モトリー・クルー/デフ・レパードが示した「未来」の可能性 増田勇一が考察
Rolling Stone Japan / 2023年11月20日 18時15分
11月3日と4日の両日、Kアリーナ横浜にてモトリー・クルーとデフ・レパードによるジョイント公演「モトリー・クルー/デフ・レパード ”The World Tour” 」が行なわれた。どちらも1980年から1981年にかけて1stアルバムを発表し、80年代のうちにビッグ・ネームの仲間入りを果たし、それぞれに40年を超える波乱万丈に富んだ歴史を経てきた。当然ながらお互い年齢的にも近く、同じ時代を過ごしてきたバンド同士ということになる。モトリー・クルーの場合は活動終結とその撤回というプロセスを経てはいるが、ともに今なおシーンの第一線に君臨し続けていることは間違いない。
【写真まとめ】「モトリー・クルー/デフ・レパード ”The World Tour” 」
両者の共闘体制によるツアーは、そこにポイズン、ジョーン・ジェット&ザ・ブラックハーツを加えた顔ぶれによる『THE STADIUM TOUR』として2022年の夏に北米で実施されているが(そもそもは2020年に実施予定だったが、パンデミックの影響によりまずは翌年に、そして結果的にはさらにもう1年延期となった)、2023年に入ってからもこの2組にスペシャル・ゲストを加えた形での『THE WORLD TOUR』が南米や北米、欧州で継続されてきた。今回はその流れを汲みながらの公演が、ここ日本でもついに実現に至ったというわけだ。会場は、音楽鑑賞に特化された大型会場として注目を集めている、開業間もないKアリーナ横浜である。
筆者は二夜のうち、11月4日の公演を目撃した。両バンドの出演順は夜ごとに入れ替わり、この日の先攻となったのはモトリー・クルーだった。モーツァルトの”レクイエム”と報道番組を模したオープニング映像をイントロダクションに据えながら、定刻通りにスタートした彼らのステージは「Wild Side」で幕を開け、「Kickstart My Heart」で締め括られるという文字通りの鉄板メニューによるもの。一方のデフ・レパードも、最新オリジナル作にあたる『Diamond Star Halos』の1曲目に収められていた「Take What You Want」をオープニングに据えてはいたものの、ヒット曲の数々惜しみなく披露し、最後の最後は「Photograph」でクライマックスを迎えた。
双方ともこれまでの海外公演と大差ないセットリストであり、そこに意外性や、日本公演ならではの特別な趣向といったものは特に見当たらなかった。ただ、そうした事実について「変化に乏しい定番のショウ」といった否定的な見方をする向きもあるかもしれないが、こうした公演においては意外性よりも、鉄則通りのショウが高いクオリティで提供されることは何よりも重要だろう。本サイトに先頃掲載したデフ・レパードのインタビュー記事の中で、フィル・コリンは「日本ではまだ今回のツアーでの曲たちをプレイしていないわけだから、今、演奏内容を変えてしまったら日本に対してアンフェアになってしまう」と語っているが、この発言には頷くしかない。
グレイテスト・ヒッツ的な演奏メニューにとどまらないショウ
ただ、そんな中でもデフ・レパードが最新作から計3曲を披露していたこと、モトリー・クルーがビートルズからビースティ・ボーイズに至るまでのカバーで構成されたロックンロール・メドレーを盛り込みながら、いわゆるグレイテスト・ヒッツ的な演奏メニューにとどまらないショウを展開していたことは、付け加えておきたい。もちろんモトリー・クルーの側も、新作発表を経ていたならばそこからの楽曲を演奏していたことだろう。彼らの場合は、オリジナル・ギタリストであるミック・マーズを欠き、二代目ギタリストとしてジョン5を迎えた現体制での日本初上陸となったわけだが、ロブ・ゾンビやマリリン・マンソンなどとの活動歴で知られる彼のプレイは、あくまで各々の原曲のイメージを重視しながらも硬質なスピード感を伴ったもので、楽曲中での過度な自己主張はなく(その代わりギター・ソロの場面では三味線の演奏まで盛り込んでいたが)、ミックの演奏に思い入れの強いファンにも好感を持てるものだったに違いない。この先のモトリー・クルーの動向については不透明な部分も多いが、今回のステージを目撃したオーディエンスの中には、彼を擁する体制での新曲を早く聴いてみたいと感じた人たちも少なくなかったはずだ。そう言い切れるのは、筆者自身もそのひとりだからである。
モトリー・クルー(Photo by Tatsuki Ogawa)
モトリー・クルー(Photo by Tatsuki Ogawa)
