HANCEが語る大人の意地 40代からの音楽活動と海外における反響の理由
Rolling Stone Japan / 2023年12月13日 12時0分
東京を拠点に活動するシンガーソングライター・HANCEが2ndアルバム『BLACK WINE』を2023年12月13日リリースする。
自身で会社経営をしながら、二足の草鞋で音楽活動を行っているというHANCEがデビューしたのは、40代を過ぎてから。あまり前例のない、まさに遅咲きのアーティストだが、デビュー曲「夜と嘘」のスペインのバレンシアで撮影されたMVは3カ月でYouTubeで100万再生を記録(2023年12月現在150万再生)。1stアルバム『between the night』はiTunes Store J-Popトップアルバムでフランスのチャート1位を獲得する等、海外で大きな反響を得ている。今作『BLACK WINE』でも、スイスで撮影された「螺旋」、ドイツ、ベルリンで撮影された「眠りの花」といった収録曲のMVが海外を中心に高評価を得ている。40代から始めたアーティスト活動がなぜ海外で成功しているのか、本人に話を訊いた。
―1stアルバムのリリースから今作に至るまで、コンスタントにデジタルシングルのリリースとMVの公開を継続されていますね。デビュー以降の海外での反響はいかがですか?
デビュー曲「夜と嘘」のMVをスペインのバレンシアで撮影して、それをもとに、国内のみならずいろんな国にプロモーションをかけて、その結果日本以上に海外の方からの反応が大きかったんです。それが最近までも続いてるような状況はありますね。どちらかというと、自分が20代30代のときに海外で得た経験を自分なりに解釈して日本の方に聴いてもらうイメージで作り始めたのが最初なんですけど、蓋を開けてみると、日本語であるにもかかわらず、海外の方が反応してくださったっていうのは、僕としては嬉しい誤算だったというのが正直なところですね。
―2ndアルバム『BLACK WINE』は楽曲ごとにアレンジ、メロディ、歌詞に至るまでかなり細かいところまでこだわって作られていると思います。会社経営との二足の草鞋を続けながらクオリティの高い作品づくりができた理由を教えてください。
僕にとってアーティスト活動を行っていく上で一番大事なのは、それができる環境にあるかどうかなんです。20代から自分で会社を作ってやってきて、今アーティスト活動と両方並行してやることは僕にとっては割と普通のことなので、何か特別なことをしてるという感じではないんですよね。むしろ、今の日本の音楽業界全体として考えたときに、ちょっといびつだなっていうのは正直思ってはいるんですよ。例えば大抵のアーティストさんは10代後半から20代前半ぐらいでデビューすると思うんですけれども、まだ自分に将来にどんな可能性があるか定まってないときに、それ1本でやっていくのか、どうするのかっていう選択を迫られるわけじゃないですか? そこでデビューして10年20年、音楽の道でずっとやっていける方ももちろんいらっしゃると思うんですけど、一方でデビューしたとしても途中で契約を切られてしまったときに、人生のセーフティネットが用意されてないような感覚もあったんです。なので、僕自身は誰かの判断によって音楽活動ができなくなるような不確定要素が大きい中でやっていくよりは、ある程度生活の基盤がしっかりしていたり、やりたいことが明確になったときに世に出ていくスタイルがあっても全然いいと思っているんです。
―確かに、HANCEさんのように年齢を重ねて成熟してから世に出るアーティストがいてもいいですよね。一方で、若い頃にしかできないこともあるとは思います。
もちろん、若いときでなければできないような音楽もあると思うんですけど、自分ぐらいの年になってから感じられるもの、表現できるものっていうのは確実にあると思っているんです。ただ実際やってみたら周りに誰もいないなっていう、ちょっと孤軍奮闘してる感はありますね(笑)。
―そんな中で活動していける原動力ってなんですか?
