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HR/HMの「生ける伝説」を目撃「Power Trip」レポ

Rolling Stone Japan / 2023年11月13日 17時50分

AC/DC(Photo by C.WILSON for Power Trip)

1日にたったの2組の出演者、しかも、AC/DC、メタリカ、ガンズ・アンド・ローゼズ、アイアン・メイデン、ジューダス・プリースト、トゥールというそれぞれが単体で数万人を呼べるヘッドライナー規模のラインナップを迎えた夢のようなフェス「Power Trip」が米カリフォルニア州インディオにて10月6〜8日に開催された。

【写真まとめ】「Power Trip」ライブ写真

会場はエンパイア・ポロ・クラブ。Coachella Valley and Arts Festivalと同じ会場だ。思い起こすのは、2016年にCoachellaのコンサートプロモーター、Goldenvoiceが同会場で開催したDessert Trip。こちらもポール・マッカートニー、ボブ・ディラン、ローリング・ストーンズ、ザ・フー、ロジャー・ウォータースそしてニール・ヤングというロック界のレジェンドだけを迎えた3日間のフェスで1日あたり7万5000人を集めたが、そのHR/HM版といったところだろう。SNSでご覧になった方もいるかもしれないが、ドローンで撮影した観客エリアは8万人を超える観客が足を運んでいたそうで実に壮観だった。


Photo by A.Bonecutter for Power Trip


Photo by Q.TUCKER for Power Trip

「これはお祝いだ!」とステージで叫んだジェイムズ・ヘットフィールドをはじめメタリカのメンバーは3日目の出演にもかかわらず初日から会場に入って楽しんでいたように、このフェスは出演者にとってもさながら同窓会の様相を呈していたのかもしれない。そんな3日間を駆け足で振り返る。

普段なら考えられない6時半という早い時間にトップバッターとして現れたのはアイアン・メイデン。1ステージを2バンドで使うということで、当然ながら彼らであってもその後に控えるガンズ・アンド・ローゼズのベースとなるセットが土台にある上に設置されているので、映像含め演出が普段のメイデンのステージよりも簡易的。セットリストはこのイベントのために特別に組まれたものは一切なく、2023年のFuture Pastワールドツアーと同じセット、つまり、アンコール含めた全15曲中5曲を最新アルバム『Senjutsu』(2021年)からという、レジェンドながら常にアップデートされているバンドというステイトメントだと受け取った。最高気温37度を超えたこの日、ライブの最中もまだ30度をくだらない暑さに観客の我々ですらぐったりとしている中、御年65歳のブルース・ディッキンソンが厚手のコートやレイヤーを重ねた衣装で軽やかにステージの隅々や後方の壇上まで駆け上がり、見事な歌唱を披露する姿はもはや超人にすら見えた。そんなブルースが「メイデンファンは人種やその他のことを気にしないと思っている。私たちは家族であり、皆仲良くしている」と語り、この日の公演は彼らと同世代からその孫世代というジェネレーションにとどまらず、世界中から足を運んだファンの気持ちを一つに繋ぐ実に心温かなものだった。


アイアン・メイデン(Photo by Q.TUCKER for Power Trip)



2番目に登場のガンズは近年の印象だと比較的時間通りに登場しているのだが、メイデンの演奏時間が想定よりも長めだったためか35分遅れて開演。『Appetite For Destruction』(1987年)からお決まりの「Its So Easy」からキックオフ。現在回っているツアーではアンコール含めると33曲もの長尺セットも珍しくないのだが、同会場は演奏時間制限が深夜12時までだったようで、アクセル・ローズが「門限があることを知ったよ」と、恐らく予定していたアンコールをカットして、ラストの定番「Paradise City」を披露、それに合わせて花火が上がり1日目は終了した。2016年にスラッシュとダフ・マッケイガンがバンドに復帰後コンスタントにツアーをしている功績だろうか、バンドとしての結束がこれまで以上に強いものになっていることを感じられた。


ガンズ・アンド・ローゼズ(Photo by Kevin Mazur/Getty Images for Power Trip)


ガンズ・アンド・ローゼズ(Photo by C.WILSON for Power Trip)





ジューダス・プリーストの生き様

2日目に当初ラインナップされていたのはオジー・オズボーンとAC/DCだった。オジーは当初この日を約5年ぶりに立つステージとして位置付けていたものの、7月に体調がまだ復帰に見合うものには至っていないことを理由にキャンセル。その代わりにオジーが個人的に交友のあるジューダス・プリーストが務める形に。2023年に彼らがステージに立ったのはこの日だけなので文字通り、オジーのための英断だったといえる。そんなジューダスは開演前にブラック・サバスの「War Pigs」を流し、会場全体がシンガロングしてオジーに捧げる粋な計らいも。

その後、スクリーンを使って大々的にアナウンスされたのが、2024年3月リリース予定のニューアルバム『Invisible World』。実に6年ぶりとなる新作の報せに大きな歓声が上がる中、ヘヴィメタルシーンを50年もの長きに亘って牽引してきたジューダスのライブがスタート。その生き様を彼らのクラシックスと共に叩きつけた。ハイライトは現在パーキンソン病と闘うオリジナル・ギタリスト、グレン・ティプトンが登壇しての「Metal Gods」の演奏。ひたむきにギターの演奏に集中するグレンにエールを送るかのように大きな笑顔を贈るイアン・ヒル(Ba)の姿が大観衆の心を温めた。


