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NEX_FEST総括、メタルの新時代を示した「音楽的越境」、ブリング・ミー・ザ・ホライズンの功績

Rolling Stone Japan / 2023年11月13日 18時0分

ブリング・ミー・ザ・ホライズン(Photo by Masanori Naruse)

夢のようなフェスだった。11月3日に幕張メッセで開催された「NEX_FEST(ネックス・フェスト)」。主催を担当したブリング・ミー・ザ・ホライズン(以下BMTH)のオリヴァー・サイクスは、開催前のインタビューで「このフェスはどの出演者もオルタナティブなんだけど、多様なスタイル、多様な音楽を表現してるし、ヘヴィなものからライトなものまでいろいろある。でもそれこそがフェスのあるべき姿だと思うんだ」と述べていたが、まさにそれが理想的な形で成し遂げられた一日だった。

【写真まとめ】「NEX_FEST」ライブ写真

演者および観客の世代交代。メタルとハードコアパンクを軸に多方面に繋がる音楽的越境。コアとポップの橋渡し、メジャーからアンダーグラウンドへの動線。そうしたテーマが日本のバンドをメインに実現され、実力本位で集められたラインナップが比較的適正なジェンダーバランス(出演した12組のうち6組に女性メンバーがいる)をもたらす。すでに始まっていたメタルの新時代を優れたラインナップで知らしめ、集客や盛り上がりの面でも成功したNEX_FESTは、日本に限らず世界的にみても、ヘヴィ・ミュージックの歴史における記念碑的なイベントになったと言えるだろう。これを先導したBMTHの功績は本当に大きい。

実際、NEX_FESTの音楽的な広がりはBMTHが軸になったからこそ実現できたものだ。2013年の4thアルバム『Sempiternal』でメタルコアのジャンル越境傾向(ニューコアという括りでも知られる)を先導したBMTHは、近作で積極的なコラボレーションを繰り返し、人脈の面でも繋がりを生み続けてきた。その筆頭が、2019年の国内ツアーでBMTHをゲストに起用し2020年の「Kingslayer ft. BABYMETAL」でも客演したBABYMETALと、BMTHの「AmEN!(feat. Lil Uzi Vert And Daryl Palumbo Of Glassjaw)」およびリル・ウージー・ヴァートの「The End (feat. BABYMETAL)」(いずれも今年6月リリース)の作編曲を担当したDAIDAI(Paleduskのギタリスト)で、この2組は今回のラインナップの中核と言っていいだろう。そうした音源制作上の交流をふまえ、今回のBMTHのステージでは「Kingslayer ft. BABYMETAL」でBABYMETALとの共演が実現。また、BMTHの「Obey(feat. YUNGBLUD)」と自身の「Happier(feat. Oli Sykes Of Bring Me The Horizon)で共同制作をしていたヤングブラッドも、互いのステージで客演していた。


ヤングブラッド(Photo by Masanori Naruse)

そして、マキシマム ザ ホルモンについても、2008年にUKツアーをした際にメンバーとマネージャーが現地でBMTHを観て衝撃を受け、そのまま楽屋に押しかけアプローチしたことから、ホルモンが翌年にツアーする際のサポートとしてBMTHの初来日が実現した経緯がある。NEX_FESTはこうした縁の集大成であり、そこに新たな実力者たちを加えて関係性を広げる場でもある。音楽的コンセプトと交流をここまで高い精度で両立したイベントは稀で、それが当日の盛り上がりにも繋がっていたのが何とも素晴らしかった。





コアとポップの橋渡し

NEX_FESTの美点のひとつとして挙げられるのが、タイムテーブルの良さだろう。メインステージのNEX_STAGEにメジャー寄りのアクト、サブステージのCHURCH_STAGEにアンダーグラウンド寄りのアクトを配置し、その交互でライブが行われていく形式なのだが、全ての出演組が各々のやり方でポップな広がりをもたらしているために、違うステージのアクトを続けて観ても違和感が生じない。例えば、CHURCH_STAGE先頭のAlice Longyu Gaoはアヴァンギャルドなニューメタルとバブルガムベースをトラップメタル経由で混ぜたような音楽性、NEX_STAGE先頭のYOASOBIは「夜に駆ける」「アイドル」といった有名曲のライブ仕様のアレンジを序盤と終盤に配置しつつ、その間にはJ-POP寄りの楽曲を衒いなく並べる構成で、いずれのアクトにも理屈抜きの親しみやすさがある。それに続く花冷え。はメタルコアの系譜を突き進んだらたまたま100 gecs的なものにぶち当たってしまったような混沌と勢いが凄まじく、BMTHと並ぶニューコアの巨頭であるアイ・プリヴェイルは、ポップミュージック領域でもメタルコア〜ポストハードコア領域でも一線級で戦える楽曲と演奏表現力が素晴らしい。ここまで贅沢なラインナップが序盤に固められたイベントは滅多にない。


