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カーネーションが語る19作目のアルバム、40周年を迎えてたどり着いた新境地

Rolling Stone Japan / 2023年12月18日 18時0分

カーネーション

今年2023年でバンド結成40周年を迎えたロック・バンド、カーネーション。今ではオリジナル・メンバーは直枝政広(ヴォーカル/ギター)だけ。時期によってメンバーもサウンドも変化して、今では92年に加入した大田譲(ベース)との2人組。バンドとしては崖っぷちの編成になってから10年以上の月日が流れたが、カーネーションは枯れることなく、それどころか仲間を増やしながら精力的に音楽を生み出し続けてきた。19作目の新作『Carousel Circle(カルーセル・サークル)』は、そんなカーネーションのしぶとさ、情熱、冒険心が詰まったアルバム。世代を超えた多彩なミュージシャンをキャスティングして生み出された新しい物語だ。アルバムについて、メンバーの2人に話を聞いた。

—『Carousel Circle』はバラエティ豊かな曲が並んで、一曲ごとに趣向を凝らしたカーネーション劇場みたいなアルバムでした。ここ最近のアルバムとは違った手応えを感じたのですが、レコーディングに入る前にアルバムについて2人で何か話をしたことはありました?

直枝:ないですね。バンド結成40周年なのでアルバムを 作ろうっていうことで始まったんですけど、内容に関しては何が降りてくるかわかんないっていうか。いつも、そういう状態で始めてます。

—今回、ドラマーが3人参加していて、鈴木さえ子さん、北山ゆう子さん、張替智広さんというユニークな人選です。張替さんとはこれまで何度も一緒にやってきましたが、さえ子さん、北山さんとアルバムを作るのは初めてです。

直枝:北山さんはソギー・チェリオス(直枝と鈴木惣一朗のユニット)のライブに参加してもらっていたんですけど、大田くんと一緒にやらせてみたいと思っていたんです。絶対合うんじゃないかと思って。彼女の叩き出すリズムって暖かいし落ち着くんですよね。それが大田くんと絡むと、どういう風になるんだろうって。

大田:すごく気持ちよくやらせてもらいましたね。肌の合わない人っているんですけど、北山さんとは何も話をしなくてもしっくりきた。ノリが女性的というか優しいんですよ。

—さえ子さんはソロ・アルバムも出されていて多才なミュージシャンですが、ドラマーとしてはどんなタイプなんですか?

直枝:ジョン・ボーナムっていう感じ(笑)。さえ子さんとは80年代からの付き合いで一緒にセッションしたこともあるんですけど、そういう印象が強いですね。もともと僕たちはさえ子さんのファンなので彼女の趣味とか全部わかっていて。だから今回、ジョン・ボーナムっていうキーワードでお願いしたら、絶対喜んでくれると思っていました。

—新作に収録された「ダイアローグ」なんてまさにそんな感じですね。力強くてダイナミックで。曲によって最適なドラマーを選んでいったのでしょうか。

直枝:そうですね。「愛の地図」ができた時に、この曲はさえ子さんが合うんじゃないかと思って大田くんに連絡したんです。「キャラバン」とか「深ミドリ」は同じ頃にできた曲なんですけど、軽快でタイトに叩く北山さんにお願いしたらバッチリでした。

—そのほかにも多彩なゲストが参加しています。なかでも今回は鍵盤の存在感が大きくて、伊藤隆博さんと谷口雄さんが活躍していますね。

直枝:この2人はツアーにも参加してもらっていたんですけど、ジャジーなフレージングが必要な場合は伊藤さん。ポップなテイストが欲しい時は谷口くんにお願いしました。谷口くんなんて「アラン・トゥーサンみたいに弾いて」って頼むとすぐに弾いてくれますよ(笑)。

—1曲だけの参加ですが田中ヤコブさんも参加しています。

直枝:「ここから -Into the Light」を書いた時にヤコブくんを呼ぼうと思ったんです。この1年、彼とはたまに会ってて、町田の楽器屋さんへ行ったり、ケーキを食べながら機材の話とかしたり。

—ふた周りくらい離れた若手とアルバムを作っているところが、最近カーネーションの面白さのひとつですね。カーネーションが世代を超えて拡張しているというか、外に向かって開かれている。だからこそ、メンバーは2人でもサウンドは多彩でスケールが大きい。

直枝:どんなプレイヤーを呼ぶかがアレンジだと思ってますからね。



—ヤコブさんが参加したオープニング・ナンバー「ここから -Into the Light」はまさにカーネーション節というか。カーネーションのアルバムはこういう風に始まってほしい、と思うような高揚感に満ちたロック・ナンバーです。