ジューダス・プリースト(Photo by C.WILSON for Power Trip)



そしてこの日のヘッドライナーは実に7年ぶりのステージ復活となったAC/DC。2016年にブライアン・ジョンソン(Vo)に聴力の問題が発生、翌17年にはマルコム・ヤング(Gt)が他界と、バンド存続を脅かす大きな苦難を乗り越えての復活となった彼らを迎えるべく会場はデビルホーンのヘッドバンドを売るベンダーがあちこちに登場。グッズ売り場には他のバンドとは群を抜いて長蛇の列が出来ていた。開演直前に「今夜は凄まじい量のパイロが使われます」との警告、40台を超える高く積まれたマーシャル・アンプに大量のドライアイス。そして天井高くにスタンバイされたヘルズ・ベルを目にするだけでアドレナリンが放出した。


Photo by A.Boyle for Power Trip

2020年リリースのアルバム『Power Up』からライヴ初披露となった「Shot in the Dark」や「Demon Fire」はもちろん、アンコールを含めた全24曲で飢餓状態にあった我々ファンが聴きたかった往年の名曲を余すところなく披露。「Highway to Hell」で突然ブライアンのハイトーンヴォイスが出なくなるトラブルがあり、間奏部分でスタッフがブライアンのイアモニを調整に来た時には声ではなく耳に問題が?とも心配したことはあったが、76歳とはいえそこはやはりモンスター・ボーカリスト、その後はしっかりと立て直していたのはさすが。アンガス・ヤング(Gt)も広大なステージの端から端、中央に伸びる花道まで軽やかに駆け回り、この方にはスポットライトは必要ないのではと思えるほどのオーラを放ちながら魅了してくれた。宣言通り、惜しみないパイロと1日目よりもマシマシの花火でド派手な2日目が華々しく幕を閉じた。


AC/DC(Photo by A.Bonecutter for Power Trip)



それにしても連日40度近い気温でAC/DCが終わる真夜中近くになってやっと30度を下回るような灼熱の砂漠地域。演奏するバンドも決して楽な環境ではなかったと思うが、テント生活を送る観客もかなり体力を奪われている様子で、全体的な盛り上がりが今ひとつだったのは少し悔やまれるところ。


Photo by C.WILSON for Power Trip



メタリカの信念

3日目のトップバッター、トゥールは元々他の5組と比べてキャリアが若いこと(※唯一の90sバンド。それでも結成33年)や他の出演バンドとは一線を画す音楽スタイル故、観客の集まり具合は今ひとつだったが、しかしながら彼らのライブを観たことがある人ならばご存知の通り、彼らは観客のテンションに影響されない我が道を行くバンド。ストイックなまでに自らのアートと対峙することに美学を見出すかのような姿勢はこの日も徹底され、70分という短時間のセットで完璧な演奏。このフェスのステージでは一貫してステージの左右にあるモニターがサイドも繋がって広大なヴィジョンを映し出すことができたのだが、その巨大なスクリーンを6バンド中最も効果的に活用していたのがトゥールだったことも伝えておきたい。


トゥール(Photo by Q.TUCKER for Power Trip)



クロージングアクトはメタリカ。彼らのステージではステージ前のサークル上のピットエリアが特別に登場。聞いた話によれば会場内でスタッフから声がかかったラッキーな人々がそのサークル内へのパスをもらっていたらしい。そしてそのサークルを取り囲むようにピットエリアの真ん中ほどまで迫り出した半円形の花道が作られており、ジェイムズ・ヘットフィールド(Vo, Gt)を筆頭に、カーク・ハメット(Gt)やロバート・トゥルヒーヨ(Ba)がどんどんやってくる。まるで観客よりもメンバーの方が我々ファンに触れたいと思ってくれているかのようだった。「Fade to Black」を演奏する前にジェイムズが語ったメッセージを聞いた瞬間、彼らのアプローチに込められた思いを感じ取った気がした。

「この曲は自殺以上のこと……話すべきことではないようなことについての曲だ。もし君が暗闇を感じているなら友達と話すんだ。メタリカ・ファミリーの君が必要だ」

この日は他にも1986年に交通事故で帰らぬ人となった元ベーシスト、クリフ・バートンに「君がいなくて寂しいよ」と語って空を見上げた後に演奏した「Orion」というエモーショナルな場面もあったが、途中カークとロバートの2人が即興で披露した「Funk in the Desert」、「Nothing Else Matters」のイントロでカークがトチり「砂漠で暑いんだよ」とジョークを飛ばしてやり直すような少しリラックスした場面も。しかし総じてとてもタイトかつパワフルなもので、中でもラーズ・ウルリッヒのドラミングに向かう真摯な姿勢が印象的だった。最後はラーズがこんな言葉でまとめてくれた。

「ヘヴィミュージックは生きてるし、もっと高みに登っていくんだ。Fxxk Yeaaahhhh!!!!!」


メタリカ(Photo by C.WILSON for Power Trip)


メタリカ(Photo by C.WILSON for Power Trip)


メタリカ(Photo by C.WILSON for Power Trip)



初回にしてヘヴィミュージック界のトップ・オブ・トップだけを迎えてしまっただけに、このラインナップを超えるような面々を6組集めて開催を継続することは難しいかもしれないが(※Dessert Tripも開催は1度だけ)、この夢のような3日間のことはこれからも来場者の心に深く刻まれていくことだろう。


メタリカ(Photo by C.WILSON for Power Trip)

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