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Ken Yokoyama、大いに語る 「普遍的なこと」を歌うようになった理由

Rolling Stone Japan / 2023年12月1日 22時0分

左からKen Yokoyama、Minami(Photo by Yukitaka Amemiya)

2023年、Ken Yokoyamaはキャリア初となる連続シングルリリースに取り組んだ。5月に『Better Left Unsaid』、9月に『My One Wish』を発表し、11月29日にシリーズのラストを飾る『These Magic Words』をリリースした。

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表題曲「These Magic Words」は<”オーイェー 大丈夫さ そのうち オッケーになる”>(日本語訳)と歌う、Ken Yokoyamaらしからぬまっすぐにポジティブな楽曲。今回はこの名曲について聞き進めるつもりだったのだが、バンドの「共通言語」や日常におけるインプットについてなど、これまであまり彼らの口から語られることのなかった話題に触れることになり、図らずもベテランバンドKen Yokoyamaの現在地が明らかになるインタビューとなった。



―ついにKen Yokoyamaのシングルシリーズが今回の3枚目をもって最後を迎えます。横山さんがこの企画を発案したときに思い描いていた景色と比べてみてどうですか?

KEN  当時想像していたものと案外近いんじゃないかな。でも、その通りになったこともあれば、ならなかったこともあったし、思わぬ副産物もあったかな。結果、今までのミュージシャン人生で一番じゃないかってぐらい忙しい。でも、充実してるし楽しくやれてるよ。

―思うようにいかなかったことと、思わぬ副産物というのはなんですか。

KEN 思うようにならなかったっていうのは……まあ、これはもっとあとになってから結果が出るのかもしれないけど、もうちょっと世の中での自分の存在感が大きくなっててほしかった。でもまあ、こっちはもうベテランで長くやっちゃってるし、シングルの1枚や2枚で劇的にボカンと広まるわけないよね。なんにしてもそこは俺が希望してたほどにはなってないかな。

―では、思わぬ副産物というのは?

KEN 1年かけて3つの作品をリリースしていくことでライブでの曲のバリエーションにいい影響があった。アルバムみたいに一気に数曲足されるんじゃなくて、少しずつ足していけたのね。そのおかげで、ライブをやってる側としては年間通じて飽きないというか。これはアーティストにもよるけど、俺らの場合、アルバムを出したときってごっそりライブでやる曲が入れ替わったりするの。だけど、ごっそり曲を入れ替えるということは、これは当たり前のことだけど、新しい曲の練習をしなきゃいけないのよ。あと、新しい曲の代わりにこれまでやってた古い曲をちょっと失っちゃったりもするのね。だけど今回はそういうこともなく、2曲だったら2曲をそっと忍ばせたり忍ばせなかったりすればいいわけ。そうやって無理をしなくても刺激的な形で曲を増やしていけたことがライブの面白さにつながって、自分でも「あ、なるほどね」って。


セトリの変化

―Minamiさんもライブでセットリストが徐々に変わることから刺激は受けていますか。

Minami(Gt) そうだね。やっぱり、そういう曲がない場合は久しぶりにやる曲に頼るしかなくなったりするじゃない? 「あ、この曲、久しぶりに聴いた!」みたいな。でも、そういう曲って今のメンバーで録音したものじゃないことが多いし、このメンツでつくってレコーディングした曲を足せれば過去のものに助けを求める必要はないし、少しずつでも前に進んでる感じもするのよ。

―お客さんからすると同じKen Yokoyamaの曲だけど、バンドからすると今のメンバーでつくった曲をやりたいという気持ちになるものなんですね。

KEN それは俺も含めてそうだね。このバンドはいくつかのフェーズに分かれてて、EKKUNが入って初めて出したのが『Bored? Yeah, Me Too』(2020年)でしょ? それ以降の曲は自分らにとって「このメンバーでつくった曲」。もうひとつのフェーズは、Junちゃん(Jun-Gray)とMinamiちゃんが2009年に入って以降の曲。 2010年に『Four』を出したから、それ以降の曲をチョイスしたいってことはすごく意識してるかな。で、残りのフェーズは『Four』より前。だいたいその3つに分かれてる。





―Minamiさんの場合はどうですか。

Minami 俺もそういう感覚はもちろんある。『Four』以降・以前みたいな感じ。もっと言うと、俺の中ではさらに『The Cost of My Freedom』とサージ(前ベーシスト)が加わってからの作品(『Nothin' But Sausage』と『Third Time's A Charm』)の2つに分かれるんだよ。







―へぇ~!

