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ビッグ・シーフのバック・ミークが語るギタリスト論、コミューナルな音楽のあり方

Rolling Stone Japan / 2023年11月24日 17時45分

Photo by Shervin Lainez

昨年待望の初来日を果たしたビッグ・シーフ(Big Thief)に続き、ギタリストのバック・ミーク(Buck Meek)のソロ公演が12月14日に東京・渋谷WWW、15日に大阪・東心斎橋CONPASSで行われる。

実はビッグ・シーフよりもソロとしての実績の方がわずかに長く、ミークが本人名義の作品を自主制作で初めて発表したのは2013年のこと。以来、ビッグ・シーフの活動と並行してソロ作品の制作を継続してきたミークは、その過程で様々なミュージシャンの手も借りながら自身の作家性を確かなものへと築き上げてきた。今年の夏に4ADからリリースされた3枚目のアルバム『Haunted Mountain』は、フォーク・シンガーのジョリー・ホーランドとの共作も含む充実したソングライティングと、作品を重ねるごとに輪郭を増すヴォーカルが「ソロ・アーティスト」としてのミークの魅力を力強く伝える一枚。そして、ミークが最も信頼を置くギタリストのアダム・ブリスビンら手練のプレイヤーとライブ演奏で録音されたダイナミックなバンド・サウンドは、そのまま今度のステージでも大きな見どころとなるにちがいない。

そんなミークに、彼のキャリアをあらためて振り返る意味も込めて話を聞いてみた。ソロとビッグ・シーフの関係、ギタリストとしてのバックグラウンド、そしてカントリー・ミュージックの歴史と文化の継承について。なかでも、音楽をコミューナル(共同体的)なものとして捉えるミークの考えは、彼がライブやバンドという形式/形態に価値を置く理由と深く関係しているように思えて興味深い。



—もうすぐあなたのライブを日本で観られること、とても楽しみにしています。昨年にはビッグ・シーフの初来日公演が行われましたが、作品が伝えるフォーキーでアコースティックな印象とは異なり、ロックンロールを感じさせる荒々しさがあり、時にメタル・ミュージックも思わせるアグレッシブで音が分厚いバンド演奏に驚かされました。あなたの最初のソロ・アルバム(『Buck Meek』)がリリースされて5年が経ちますが、この間を通じて「ライブ・ミュージックとしてのバック・ミークのサウンド」はどのような変化を遂げてきたと言えますか。

バック・ミーク(以下、BM):僕が今まで作ってきた全てのレコード、演奏してきた全てのライブは、自分を解放して、直感を信じるための訓練だったと思っているんだ。自分を制御している殻を脱ぎ捨てて、自分がなりたいと思う理想像からも離れて、自分を振り返ったり、自分のレコードを聴き返すことで、真の自分を見つけて行く過程だと思っているんだよ。音楽を作れば作るほど、僕は自由になり、自分の直感を信じられるようになっている。だからこれまで遂げてきた変化というのは、ビッグ・シーフでも、僕自身のプロジェクトでも、自分たちが、ありのままの自分であることに対して、心地良さを感じられるようになっていることだと思う。

—新作の『Haunted Mountain』も、レコーディングではヘッドフォンもつけずにライブで演奏が行われたと聞きました。もちろん、ショーでのライブ演奏とスタジオでのそれは全く異なるものだと思いますが、ただ同時に、そこにはあなたのライブ・ミュージックへのこだわりのようなものが感じられます。ライブで演奏すること、自分以外のミュージシャンと空間や時間を共有することで一緒に音を作り上げていくことについてあなたがどんな哲学をお持ちで、どんな価値をそこに見出されているのか、ぜひ伺いたいです。

BM:僕が音楽を愛する理由の1つとして、音楽の本質とは、自分たちが、どのように自分たちの置かれた環境を処理しているかの表れだということがある。つまり、外的環境を、自分の脳や身体というフィルターに取り入れて、それを自分の楽器や声に反映させているということ。その行為を、他の人たちと共有したり、その行為に反応したりできるから、僕は音楽が大好きなんだ。その同時性……何が言いたいかというと、音楽で最も大切なことは「聴く」ということなんだ。「歌う」ことや「演奏する」ことよりも「聴く」方が大切なんだよ。自分がどのようにアウトプットするかよりも、どのように聴いているのかが大事なんだ。どのように聴いているのかによって、その人の演奏が決まってくる。だから、「演奏する」ために演奏していると、フィードバックのような現象が起こってしまうことがある。でも「聴く」ために演奏していると、音楽の本質というものが現れてくる。だから、1つの空間で他のミュージシャンと一緒に演奏しているときは、常にお互いの演奏を0.1秒単位で聴いているということなんだ。人間の脳はものすごい速さで反応する。反応速度が速いんだ。無意識に、そして神経系を通じて。意識的に何かを決断するよりもずっと速いスピードで、お互いに反応することができるんだ。僕はそういう反応を聴くのが大好きなんだよ。楽しいし、断然効率的だからね。

—ミュージシャン同士の間で起こる相互作用が大事、と。

BM:うん。それから、何の隔離もされていない部屋で、みんなと一緒に演奏するのが好きなのにはもう1つ理由があって、今回のアルバムでは、部屋に16個のマイクが設置されていた。そして(演奏された音の)信号は全て、同時に16個のマイクに録音されていった。空間が隔離されていないからね。その時に起きる、トラックに漏れ出たブリード(bleed)を受け入れて、最大活用できるエンジニアやミュージシャンと音楽を作りたい。なぜなら、個人的な経験上、その方が、リスナーにとってより現実的な環境を作り上げることができると思うから。その空間で実際に何が起こっているのかを聴き取ることができると思う。現実の世界だって、そういう状況だから。僕たちは、今いる空間の全ての音が、全ての表面から跳ね返ってきているのを聴いている。全てが同時に起こっている。上音(overtones)もリバーブもディレイも同時に聴こえているという状態。それらの要素が、僕たちの脳にとっての空間という環境、つまり現実の世界を作っている。そういうものを自分のレコーディングから聴き取れるようにしたいと思っているんだ。




上から1st『Buck Meek』(2018年)、2nd『Two Saviors』(2021年)、3rd『Haunted Mountain』(2023年)

—ビッグ・シーフの作品はもちろん、あなたのソロ作品もまた、あなた一人ではなくバンド・メンバーと共に制作されたコミューナルな音楽であります。そうした異なる二つのコミュニティに属していることは、音楽家としてのあなたの人生やクリエイティビティをどう育み、またどう豊かにしてきたと言えますか。

BM:いい質問だね。友人たちの視点を信頼できるようになったと思うし、謙虚になって、他人の目から物事を見て、他人の耳から音を聴くということができるようになったと思う。自分が全てをコントロールするという意識を捨てて、コミュニティ単位で学んでいく。そうする方が得られるものは大きい。相手を考慮することができるようになると、より共感能力の高い演奏者や作曲家になれると思うんだ。また、自信というのも育まれてくる。僕の経験上、健全なコラボレーションには、相手の考え方を聞くことや、それを素直に受け入れる姿勢、そして、相手の考え方に対して謙虚になることのバランスが重要なんだけれど、同時に、自分も自信を持って前面に出る必要がある。コラボレーションで片方が何も提供しなかったから、それは成立しない。自信を持って自分が持っているものを提供することと、相手の言い分を聞いて、色々と変えていく姿勢との繊細なバランスの上にコラボレーションが成り立っている。健全なコミュニケーションを通じて、その作業ができる相手となら一緒に音楽を作れるということなんだ。

—例えば、ビッグ・シーフでの活動がバック・ミークというソロ・アーティストに与えた最も大きな影響はなんだと思いますか。そこにはフィードバックし合う関係もあれば、逆に違いを意識する部分もあると思いますが。

