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フライング・ロータスの革命を支えた「陰のキーマン」ミゲル・アットウッド・ファーガソンの音楽観

Rolling Stone Japan / 2023年11月10日 17時0分

Photo by Hannah Arista

ここ15年、LAの優れた音楽を追っているリスナーで、ミゲル・アットウッド・ファーガソン(Miguel Atwood-Ferguson)の名前を知らない人はいないだろう。フライング・ロータスの作品すべてに彼の名前がクレジットされているし、2008年のBrainfeeder設立以来、サンダーキャット、ハイエイタス・カイヨーテ、カマシ・ワシントンなど関連アーティストの重要作にも多数携わってきた。

ほかにも、ドミ&JD・ベック『Not Tight』、モーゼス・サムニー『Aromanticism』、アンダーソン・パーク『Ventura』、マカヤ・マクレイヴン『Universal Beings』など参加作は枚挙にいとまがない。とりわけ有名なのが、盟友カルロス・ニーニョとの連名で、J・ディラの母親マ・デュークに捧げた『Suite For Ma Dukes』(2009年)だろうか。J・ディラの名曲を大編成のオーケストレーションで彩ったこのコンサートは、いまや伝説になっている。さらにはレイ・チャールズ、スティーヴィー・ワンダー、ドクター・ドレーやラナ・デル・レイを筆頭に、ジャンル不問で数えきれないほどのレコーディングに貢献してきたミゲルは、LAシーンにおける最重要人物のひとりと言えるだろう。



そんな彼が、自身の名前を冠したデビューアルバム『Les Jardins Mystiques Vol.1』をBrainfeederから発表した。そのボリュームはCD3枚組で全52曲。カマシ・ワシントン『The Epic』並みの壮大さで、多種多様かつハイブリッドな音楽が詰まっている。しかも、これが三部作の第一弾であり、合計の収録時間は10時間半に及ぶという。他に類を見ないスケールのアルバムだ。

目を惹くのはゲスト陣の顔ぶれだろう。サンダーキャット、カマシ、ドミ&JD・ベック、カルロス・ニーニョ、ジェフ・パーカー、ジャマイア・ウィリアムス、アンブローズ・アキンムシーレ、マーカス・ギルモア、ゲイブ・ノエルといった、ミゲルを慕う現代のトップミュージシャンがずらりと参加。さらに、上原ひろみの最新作『Sonicwonderland』にも参加しているジーン・コイ、LAアルメニア人コミュニティのアルティョム・マヌキアンとヴァルダン・オヴセピアン、マイルス・デイヴィスの『Bitches Brew』にも参加している大ベテランのベニー・モウピン、Brainfeederがジャズに傾倒するきっかけを作った故オースティン・ペラルタまで、実に膨大な名前が並んでいる。

ここでは、アルバムの背景にあるミゲルの音楽観や哲学、宗教観などについて話を聞いた。彼の話を聞きながら、LAシーンの最先端でスピリチュアルなサウンドが巧みに取り入れられてきた理由が掴めたような気がする。


ミゲル・アットウッド・ファーガソンの重要ワークをまとめたプレイリスト


―2014年にインタビューしたときにも、「Brainfeederからアルバムを出す予定がある」という話をしていました。そこからかなり長い時間がかかりましたね。

ミゲル:音楽は僕のすべてなんだ。だから焦らずに、でも長い期間ずっとこのアルバムを作り続けてきた。とある場所でレコーディングセッションをして、数カ月後に他のレコーディングセッションをして……という感じでね。さっきも言ったように、音楽は僕のすべてであり、同時に僕の活動主義の表われでもある。社会に不満を持つ人の中には、デモに参加する人もいるよね。それは素晴らしいことだけど、僕の場合はそれが音楽を創るということなんだ。僕の音楽は、僕自身の精神論を包括したものだから。そこには僕のヴァイブレーションが息づいていて、それこそが僕の意思そのものなんだ。

それに、これは僕の1stアルバムだから、とても大切な意味を持っている。「これがミゲルだ!」って言えるものにしたかった。というのも、自分が少し誤解されている気がするんだ。「ああ、ミゲルって『Suite for Ma Dukes』の人か」「J・ディラの人か」「フライング・ロータスのストリングスを手掛けた人か」って思われがちなんだよね。それらは僕のごく一部でしかない。このアルバムは完璧ではないけれど、少なくとも僕がどういう人物なのかを的確に近い形で表現していると思う。