モトリー・クルー(Photo by Tatsuki Ogawa)
モトリー・クルー(Photo by Tatsuki Ogawa)
考えてみれば、モトリー・クルーは2015年末の時点でひとたび自らの歴史にピリオドを打っているわけで、その時点で彼らの”未来”は閉ざされていた。結果、彼らはその後、綺麗ごとを言ってドラマティックな復活劇を仕立て上げるのではなく、自らの宣言を破棄して何食わぬ顔で活動を続けてきたわけだが、そうした不敵さこそ彼らが「The Worlds Most Notorious Rock Band(世界で最も悪名高いロック・バンド)」と称されている所以だろうし(彼らのオフィシャルサイトにはその呼称が記されている)、ある種の大人げなさがその魅力の一部であることは否定しようもない。そして今現在の彼らには、未来がある。オープニング時、LEDスクリーン上にまばゆく映し出されていたのは「The Future Is Ours(未来は俺たちのもの)」という言葉だった。しかもニッキー・シックスのステージ上での発言の中には「これからの10年」という言葉がさりげなく盛り込まれていた。ミック・マーズの不在によりバンド内最年長となった彼は1958年生まれだが、10年後には現在のKISSやエアロスミスくらいの年齢になっている。そして今回のモトリー・クルーのステージを観たならば、彼らに”次のディケイド”があるのは当然のことだと思えてくる。
モトリー・クルー(Photo by Tatsuki Ogawa)
デフ・レパード、コーラスワークの妙をあらためて体感
もちろんそれは、この夜を締め括ったデフ・レパードについても同じことだ。ドラマーのリック・アレンが交通事故により左腕を失うという惨事、創成期からのギタリストであるスティーヴ・クラークの他界といった危機を経てもバンドが存続していること自体が奇跡的だともいえるが、これまでの活動歴のみならず自分たちの音楽背景すべてを改めて消化しながら、成熟した視点で独自の音楽を紡ぎあげている近年のクリエイティヴィティの素晴らしさには、目を見張るものがある。それは昨年発表の『Diamond Star Halos』、今年発表されたオーケストラとの共演作『Drastic Symphonies』にも顕著だが、このバンドならではの味わいを楽しめるのみならず、デフ・レパードというVRゴーグルを装着してロック史を探訪するかのような興味深い興奮が伴っているのだ。そして今回目撃したステージについても、そうした近作に通ずる奥深い魅力があった。
それに加えて、デフ・レパードについてはやはりコーラスワークが素晴らしい。ただ単に重層的なハーモニーが完璧に再現されるというのではなく、曲やパートによってそこに絡んでくるメンバーの顔ぶれや人数も異なり、各曲に異なった色彩をもたらしていくのだ。誤解を恐れずに言えば、ジョー・エリオットは個人としての存在感や技量でオーディエンスを圧倒するような歌い手ではないし、器用に何でも歌いこなすというタイプでもない。ただ、そこに各メンバーの歌声が絡むことによって、このバンドならではの奥行きのあるブレンドが生まれるのだ。そうした歌声の重なり合いに人間同士の繋がりの強さを感じさせられる部分があるのも確かだし、だからこそ声が引き起こすちょっとしたマジックに涙腺を刺激されることもある。
デフ・レパード(Photo by Ryan Sebastyan)
デフ・レパード(Photo by Ryan Sebastyan)
デフ・レパード(Photo by Ryan Sebastyan)
デフ・レパード(Photo by Ryan Sebastyan)
デフ・レパード(Photo by Ryan Sebastyan)
捕捉めいた書き方になるが、それぞれが自分たちなりに充実した状態にある2組のライブ・パフォーマンスを味わううえで、Kアリーナ横浜という鑑賞環境も最適だったように思われる。音響の良好さもさることながら、視覚的な意味においても、巨大建造物のようなステージセットではなくLEDスクリーンを駆使した演出が主流になっている昨今のコンサート事情に適合しているように感じられたし、スタンド席からもステージが観やすいのも魅力的だ。そして、そんな環境で、それぞれ90分間に凝縮された満足度の高いライヴを披露してくれた2組の怪物バンドに対して、素直に感謝の気持ちを抱き、いわゆるクラシック・ロックにも未来はあるはずだと思えた一夜だった。
デフ・レパード(Photo by Ryan Sebastyan)
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