BM:最も大きな影響は、素直になるということを学んだことだね。ビッグ・シーフでの活動でこれは色々な場面で、何度も証明されてきたことなんだけれど、正直であること、つまり作曲において、演奏において、自分のミスや人間らしさを隠して完璧な人工物を作り上げるのではなく、リアルな自分、ありのままの自分でいるということは、弱い一面を見せることになるかもしれないけれど、その方が堅実味があるんだ。人々はそういう堅実味を必要としているんだと思う。だからみんなビッグ・シーフに惹かれるんだと思う。僕もそれを学んだ――自分を信じて、自分に正直でいることをね。

ギタリストとしてのバックグラウンド

—バック・ミークという「ギタリスト」についての話も聞かせてください。ギタリストとして、ソロ名義のレコーディングやライブに際してプレイや音作りの部分で意識しているのはどんなことですか。ギタリストとしての自身のスタイルをどう築き上げてきたのか、興味があります。

BM:ビッグ・シーフで活動してきて学んだことは、「曲を敬う」ということなんだ。曲に対する尊敬の念。僕が思うに、最も大切なのは曲であって、それ以外のものは、曲のために尽くすべきだと思っている。少なくとも歌詞がある音楽に関しては。ビッグ・シーフにおいては、エイドリアン(・レンカー)のメロディや歌詞、彼女の曲の意味を考慮して、彼女をサポートし、持ち上げるようにしている。実際には何をしているかというと、僕がギターの伴奏をしてメロディを二重にしたり、ギターを使って彼女のメロディにリズムやハーモニーを加えて深みを出したり、彼女のギター演奏がとても複雑で濃いものだった場合には、バランスを取って、僕はアンビエントなギター演奏をしたりする。逆に彼女のギター演奏がアンビエントな時は、それとは対照的な要素を提供するために、シンコペーションのあるギター演奏をすることもある。曲の邪魔をするのではなく、曲が生き生きとするような環境を作り上げていくのが僕の役割だと思っている。エイドリアンの作る曲はものすごくパワフルだから、僕は毎回謙虚な気持ちになる。曲本来のパワーに自然と圧倒されてしまうんだよ。

—なるほど。

BM:その一方で、自分のソロ・プロジェクトでは、リズム・ギターを演奏するのが実はすごく楽しいんだ。そして自分は”物語を語る”ことに集中するようにしている。それはビッグ・シーフの役割とは全く違う。ソロ・プロジェクトでの僕の主な役割は物語を語ることであって、歌や物語を通して観客を導くことだと思っている。だからアコースティック・ギターか、エレクトリック・ギターのリズム・ギターしか演奏していない。僕が世界で最も好きなギター演奏者の1人、アダム・ブリスビンは、ソロ開始当初から僕のバンドで演奏してきてくれた。彼に全てを任せるのが好きなんだ。彼は曲を「敬う」ことができると信頼しているし、すごく実験的で刺激的なギターパートを書いてくれると信じているから。




—その築き上げてきたギタリストとしてのスタイル、プレイや音作りに関して、『Haunted Mountain』において最も手応えや達成感を得ている曲を挙げるなら?

BM:今回のアルバムのプロデュースを担当して、ペダルスティールも演奏し、僕の1stアルバムではベースを演奏したマット・デビッドソンが、今回のアルバムでは僕がソロパートを演奏するように勧めてくれたんだ。今まではアダム・ブリスビンがソロを担当していたんだけど、今回は僕がソロを演奏するべきだとマットが強く望んだ。だから「Where Youre Coming From」の中盤では僕のギターソロが入っている。これは自分のソロ・プロジェクトにおける新たな瞬間だったね。自分を全面に出して、ギターソロを演奏するということ。自分が裸になったような、脆弱になったような気がした。それに今まではリズム・ギターの役割を楽しんでいたのに、ギターソロとなると、どこか身勝手な気がして抵抗があったんだけど、実際にやってみたら自信が湧いてきて、それ以来、ライブでもギターソロを演奏するようにしているんだ。