―たしかに。

ミゲル:5つか6つの違った方向性やジャンル、とても長い曲も短い曲もある。クラシックからジャズ、エレクトロニックまで……これが僕なんだ。500時間に及ぶ音楽をレコーディングするのに、すごく長い時間が掛かってしまったよ。僕はこのやり方を、クインシー・ジョーンズとマイケル・ジャクソンから学んだ。クインシーが、マイケル・ジャクソンと『Off the Wall』を作るために、823もの曲を書いたと言っていたのを読んだ。だから、僕もそうすべきだと思ったんだよね。500時間に及ぶレコーディングから、この曲を今回のアルバムに入れよう、この曲はもう少しこうして……というふうに。このアルバムを作ることは、僕自身の言葉で……脆くても、できるだけ正真正銘の僕自身を表現する最大のチャンスだったんだ。

―「Persinette」はドミ&JD・ベックが参加しているので比較的新しい録音だと思います。「Eudaimonia」はオースティン・ペラルタが演奏しているので、少なくとも彼が亡くなる2012年11月より前に作られたはずです。それだけ長い期間、どのようなやり方で制作を続けていたんですか?

ミゲル:オースティンは僕の親友だったんだ。たまたまなんだけど、僕はいま休暇中で、母が暮らしている丘の上に滞在しているんだよね。そこはWi-Fi環境がよくないから、丘のふもとまで降りてきて車の中で話しているんだけど、最後にオースティンと話をしたのが今いる場所だったんだ。彼が電話を掛けてきて、彼がレジデントとして出演するライブがあるから、僕の弦楽カルテットにオープニングアクトをやってくれないかって。すごく嬉しかったね。でも、その8時間後に、彼が他界したことを聞いたんだ。

とにかく、「Eudaimonia」はいちばん最初にセッションしてデモを作った曲だよ。2011年3月20日のことだった。KPFK(カルロス・ニーニョが働いていたLAのラジオ局。ミュージシャンどうしが出会い、現在のLAのシーンが育まれるきっかけになったと言われる)というスペシャルなラジオ局で、彼と僕だけでね。ピアノは僕が尊敬するモーリス・ラヴェルと同じスタイルで演奏してもらったんだ。あのラジオ局はとても良いヴァイブスと空気感を持っていて、親友であるオースティンと一緒だし、これまでのレコーディングセッションの中でいちばん楽しかった。オースティンは天才中の天才だけど、僕と経歴が似ていた。クラシックから始めて、ジャズに進んだところとかね。彼とは6曲をレコーディングしたから、次の『Vol.2』にも2曲収録することになっている。手順はとてもシンプルで、僕が曲を作って来て、一緒にプレイしたんだ。彼はとてもアップリフティングな人で、僕の良さを5千万倍に増幅してくれる存在なんだ。才能のある人ってそうじゃない? その人の持つ良さを色々な方向から最大限に引き出してくれる。オースティンは若くして、そういうことに長けた人物だったんだ。



オースティン・ペラルタの傑作『Endless Planets』が来年2月にデラックス・エディションで再発/初LP化、未発表のセッション音源4曲が追加収録

―では、ドミ&JD・ベックとの曲はどうですか?

ミゲル:このアルバムではオーバーダビングを繰り返し採用した曲も多いんだけど……ドミ&JD・ベックと一緒にやった曲は2018年の録音だね。友人のサンダーキャットと一緒にツアーを廻っていた時に、ボストンで出会ったんだ。その時、僕は自分がMIDIで作曲した曲を持ってきていた。シンセサイザー感のある、コンピュータで作ったオタクっぽいバージョンだったね。それをドミ&JD・ベックに渡して、何か足してほしいとお願いしたんだ。彼らのクリエイティビティを損なわない程度の制約を決めてね。その曲を多重録音して、時にはそのうえに多重録音して重ねていった。僕はその人の持ち味でないことを求めるのは嫌なんだ。だから、とにかく要求は最小限にして、自分らしくあってほしいという思いで作曲している。



宗教観と「学ぶこと」の大切さ

―このアルバムを作り始めていたころに考えていたコンセプトやアイデアは、10年を超える制作期間を経て、最終的にどのように変化していったのでしょう? 