KEN  あ、さっきは細かすぎると思って言わなかったけど、俺の中でもそこは分かれる。
Minami サージが作曲に参加するようになってからの曲ってかなりサージ色が濃いというか、日本人の感覚にはあまりない要素があって。それをやるのが嫌なわけじゃないけどなんか違うことをやってる感覚がある。どの曲も好きだし、やってて楽しいんだけどね。

―違和感、とまではいかないぐらいの何かが。

Minami そうそうそう。

KEN もっと厳密に言うと、1st(『The Cost of My Freedom』)、2nd(『Nothin' But Sausage』)、3rd(『Third Time's A Charm』)は全部色が違うの。1stはほぼ俺1人でつくったもので、2ndは曲は俺が作ったけど、歌詞はサージとほぼ一緒に書いた。レコーディングなんか俺とGUNNちゃんだけでやったしね。

―そうでしたね。

KEN 3rdになると特に歌詞の面、あとは作曲の面でも少し2ndよりもサージの色が濃くなる。そんな感じでこの3枚でもまた全然違うんだよな。だからお客さんには関係ないこととはいえ、考える。

―じゃあ、たとえば「I Love」をやるときはどうなんですか。この曲は今もライブでよく演奏してるし、さすがにこれだけやってると今の4人の音として捉えられるんですかね。

Minami それはある。

KEN でも、まず今の4人のバージョンをつくるために練習するんだよ。そういう曲をスタジオで練習すると面白くてさ、「でも、レコーディングされたもの(原曲)を聴いてみると……」って会話になるわけ。そこで「レコーディングされたものなんて今の俺たちに関係なくね?」ってなったり。そういう話は未だに飛び交ってる。





「老い」について感じること

―それにしても、Ken Yokoyamaとしての活動をはじめた当初、まさか20年も続くなんて想像もしませんでしたね。

KEN ね。まあ、このバンドは始まりが始まりだったからね。これまでも散々話してきたことだけど、1stの『The Cost of My Freedom』っていうのは俺の極めてパーソナルな作品だったはずなんだよ。ライブをするかどうかすらもわからない中でつくったんだけど、せっかくアルバムという形をつくったならツアーの1本ぐらいしたいなと思って作ったのがKEN BANDで……そのときはKEN BANDなんて名前は付いてないんだけど。そこからまた色々考えがあって、2ndアルバムはバンドのメンバーとつくりたいと思って、 Ken Yokoyamaって名前ではあるけれども、「バンドとして活動していこう」っていう意識が芽生えはじめたんだよね。

―その頃から「オジー・オズボーンみたいなもんだ」って言ってましたよね。

KEN  そう。ただ、そこは未だに皆さんがぱっと理解するには難しいところなんだけどね(笑)。あのタイミングで<なんとかズ>みたいな名前付けときゃよかったな。

―俺も時々、横山さんがアーティスト名をどうしようか悩んでいたときのことを思い出しますよ。

KEN あのときにいいアイデアが出てればな。

―でも、当時は先が何も見えない状態だったし、横山健という名前から離れることはできなかったんじゃないかと思うんですよね。

KEN まあ、確かに。

―でも、そんなところから20年も活動が続いて、そのなかで歌う内容も変わってきて、特に今回のシングルシリーズが始まってからの歌詞が俺はすごく好きなんですよ。これまではいろんな表現でコーティングしている感じでしたけど、ここでは教訓めいたことをストレートに伝えるようになりましたよね。

KEN その要因はいくつか考えられるけど……今回のシングル3枚は今年の2月に レコーディングしたんだけど、歌詞を書いたのは去年の11月ぐらいから今年1月ぐらいまでの間で、 その時期がちょうどこういうモードだったと言える。

―なるほど。

KEN コロナをきっかけに生活様式が変わって、世の中にものすごい閉塞感が漂ったじゃない? そこから抜け切ろうとしてた頃、俺の気分的には意外と内に引きこもってたのかなっていう解釈をしてたりする。だって、そういう内容しか頭に浮かんでこなかったからさ。だから、「今回は敢えてこういうことを書こう」って狙いは特になかったのね。なんなら「何について書きゃいいんだよ!」って悩んでたぐらいでさ。スタジオでメンバーに「これまで百何曲も書いてきてこれ以上言いたいことなんかねえよ!」とかぼやいたりね(笑)。

―あはは!