それから「Haunted Mountain」という曲ではアダムと僕がギターソロを一緒に演奏している箇所がある。今、考えてみると、それが最も達成感を得た曲だと思うね。僕とアダムがギターソロを同時に演奏していて、先ほど話したように、お互いの演奏を聴いて、それに反応しているのが聴き取れる。同じ空間で全てを録音していたから、アコースティック・ギターの方がずっと音が小さくて、アダムのエレクトリック・ギターの方がずっと大きな音だから、耳を澄まさないとアコースティック・ギターの音は聴こえないんだけど、僕とアダムが、リアルタイムでアイデアをやり取りしているのが聴き取れると思う。先ほども話したけれど、アダムは、僕が最も好きなギタリストの一人だから、彼とそういう機会が持てたのはすごく楽しかった。




—ちなみに、ミークさんが初めてギターを手にしたのは5歳の頃で、曲を書き始めたのは高校生になってからと聞きました。ミークさんが影響を受けたギタリスト、理想とするギタリストを教えてください。

BM:最初に影響を受けたギタリストで理想としていたのは母親だよ。初めてギターのコードを教えてくれたのが母親だった。母は長い間、児童心理学者をやっていたんだけど、プライベートではとても美しい曲を作っていた。それを僕や、僕の兄弟、父親に歌って聴かせてくれた。外部の人の前で演奏することはなかったけれど、今までに聴いた中でも非常に美しい曲を作っていた。彼女が最初に影響を受けた人だね。それから子供向けのミュージシャンだったラフィも大好きで(笑)、5歳の時は彼みたいになりたかった。彼はアコースティック・ギターを弾いて、「Brush Your Teeth」とか「Baby Beluga」など、とても素敵な子供向けの曲を歌っていたんだ。音楽を通じてコミュニケーションを取るということを彼から初めて学んだよ。高校時代は、スティーヴィー・レイ・ヴォーンに影響を受けていた時期もあって、その後は、ジャンゴ・ラインハルトに影響を受けた。僕にとって最も大きな影響を与えたのはフランスのギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトだった。彼に夢中になり、彼の曲を何年もかけて全部覚えて、練習した。ジャンゴ風のギターも持って、ジャンゴみたいな細い口髭を生やして、ジャンゴみたいなスーツを着ていたよ(笑)。




—先ほどの話にもありましたが、ミークさんのギター・プレイには、例えばリズムを補完するリズム楽器的な側面だったり、テクスチャーを構成するアンビエント的な音色だったり、自由で幅広いアプローチが感じられます。そうした背景には、いわゆるギター・ミュージックとは異なるエレクトロニック・ミュージックだったり、あるいはワールド・ミュージックと呼ばれるような音楽からの影響も窺えるのですが、いかがでしょうか?

BM:その通りだよ! 僕が受けてきた影響は大まかに2通りあって、子供の頃は、年上のメンターがいた。ジャンゴ・ポーターとスリム・リッチーという地元のギタリストで、僕よりも年上だった。僕は何年もの間、彼らの弟子で、彼らがギターソロを演奏する傍ら、僕はずっとリズム・ギターを演奏していた。僕の役目は、リズムを保つことで彼らをサポートすることだった。それを10,000時間くらいやっていたんだよ。寿司職人が、実際に寿司を握るまでに、酢飯を作るのを何時間もやらされるみたいに。

—へえ。

BM:僕は5年間くらい、1日中リズム・ギターを演奏していた。その経験から、相手をサポートする重要性を学んだし、リズムの基礎も学ぶことができた。それ以降は、ビッグ・シーフについて話したように、曲には神聖さがあるような感じがして、僕がギターでできることはアンビエントな空間や、抽象的な環境を作って、曲が生きるようにすることだと考えている。特にエイドリアンのギターパートは元々複雑なものが多いからね。また、僕は、ビッグ・シーフのドラマー、ジェームズ・クリヴチェニアからも大きな影響を受けている。彼はエレクトロニック音楽やアンビエント音楽に対する造詣が深くて、自分でもエレクトロニック音楽を制作している。ビッグ・シーフのレコーディングにジェームズは、「マジック・ボックス」と自身が呼んでいるものを毎回持ってくる。さまざまなペダルが設置されたペダルボードなんだ。ジェームズは、ミキシング・コンソールから、何らかのトラック(それはボーカルのトラックやスネアドラムのトラックの時もある)を取り上げて、その信号を再処理して、それをミックスに加えたりする。だからアルバムで聴こえるアンビエント音は、ジェームズがスタジオで加工した音で、僕はその音をライブで再現したりする。今では、その影響が、スタジオでの自分のギター演奏にも表れていると思う。僕はアンビエント音楽が大好きで、よく聴いているんだ。グルーパーやジュリアナ・バーウィック、カマル、ウィリアム・バシンスキー、もちろんブライアン・イーノも。それ以外にもたくさん。

カントリー・ミュージックの歴史と文化の継承

—過去のインタビュー記事では、グレイトフル・デッドやジュディ・シルのハーモニーの魅力について、コードを分析しながら詳しく解説されていたのが印象的でした。自身の曲作りにおいても、そうしてロジカルなアプローチが取られている部分が大きいのでしょうか。

BM:僕はバークリー音楽大学に行っていたから、音楽理論は学校で学んだよ。音楽教育については自分の中でも賛否両論あって、音楽教育は非常に役立つものだと思っている反面、少し疑問視している自分もいる。音楽理論も、感情を表現するためや、意思疎通を促進するためや、クリエイティブなアイデアを目的として使うのであればとても役に立つ。でも、そういう使い方と、音楽理論に依存することの間には微妙な境界線があって、正直な気持ちを表現する代わりに、自分の不足を埋めるために音楽理論を用いたり、既存の音楽理論を用いて自分たちの音楽という言語を定義してしまったりすることも多々ある。だから僕は今までずっと悩んできた。音楽理論については多くのことを学んできたからね。

—はい。

BM:だから、毎回、ある理論に立ち返って、自分との関係性を再定義する必要があった。学校では複雑なジャズ・ハーモニーなどを学んだけれど、何年も作曲を続けていくたびに、音楽理論に立ち返って、改めて自分がどのように解釈すればいいのかを考えた。学校では最初に全ての曲のコード置換を学んだ。「Giant Steps」(ジョン・コルトレーン)のコード置換から、メロディックマイナーのコード7の演奏など数々のことを学んだ。でもそういうことに圧倒されてしまって、大学卒業後は、3つだけのコードしか使わない曲に回帰したんだ。カントリー・ソングだよ。家に帰って、G、C、Dしか使わない曲ばかりを1日中、書き続けた。自分を浄化させる必要があったんだと思う。でも、徐々に自分の作曲や演奏に、ハーモニーや音楽理論を取り入れていった。ただそれを注意深く、意図的に使っていった。「メジャーセブンスの11thコードは、どんなフィーリングを喚起するんだろう?」と自分に問いかける。このコードを演奏すると、少し切ない感じがして、緊張感も多少あり、ノスタルジックな感じもあり、不協和音らしさもある。だから、ノスタルジックな歌詞を際立たせるためにこのコードを使ってみようと思う。ディミニッシュコードは完全な不協和音にしか聴こえなくて、怖い感じがする。それなら、何か怖いことについての歌詞にこのコードを合わせてみようと思う。こうやって、1つ1つのコードに立ち返って、自分の脳をプログラミングし直すにはかなりの時間と労力を要したよ。



—今も話の中で出ましたが、ミークさんの音楽的なルーツに関して、出身地であるテキサスと縁の深いカントリー・ミュージックから受けた影響について教えてください。ミークさんがカントリー・ミュージックの歴史や文化からどのようなものを受け取り、それを自身の音楽にどう還元し、今のスタイルへと昇華してきたのか、興味があります。

BM:僕は子供の頃、ブルースとジャズを弾いて育ったんだけど、ボブ・ウィルスなどのウェスタン・スウィングという30年代・40年代の古いカントリーも弾いていた。60年代のカントリーも少しは弾いていたね。僕が育ったテキサスの小さな町では、毎年7月にロデオが開催されて、カウボーイたちが暴れ牛や暴れ馬に乗ったりしていた。そしてロデオ終了後は、壮大なダンスパーティが開催された。カウボーイやカウガールや子供たちが、カントリー・ミュージックの生演奏に合わせて2ステップダンスを踊るんだよ。あらゆる世代の人たちが一緒に踊る。ブルースやジャズを演奏していた時と同様に、僕が育ったテキサスで、それらの音楽はダンスのための音楽だったんだ。パートナーと踊って一緒に動いたり、恋に落ちたり、パートナーを変えて踊ったり……そして、そこにはダンスと切り離せない要素として音楽が常にあった。僕が音楽を愛している理由の1つだよ。音楽は「動き」のためにある。また、ソングライターとしてカントリー音楽に魅力を感じるのは、自分の弱みをさらけ出せる勇気が感じられることや、複雑な感情を表現できること。例えば、男性のカントリー・シンガーは、自分の感情を露わにしている。心を曝け出して、泣いてしまったことや、自分がいかに傷ついたことなどを歌っている。微妙な感情の変化などについても歌っている。そういうことができる強さに共感するね。それに、やっぱりカントリー音楽は僕にとって「故郷 (home)」という感じがするんだ。



—カントリー・ミュージック、そしてもちろんブルースやフォーク・ミュージックもそうですが、そうした音楽はさまざまな人々の間で歌われ、アレンジを変えて演奏されたり、歌詞を変えたり新たに加えたりされながら受け継がれてきた歴史や文化を持ちます。そうした音楽が持つ「コミュニティ」としての側面は、あなたのソロ作品やビッグ・シーフに伺えるコミューナルなあり方と通じる部分が大いにあると感じるのですが、いかがでしょうか。

BM:僕にとっての音楽は、コミュニティが全てだと思う。幼少時代から、今までずっとそうだったし、これから先もずっとそうだと思う。先ほども話したように、僕は子供の頃から、ダンスやコミュニティのための音楽を演奏して育ったし、16歳の頃からはテキサスのKerrville Folk Festivalに行くようになった。世界中からソングライターが集まるフェスティバルで、大きな牧場で開催される。キャンプ場があって3週間、みんなでキャンプファイアーを囲んで、自作の曲を歌うんだ。参加者の多くはパフォーマーやプロのミュージシャンではなくて、大工や医者や、おばあちゃんやおじいちゃんだったりする。とにかくみんな、自分の曲をみんなに聴いてもらうために参加している。僕は毎年それに参加しているんだけど、そういうことがソングライティングの本質だと思っているんだ。自分の経験を他の人たちと共有して、歌を通して自分の経験を神話のように昇華させる。


Kerrville Folk Festivalのドキュメンタリー映像(2019年)

—ええ。

BM:でもニューヨーク・シティに移住して、ビッグ・シーフやソロ・プロジェクトを始めた時、僕たちは、バンドやソングライターという数々の星からなる巨大な星座のうちの星1つに過ぎなかった。僕たちは2012年から2018年にブルックリンに住んでいたミュージシャンたちで、毎晩のようにライブをやっていた。その同じ夜には、きっと他にも50組くらいのバンドがブルックリンでやっていて、みんな友達同士でお互いのバンドを知っていた。ドラマーのジェームズなんかは5組くらいのバンドに所属していたし、僕も当時は5組か6組くらいのバンドに所属していたし、マックス(ベースのマックス・オレアルチック)はニューヨーク・シティ中のジャズバンドで演奏していた。まさに音楽家たちからなる星座だったんだよ。僕たちがいつも通っているライブハウスがあって、そこでお互いのバンドをサポートしたり、新しい音源について話し合ったりした。お互いを助け合うという気持ちがとても強いコミュニティだったね。そこから、アメリカの他の地域に活動を拡大していった。自分たちの知り合いをツテに、ツアーを自分たちで企画して行ったんだ。シカゴにいる友人に電話して、僕たちと一緒にライブをしてくれるようなバンドは知り合いにいないかと尋ねたり、ハウスパーティーやバックヤードパーティ、バースデーパーティなどでも演奏した。コミュニティを通じて、できる限りたくさんのライブをやるようにした。僕が今までに得た音楽関連の機会というのは、ほとんどが友人から来たものだった。仕事関係の人からではなく、毎回、友情関係から始まったんだよ。