ミゲル:このアルバムに取りかかったのは2010年だけど、まず最初に『Mystical Gardens(神秘の庭園)』というコンセプトを決めたんだ。それを色々な言語に置き換えてみて、フランス語がいちばんイメージにしっくりきたからこのタイトルに決めたんだよ。当初から様々な方向性を持つものにしたいと考えていた。それに、今回参加してくれた人たちの85パーセントはその時点で決めていたんだ。

ここで僕はただ、物語を語りたかったんだ。それぞれの曲を振り返って自分自身で読み解いてみた時に、僕にとって納得がいくものになった。このアルバムを作るという経験そのものが意味を持っていて、それこそがこのアルバムに込められたことじゃないかと思う。

僕は音楽に対して、こうしろと命令するのは嫌なんだ。僕は音楽自身にとっての共同クリエイターであり、共同で魔法をかける存在であると思っている。すべての素晴らしい音楽の良き隣人でありたいと心がけているんだ。それが僕のエゴを満たすやり方であって、自分自分を押し出すのは好きじゃない。「これがミゲルだ! ミゲル! ミゲル! ミゲル!」っていうのは僕の求めているものじゃないんだよ。僕は人間が大好きだけど、人は自己中心的な経験によって滅びつつあると思う。自分たちのエゴを押し通すよりも、他の生きもの……植物や動物と共存する方がずっと建設的なのにね。だから、音楽に関して言えば、僕は助産師のようなものだね。音楽を創ることは、出産を手助けするようなものだと思っている。もちろん、音楽を創る時、僕の頭の中にどんなものを創りたいか、明確なアイデアがあることも確かだよ。でも、それを押しつけるんじゃなくて、何か素晴らしいものが爆誕する手助けができればと思ってるんだ。そのほうが、僕が描いていた元々のコンセプトよりもずっと良いものになると思うから。



―ちょうどタイトルの話が出ましたが、フランス語だけではなく、ラテン語、スペイン語、ヘブライ語、アラビア語、スワヒリ語、スウェーデン語、そして日本語と、数多くの言語が曲名に使われています。世界中の地域の多様な言葉が使われている理由について聞かせてください。

ミゲル:僕自身、とても多様な家庭に育ったからね。僕の名前はミゲルだけど、ヒスパニック系ではない。僕の家族は、すべての異なる文化が異なる奥深さを持っていて、世界に様々な言語や文化や考え方を発信できると考えているんだ。僕のことを様々な文化を尊重するだけでなく、そうした異なる文化を学ぶことを享受できる人間に育ててくれた両親には本当に感謝しているよ。

そして、僕は宗教にも興味がある。スピリチュアリズムは本当に奥が深いと思う。それに、歴史にも興味があるしね。僕はヒッピーだから、世界平和をつねに願っているし、実現できるものだと信じている。僕は理想主義的な考え方をする人間なんだ。自分自身の中にあるいちばん良い部分を信念として持つこと、自分の中にある幸福な思いと親切心や同情心を世界に拡散し、お互いがお互いに対してそうした気持ちを持つことで世界は平和になると思うから。僕自身もそうだけど、もっと世界の人々が歴史について学んでくれたらと思う。僕たちの社会は発展して、より文明的になったけれど、そこで立ち止まらずに古代文明についても学んでほしいと思うんだ。きっと何か得るものがあるはずだから。昨今は、学ぶことの重要性について語る人が少なくなって残念に思うよ。学ぶことは楽しいし、自分の人生を豊かにしてくれるのにね。何かを学ぶたびに、自分の人生がよりよくなっていくことを実感するよ。だから、このアルバムの曲のタイトルは僕たちが学ぶことの素晴らしさを讃える意味で付けたんだ。学ぶことができるのはすごく幸運だということ。これが僕のアクティビズムの形なんだよ

―古代ローマについての曲名がいくつもあったのはそういう意図なんですね。曲名だと、キリスト教、ユダヤ教、ヒンドゥー教、仏教などの用語も曲名に出てきます。ひとつのアルバムの中で様々な宗教の言葉が出てくるのはとても興味深いと思いました。こういった宗教観もあなたの音楽に繋がっているんじゃないでしょうか?

ミゲル:僕は宗教的に信心深い人間ではないけど、宗教について学ぶこと、哲学について学ぶことはとても好きなんだ。そして、スピリチュアリズムにはとても敬意を払っているよ。宗教は危険な存在にもなり得るし、もちろんポジティブな存在にもなり得る。宗教家になるにしても、信徒になるにしても、責任感が伴うし、多くの修行が必要だ。だから、特定の宗教を信仰するというよりは、スピリチュアリズムそのものに興味を持っているって感じだね。スピリチュアリズムはすべての人の心に力を与えてくれるものだから。