ちょっと大人の意地みたいなものもあって、自分の年齢だと、若い子に比べるとハンデだなって思うこともいっぱいあるんですよ。それはもうやっぱりこの半年間3年間やってみて、本当に難しさを感じて痛感してるところもあるんですけれど、所謂インディペンデントでやるってなったときに、絶対に若い子よりは自分の方が優位だと思ったんです。それは、周りを見渡すと、みんな大体10年ぐらい経験を持っているわけですよね。ある意味その道のプロの方たちに声をかけていって、すごく生意気な言い方をしますと、「大人が本気を出して遊んだときにどうなるか」っていうのをやってみたいと思ったんですよ。その発想は多分、若い子だとやっぱなかなかできないんじゃないかなって。僕みたいな活動をする人がこれから出てきたらいいなって個人的にはすごく思いますね。
―映画がお好きで、ご自身の音楽をジャンルで「シネマティックミュージック」と位置付けているそうですね。それも海外でMVを撮る理由の1つなんですか。
じつは、僕自身の活動の一番上の目的にあるのは、「映像作品を作ること」なんですよ。一般的には、音楽活動の目的ってライブをやることだったり、映像を撮るにしても曲を聴いてもらうプロモーションの手段として撮ると思うんですけど、僕の場合は目的自体が映像作品を作ることなので、映像と音楽が一つになった総合芸術みたいな感覚があります。1stアルバムのときもそうなんですけれども、今回のアルバムも映画のサウンドトラックのような形で12曲まとめました。
―『BLACK WINE』を聴くと、とくに後半では喪失感や後悔を感じさせる曲が並んでいる印象でした。
そうですね。1stアルバムの頃から自分が扱うテーマっていうのは、未来というよりは過去のものだったりとか、自分の力でもうどうすることもできない不可逆的なものが多いんです。ただ過去を振り返るっていうこと自体は、僕はあまり悪いことだとは思ってないんですよね。曲と映像を通して、少しノスタルジックな気持ちを持って、過去を振り返ることで今を噛みしめられる部分もあると思うので、そういう大人の楽しみとしてこのアルバムを使っていただくのもいいのかなと思ってます。
―なるほど、熟成されたワインを嗜むように楽しめるという意味でタイトルが『BLACK WINE』。それってご自身の自叙伝的なイメージはなかったですか。
自分自身が滲み出ているところはあるとは思います。でも僕の場合は作品によって主人公も変えてますし、例えば一人称も私だったり僕だったり俺だったりいろんな一人称があると思うし、やっぱりどちらかというと映画作りに近いんですよね。1つ1つの作品に主人公がいて、年齢も性格も違うイメージをしながら作っそこに映像を組み合わせて1つのアルバムにするというところで、オムニバスの映画の短編集を形にしてるような感覚です。
―ジム・ジャームッシュ監督のファンということですから、さしずめこのアルバムはオムニバス映画の『ナイト・オン・ザ・プラネット』のようなイメージですか?
はい、おっしゃる通りです。もちろんトータル的に聴いていただきたい部分あるんですけど、ご自分にフィットするものとそうじゃないものも多分あると思うので、そこは自分とリンクするものを取って聴いていただくっていうのもいいんじゃないかなと思ってますね。
―では、オムニバス的な曲の中からいくつか訊かせてください。リード曲「モノクロスカイ」はすごくスリリングでカッコイイですね。どんなときにできた曲ですか。
「モノクロスカイ」は、フィクションの世界のイメージはありつつも、じつは今の世の中をちょっと反映してる部分もあるんです。今、白と黒ってもうはっきり分かれているじゃないですか? 世の中の風潮として分断されていて、ジェンダー問題、紛争、コロナのときはマスクを着ける着けないでお互いを攻撃しちゃってるようなこともあったり。普通の生活をしていてもみんながそういう状態にさらされているなって思うと、まさに今「モノクロスカイ」っていう世界になってるんだなっていう感覚があるんですよね。僕自身は白と黒の間にあるグレーなところ、お互いが歩み寄ったり交わるところにすごく人間の知恵や美しさみがあると信じているので、それを曲を通して表現できないかなと思って作ったのがこの曲です。
―最後の「眠りの花」は、エレクトロニカとアコースティックの融合による幻想的な曲で余韻を感じながらアルバムを聴き終えることができます。
「眠りの花」は、20代前半ぐらいに作った曲が元になってます。それもあって、ちょっと若気の至りだなとか、若いときのセンシティブないろんなものが凝縮されている曲だったので、今の僕の歌としてアルバムに入れるか最後まで悩んだ曲ではあるんです。それこそ1stで好きになってくださったファンの人にこの曲を受け入れてもらえるのかっていう気持ちもあったんですけど、実際自分はそんなに変わってなかったなっていうことに気づいたんですね。みんな自覚があると思うんですけど、大人になったら余裕ができるとか、若いときに想像していたかっこいい大人に今の自分がなれてるかというと、気がついたら若いときからあんまり変わってないよなっていう感じがあると思うんです。大人になることは、もっともっと生々しくて、ダサくてかっこ悪いもんだなっていうのを自分で今感じているところも、ちゃんと『BLACK WINE』というアルバムに、しかも一番最後に入れたかったっていうのがありますね。
―リリースパーティーが2024年1月27日に東京・南青山の「月見ル君想フ」で行われますが、2024年は他にもライブ活動を予定していますか。
リリースパーティーは、当然2ndアルバムの曲が中心になりますし、人数も多いので、アルバム曲を再現できるようにやっていきたいなと思ってます。日本でもライブもやりたい気持ちもありつつ、自分の曲を聴いてくださってる国にやっぱり行って演奏したい気持ちもあるので、現時点では2月にスイス、7月にはハンガリーの音楽フェスに出演することが決まっています。リスナー層の多い、欧州と南米は特に今後もリーチしていきたいエリアですね。日本と海外、うまくバランス取りながら来年からも活動していきたいと思っています。
<リリース情報>
HANCE
『BLACK WINE』
2023年12月13日DIGITAL RELEASE
=収録楽曲=
1. BLACK WORLD
2. モノクロスカイ
3. Dancing in the moonlight
4. 螺旋
5. シャレード
6. 或る人
7. left
8. 炎心
9. 十字星
10. シャーロックの月
11. snow sonnet
12. 眠りの花
ストリーミング&ダウンロードはこちら https://linkco.re/bdmfvtBH
<ライブ情報>
HANCE〜Premium LIVE in Tokyo
2024年1月27日(土)東京・月見ル君想フ
OPEN 18:00〜(メンバーシップクラブ会員)18:15〜(一般客)
START 一部 18:30〜 / 二部 19:25〜
チケット:7000円
チケットはこちら https://hance-tokyo-live.peatix.com/view
HANCEオフィシャルサイト https://www.hance.jp/
HANCE公式YouTubeチャンネル https://www.youtube.com/@HANCE_Official
HANCE Instagram https://www.instagram.com/hancevalencia/
HANCE X https://twitter.com/hancevalencia1
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
超新星、解散危機から日本デビュー15周年「奇跡だと思うし、夢みたい」【全員日本語インタビュー】
ORICON NEWS / 2024年11月23日 23時8分
-
スクエアプッシャー『Ultravisitor』20周年 真鍋大度が語る、間近で見た「鬼才の凄み」
Rolling Stone Japan / 2024年11月22日 17時30分
-
「影響を受けたものの存在を隠さずに表現する」Cody·Lee(李)が語る音楽ルーツとライフスタイル
Rolling Stone Japan / 2024年11月16日 12時0分
-
ピーチ・ツリー・ラスカルズが語る、大ヒット曲のインスピレーション源はヨセミテ国立公園
Rolling Stone Japan / 2024年11月8日 18時30分
-
レイラ・ハサウェイが語る、黒人文化の誇りと驚異的なボーカル表現の秘密
Rolling Stone Japan / 2024年10月28日 17時30分
ランキング
-
1韓国ガールズグループ「NMIXX」、竹島の領有権主張する歌で「炎上」 日本公演反対署名が5万人突破
J-CASTニュース / 2024年11月25日 18時30分
-
2「エビ中」星名美怜 ドライすぎる「契約終了」の表現にファン困惑「卒業(転校)とかじゃなく?」
スポニチアネックス / 2024年11月25日 22時58分
-
3清原弁護士 東国原氏と激論 斎藤知事の問題めぐり「収賄とか…」「収賄とは言ってない」かみ合わず
スポニチアネックス / 2024年11月25日 19時1分
-
4「ほんとズレてる」岡村隆史、不倫発覚の盟友を“中学生レベル”の擁護発言で炎上
週刊女性PRIME / 2024年11月25日 17時0分
-
5「タイミー」を橋本環奈"パワハラ疑惑報道"直撃? CMキャラが中居正広に差し替わったと思われたが…
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月25日 9時26分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください