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エヴァネッセンスが語る『Fallen』20年目の真実、女性がロックに参加するための闘い

Rolling Stone Japan / 2023年11月17日 17時30分

Photo by Frank Veronsky

今年のサマーソニックで来日し進化し続けるバンドの姿を提示したエヴァネッセンス(Evanescence)が、デビュー・アルバム『Fallen』発売20周年のデラックス盤をリリースした。エイミー・リーのボーカルのみで録られた「Bring Me to Life」のデモバージョンをはじめ、「My Immortal」のストリングスバージョンも収録している。以前より「Bring Me to Life」はレーベルの意向によって男性ボーカルを入れられたことが明らかにされてきたが、当時のシーンにおける女性ミュージシャンの境遇、その中でエイミー・リーが果たしてきた功績は改めて注目されるべきだろう。ニューメタルのリバイバルも起きる中、メンバーチェンジを経ながらもバンドを牽引し続けているエイミー・リーに話を訊いた。



―今回のデラックス版は『Fallen』リリース20周年を記念しているとのことですが、企画の構想はどのように進められたのでしょうか?

エイミー:この節目を記念して、ファンのために何かしたいと思ったの。私たちはこのクレイジーで素晴らしい20年間の道のりを一緒に歩んできた。そして、その始まりの全ては『Fallen』だったから、何もせずにこの年を越すわけにはいかなかった。でも2017年に『SYNTHESIS』のプロジェクトで既にこれまでの曲をオーケストラ、エレクトロニカにアレンジしたから、そういうのは今回はやりたくなくて。そうではなく、今回は世界中の多くの人たちと繋がっているという事実をもっと称賛して、それを保存し、高揚させるようなことをやりたかった。そこで、とにかく本当に素晴らしいリマスターを作るという方向で行くことにしたの。さらに、インターネットでまだ出回っていないようなボーナストラックも追加することにした。「My Immortal」の美しいバージョンも入っているし、すごくクールで、楽しくて、面白い作品が出来上がったと思う。

―リマスターにあたって過去の自分たちの楽曲、埋もれていた音源を改めて聴き直したと思いますが、いかがでしたか?

エイミー:『Fallen』のデモを聴くのは本当に久しぶりだった。多分あのアルバムが発売されて以来だったと思う。「Bring Me Life」は何度もデモを聴いたから全部覚えているけど、他の曲の一部は”そういえばこんな部分あったな”みたいに、作ったことすら覚えてなかったの(笑)。歌詞もそう。”この歌詞、最初はこうだったけどこんな風に変えたんだった”とか、曲について忘れていたことが結構あった。


Photo by Frank Veronsky

―「Bring Me to Life」のデモバージョンも収録されています。この曲は、当時レーベルが無理やり男性ボーカルを加えたんですよね? なぜレーベルは男性のパートを入れたがっていたのでしょうか。

エイミー:ユニークすぎたから。当時は、女性がロックに参加するということがあまり一般的ではなくて、そういうバンドはすごく少なかった。特に、ヘヴィミュージックだったっていうのもあったし、そういった音楽と女性っていうコンビネーションは普通じゃなかったの。それで、メインストリームに食い込むにはどうしたらいいかと考え始めたとき、レーベルはそこを不安に感じたんだろうね。それって多くの人たちが犯してしまう過ちだと思う。人々にとって馴染みのあるものに縛られなくてもいいのに。私自身が好きなアーティストはみんな、他の何かと同じに聴こえないような人たちばかりだった。自分らしいサウンドを持ったアーティストばかり。何か既にあるものに続こうとか、ナンバーワンになった人たちが何をやってるとかに関係なく活動しているバンドが私は好きだから。ポーティスヘッドもそうだし。だから、あの時はレーベルに強く立ち向かった。彼らが私たちに望んでいたのは、男性ボーカリストをバンドに加え、全ての曲にその人を参加させることだった。だから私たちは、そんなことするくらいなら帰る!って言って、目を潤ませながらアーカンソーに戻ったってわけ。あれにはかなり打ちのめされたね。そして数週間後に彼らから電話があって、「もし一曲だけゲストボーカルを入れてくれたらそれでいい」と言われた。映画『デアデビル』に曲を提供するクールなチャンスもあるし、一曲だけゲスト・ボーカルを入れてくれたら妥協するって。それで、私たちのアルバムには他にも沢山のクールな曲があったし、一曲だけならということでゲストボーカルを入れることにした。

―バンド内でも、男性ボーカルを入れることについて意見の対立はあったんですか?

エイミー:私が一番熱心に反対していたのは確か(笑)。でも、ちょっとした話し合いはあったけど、3人が大きく対立するってことはなかった。




―デモバージョンにはギターソロが入っていることにも驚きました。これはどういった経緯でなくなったのでしょうか?

エイミー:ギターソロは、ブリッジがない時にやるものなの(笑)。だから、デモの時点ではまだブリッジがなかったからあのギターソロを入れてたというわけ。で、ラップを入れる話が出てあの隙間が埋まった。「Bring Me To Life」のクールなところは、2つのブリッジがあるところだと思う。男性と女性の行き来から始まって、エヴァネッセンスではお馴染みの大きなブリッジが来る。そこがすごくユニークだと思うし、新しいひねりが加わって、まるで映画を見ているような展開になるところが私は好き。

―当時のニューメタルのトレンドにおいてはギターソロが避けられていたかと思います。あなたは、今このギターソロが入ったバージョンを改めて聴いてみてどのような感想を持ちますか?

エイミー:正直、あのギターソロを弾いたギタリストとはもう19年くらい話をしてないのよね(笑)。だから、彼のギターソロを聴いて良い気持ちがしたわけではなかった。私にとってはそれほどエキサイティングなギターソロではなくて(笑)。

ニューメタル再評価に思うこと

―「My Immortal」はストリングスバージョンが収録されていますね。これは、いつ頃レコーディングされたものなのでしょうか。

エイミー:「My Immortal」のレコーディング過程にはちょっと面白いストーリーがあって。あれはすごく古い曲で、書いた時の私たちはまだティーンエイジャーだった。使われたギアも安物で、深夜にレコーディングした。私の父親が当時レコーディングスタジオで働いていて、彼はラジオDJだったから、誰もいない深夜に彼の職場を1時間だけ使わせてもらえたの。でもピアノも本物じゃなかったし、サウンド的にはあまり良いものではなかった。私は17歳とか18歳だったからボーカルも良く言えば純粋だったけど、質はそこまで高くなかったということ。私のベストじゃなかったことは確か。でもレーベルは、あの曲をすごく気に入ってくれた。あの曲がレコード契約のきっかけになったと言っても良いくらい。それで、アルバムリリースの際に私たちはまたレコーディングしなおしたの。デヴィッド・キャンベル(オーケストラ・アレンジャー)のストリングスを入れて、ちゃんとしたスタジオで、もっと美しいバージョンをレコーディングした。私の声も成長していたし、結果、すごく良いものが出来上がった。で、その最後にバンドが入ってくるのが ”バンドバージョン”で、私が好きなのはこっち。でもレーベルはデモにしがみついて、アルバムに収録するのはデモの方がいいって言い始めた。私は、それは絶対にやめて! この美しいスタジオレコーディングをアルバムから外すわけにはいかない!って言ったの。でも彼らは、”デモにはマジックがあるから”って言ってきて、また私たちはぶつかったというわけ。そして、妥協案として「My Immortal」を2つのバージョンでリリースすることになって、そのデモの方がメインバージョンとしてアルバムに収録された。それに私は、本当に美しいストリングスと本物のピアノ、そしてより良いボーカルだけのバージョンも作りたくて。そして数年前についにそれを制作した、ということ。ぜひみんなとシェアしたくて、今回収録することにしたの。

―『SYNTHESIS』で大きく取り入れた例もある通り、エヴァネッセンスの音楽にストリングスは欠かせない要素ですよね。あなたは普段プライベートでも、ストリングスが使われているクラシカルな音楽がお好きなのでしょうか。