Alice Longyu Gao(Photo by Yu Kubo)


YOASOBI(Photo by Masanori Naruse)


花冷え。(Photo by Yu Kubo)


アイ・プリヴェイル(Photo by Masanori Naruse)

そして、このフェス最大の特異性が発揮されたのが中盤の流れだろう。KRUELTYは日本のみならず世界を代表するデスメタリック・ハードコア、VMOはブラックメタルにガバやブレイクコアを混ぜた”DEATH RAVE”でメタルにおけるアート志向を突き詰める存在。その2組の間にNEX_STAGEへ出演したのがマキシマム ザ ホルモンで、このバンドはライブでコアなバンドのTシャツを着用し、メジャーシーンに身を置きつつアンダーグラウンドシーンの紹介をし続けている。KRUELTYのZumaはMCで「あなたがどんな音楽を好きでも関係ない」「普段から場を作っているやり方を変えずに、その輪を広げていきたい」と言っていたが、NEX_FESTにおいては、そうした姿勢がメジャーの側からもアンダーグラウンドの側からも貫かれ、馴れ合いはしないが隣り合い協働する場が作られていた。この3組の後も、ポップパンクを軸に多彩な音楽領域を呑み込むヤングブラッドと、デフトーンズやアルカに通ずる豊かな音響構築のもと奥深い叙情を表現するCVLTEが続き、上記のような協働を別の角度から補強していく。こうした流れは、NEX_STAGEとCHURCH_STAGEをあわせて観ることで初めて全貌を掴めるものだが、それぞれのステージ単体を通して観ても一貫性があり、どちらか一方に居続けても楽しめる。文脈を緻密に張り巡らしながらも押し付けがましくなく、フェスならではの気軽さが保たれていたのもNEX_FESTの魅力と言えるだろう。


KRUELTY(Photo by Yu Kubo)


マキシマム ザ ホルモン (Photo by 浜野カズシ)


VMO(Photo by Yu Kubo)


CVLTE(Photo by Erina Uemura)



新しい時代の幕開けを示す一日

以上のような音楽的越境や自由度がピークに達したのが終盤の流れだった。「メタルダンスユニット」として知られるBABYMETALは、80〜90年代のHR/HM(ハードロック/ヘヴィメタル)を軸としつつ、そうした領域では敬遠されがちだった越境的な要素も積極的に取り込み、ジャンル批評とエンタテインメント性を極めて高い水準で両立してきた。Paleduskの音楽的挑戦も今のメタル関連領域では世界屈指で、コード・オレンジやFire-Toolzにも通ずる過剰な展開をポップに聴かせ楽しませる手腕には右に出るものがない。そして、トリを飾るBMTHは、コロナ禍以降のEP連作「POST HUMAN」シリーズのコンセプトを体現するステージのもと、先述のような越境性を極上のセットリストで示してくれた。この3組の並びはNEX_FESTの総括として完璧だろう。最初から最後まで余すことなく充実した、本当に素晴らしい一日だった。




BABYMETAL(Photo by Masanori Naruse)




Paledusk(Photo by Yu Kubo)






ブリング・ミー・ザ・ホライズン(Photo by Masanori Naruse)



実のところ、こうした挑戦をする大規模フェスはNEX_FESTが初めてというわけではなかった。例えば、BMTHとBABYMETALがそれぞれ1日目と2日目に出演したLOUD PARK 2013では、ヘッドライナー格以外のほとんどをジャンル越境傾向のあるバンドが占めていて、従来からのHR/HMファンを主な客層としつつその嗜好を拡張しシーンの持続可能性を高めようとする意志が滲んでいた。これは、OZZFESTやKNOTFEST、ダウンロード・フェスティバルといった海外発のフェスも同様で、HR/HMファンとラウドロック(ニューメタルやメタルコア以降のメタル寄りロック)ファンの分断傾向に配慮しつつ橋渡しに苦闘してきたのが、日本におけるヘヴィ・ミュージック関連フェスの歴史でもあったのだ。

NEX_FESTでは、フェスのヘッドライナー格(一部の大物バンドに良くも悪くも固定化されていた感がある)が若い世代のBMTHに更新された上で、HR/HMファンとラウドロックファンの双方を納得させるラインナップが構築され、チケットも早期に完売している。これは、各アクトの実力や魅力に加え、今のメタル関連領域においてはジャンル越境性を軸に据えたバンドが普通になってきたことや、そうしたバンドがポップミュージックとの接続を示すことにより、ヘヴィ・ミュージックのファンがポップなものをあまり敬遠しなくなってきたことも少なからず関係しているのではないか。そういう状況が目にみえる形で示されたという意味でも、NEX_FESTは、新しい時代の幕開けを示す一日になったのだと思う。ここからシーンがどう広がっていくのだろうか。それを目撃できるのが本当に楽しみだ。

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