ジョルジャ・スミス UKソウルの旗手が語る故郷での再出発、成長を遂げた5年間
Rolling Stone Japan / 2023年11月17日 17時0分
UKソウルの未来を担うジョルジャ・スミス(Jorja Smith)が、今年9月に2ndアルバム『falling or flying』を発表した。2018年のデビューアルバム『Lost & Found』によってグラミー賞の新人賞とマーキュリー・プライズにノミネート。最新作は18歳の時に移住したロンドンを離れ、故郷のウォルソールで制作されたという。自らの成長について語ったインタビューをお届けする。聞き手は音楽ジャーナリスト/ライターの原雅明。
—前作『Lost & Found』のリリースから5年ほど経ちました。この5年間はあなたにとってどのような期間だったのでしょうか?
ジョルジャ:前回のアルバムをリリースしてからの5年間は、ツアーもしたし、ショーもたくさんやった。そして、ロックダウンに直面して、その時に故郷に帰ろうって思ったの。そして、帰ってからアルバムを作った。だから、この5年間はあっという間だった。特に新しいことは何も起きなかったから、私自身にとっては変化はあまりなかったと思う。もちろん、コロナで多くの人々が家に引きこもるとか、世の中的にはそういう大きな変化はあったけどね。
—『falling or flying』を制作するモチベーションとなったことを教えてください。
ジョルジャ:アルバムを書き始めたのは2021年だった。DAMEDAME*(バーミンガム出身のプロダクション・デュオ)と一緒に書き始めたの。その時まで、私はDAMEDAME*の音楽だけ知っていて、彼女たちのことを直接は知らなかった。でも、友達と一緒にウォルソールまで車で戻っている時に、彼女たちのスタジオがバーミンガムにあるから、そこに寄って彼女たちに会おうよ、って提案されたの。で、その時にお互いに音源を聴かせ合った。その瞬間にもう「一緒に何か作りたい!」と思った。だから、そこから一緒にスタジオに入ってジャムをして、サウンドを作ったの。作業はすごく楽しかった。そして、その作業を続けたんだけど、出来上がっていくものが本当に良かったから、このままアルバムを作りたいってお願いしたの。彼女たちはなんて言うか、これまでにない新しいエナジーをもたらしてくれたのよね。
—ということは、当初はアルバムをDAMEDAME*と一緒に作る予定ではなかったわけですね。実際、彼女たちとの制作も含めて、『Lost & Found』とはどのような違いがありましたか?
ジョルジャ:『Lost & Found』の時は、私が既に作っていた曲を使ってアルバムを作り始めた。長い間塩漬けにしていた曲もあったし、その中から好きなものを選んで作っていったの。でも、今回は真っ白な状態から作り上げていった。4、5曲は前からあった曲だったけど、まだ書き終えてはいない状態で、メロディしか出来上がってなかった。アルバムのためにゼロから曲を書いて作品を作るっていうのは、初めてのことだったの。
—予め、アルバムのテーマといえるものがあったのでしょうか? それとも、制作をしていくなかで、テーマとなるもの、伝えたいものが見えてきたのでしょうか?
ジョルジャ:テーマはなかった。DAMEDAME*と曲を作っていくうちに、自然に後からまとまっていった感じかな。一曲一曲、どれも全然違うんだけど、それが綺麗に混ざり合っているの。伝えたいと思ってたことも特にないわね。でも、以前より月日が経って、私も成長して大人になったし、女性としての一歩を踏み出したような気がするし、それが音楽に現れているとは思う。私は、あまりテーマやコンセプトについて深く考えるタイプじゃないの。それよりも、流れに任せる感じ。どっちにしても、私のフィーリングは自然と音にそのまま反映されるから。
—『Lost & Found』よりも、さまざまなタイプの曲があり、冒険的な曲も多いと感じました。曲作りにおいて、前作の流れとは違うやり方、考えで臨んだのでしょうか?
ジョルジャ:曲作りの流れは、そんなに大きく変化してはないと思う。でも、さっきも話した通り、私自身が以前より成長しているから、それでサウンドが変化したんじゃないかな。どう変わったか、どんな違うことをしたのかは私自身にもわからない。私には、特定の曲の作り方や曲の選び方がないからなの。でも、今回のアルバムはより実験的で、多様なサウンドになっていることは確かね。だから、前回に比べたら、今回の方がよりアプローチで冒険をしたっていうのはあるかもしれない。あとは、DAMEDAME*と一緒に作業したのも初めてだったから、彼女たちと一緒に作業したことでこれまでにない世界が生まれたっていうのはある。
—DAMEDAME*が制作の大半に協力しているようですが、彼女たちはあなたにとってどのような存在で、このアルバムにどのようなことをもらたしましたか?
