができたのは面白かった。当時はアルバムに入れるには何か足りないと思っていた曲も、実はすごくクリエイティブだったりインスピレーションを与えてくれる存在だったりしたことに気付かされたりしたし。そういう曲を再発見出来て、自分たちから切り離していた曲に対するありがたみを感じることが出来たのは良かったかな。ただ、本当に感情的にはジェットコースターに乗っているような感覚だった。




―最近、一部の若者たちの間では、インディスリーズと呼ばれてゼロ年代のインディロックやそれを取り巻くカルチャーやファッションが憧憬の対象になっています。過去に自分たちがやっていたことがそのように注目を浴びるのは、むず痒い気持ちですか?

アリソン:驚きもあるし、興味深いことでもあるけど、それを言われるとどういう顔をしていいのか分からなくなっちゃう。私の周りでそんな話をしている人は誰もいないから(笑)。

ジェイミー:俺はそういうノスタルジアに恐怖を覚えるよ。過去を振り返るのは好きじゃないからね。とにかく前だけを見て前進あるのみだと思ってるからさ。でも、人生はノスタルジアに支配されている部分もあるのは分かるし、音楽は繰り返されるものだからね。音楽はリバイバルを繰り返しながらひとつの輪をぐるぐる回っている感じだよね。90年代のパンクリバイバルにしてもそうだし、20年周期で繰り返されているような気がする。そうやって音楽の世界はできているんじゃないかな。自分が子どもの頃に耳にしていた音楽を、成長して演奏するからそうなるのかな。

アリソン:私が成長の過程で聴いてきた音楽は今でも変わらず大好きだし、多大な影響を受けているから、自分がその対象になることについて、気分を害することはなくて。とても素晴らしい驚きだし、クールなことだと思う。アーティストとして、ある意味誰かにインスピレーションを与えたくて音楽を作っているところもあると思うし。もしそんな風に私たちのことを言ってくれる人がいるのだとしたら、すごくハッピーなことだね。


2005年のドキュメンタリー作品『I Hate The Way You Love』

―キルズはデビューから20年以上が経ちましたが、これほどまで長く続けてこられた理由はどこにあると思いますか? あなたたちがキャリアを重ねるうえでロールモデルとしているアーティストはいるのでしょうか?

ジェイミー:バンドを始めた頃は、フガジとかソニック・ユースとか、そういうバンドについてよく話をしていたよ。人生を音楽へと昇華させたバンドとしてね。人生をどういう風に音楽という形にしているか、音楽をどういう風に人生という形にしているかについて。ソニック・ユースは、永遠にバンドを続けると思っていたし。彼らはレーベルから解雇されて辞めるようなバンドじゃなかったし、ヒット曲の有無や人気の度合いなんてものは関係なかった。大企業や音楽業界は彼らを止めることは出来なかったし、そういうものに振り回されないバンドだったからね。俺たちもそういうバンドになりたかったんだ。人生がある限り、ずっと続けていきたいと思っていたから。

アリソン:音楽を辞めるなんて出来ない。私は本当に音楽を作ることが好きだし、私たちに出来ることはたくさんあると思うから。

ジェイミー:そうした思いは、続ければ続けるほどどんどん大きくなっていったね。過去は振り返りたくない、前だけを見ていたいって言ったけど、辞めてしまったらそこでやってきたこと全てが過去のものになってしまう。やればやるほど、まだまだ先は長いと思うようになったんだ。

アリソン:その通りだね。


Photo by Myles Hendrik

―最後の質問です。もしあなたたちがフェスを主催し、誰でも好きなアーティストを呼べるとしたら、理想的なラインナップはどんなものになりますか? 何組か出演してもらいたいアーティストを挙げてください。もちろん、あなたたちは『God Games』を引っ提げての出演です。

アリソン:そうだな……フガジとまたウィーンのフェスティバルみたいに一緒にやりたい。それに、イギー・ポップにはぜひ出演してもらいたいな。

ジェイミー:ニック・ケイヴにも出てもらいたいね。ニック・ケイヴのライブを観たことがあるか分からないけど、クロアチアのフェスティバルでヘッドラインを務めたのを観たことがあってね。観客のほとんどが彼の音楽をよく知らなかったんだけど、6万人の前でパフォーマンスしたんだ。彼は巨匠だよ。彼が手のひらを差し伸べるだけで……それはもうすごかった(笑)。彼にはぜひ出てもらいたいな。あとは、リアーナ! カモン、俺は彼女とつるみたいんだ(笑)。

アリソン:フィオナ・アップルにもお願いしたい!

ジェイミー:声を大にしてお願いしたいね。

アリソン:なかなか良いラインナップなんじゃない? このメンツだったら毎日でも観たい!(笑)



ザ・キルズ
『God Games』
発売中
国内盤CDボーナストラック追加収録
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13635

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください