ビヨンセの超人的なパワーを目撃、映画館で楽しむ「家族」たちとの祝祭
Rolling Stone Japan / 2023年12月21日 18時45分
ビヨンセの最新ツアー『Renaissance World Tour』の圧巻のステージから、その裏側までを、余すところなく描いた映画『Renaissance: A Film by Beyoncé』が、12月21日に日本で公開された。同ツアーの米ニューヨーク公演にも足を運んだ音楽ライター、渡辺志保の考察をお届けする。
【写真をすべて見る】『Renaissance World Tour』
2022年にビヨンセが発表した7枚目のアルバム『RENAISSANCE』は、ビヨンセが作り上げたサイバーかつハイブリッドなボールルームを舞台に繰り広げられる壮大なダンスミュージックアルバムだ。「BREAK MY SOUL」「CUFF IT」といったヒットシングルを生み出し、2023年のグラミー賞では最多ノミネートである9部門にてビヨンセの名前が踊り、4つのトロフィーを持ち帰った。中でも、最優秀ダンス/エレクトロニック・アルバム部門は黒人女性による初の受賞者となり、ジャンルを超えた彼女の功績が讃えられた瞬間でもあった(また、この年のグラミー賞をもって、ビヨンセはグラミー賞史上最多受賞アーティストとなった)。
そんな超大作アルバムを引っ提げてビヨンセが世界を廻ったツアーが、『Renaissance World Tour』だ。2023年5月のスウェーデン公演を皮切りに、10月のカンザス・シティ公演まで計56公演に渡る大掛かりなツアーで、その収益は5億ドル(約750億円)を超えると言われている。各地のチケットは軒並みソールドアウト。多くの会場において最高動員数を塗り替えるだけではなく、ツアー先のネイルサロンやウィッグ・ショップはビヨンセのライブ前に売り上げが跳ね上がり、地元のレストランやホテルにもインフレ状態が起こった。こうした経済効果は「ビヨンセ・バンプ(Beyonce Bump)」とも呼ばれ、メディアも大きく扱った。かくいう私も、久方ぶりのビヨンセのパフォーマンスを目撃すべく、7月の終わりにニューヨークへと飛び、ニュージャージーで行われたライブへと遠征した。夏休みシーズン、かつ円安に喘ぐ中、必死の思いでゲットしたコンサート・チケットとフライト。掛かった費用は安くはない。私のような海外勢も多いだろうから、『Renaissance World Tour』を巡って一体いくらのドルとユーロが行き交ったのか、恐ろしいほどだ。
©Parkwood Technology, Photo by Andrew White
バルセロナ Estadi Olímpic Lluis Companys公演 2023年6月8日
©2023 Kevin Mazur, Photo by Kevin Mazur
ニューヨーク MetLife Stadium公演 2023年7月30日
社会現象にもなった『Renaissance World Tour』をドキュメンタリー・フィルムに収めた映像作品が、この『Renaissance: A Film by Beyoncé』だ。ツアーを実現させるまで4年を費やしたとビヨンセが劇中で明かしている通り、これまで行われた数々のビヨンセのツアーを上回るほどの大掛かりな仕掛けやセットで構成されている。その隅々にまで彼女のこだわりが溢れ、どうしたら自分のイマジネーションを具現化できるのか、そしてそれをエンターテインメントとして観客に提示することができるのか、極限の状態のビヨンセをスクリーン越しに目撃することができる。
その眼差しは超人的でもあり、10代の頃からプロフェッショナルなアーティストとして活動を続けてきたビヨンセだからこそ行き着いた境地ともいえる。とはいえ、本作の醍醐味はふとした時に見せるめちゃくちゃカジュアルな、そして母親らしいビヨンセの表情が映し出される点でもある。大好きなチキンにかぶりつきながら、夫のジェイ・Zの質問に答える様子や、双子のルミとサーの乳歯が抜けたことを喜ぶ姿は、楽曲を聴いただけでは分からない彼女の素の姿だ。劇中、11歳になる娘のブルー・アイヴィーがビヨンセのステージに参加し、ダンサーとしてパフォーマンスを披露する場面にも迫っている。母親にビヨンセ、父親にはジェイ・Zを持つブルーは、生まれた時から常に世間の目に晒されてきた。今回は彼女の強い意志でステージを踏むことを決意したわけだが、ツアー中に彼女がどう成長していったか、本人やビヨンセ、そしてブルーにとっての祖父母であるティナやマシューの口からその経験が語られる。
クィア・カルチャーへのリスペクト