KEN でも不思議なのは、コロナ禍につくった『4Wheels 9Lives』にはコロナ禍の影響があまり出てないんだよね。



―そうなんですよ。

KEN あともうひとつ考えられるのは、俺、離婚して再婚して、2021年に自分にとって3人目の子供が生まれたのね。

―はい。

KEN で、この歌詞を書いてた頃はまだ2歳にもなってない赤ちゃんだったわけ。そういうちっちゃい赤ちゃんとその母親と俺の3人で生活してるなかで見えてきたのが案外こういうことだったりしたのかな。

―見方によってはちょっと遺言めいてますよね。

KEN うん、そう。3つ目の要因っていうのがまさにそれで、自分の加齢なんだよね。世の中的にも、これまで死ぬなんて思ってもなかった人がぽこっと死んじゃったりして、自分も50を過ぎて普通に病気をする歳になってきてさ、生きたくても生きられない人も普通に出てくる年齢じゃない?

―そうですね。

Kne で、鏡を見ると毎日老けていく自分がいるわけ。毎日「老けた老けた」言ってさ。あとは体が動かなくなったり、気力が追いつかなくなったり、「年食ったな」っていうのは常に感じるの。もちろん、ベテランとしての経験とかスキルでしのげる場面もいっぱいあるけれども、生命体としてちょっと古くなってきてる寂しさを感じざるを得ないというかさ。「あれ? 俺、この前まですっげえ夜中まで遊び回って元気なはずじゃなかった?」って。

―うんうん。

KEN ちょっと話は長くなっちゃったけど、とにかくそうやって自分が老いてきたな、いくつまでできるかなっていうことを日に日に現実的に考えるようになって、そういうことも歌詞の温度につながってるかもしれない。


Photo by Yukitaka Amemiya



パンクの新しい形を提示できてる

―Minamiさんは横山さんから最初に歌詞を受け取る人ですけど、そういう変化みたいなものは感じていたんですか。

Minami 前から徐々にシフトしていくのは感じてたから、今回のシングルで改めて感じることはなかったかな。

―いつ頃から感じてたんですか?

Minami 『4Wheels 9Lives』ぐらいかなあ。たとえば、「While Im Still Around」みたいな曲を書くようになってから、「まあ、そうだよなあ」って。こういう言い方しちゃうとアレかもしれないけど、 さっき話したみたいに「何を書けばいいかわかんない」って悩んだ結果としてそっちに行ったとするなら、「いいとこ見つけたね」っていうか(笑)。「おお、いいねえ!」って。



KEN へぇ~。

Minami まだ上の世代のバンドはいるけど、俺たちってこの界隈ではベテランの域に入っちゃってるじゃない? でも、こういう歌詞ってKENさんにしか書けないし、お客さんも一緒に歳を取ってきてるから、きっと共感してもらえるところがあるはずだと思う。

KEN もしかしたら、ライブの風景が俺にそういう歌詞を書かせてくれてるところもあるかもしれない。だってさ、ハイスタとかKEMURIとかに熱狂してた10代が今やもう40代なわけで(笑)。でも彼らは未だにライブに来てくれるし、なんなら子供も連れてきてくれるわけ……まあ、20代女性がスコーンと抜けてるんだけどね(笑)。求む、20代女性! とにかく、そういったライブでの風景がこういう方向に向かわせてくれてるっていうのはある。

―じゃあ、仮にKEN BANDのライブの最前列にいるのが20代女性だとしたら、生まれてくる歌詞の内容も変わってた可能性があると。

KEN そうだね、「Cute Girls」みたいな曲を延々書いてるだろうね。<お前の胸の谷間が>つって。

―あはは! でも、興味深い話ですね。Minamiさんが言ってたように、KEN BANDよりも上の世代のバンドはいっぱいいるけど、第一線に立って積極的に新曲をつくってフル回転で活動しているパンクバンドっていないじゃないですか。そういうバンドがこういう歌詞を書くっていうのは我々リスナーにとって未知の領域というか、初めて味わう感覚なんですよね。

KEN そう、誤解や批判を恐れずに言うと、パンクの新しい形を提示できてるなっていう気はする。やっぱね、50にもなって「アナーキー!」って言ってるのはただの借り物でしかないと思うのね。俺にとってのパンクロックって自分の経験とか感じていることをストレートに出すものだし、歳を重ねた分だけパンクロックの新しい可能性を見せられてんのかなって気はする。俺、間違っても「パンクだったらこういうこと歌わなきゃ」と思って歌詞は書かないから。

―横山さんはそうですよね。

KEN 真似したくないのよ。もちろん、憧れから入ってるから最初は真似から入るけれども、いつまでもそれしかできないようじゃ、それってコスプレに近いんじゃないかなっていう気がしちゃう。

―ファンの中には、歳を重ねたことで「もうパンクなんていいや」って離れた人はたくさんいると思うんですけど、歳を取った今だからこそ響くパンクもあるよって言いたいです。

KEN パンクロックっていうとやっぱり、暴力性とか衝動ってイメージがすごく強いし元々そういうものだったから、「この年になってパンクもねえよな」って中身を見ずに思われちゃってると思うの。それはしょうがない。ただ、今の俺たちを見てもらって、パンクっていうのは若さとか衝動だけじゃなくて、意外と深いものなんだって捉えてもらえたら嬉しいな。

―うん、それはそう思います。さらに、「These Magic Words」は歌詞だけじゃなくて曲もいいんですよね。これ、敢えてシングルシリーズの最後にもってきました?

KEN はい!(笑)今回のシングルは来年出るアルバムからの先行シングルっていう意味合いが強くて、そのためにとっときました。

―やっぱり。すごくいい曲です。

KEN すごくいい曲だよね(笑)。

―ここまでくると不思議なんですよ。それこそ歳を重ねると新しい音楽を掘る気力ってなくなっていくし、でも新しいインプットがないと過去の手法に頼った曲作りになってしまいがちだと思うんですけど、今回もいつもの横山節はありつつ、過去の焼き直し感がないのがすごいと思っていて。

KEN インプットはすごいしてるのよ。聴いてるのは昔の音楽だけど、たとえ1000回聴いた音楽だとしても、1001回目に新しい発見があるかもしれないっていう気持ちなんだよね。これ、仰天エピソードなんだけど、俺、家でiTunesを24時間ずっと鳴らしてんのよ。

―えー!

KEN もちろん、ミュートすることはあるよ? でもずっと起動させてんの。で、パッと音を出したときにこれまで何度も聴いてきた曲が違った聞こえ方をするかもしれない、とかね。そういう衝撃を求めて、車に乗ってるときも家にいるときもほぼ音楽は切らさないね。家とは違う環境、違うタイミングで聴いたら何か得られるかもしれない、とかさ。それはもう、随分長いことやってるな。

―もう何年も。

KEN うん、何年も。新しい音楽から刺激を受けるってことはそうないんだけど、映画を観たりとか、とにかくインプットはしてるつもり。やっぱり、インプットなくしてアウトプットって絶対ないから。


KEN BANDにとっての共通言語

―インプットというと、新しいもの、未知のものから刺激を受けるイメージですけど必ずしもそうじゃない。

KEN そうじゃないの。同じ映画でも何回か観て初めて意味がわかることってあるでしょ? 古いものを繰り返し聴いたり観たりすることも俺は大事なインプットだと思ってる。新しいものでも自分の感覚に合うならすっと入ってくるけど、さっきダイシが言ってたように最近はなかなかないんだよね。新しいものを聴くのが億劫にもなってるし。最近どんなCD買ったかって、ローリング・ストーンズとブライアン・セッツァーの新作だもん。やっぱり変わっちゃいないのよ(笑)。だけど、生物が物を食べて生きていくのに近いよね。音だったり楽器だったり映像だったりを日常的に食べて、それを曲に落とし込んでんの。

―同じ白米でも違う炊き方をしたら味が変わった、みたいな。

KEN そうそうそう。そのことに1001日目に気づくかもしれない(笑)。

―Minamiさんはどうですか?

KEN (ニヤニヤしながら)Minamiちゃんはそこまでストイックじゃないよ! あはははは!

―あはは!

Minami うん(笑)。むしろ、昔より聴かなくなっちゃったかもしれない。

―やっぱりそうですよね。でも、こういう横山さんみたいな感覚の人と一緒にやるにはできるだけ追いつかなきゃっていう気持ちはないですか。

Minami 追いつこうとは思わないかな。だってできないもん。もうちょっと薄く広く人生を考えてるっていうか(笑)。もちろん、音楽をずっとやっていくために必要な音楽を聴くときはあるけど。憧れはあるよ? 「すげえな」って。でも、「多分自分にはできないな」って思う。

KEN なんで俺がそういうことをやるかっていうと、新曲が生まれたりバンドが動く瞬間に何事にも変えがたい喜びとか楽しさがあるからで。そのためには思いつく限りのことをやる。それに、このバンドでそういうことをやんのは俺しかいないし、根がそういう人間なんだよね。

Minami そうそうそう。

KEN だから、メンバー4人が同じ方向を向いてなくてもよくて。共通言語をもってればね。

Minami そういう音楽の聴き方ができるのも才能だったりするじゃない? 俺なんかが年がら年中音楽をかけてても、さっきのコスプレの話じゃないけど、すごく表面的なところしか入ってこないし、大体の人はそうだと思う。だから逆に、あまり周りのものに刺激されたくないから音楽を聴かないってこともある。


Minami(Photo by Yukitaka Amemiya)

―必ずしも4人が同じ方向を向いてる必要はないとは思うんですけど、横山さんが言うように共通言語は大事だと思います。KEN BANDにとっての共通言語というものを言葉で説明するとどうなりますか。

KEN バンドの中でしか通じない会話とかフィーリングっていうのはいっぱいある。特にMinamiちゃんとJunちゃんとはもう15年一緒にやってるわけでしょ?

―そうですね。

KEN バンドって極端に言うと人生を分け合う行為で、その人の生活のことまで考える必要が俺には出てきてて。たとえば、Minamiちゃんの生活ペースだとここまで求めるのは酷だよな、とかさ。それはJunちゃんもしかり。ほかにも、俺はこういう性根だから一晩でやっちゃいたくなるけど、人が考えたものにみんなが対応するには数日かかるよな、とか。EKKUNなんてまだ一緒にバンドをやりはじめて5年目で世代も俺たちとは違うし10年分の差って意外と大きいから、時間をかけて共通言語を一緒に持とうとしてるところ。

―人生をシェアするような感覚か。

KEN うん、そうよ。歳取ったバンドって特にそうだと思う。そうしないとバンドじゃなくてもいいじゃんってことになっちゃうのね。曲をつくる人間がいて、バンドを動かす人間がいて、その人たちだけで回せばよくない?って。バンドって独特な魅力があってさ、複数人が関わる社会の集合体の中でもすごく稀有な形だと思うのね。どんなにバンドが廃れても、バンドでしか見せられない、バンドに所属している者にしか得られない魅力ってものがあってさ。だから俺はバンドにこだわるし、バンドでいたいのよ。で、それを長く続けたいならお互いの生活とか性格をよく把握する必要がある。そうやって進めていくうちに自然と共通言語ってものが出てくるはずなんだよ。

―共通言語があるから続けられるんじゃなくて、お互いの人生をシェアする中で出てくるものが共通言語。

KEN うん、だと俺は思う。共通言語っていうのは色々あって、たとえば、拍の取り方も人によって違うわけ。それを統一することでバンドにとっての共通言語がひとつ生まれるのね。

―ああ、たしかに。

KEN そういった音楽的な共通言語から生活をシェアするための共通言語まで、バンドって奥が深いもんなんだよ。でも、バンドにはそれが必ず必要って言いたいわけじゃなくて、自分が関わっているのがたまたまバンドで、それに対して真剣になるうちに自然と共通言語がどうだとか、そういった部分と向き合わざるを得なくなったわけ。さっき、バンドは稀有な形とは言ったけど、まあ、集団ってそういうものよね。