さっきも言ったけど、僕はヒッピーで、そのことについて誇りを持っている。人間の潜在能力は無限だと信じているし、もし僕たちが真摯に、真剣に取り組んで、自分に挑戦し続ければ実社会や人生で経験できることや学べることには限界はないと信じているよ。僕たちはパズルのひとつのピースのようなもの。自分を信じて、自分がなぜ生まれてきたのかという命題に真摯に向き合えば、見えてくるもの、できることはきっと広がっていくと信じている。僕はただ、誰にも傷ついてほしくない。宗教は時として、人を傷つけることもあるから。でも、スピリチュアリズムにしろ宗教にしろ文化にしろ、そうした美しい伝統には学ぶことが多いし、救われることもあるからね。僕はみんなに信心深くなれと言うつもりはないよ。でも、そこには美しい宝石や宝物が確かに存在していると思う。そういうコンセプトを提示することは僕にとって楽しいことなんだよ。僕自身、学ぶことが好きだし、様々な相違についてお互いに敬意を払ってほしいと思っている。これが正しくてこれが間違っていると言うつもりはなくて、ただ僕にとって興味深いものをみんなと共有できたらと思ってるんだ。


Photo by Hannah Arista

―その中でも、仏教や東洋の哲学は大きなインスピレーションになっているのではないでしょうか? それはあなたの音楽にも影響を与えているのではないかと思うのですが、いかがでしょう?

ミゲル:僕は修行中の仏教徒なんだ。仏教の教えは僕の命を救ってくれた。普段はそのことを人に言うことはない。布教するつもりはないし、これが最善の道だと押しつけたくはないからね。僕にとっては最善だったけど、それがみんなにとって最善とは限らないから。だから、特定の修行について語ることは稀で、むしろコンセプトとして語ることのほうが多いかな。でも、仏教は僕の人生を救ってくれたし、仏教の修行がなければ僕は生きていなかっただろう。僕の心やマインドをオープンにして、力を与えてくれたんだ。他の人に力を与えられるという希望を授けてくれた。僕は人に教えることも好きで、僕が特に仏教の修行を通して身につけた力を通して、人に力を分け与えることができたらと思っている。仏教は僕に永遠を授けてくれたから、僕は一生懸命修行に励んで、その永遠に対して責任を持つべきだとずっと思って続けてきたんだ。修行を続けることで、その生かし方が少しずつ分かってくるようになった。他の人にとっては他のことがそうした導きになるのかもしれないね。僕がこうした道を選んだのは、僕の育ちが関係しているのかもしれないし、僕のカルマが関係しているのか、色々な理由があるとは思うんだけど、僕が自分に必要な道を見つけたように、他の人にも様々なものが用意されていると思うんだ。それは僕と同じである必要はないんだから。

君たちも知っていると思うけど、音楽業界というのは非常に生き抜くのが難しい世界だよね。一方で、とてもやり甲斐があって、楽しくてポジティブな場所でもある。でも、クリエイティブなアーティストとして、自分の心やエネルギーをリチャージできる方法が必要なんだ。それに、自分の人生に磨きをかけるための方法についても学びたかった。若い頃から、自分に不必要なものを手放して、人生に磨きをかけ、自分自身にエネルギーを与えなければ長く続けられないことはわかっていたからね。だから、仏教は僕のすべてだと言えるね。

作曲家/マルチ奏者としての哲学

―あなたがフライング・ロータス周辺のミュージシャンに音楽理論を教えているという話は聞いていましたが、それは仏教を経たから生まれた行動だったのかもしれませんね。音楽の話に戻りますが、あなたの音楽にとって「作曲」と「即興」の関係について聞かせてください。

ミゲル:僕の2大ヒーローはJ.S.バッハとイーゴリ・ストラヴィンスキーなんだけど、彼らは作曲について興味深いことを言っているんだ。「作曲とは、単純に即興をゆっくりやることである」ってね。それは僕にとってすごく腑に落ちる表現だった。作曲と即興は、親密な関係にあると思う。僕はそのどちらもとても好きだから。毎朝、ピアノに向かってまずバッハを弾くんだ。それからスマホのボイスメモで、ピアノで弾いた即興演奏を録音するんだよ。作曲する時は、その即興の中から色々な方向性の要素を抜き出してひとつの曲にまとめていく。だから、僕の人生にとってどちらも重要なものなんだ。誰かと一緒に即興をすることにも大きな喜びを感じるよ。即興をすることは、自信のなさや恐怖を取り払い、今ここに在ることを迫ってくるものなんだ。そして、僕に見極めさせる。でも、決して批判的ではないやり方で見極めるんだ。批判的になるのは簡単だけど、そこでは誰も求めていない。見極めることと批判的になることは同義語に近いかもしれないけど、同じではないんだよね。即興に関して批判的になってしまうと、何も生み出すことはできない。それでは楽しくないよね。エッセンスが失われてしまう。でも、見極めることができれば、自分が何を必要としていて、今何がやりたいのかが明確になってくる。それは大きな違いだよね。即興することは、自分の最良のものを表現する手助けをしてくれると思うし、自分がどのようにこの音楽と関わって存在していくのかを示してくれる。そこが音楽の面白いところだ。最良バージョンの自分をどうやって表現するか、それは音楽が教えてくれるからね。

―あなたのメインの楽器のひとつでもあるヴァイオリンとヴィオラは、自分にとってどんな楽器ですか?

