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Kenta Dedachi、バンドを迎えて成し遂げた美意識と温かみの両立

Rolling Stone Japan / 2023年11月10日 12時0分

Kenta Dedachi

2023年に入ってからも「Hunger for Blood」「Id hate 2 B a girl like U」「Goldfish feat. Raine」とコンスタントに配信限定シングルを発表してきたKenta Dedachi。その都度表現の幅を広げていて、恐らく本人も未知の領域に踏み込んでいっている実感を伴わせていることと思うが、今年4作目となるシングル「Moon feat. Ryu Matsuyama」の手応えはとりわけ大きいのではないか。そう思える壮大さと劇的な構成力をこの曲は有している。前作「Goldfish」にはピアノ・スリーピースバンドのRyu MatsuyamaからベースのTsuruとドラムスのJacksonが迎えられたが、今回の「Moon」は”feat. Ryu Matsuyama”とあるようにバンドの3人が参加。バンドを率いるRyuとKentaが制作の初期段階から意見交換をしてコライト。アレンジをRyuが手掛け、サウンドプロデュースをKentaの音楽制作パートナーであるKOSENが担当した。

イタリアに生まれ育って2010年に日本での活動をスタートさせたRyuと、LAの大学で音楽を学んで今年2月に帰国したKenta。その初コラボレーションは両者の個性のぶつかり合い……ではなく、共通する音楽的嗜好と感性が理想的な混ざり合い・溶け合いを見せたもので、イメージしていた景色と楽曲の形が予め一緒だったことを思わせる。始まりから美しく鳴るRyuのリリカルなピアノ音。オートチューンがかかっていながらも冷たい感触の少しもないKentaのボーカル。生楽器の響きのよさもデジタルの特性もよく理解した上で自分らしいサウンドデザインを追い求めてきた両者だからこその美意識と温かみの両立が見事に成されている。



そっと触らないと壊れてしまいそうな繊細さのあるメロディ。しばらくはほぼピアノと歌の重なりだけで曲は進んでいく。が、サビで景色が一気に開け、そのあとドラムとベースが力強く鳴り響いて曲がうねり、ダイナミックに転がっていく。静けさからの爆発。暗闇を恐れて何かを確かめながら歩いているようだったKentaの繊細なボーカルも、サビに来てはっきりと意志が宿り、力を持ち、そこからエモーショナルの度合いがどんどん増していく。なんとドラマチックであることか!

「暗闇を恐れていた僕」は、しかし今はもう、「君の光りに飛び込んで」いくことができる。その「暗闇に対する恐れ」と「光に対する渇望」が音と声、メロディとリリックで表現されている。渇望を祈りと言い換えてもよく、ホーリーな響きのなかから切実な思いが滲み出てくる。暗闇の底から見つめた一筋の光を表現する音楽家と言えば、真っ先に浮かんでくるのは米ウィスコンシン州出身のジャスティン・ヴァーノン率いるボン・イヴェールだが、そういえばRyuは以前からボン・イヴェールからの多大なる影響を話していたし、Kentaもまた爽やかさの印象的だった2019年のインディーズ盤から変わって、最近は神聖さのある表現に傾いた曲がいくつか出てきている。恐らくこの曲の制作にあたっても両者のなかにボン・イヴェールが見てきた闇と光を想像するところがあったのではないかと思われるが、しかし「月に飛んで」「宇宙を横断して君に会いに」行くのだと歌われるあたりはKentaの若々しさと思い切りのよさ、意志の強さを感じとることもできる。これを聴いたあとで見る月は、以前とは違う輝きを放っていることだろう。



<INFORMATION>


「Moon feat. Ryu Matsuyama」
Kenta Deadachi
配信中
https://kentadedachi.lnk.to/7PiaMz

ALL-IN JAM with Ryu Matsuyama
12月1日(金) 大阪 梅田TRAD
12月10日(日) 東京 恵比寿LIQUIDROOM
OPEN 16:00 / START 17:00 (大阪・東京共通)

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