直枝:出来過ぎなくらい1曲目っぽい曲(笑)。この曲の仮タイトルが「サイケこれから」で、サイケな曲にしようと思ってヤコブくんを呼んだんです。完成した曲にはいかにも60年代っぽいサイケな要素はほとんど残っていなかったけど。

—ヤコブさんのギターもいいですけど、橋本歩さんのチェロの伸びやかな音色も効いてますね。

直枝:ヤコブくんのギター一本で押す、というのでもよかったけど、もう、ひとひねりほしいと思って最後にチェロを入れたんです。

—「ここから 灯りが見えないか」という歌詞がありますが、これはもしかして……。

直枝:「夜の煙突」にひっかけてます。

—やっぱり! 「はしごを登る途中で ふりかえると僕の家の灯りが見える」と歌ったデビュー曲「夜の煙突」へのオマージュなのかな、と思いました。

直枝:歌詞を考えている時に40周年に繋がるキーワード的なものとして。「あれから時が経ったけど今はどうなの?」っていう問いかけというか。

—それを知ると曲に対する味わいが増しますね。続く「カルーセル」はガラッと雰囲気を変えて、ピアノを軸にした70年代のシンガー・ソングライターっぽい曲。2曲目でこうきたか、と思って驚きました。



直枝:この曲はいつか出す予定のソロ・アルバム用に作った曲なんですけど、変拍子で難しい曲だからバンドではやれないと思っていたんです。だから大田くんに聞かせた時は、ある程度、アレンジをしてわかりやすくして。

大田:最初に聴いた時は大丈夫かな、と思ったけど、メロディーと歌詞が乗ったら、それで拍子を覚えられるからうまくいったね。

—メロディーに耳がいくので、そんなに難しい曲とは思いませんでした。大田さんのコーラスが隠し味になって、ちょっとシャレた感じもあり。こういうタイプの曲は最近のカーネーションにはなかったですね。

直枝:『YOUNG WISE MEN』(88年)の「ハンバーガーですね」みたいなね。

—そうですね。初期の頃を思い出させます。そういう曲を入れたのも40周年だからですか?

直枝:それはないけど、引き出しはいろいろ開けてます。

—「どこで筆を置くべきか それとも終わらぬ絵と向き合うべきか」という歌詞の一節といい、直枝さんの音楽に向かう心境を描いたような歌詞ですね。

直枝:「あの木馬に跨って 太陽を背に受けて書き割りの荒野へ」という歌詞を書いた時、これが僕らのポップ観だと思ったんです。僕らがやってきた音楽って、そういうことなんじゃないかって。

—40年目にしてカーネーションの謎が解けた?

直枝:これまで自分たちがやっている音楽が言葉にできなかったんですよ。この変な世界は何だろう? カーネーションの分かりにくさってなんだろう?って思い続けてきたけど、ようやく言葉にできたと思ったら、すごく気が楽になったんです。



—「書き割りの荒野」、つまり、果てしなく広がっている物語の世界を音楽という木馬で駆け抜けているんですね。

直枝:そう。木馬に跨っているっていうのがユーモアがあっていいと思って。カッコつけてないしね(笑)。

—「カルーセル(回転木馬)」というのも良いですね。回転するところがレコードやCDを連想させて。歌詞に「サイケなココロ」という過去の曲名が入っているのは40周年オマージュですか?

直枝:あ、ほんとだ。これは無意識。すっかり忘れてた(笑)。

大田:俺も今気づいた。面白いな(笑)。

—無意識のオマージュでしたか(笑)。いろんな意味でアルバムを象徴する曲ですね。続く「愛の地図」も初期カーネーションを思わせるポップな曲です。

直枝:80年代の頃はXTCとかを引き合いに出されることが多かったけど、その時に自分たちのポップさをちゃんと消化できていなかったような気がして後悔するところがあったんですよ。もっと面白く作れたんじゃないかって。だから、今あえてもう一度、そういう曲に挑戦してもいいんじゃないかと思ったんです。

—デビューした頃は、よく「ひねくれたポップ・センス」なんて言われてましたね。

直枝:あの頃、大田くんがいたグランド・ファーザーズの方が、よっぽどXTCだったけど(笑)。

大田:東京に出てきた頃、XTCのファーストを聞かされてカヴァーしたんだよな。でも、俺は「愛の地図」にXTCはあまり感じなかったけど。

直枝:大田くんがXTCを聴いてたのが初期だからだよ。この曲は80年代後期にXTCがポップになり始めた頃の感じがある。あと、歌詞が落語口調みたいなのが異色で、ちょっとべらんめえ調なんです。

大田:そうそう。おかしいよね、これ(笑)。

直枝:このアルバムの歌詞には、そういう笑いが結構ちりばめてあるんです。

—続く「ペインター」でまた雰囲気が大きく変わって、フォーキーな曲ですね。後半はストリングスが入ってバロック・ポップみたいになる。

直枝:これもソロ用に考えていた曲でバンドに持っていっていいのかな?と思っていたんですけど、なんでもありだ、と思ってアルバムに入れました。中間部の〈どこまで上昇するの?〉っていうメロディーが気にいってます。

—心象風景を描いているような内省的な歌詞ですね。

直枝:悲しい歌なんだろうけれど、主人公は困り果てて笑っているんですよね。そこがリアルかなと思って。

—個人的な体験が反映されていたりするのでしょうか?

直枝:それは全然関係なくて。シンガー・ソングライターの自分語りのように見せているだけで、ひとつの物語の脚本を書くような感じで書きました。

—「ペインター(画家)」の次の曲が「ソングライター(作曲家)」というのも面白いですね。

直枝:このアルバムはキンクス『ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ』(68年)みたいに、いろんな登場人物が出てくるんです。

—まさに書き割りの世界ですね。

直枝:曲の雰囲気はニルソンをイメージしていて、谷口くんにもそう言ったんです。でも、あとでニルソンを聴き直してみたら、こういう曲は全然なかった(笑)。



—直枝さんの中のニルソンが書いた曲(笑)。「ソングライター」と次の「光放つもの」が継目なく繋がって組曲のようになっていますが、緻密に作り込まれていて本作のハイライトだと思いました。

直枝:この2曲は斬新な構成にしたくて、繋ぎ方にはかなりこだわりました。「光放つもの」は最初はワンコーラスしかない短い曲だったんです。それを核にして組曲を作ってみようと思って、そのワンコーラスに繋がるように逆算して他のパートを作り上げていったんです。パズルみたいで作っていて面白かった。

—「光放つもの」自体も1曲の中で景色がガラッと変わる。入れ小細工みたいにどんどん迷宮化していく展開が面白いですね。

直枝:『Parakeet & Ghost』(99年)みたいに曲ごとに様々なイメージを繋ぎ合わせたことはあったけど、組曲を意識して作ったことはこれまでなかった。この曲は作品を作る楽しさをすごく感じましたね。

大田:ほんと、これは作り込みの世界だよね。

直枝:作り込みと思い込み。僕の幻想の世界だから。

—「ソングライター」の主人公の内面の世界が「光放つもの」で展開していく、というふうにもとれますよね。

直枝:そういうストーリーも成り立ちますね。「光放つもの」で世界が歪んでくる。書き割りの世界ってサイケなイメージもあって、そんな作り込んだ世界で遊ぶ楽しさがこのアルバムにはある。

—「光放つもの」が直枝ワールドだとしたら、初めて大田さんが曲を提供して歌った「深ミドリ」は大田ワールドですね。

直枝:「40周年だから曲を作って」って大田くんに電話したんです。一部しかできなくても俺がまとめるから気楽にやってみてって。ただ条件として、友達には頼らないこと。困ったら俺に頼ってねって。

大田:直枝くんは毎年、大田くんのソロ・アルバムを作ろうって言ってくれるんですよね。曲を書くんだったら自分でなんとかしよう、と思って録音機材のMTRを買ったんです。

—シタールが入ったりして、インドっぽい雰囲気が漂うサイケデリックでフォーキーな曲です。

大田:そこは直枝くんがうまくアレンジしてくれて。

直枝:雲が流れていくような感じにね。途中からツインギターが入ったりしながら。

大田:俺のイメージにぴったりでさすがだと思った。この曲のイメージは大学時代に住んでいた京都の深泥池(みどろがいけ)の冬の風景なんです。歌詞を書くのが大変で、家のパソコンの周りに思いついた言葉のメモをびっしり貼って考えてたんです。でも、酔っ払って風呂に入っている時にサビが思いついて、これでいいやって。