ミゲル:人生で最も付き合いの長い相棒という感じかな。4歳の時にヴァイオリンを始めて、今43歳だから。スキルを練習したり、テクニックを学んだり、ずっと一緒にいる親友だね。ヴァイオリンが僕を世界中に連れて行ってくれたし、僕の先生でもあり、僕が光熱費を支払う手助けをしてくれたり、僕に自信を与えてくれたりする。ヴァイオリンとヴィオラとチェロが、いちばん好きな楽器だよ。音楽は僕の心の安らぎであり、先生でもあるんだけど、ヴァイオリンやヴィオラは、僕にとって最良の乗り物という感じかもしれない。でも、作曲はピアノでするのがいちばん好きなんだ。ヴァイオリンやヴィオラでは作曲はできないんだよね。



―クラシック音楽で聞かれるようなヴァイオリン/ヴィオラの使い方ではなく、エレクトリックなサウンド、アンビエントなサウンドとも混ざり合う独特な演奏をしますよね。あなたが考えるヴァイオリン/ヴィオラの可能性について聞かせてください。

ミゲル:僕は古典を勉強するのが好きなんだ。ほぼ毎日バッハを演奏しているし、ラヴェルも、ジョン・コルトレーンも、ウェイン・ショーターもいつも演奏している。でも、それはコピーするという意味ではない。ただの複製ではなく、そこに何かを足していくことが大切だ。とにかく正しい目的を持って、何か新しいことに挑戦すべきだと思う。それが人生に意味を与えてくれるから。僕は実験の過程を楽しみたいんだよね。ガンジーの自叙伝のタイトルは『My Experiments with Truth(真理の実験)』だしね。僕も真理を追い求めて実験をしている、とまでは言わないけど、敢えて言うなら、僕は感情とサウンドをもって実験をしている、というところかな。僕はいつでも自分に正直でスピリチュアルでありたいから、その過程で犯したミスも厭わない。だから、クリーンに編集したものではない、生々しい音をサウンドに足していきたいんだ。みんなにはリアルな、初期衝動的な真実を楽しんでもらいたいからね。

―ヴァイオリン演奏のインスピレーションになった演奏家は?

ミゲル:普段は弦楽器奏者以外の演奏をよく聴いているからなぁ(笑)。イツァーク・パールマン(イスラエル出身、20世紀のもっとも偉大なヴァイオリン奏者のひとり)はつねに僕のヒーローだね。それと、ジャニーヌ・ヤンセン(1978年、オランダ生まれのヴァイオリン奏者)。それに、ジャズの即興プレイヤーはみんな素晴らしいと思うよ。ディディエ・ロックウッド(マグマにも参加したフランス人奏者)とかね。即興ヴァイオリニストで好きなのは、インド出身のラクシュミナラヤナ・スブラマニアム(インド音楽と西洋クラシック音楽の両方に長けたインド人ヴァイオリン奏者)だね。彼は素晴らしいよ。ラクシュミ・シャンカール(フランク・ザッパやピーター・ガブリエルの作品に貢献したヴァイオリン奏者)の兄なんだ。彼は僕にとってヴァイオリンの神だよ。

でも、いちばん最初に好きになったのはフリッツ・クライスラー(1875年、オーストリア生まれのヴァイオリン奏者)だね。彼の奏でる音はとても甘く優しくチャーミングなんだ。彼は僕の人生を変えた人物。とても素敵な演奏をするし、作曲もする。彼の意見に共感するところも多いし、真面目なのにそれを表に出しすぎないところもいい。僕のヒーローのジョン・コルトレーンが「Theres fun in being serious(真面目さの中に面白さがある)」という言葉を残してるんだけど、僕はまさに真面目でもありたいし、楽しむこともしたいんだよね。人を笑わせたり三枚目を演じたりするのも好き。フリッツ・クライスラーは幼少期の僕に、演奏家と作曲家の二足のわらじを履くことができることを教えてくれた。だから、好きな人はたくさんいるけど影響を受けたのは彼なのかもしれないね。





ミゲル・アットウッド・ファーガソン
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