ジョルジャ:全く新しいエネルギーを与えてくれたと思う。あと、彼女たちは私に故郷を思い出させてくれるの。彼女たちは、私が育った場所からそう遠くないところで育ったから。彼女たちと仕事していると、私が以前、音楽に対して感じていたことが思い起こされるのよね。DAMEDAME*は、私という自分自身を引き出してくれるの。
Photo by Ivor Alice
—逡巡した思いを綴ったような歌詞の中にも、ポジティヴな言葉があるように感じたのも印象的でした。
ジョルジャ:歌の内容は本当に様々なの。その日によって何について歌うかは変化するから。自分自身のことだったり、友達のことだったり。だから、歌詞のテーマはすごく幅広いと思う。
—『Lost & Found』と比べて、歌詞に関して変化はありましたか?
ジョルジャ:私自身が成長したから、それが一番の変化だと思う。5年って長いから。『Lost & Found』の曲は18歳〜20歳の時に作った曲で、ほぼ10代の時の私について書かれてる。でも今回の私は20代。10代と20代の違いって大きいわよね。
「自分のホーム」で制作する意味
—『falling or flying』を制作するにあたって、何かインスパイアされる、あるいは参照した音楽はありましたか?
ジョルジャ:参照にした音楽は特にないわ。昔はよく他のアーティストのサウンドを聴きながら作業したりもしてたけど、今は私の世界の中だけで作業するから。
—プロダクション面について、どういったことを今回は大切にしていたのか、教えてください。
ジョルジャ:プロダクションに関しては、自分自身が違和感を感じないこと、気持ちの良いサウンドを作ることが大切だった。何かを感じることができるサウンドを作ること。あらゆるフィーリングをね。悲しみでもいいし。とにかく、自分にとってしっくりくるサウンドを作ることが重要だったわね。
Photo by Ivor Alice
—日本人キーボーディストのアマネ・スガナミや、ギタリストのベンジャミン・トッテン、キーボーディストのマルコ・バーナーディスなど、参加したミュージシャンはどのように選んだのでしょうか?
ジョルジャ:アマネは私のバンドにいるから、彼とはずっと前から一緒にプレイしてる。リハーサルからステージでのライヴまで、2016年とかそれくらいずっと前から一緒。ベンも前は私のバンドにいたんだけど、彼は本当に素晴らしいギタリスト。そしてマルコは、P2J(ナイジェリア系イギリス人プロデューサー、ビヨンセ『RENAISSANCE』など)が連れてきたの。彼はすごくクールで、なんでも出来ちゃう人。あと、J・ハスとLila Ikeは、私が彼らの音楽のファンで、一緒に仕事がしたいとずっと前から思っていたからオファーしたの。
—ヴァイオリニストのトム・アルドレンを中心とした若いストリングス・アンサンブルが要所要所で効果的にフィーチャーされていると思いました。このアイデアはどこから来たのか、またストリングスがあなたの音楽にもたらしたことを教えてください。
ジョルジャ:周りがずっとストリングスをフィーチャーしたがっていたの。ストリングスは、新しいエモーションをもたらしてくれたと思う。どの楽器も、それぞれ独自の感情をもたらしてくれるけど、ストリングはなんというか、悲しみとまでは言わないけど、気持ちを高めさせながらも、ちょっと悲観的な感情をもたらしてくれる気がするわ。
—アリシア・キーズとの対談記事を興味深く読みました。そこでも語られていたことですが、『falling or flying』を制作して得られたことについて、改めて訊かせてください。
ジョルジャ:今回のアルバムを制作したことで、のびのびと作業することの大切さを学んだの。私は、これからも間違いなくもっと自発的であり続けると思う。もちろん、プロジェクトを完成させるためには締め切りが必要な時もあるけれど、締め切りがある場合でも、いかに自発的に作業を進められるかがすごく大切だと思った。今回は、流れに任せて、自由に、自分が自然に納得がいくまで曲を作るということがどういうことか、そしてその方法を学んだの。アルバムを作る上で、それは必要なことだと思う。
—今後も故郷であるウォルソールで暮らす予定ですか? その場所が制作にもらたす影響についてもぜひ教えてください。一方で、ロンドンのシーンや、ショービズの世界とはどうのような関係を保っていきたいと考えていますか?
ジョルジャ:もちろん旅はし続けたいけど、私が帰ってくる場所、住みたいと思う場所はずっとこの場所。やっぱり、私にとってのホームはここだし、一番自分らしくいられる場所だから。都会のように騒がしくもなく、圧倒されることもないしね。音楽を作り始めたのもここだし、ここにいると、落ち着いてられるの。それは制作にももちろん影響すると思う。ロンドンは、ショーをやったり撮影をしたり、仕事で時々行くのは好き。でも、長期で滞在するのはあまり好きじゃないのよね。どっぷりではなく、ちょっと距離があるくらいの方がちょうどいい。たまに行くくらいが私には一番合ってるんじゃないかな。
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