—「ランダン ルドゥ ランダン」という呪文のような不思議なサビですね。

直枝:そのフレーズがあるから、この曲が生きた。意味がわかんないのが良いんです。

—直枝さんのソウルフルな歌声とは対照的に、淡々とした歌声が大田さんの味わいを出してます。

大田:直枝くんと比べると細い声なんだけど。

直枝:その歌声がいいんですよ。



—その他にも、ファンキーな「Sha La La」、直枝さんと大田さんの歌声の掛け合いが熱い「キャラバン」とか、いろんなタイプの曲、様々な物語が詰め込まれたアルバムですが、ラストナンバー「Sunlight」の「物語はもう終わるけれど、その先をずっと見ていたいんだ」という歌詞が、カーネーションの今の気持ちを伝えているようです。

直枝:そうですね。そんな気持ちを言葉にできて素直に歌えたことが嬉しい。さらにこの曲は、自分が思いもしないものになったという感触もあって。

—この曲はドラムを叩いている鈴木さえ子さんが共同プロデュースでクレジットされていますね。

直枝:さえ子さんが曲を気に入っていろんなアイデアを出してくれたんです。「ストリングスが合うんじゃない?ってチェロをアレンジしてくれたり、さえ子さんがドリーミーなアイデアを曲に注いでくれて、僕がイメージしていた柔らかな陽射しの心地よさを表現してくれたんです。

—カーネーションの波乱に満ちた40年が浄化されていくような曲で、アルバムのラストにぴったりです。

大田:俺も絶対、ラストの曲だと思ってたんだけど、直枝くんが1曲目にしたいって言った時はびっくりした。

直枝:自信作だったから最初に聞かせたいと思って。

—これが1曲目だったらアルバムの印象はかなり変わりますね。

直枝:いつも変なアルバムを作りたいと思ってるからね。でも、この曲順でよかったんじゃないかな。

大田:今回のアルバムって、明るさ、暗さ、謎、そういうものがいっぱいあるけど、ごちゃごちゃしてなくてスッキリしてるんだよね。いつもの俺たちのアルバムって1枚通して聴くとお腹いっぱいになるじゃない? 1曲1曲が鍋料理というか。そういうことがやりたかったからそれで良かったんだけど、今回はちょっと違うよね。

直枝:曲を作っていく過程での決断も早くて迷ってないから、混沌はそんなにない。あと、アナログ盤のサイズ感も意識したから全体の尺も短いんです。アルバム通して42分。片面21分。

—そういうコンパクトさがポップな印象を与えつつ、カーネーションのコクはしっかりある。初期っぽい曲が入っていたりしてバンドの歴史を感じさせつつ、新しいサウンドに挑戦したりと、聴くたびに発見がある重層的なアルバムですね。

直枝:サラッと聴けるけど、いろいろと謎が多い。何年も聴いているうちに、その謎が解けていくようなアルバムが好きなんです。今回はそういう作品になったんじゃないかなって思います。

—そういえば、曲名や歌詞に「光」のイメージがちりばめられていますが、これは意識的なことですか?

直枝:無意識ですね。これまでそれなりにぬかるみの道を歩いてきて、いろんな夜を過ごしてきた。そんななかで、音楽に光を求めていたのかもしれないですね。「Sunlight」は柔らかな陽射しの中でうたた寝をしたかった。今回のアルバムでそういうところに辿り着けたのは良かったと思います。

—うたた寝をしながら物語が終わった先を、ここから先に広がる「書き割りの荒野」を夢見続けるわけですね。

直枝:そう。今回、音楽を作る楽しみというのを改めて味わったから、これから2枚組でも3枚組でもどんどん作りますよ。ずっと、何かを作り続けていられたら最高ですね。


<リリース情報>


通常盤


初回限定盤

カーネーション
アルバム『Carousel Circle』
発売日:2023年11月29日(水)
初回限定盤:2CD+Blu-ray 8000円(税込)
通常盤:2CD 3300円(税込)
https://lnk.to/pre_carouselcircle
=収録内容=
■DISC-1<CD> ※初回限定盤、通常盤共通
1. ここから - Into the Light
2. カルーセル
3. 愛の地図
4. ペインター
5. ソングライター
6. 光放つもの
7. キャラバン
8. ダイアローグ
9. 深ミドリ
10. Sha La La
11. Sunlight
■DISC-2<CD> ※初回限定盤、通常盤共通
DISC-1収録曲のInstrumental Version 全11曲
■DISC-3<Blu-ray> ※初回限定盤のみ
DISC-1収録曲のBlu-ray Audio 全11曲
・【HMV GET BACK SESSION】 カーネーション「天国と地獄」
・「21年目のカーネーション SPECIAL 12/12」カーネーション20周年 in 九段会館
・Music Video

Official HP https://www.carnation-web.com/

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