―面白いですね。

KEN うん、面白いんだよね。カッコつけて言うと、バンドって哲学でさ。

―若いバンドならもっとシンプルなのかもしれないですけど、2人ぐらいの年齢の人たちがバンドを成立させるとなるとなかなか深いものがあるんですね。考えたこともなかった。

KEN そもそもバンドなんて社会からはみ出した人間がやることだからさ、こういうことは言語化しないのよ。Junちゃんなんかその最たるもんで(笑)。でも、Junちゃんがすごく話せる人だとしたら同じことを言うと思う。

―話は全然違う方向に転がりましたけど……。

KEN でも、面白いな、この話は。


普遍的な「大きなもの」

―いろんな気づきがあります。で、話を新曲に戻すと、「These Magic Words」は歌詞がとてもよくて。今回のシングルシリーズでは<Bitter Truth>(苦い真実)を我々にボコボコ突きつけてるわけじゃないですか。そんななかで、この曲では<”オーイェー 大丈夫さ そのうち オッケーになる”>(日本語訳)と歌われています。正直、こういう<Everythings gonna be alright>的な曲っていくらでもあると思うんです。でも、この曲はそれらとは違うし、シングルシリーズの最後にこの曲が放り込まれることでより味わい深くなってると感じるんですよね。

KEN 俺だって自分が<オーイェー 大丈夫さ>なんて書くとは思わなかったもん。でも、これはてらいなく書いたなあ。まずね、曲ができたときに「いい曲ができたな」っていうのをすごく感じたの。俺たちは曲先行で歌詞は後から書くんだけど、この曲には普遍的な<大きなもの>を乗っけたいなと感じたのね。で、出てきた歌詞がこれなんだけど、これは子育てからヒントを得てるんだよね。

―へぇ!

KEN 自分の2歳にもならない子供と母親の触れ合いを見てたらさ、母親が子供に向かって「大丈夫大丈夫」って言うのよ。大人になったらそんなこと言われた記憶は残ってないかもしれないけれど、親から言われたそういう言葉って人格形成上、絶対大事だよなって。そこですごく美しいものを見た気になってさ、いつしか俺も子供に対してそう言うようになったの、「大丈夫大丈夫」って。でさ、それを言ってんのは自分なんだけど、子供に言わせてもらってんだよね。そのことに気づいたときに「豊かになったな」と思った。それで歌詞に落とし込んだんだよ。

―まさかそんな経緯があったとは。

KEN で、ここで言っておきたいんだけども、話はまたちょっと逸れちゃうんだけどさ…………俺、別にここで家族愛を売りにはしてないからね?

―あはははは!

KEN 俺、前の奥さんと離婚することが世間の人たちに知られたときにSNSですごく言われたの。まあ、SNSだから無責任なもんなんだろうけどさ、どうやら俺はたくさんの人を裏切ったっぽいのよ。

―ああ、そういうツイートはよく見かけましたね。

KEN 「KENって家族愛を売りにしてなかったっけ?」みたいな。いや、俺にとっては日常のことすべてが当たり前だったから、当たり前のこととして発信してたんだけど、それを「売り」として受け取られてたみたいでさ。まあ、それは俺が悪いんだろうけど。そのことが頭にあったから、今回こういう歌詞を書くにあたっても実は迷いがあって。こういうことを書いていいものかどうか、みたいなね。でもさ、「こうするとこう思われるからやめとこう」とか、そんなことはしたくないよなと思って。だけど、今回はこの注釈をつけさせてもらいたいなと思って話した。

―話を聞いて腑に落ちる部分はたくさんありますけど、この曲には家族愛も含めたもっと大きな意味があるように感じましたよ。

KEN そっか。でもさ、このインタビューはどこから着想を得て歌詞を書いたかっていうことを話すチャンスなわけじゃない? そうすると自分の子供の話をせざるを得ないのよ。嘘ついたっていいんだけど、それをちゃんと話さないとつじつまが合わないかなと思って。となると、さっき言ったみたいなイメージを持たれてることとも対峙せざるを得なくてさ。ま、そんなこと言っても無駄なんだけれどね。一度気に入らないと思われたらそれまでだし。

―まあ、伝わらないですよね。

KEN 家族愛を売りにしてる自覚があったら、「やば、バレた」って思うけどさ(笑)、そんなつもりは全然なくて。それで今、ちょっと話をさせてもらいました。


Ken Yokoyama(Photo by Yukitaka Amemiya)

―うん、それはわかりますよ。Minamiさんはこの歌詞についてどう感じているんですか?