—ちなみに、カントリー・ミュージックについて言うと一方で、現在、オリヴァー・アンソニーやモーガン・ウォーレンのようなカントリー・シンガー、カントリー・ポップが全米でヒットしている状況があります。彼らの音楽は聴いたことはありますか

BM:彼らの音楽は聴いたことがないね。でもアメリカには現在、素晴らしいカントリー・シンガーたちがたくさんいるよね。チェックしてみるよ!

—カントリー・ミュージックは、保守的でキリスト教的な価値観を肯定する、白人による男性主義的な音楽だという見方が古くからされて来た一方、近年は女性や有色人種のカントリー・シンガーも珍しくありません。さまざまなジャンルとクロスオーバーしたサウンド(リル・ナズ・X、RMR)も多く聴かれます。そうした広がりを見せるカントリー・ミュージックの現在、受容の変化をミークさんがどう見ているのか、興味があります。

BM:とても素敵なことだと思うよ。僕がカントリー・ミュージックを好きな理由は、遊び心があって、ダンスが付随しているからなんだ。それに、ソングライティングも、心が温かくなるような、心を開くような、告白的要素があるから、誰にでも受け入れられるものだと思うし、聴き手を限定していない。そこが良い点だと思う。それからカントリー・ミュージックは、問題児的要素もあって、カントリー・ミュージックの歴史には、いつの世代でも、反逆者たち(rebels)が関連しているものがある。以前それは、あまり表向きには出ていなかったけれども、最近ではそういう感じも知られるようになってきているから、今後のカントリー・ミュージックでも、もっとそういう例を挙げてくれたらすごく面白くなると思う。トラブルメイカーたちの歌だよ(笑)。

—ありがとうございます。では最後に、今回の日本のライブで楽しみにしていることを教えてください。ステージの上でも、あるいはステージの外でも。

BM:日本は世界の中でも大好きな国なんだ。日本の観客はライブをすごく尊重してくれて、じっと耳を傾けてくれるから、日本で演奏することができて光栄だよ。日本では数回しかライブをやったことがないけれど、観客の注意力や集中力、優しさにはすごく感動する。本当に僕たちの音楽を聴いてくれているのだと実感できる。だから日本のみんなの前で演奏するのが楽しみだよ。それから日本の食事もすごく楽しみ! 僕の1番好きな料理は和食なんだ! 和食とテキサスBBQ が一番好き。前回、日本に行った時はツアー終了後に1週間、東京、京都、大阪の都市部に滞在していたんだ。今回は四国に1週間行って、山の方に行く予定なんだ。日本の山地を訪れるのがすごく楽しみだよ。四国にある「かかしの里」に行って、時間があれば海岸も訪れたい。山の文化を見に行くのもすごく楽しみ。僕も山に住んでいるからね。あとは森の中の温泉なんかに行けたらいいな!


バック・ミーク来日公演では、今年3月にデビュー作『Midnight Game』を発表した妻のジャーメイン・デューンズ(Germaine Dunes)がオープニングアクトを担当



BUCK MEEK Japan Tour 2023
2023年12月14日(木)東京・渋谷WWW
2023年12月15日(金)大阪・東心斎橋CONPASS
ゲスト:Germaine Dunes
OPEN 18:00 START 19:00
料金:前売り¥5,500(ドリンク代別)
詳細:https://smash-jpn.com/live/?id=3990


バック・ミーク
『Haunted Mountain』
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13441

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