エイミー:私は幼少期からずっとビョークが好きで憧れていたの。デビュー作からずっとファンだけど、2ndアルバム(『Post』)ではストリングスやオーケストラの要素が増え、『Homogenic』は私がそれまでに聴いたアルバムの中で一番のお気に入りのレコードになった。というのも、私はコンテンポラリーな音楽を好きになる前、モーツァルトやベートーヴェン、映画音楽の作曲家たちに影響を受けていたから。私が一番最初に音楽に熱くなったのは、映画『アマデウス』を見た時だった。あれを見て、私も狂気的な音楽の天才になりたい!って思った。あの作品の中のモーツァルトは、すごくドラマチックで熱意に溢れてたから。私はその時12歳で、その後すぐにピアノとクラシック音楽のレッスンを受け始め、それが私の核になった。だからある意味、エヴァネッセンスはそういった音楽が進化した形ということ。そしてその後、私はヘヴィミュージックやオルタナロックにハマり始めたの。メタリカ、サウンドガーデン、スマッシング・パンプキンズといった、そういう90年代の素晴らしい音楽。私たちは、この2つの極端に異なるものの調和を発見していくような感じで音楽を作ってきた。意識したというよりは、自然の流れでそういう音楽を作るようになって、私たちにとってはそれが理にかなっていた。もちろん今は、他にもそういった音楽を作っているバンドが世界中に存在していることは知ってる。でも当時の私たちにとっては、それが完全にオリジナルな音楽に感じられたから。




―それから20年が経ち、今また世の中でニューメタルがリバイバルしている印象です。今年の「Rock Am Ring」では、パパ・ローチのジャコビー・シャディックスと共演する一幕もあり話題になりましたね。

エイミー:あの共演は特別な体験だった。すごく長いフェスティバルで、私たちのパフォーマンスは真夜中の2時だったの。フェスだったからかなり時間が押していて、しかも「Bring Me To Life」は最後に演奏する曲だったからかなり待ち時間が長かったんだけど、ジャコビーは夜遅くまで残ってくれて、エネルギー全開で参加してくれた。

ニューメタルっていう言葉の定義が、私にはよくわからなくて。私たちがその枠の中に収められてしまっているような気がして、その言葉に関しては苦労した。私たちはニューメタルの枠を超えていると思いたい。でも、今の質問であなたが言いたいことはわかる。それは、ノスタルジアの要素と少し関係があるのかもしれないね。今の時代、皆あのアグレッシブで駆り立てられるような音楽を懐かしんでるんだと思う。今って、エンターテインメントの消費がかなり個人的なものになっていて、皆自分が追いかけたいものを手に入れることができるじゃない? 世の中にはパーソナライズされたものが散らばっているでしょ? 皆が同じMTVにチャンネルを合わせて、一緒にバラエティに富んだ音楽を見て楽しむという時代じゃない。ポップが好きな人はポップだけ、ラップが好きな人はラップだけ、ロックが好きな人はロックだけを追い、それだけを見つける。それはそれでいいんだけど、多分今、こっちから追わなくても向こうからロックやメタルが攻めてくるような時代を皆が恋しがってるんじゃないかな? この前も誰かと『TRL』っていうMTVの番組の話をしてたんだけど、バックストリート・ボーイズとKornが同じ番組に出るって今では想像できないでしょ? 信じられないよね? 今、皆があの頃を思い出すような気持ちでいるんだと思う。



―昨年、「Bring Me To Life」がアメリカのiTunesチャートで突如1位に浮上しましたよね。様々な憶測が飛び交いましたが、実際はどういった背景があったのでしょうか?

エイミー:それは私にも全然わからなくて(笑)。私たちがやってきたツアーが理由なんじゃないかって言ってる人がいて、それが本当だったらいいんだけど。ここ数年は、バンド結成直後の時みたいにずっとツアーを続けてきたから。つい2週間前も南米でパフォーマンスしたばかりだし、2年間ずっと世界中をハードに回ってきたの。その最中にそれが起こったから、もしかしたらライブの成果なのかもしれない。

―なぜ「Bring Me To Life」はそこまでの普遍性を獲得できたのでしょうね。

エイミー:その理由は、私だけじゃなく誰にもわからないでしょう。私たちの最初の曲であり、かつリリース当時のインパクトが強かったことは確か。初めて何か美味しいものを食べた時の感動ってあるじゃない?そして、人はまたその初めての味に戻りたくなる。「Bring Me To Life」はそんな感じなのかも。それに、この曲は完璧なフェス向けの曲でもある。みんなこの曲を知っているから。

女性がロックに参加するための闘い

―先ほど、女性がロックに参加することは一般的ではなかったという話がありました。中でも、ヘヴィミュージックのジャンルは特にそうだったかもしれません。今と比べても圧倒的に女性が少なく、当時もフライリーフやパラモアなど数えるくらいしかいませんでしたよね。

エイミー:当時の経験は、私をファイターにしてくれた。自分がファイターだと思ったこともなかったし、そう感じてこの世界に入ったわけでもなかったけど、自分のDNAの中にあるものが引き出されたんだと思う。あと、臨機応変になれた。私は自分自身であることを保ちつつ、自分に与えられた一連の状況のおかげで、必要な人間になることもできたから。それらは、普通に生きているだけでは気づけなかった贈り物だと思っている。

―現代においては、ウィローやアシュニコ、ノヴァ・ツインズ、リナ・サワヤマなど、女性あるいはクィアなミュージシャンがニューメタルを取り入れる例も多いですよね。以前とは大きく価値観が変わった印象がありますが、最近のそういった傾向を見てどのようなことを感じますか?

エイミー:私が大好きなアーティストの名前をわざと挙げたんじゃない⁈ってくらい、私は全員の大ファン! 皆すごく変わっていて、クールで、友達みんなにおすすめしているくらい好き。ヘヴィミュージックを愛する女性たち、そしてその一部となりヘヴィミュージックを取り入れて自分自身のものにしたいと願う女性たちは、いつの時代にも存在する。そして、それを形にしている女性たちの数が多ければ多いほど、より多くの人々に夢を与えると思う。その手柄を立てたのは私だとは言わない。でも、この20年間、あらゆる角度からよりたくさんの多様性を目の当たりにしてきたことで、そういった歩みの一端を担えたことを誇りに思う。


Photo by Frank Veronsky

―エヴァネッセンスの初来日は2003年夏のフジロック、その翌年には大規模なジャパンツアーも実現しました。当時のことは何か覚えていますか?

エイミー:日本にはこれまで6回くらい行ったかな。初めてツアーで行ったのは21歳の時で、カメラを買ったのを覚えてる。当時はiPhoneなんてなかったから、撮影のために大きなビデオカメラを買った。時差ぼけと戦いながら、ホテルの部屋から窓の外にいる人たちを撮影したりした。冬だったから、雪の中を歩いている人たちをただただ見ていたの。あと、私は80年代の子だから、大好きなアニメやキャラクターは全部日本のものだったし、宮崎駿の大ファンでもある。キディランドにももちろん行ったし、友達や兄弟のために何百個もお土産を買って送った。それは今でもやってるけどね(笑)。日本に行くと、グッズとか服とか持って帰りたいものがたくさんあるから、いつも空のスーツケースを余分に持っていくようにしてる。

―もちろん、エヴァネッセンスは懐かしまれるだけの存在ではなく、今もトップランナーであり続けていますよね。バンドはこの先、どこへ向かおうとしているのでしょうか?

エイミー:どのアルバムでも、どんな音楽を作る時も、私は常に自分自身にオープンマインドでいることを許容してる。それが『Fallen』を生み出し、私たちのキャリアを築き上げてきた。既に存在しているものを再現しようとすることには興味がないし、好奇心旺盛で、興奮させられ、実験的で、無邪気で、どうしても作ってみたいという気持ちから生まれているのが私たちの音楽。私たちは多くの変化を経験してきた。トロイ(・マクローホーン)と私は17年間一緒にやってきたし、今はエマ(・アンザイ)が一緒にいる。彼女とは10年以上の付き合いだけど、本当に素晴らしいミュージシャンで、ついに私たちの仲間になってくれた。今の私たちは、お互いのことをよく理解していて、その相乗効果という美しい方法で音楽を作ることができる状態にある。だから、ツアーもちょうど終わったところだし、音楽制作というこれからのクリエイティブな段階がすごく楽しみ。小さなアイディアがあって、それを形にするのが本当に待ちきれない!





エヴァネッセンス
『Fallen (20th Anniversary Deluxe Edition) 』
発売中
再生・購入:https://found.ee/594We

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