Minami あんまり偉そうなことは言えないけど、共感するところはあるよね。俺にも家族がいるし。

KEN この曲の歌詞を書くときの原風景として、Minamiちゃんの娘の顔も浮かんだんだよね。うちの子だけじゃなくて、身近な人の子供たちの顔は出てきたな。

Minami 「大丈夫」って俺も思ってるけど、普段はあんまり言わないのね。最終的に言ってあげたいっていうか。今はいろんなところで揉まれて、いろんな屈辱を味わったり壁にぶち当たればいいと思ってて。それで最終的に「大丈夫」って言ってあげたいし、その見本にもなりたい。だから「お前に大丈夫なんて言われたくねえよ」みたいな存在にならないようにはしたいよね(笑)。

―さっきも言いましたけど、この歌詞が生まれる経緯を知らなくても、新社会人とか環境が変わる人なんかにもシンプルに響くと思います。

KEN そう、作品になったものを聴いて俺自身も励まされるのよ、50のおじさんが(笑)。インタビューだから曲の成り立ちについて話したけれども、どの世代にも通じる普遍的なことだよね。

―そうなんですよ。それに、いつもひねくれたことを言ってる横山さんが歌うことで余計に響くものがあったりして。「あの横山さんがストレートにこんなことを言ってくれるなんて」みたいな。それもけっこう大きくて。

KEN ああ、そう(笑)。

Minami それはわかる。

―いつも厳しい先輩が褒めてくれたら余計に嬉しい、みたいなのと似た感覚というか。横山さんが「大丈夫」って言うなら大丈夫なのかな、みたいな。横山さんは適当な慰めの言葉をかける人じゃないと思ってるから。

KEN まあね。俺が絶対言わなさそうなことだもんね。でも、そうか……(苦笑)。

―似たようなことを感じ取るファンはきっといると思いますよ。そうやって曲と歌詞が合わさることで本当にいい曲に仕上がったと思いました。

KEN あざます。

―そして、ここからフルアルバムにつながるわけですね。今の時点でアルバムの内容について予告できることはありますか。

KEN 今回とは真逆のふざけた内容の曲もあるし、盛りだくさんですよ。すげえいいアルバムができたと思う。

―俺もすでに聴かせてもらいましたけど、過去のどのアルバムとも違いますね。

KEN うん。シングルシリーズに入れた8曲は過去挑戦してこなかったようなものだから変化球に感じるとは思うんだけれども、アルバムはもうちょっとシュッとしてるし、アルバム然としてるかな。

―では、期待して待て、と。月並みな締めにはなってしまいますが。

KEN いや、その前の話が濃厚だったし、作品についてばかりじゃなくて今回みたいに哲学について語ることがあってもいいんじゃないかな。

―たしかに、これもシングルシリーズで何度もメディアに登場してるからできた話かもしれないですね。

KEN たしかにそう。シングルシリーズをやってよかったのは、人の手を借りて世の中に出る回数を増やせたことで。いま言ってくれたみたいに、単純にインタビューが載る機会が増えましたっていうんじゃなく、これまでは2年に1回しか取材しなかった人と1年に3回も話せるわけじゃん? そうすると話す内容も変わってくるよね。作品の話をするのってあくまでも作品の宣伝に過ぎないわけだし、音楽っていうことを超えて、社会のことについて話したり、偶然記事に出会った人でも興味が持てるような話題に触れることって大事だと思うんだよね。それもシングルシリーズの思わぬ副産物だったかな。



<INFORMATION>


『These Magic Words』
Ken Yokoyama
PIZZA OF DEATH RECORDS
発売中

These Magic Words Tour
12月9日(土)滋賀U-STONE
12月10日(日)岐阜CLUB ROOTS
12月12日(火)浜松窓枠
12日13日(水)静岡ARK
12月22日(金)横浜BAY HALL
https://www.pizzaofdeath.com/

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