「家族」もまた、近年のビヨンセの作品には欠かせないテーマの一つだ。そもそも、アルバム『RENAISSANCE』は実母・ティナの兄弟だったジョニーが大きなインスピレーション源になっている。元々裁縫が得意だったティナ同様、ジョニーもファッションが好きだった。デスティニーズ・チャイルドとして活動していた初期、実際に彼女たちの衣装を手縫いしていたのは、ティナとアンクル・ジョニーだったのだ。”Uncle Jonny made my dress(私のドレスを作ったのはジョニー叔父さん)”というリリックが印象的な楽曲、「HEATED」に合わせて、劇中でもアンクル・ジョニーがどんな人物だったか、そしてビヨンセにとってのファッションとは何かが語られる。アレキサンダー・マックイーン、ロエベ、ミュグレー、ティファニー、グッチ……本ツアーのために用意されたアイコニックなピースたちも、間違いなく見どころの一つだ。
©Parkwood Technology, Photo by Mason Poole
カーディフ Principality Stadium公演 2023年5月17日
©2023 Kevin Mazur, Photo by Kevin Mazur
ロサンゼルス SoFi Stadium公演 2023年9月4日
©RENAISSANCE WORLD TOUR, Photo by Julian Dakdouk
ワシントンDC FedEx Field公演 2023年8月6日
ビヨンセがアンクル・ジョニーからインスピレーションを授かったのはファッションだけではない。同性愛者でもあったアンクル・ジョニーは、HIVの感染症によりこの世を去ったのだ。本作品は、アメリカでは世界エイズデーでもある12月1日に封切られた。そして、アルバムと本映画を通して、ビヨンセはゲイ・カルチャーが産んだダンスミュージックをこれ以上にないほどに賛美する。シカゴやデトロイトのアンダーグラウンド・シーンで発展していったハウス・ミュージックや、自分の個性と美しさをぶつけ合うように踊るダンサーたち、”カテゴリー”と呼ばれるテーマに合わせて煌びやかに装った人々で埋め尽くされたボールルーム。こうしたエッセンスが、世界中のスタジアムのステージを彩っていった。ツアーのMCを務めたのは、ボールルームのカルチャーを伝えてきたその本人でもあるケヴィン・JZ・プロディジーであるし、ダンサーにはSNSでも注目を集めてきたクィアのダンサー、ハニー・バレンシアガらが参加。クィア・カルチャーには、血縁のない仲間たちを集めた”ハウス”が存在し、各ハウスをまとめるのは”マザー”と呼ばれる年長者のリーダーだ。ビヨンセは、世界中から集った「家族」=ビーハイヴ(ビヨンセ・ファンの総称)をまとめるマザーとなり、驚くほどの規模ながら、彼・彼女らの存在を祝し、まとめ上げたのだった。
©RENAISSANCE WORLD TOUR, Photo by Julian Dakdouk
カンサスシティ Arrowhead Stadium公演 2023年10月1日
©RENAISSANCE WORLD TOUR, Photo by Mason Poole
フィラデルフィア Lincoln Financial Field公演 2023年7月12日
アルバム『RENAISSANCE』が発表された時、表だったメディアプロモーションは皆無で、非常に珍しいことにMVすら一本も公開されなかった。アルバムの中に詰まっているメッセージは苦しいほどに豊穣であるのに、どのようにそれを享受すべきか、熱心なファンとしては戸惑ってしまった。しかし、自ら実際にコンサートに出向き”体験”として『RENAISSANCE』の世界観を味わったことで、私の戸惑いは完全に払拭された。今回の映像作品も、コーチェラ・フェスティバルでのパフォーマンスに迫った『HOMECOMING: ビヨンセ』のようにオンデマンドで楽しむことができる配信作品としてリリースすることもできたはずだが、ビヨンセはあえてアメリカの大手シネコンであるAMCと組んで、劇場公開型の映画作品として発表することに決めた。こうした一連の動きは、あえてパブリックな場所に足を運ばせて、他者とともに音楽や映像美、ダンサーたちの美しい動きを楽しんでほしいというビヨンセの願望によるものなのだろうか。いずれにせよ、圧倒的な迫力とドラマティックさで映し出される『Renaissance World Tour』の感動を大きなスクリーンと音響で味わってほしいと願う。
<INFORMATION>
©2023 PARKWOOD ENTERTAINMENT
映画『Renaissance: A Film by Beyoncé』
配給:東和ピクチャーズ
全国劇場にて公開中
https://towapictures.co.jp/beyonce/
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