明石在住の19歳MONONOKEが語る「東京」を描いた理由、変化した都会へのイメージ
Rolling Stone Japan / 2023年12月22日 18時0分
作詞、作曲、編曲、トラックメイキング、アートディレクション……つまり作品にまつわるほぼすべてを自身で手掛ける、兵庫県明石市在住、現在19歳のマルチクリエイターMONONOKE。17歳のときに宅録で作ったという作品をブラッシュアップしたファーストアルバム『Supply/Demand』に続くシングル「トーキョー・ジャーニー」でメジャーデビューを飾るニューカマーだが、そもそも10代で作ったアルバムに「需要と供給」なんてタイトルをつけたり、すでに4枚目までのアルバムの構想が出来上がっていると表明してみたり、その感性や視点はすでに独特の光を放っている。一体MONONOKEとは何者なのか? 彼のこれまでを振り返りながら、その正体に迫ってみよう。
─MONONOKEさんが音楽をやろうと思ったのはいつ頃だったんですか?
小学生の頃から、歌手になりたいみたいな夢はずっとあったんです。本当に一度たりともその夢はブレなかったので、それで自然と音楽活動をやっていくようになっていったんですけど……でもそうやって漠然と「音楽をやりたい」と思っていたものが確信というか、やろうと思えたのはコブクロさんの音楽を聴いたのがきっかけでしたね。そこから中学生になって邦楽のロックを聴くようになったり、年代を遡って、80年代のいわゆるシティポップとか歌謡曲みたいなものを聴き出したりしたんですけど。
─作るときも聴いている音楽から影響を受ける部分は大きいですか?
インプットは音楽から取り入れることが結構多くて。曲のアイデアみたいなものを、音楽を聴いて取り入れるというか。いろいろ聴いている中で「こういう曲を作ってみたいな」とか「こういう曲とこういう曲を混ぜたらどうなるのか」っていう実験的なことをしてみたり、そういう曲作りが多いかなと思います。
―確かに音源を聴いても、本当にさまざまな音楽の要素が混ざり合っている感じがしますよね。
MONONOKEという名前も、自分の音楽性を俯瞰した時にあまりジャンルに関係なく作っているなって感じてつけたんです。妖怪みたいにいろいろな顔を持っているっていう意味で。
─なるほど。7月にアルバム『Supply/Demand』をリリースしましたが、あれは17歳のときに作った音源をリミックスしたものだそうですね。振り返って、あの作品はMONONOKEさんにとってどういうものですか?
作っている当時は「こういうことをやろう」とか「こういうことを伝えたい」みたいなものを淡々と作っていった感じだったんです。今思い返してみると、本当にその時に思っていたリアルな感情だったり、その時に思い描いていた理想像みたいなものを見据えて書いていたりとかもするので、ある種の記録、ドキュメンタリーみたいなアルバムだなあと思います。その時の自分にしか感じられなかった感情や心情をちゃんと音楽に昇華することができたな、と。だからすごく「私的」な音楽だなあと思うんですよ。自分のためにあるような音楽だなって。みんなにこういうところを聴いてほしいっていうのもありつつ、大半は自分を満足させるための音楽だったなっていうのは思います。でもみんなに伝えたいこともちゃんとあるし、そういうバランスが上手く取れてるのかなって、俯瞰して思うことはあります。
─あのアルバムはそうなる前の、文字通りあのときしか作れなかった作品であり音楽であるという感じがしますね。
そうですね。あのアルバムを作れたことが僕にとってはすごい功績で、あのアルバムを聴いてると、高校時代のことを鮮明に思い出せるんです。それこそ記録っていう側面があるんですけど、10代でしっかり音楽をやることができてよかったなっていうのは思いますね。10代のその時にしか思えない感情を曲にできた、音楽にできたっていうのは、個人的にもすごく嬉しいことであり、誇らしいことでもあるなと思います。
─MONONOKEさんの高校時代って、コロナ禍ど真ん中でしたよね。そういう時代背景もあのアルバムには反映されている感じがしました。
そうですね。僕の高校3年間はもうずっとコロナ。やりたいことも全然できてない年代なので、そういうのも相まって、常日頃から非常に焦りみたいなものはあったと思いますね。明日何があるかわからない感覚というか、すごく身近な高校生の話題でいうと、総合体育大会(インターハイ)ってあるじゃないですか。それがコロナでなくなったり、一生懸命そのために頑張ってきたのにそれがなくなったりして、でも怒りや不安の矛先を誰に向けたらいいかもわからない。そういうのを身近で感じてきた身ではあるので、表現に出ていることはあるんじゃないのかなと思います。
―そこから世の中も大きく変わって、元に戻ってきた部分もありますけど、そうなったときに未来や生き方に対する考え方は変わりましたか?
変わりましたね。最初、コロナ禍が明けたというか、コロナのムードが落ち着いてきたなと思ったときは、それはそれで迷いがあったんです。自分はそのムードをインプットして作品に昇華していたんですけど、それが落ち着いてきて、インプットしてきたものがなくなったというか底を尽きそうだなって思って、それはそれで違うものをインプットして昇華していかないといけないなと思ったんです。そのときにしかない焦燥感みたいなものをずっと作品にしてきたので。でも逆にいえば、それがなくなったからこそ前向きになったというのもあるかもしれないですね。どこか陰のある曲たちが多かったんですけど、それを振り切るみたいな曲もできてきたりしていますし。
―「トーキョー・ジャーニー」もシビアな曲ではありますけど、でも突破していくパワーやエネルギーが感じられるんですよね。そこがアルバムとの違いかなと思います。
新しい顔を見せるっていうのができたのかなと思います。「トーキョー・ジャーニー」とアルバムのギャップというか。
―ちなみに、あの『Supply/Demand』(需要と供給)というタイトルはどういう意味合いでつけたものなんですか?
それがアルバムの根本的なコンセプトだったんです。僕は本当に音楽が好きだし、音楽のビジネス的な部分にもすごく興味があって、そういうのも調べて勉強していたんです。世の中の音楽シーンを見ていると、リスナーの需要に応える、つまりリスナーが聴きたいというか、いわゆるポップスに振った曲もあれば、供給側、アーティストがやりたい音楽、悪くいうと趣味的な音楽というか、自分のためにあるような音楽っていうものもあって、そのバランスをうまく取ってアルバムにしたいなって思ったんですよね。それで『Supply/Demand』というタイトルにしました。
―作品を聴いていてもそれは強く感じるんですけど、MONONOKEさんは常にそういう視点で物事を見ている感じがしますよね。そもそも10代で曲を作るときって、いわゆる魂の叫びみたいな、「俺はこれがやりたいんだ」という「サプライ」側の思いが先に立つ人が多いように思うんです。でもMONONOKEさんの場合はそこで同時にちゃんと「デマンド」のほうも見ている。そこがユニークだなと思います。
ああ。アルバムを作るときも、まずコンセプトがあって、そこから曲作りを始めていったんです。だから本当にパズルのように、コンセプトに当てはめるようにして曲を作っていったんですよね。だから一連で聴いてもきれいな流れになっていると思うし、需要と供給の共存みたいなものが、アルバムの中で成り立っているのかなとは思います。
―作品作りではもちろんですけど、生きる上でもそうやって俯瞰してバランスを考えるタイプの人なのかなと思ったんですが。
そうですね。先が見通せていないとすごく不安になるタイプで。だからどういう曲が作りたいのか、どういうアルバムを作りたいのかっていうのをまず最初に考えて作るっていうのはありますね。
―資料を拝見したら、すでに4枚目のアルバムまでの構想があると書いてあってびっくりしたんですけど、それもそういうことなんですよね。
ファーストができてからさらにやりたいことがあって、それを叶えるためにはアルバムが3枚分いるなと思ったんです。それを今、着々と準備してる感じなんですけど。そういうことをやろうという自信にもなったのがファーストアルバムだったので、あれがなかったら4枚も考えていなかったと思いますね。
―その中で「トーキョー・ジャーニー」というのはどういう位置付けなんですか?
この曲はもともと3枚目のアルバムに入れようと思って作ったものなんです。『トーキョー・アクアリウム』というタイトルで、東京のことを歌うアルバムなんですけど。それがこうしてメジャーのファーストシングルとして出るっていうおもしろさもあるなと思います。
―ちょっと未来から来たみたいな感じというか。
そうですね。時間軸を行ったり来たりする感じがある。
―東京をテーマにするというのはたくさんのアーティストがやってきていることですけど、MONONOKEさんの場合はそこにどういうものを感じたんですか?
これはその東京に初めて降り立って、渋谷のスクランブル交差点を渡ったときに……今までテレビの中で見ていた、たとえば朝の情報番組の天気のライブカメラみたいなイメージでしか体験していなかったことを自分の身で感じてみて、かなり衝撃を受けたというか、自分にとってすごく膨大なインプットになったんです。それをもって地元に帰ってきて、「東京の曲を作ってみたいな」と思ったのがきっかけです。でも自分を主人公にして歌うのはなんかおもしろくないなって思ったので、主人公を立てて話を作っていきました。
―MONONOKEさんは明石の出身ですけど、明石で見ていた東京のイメージと比べて、リアルな東京はどういうものでしたか?
思っていた以上にギラギラしていたというか。スクランブル交差点を歩いた時に、周りのビジョンみたいなのに映像がずっと流れていたりして、どこか浮世離れしている感じがしました。地元では全然体験できないようなことが東京にはいっぱいあって、イメージしていたものがいい意味でゲシュタルト崩壊したというか、そういうギャップもあって、曲を作りたいなって思ったのかなと。
―その「トーキョー・ジャーニー」は、すごくポップではありますけど、途中で急にテクノっぽくなったりもして、すごく不思議な構成を持った曲でもありますよね。サウンド面ではどういうことを考えながら作っていきました?
僕は80年代のダンスミュージックみたいなものがバックグラウンドにあって。ファーストでやった「room」でテクノとかファンクとかのダンスミュージックと現代の音楽のハイブリッド感みたいなものをうまく取り入れることができたので、今回もダンスミュージックと今の音楽、ボーカロイドだったりとか、電子音楽の今昔のハイブリッド感みたいなものを意識して作っていきましたね。デモの段階では80年代のダンスミュージックの雰囲気を入れていたんですけど、そこに今回サウンドプロデュースをやっていただいたESME MORIさんが現代音楽のアプローチを加えてくださって。ESMEさんと一緒にやることで、今のポップスのアプローチみたいなものをうまくアップデートできたんじゃないかと思いますね。
―そうやって外部のプロデューサーの視点が入ったというのもこの曲にとってすごく大きかったんじゃないかなと思います。『Supply/Demand』はどちらかといえば閉じている作品だったと思いますけど、「トーキョー・ジャーニー」はMONONOKEの音楽が初めて外気にさらされている感じがするというか。
そうですね。サウンドプロデュースしてもらったっていうのは、自分の中でもひとつ成長できたというか、可能性を感じました。
―歌っている内容も本当にそうですよね。東京に降り立って圧倒される感覚、混乱する感覚がそのまま出ていて。物事を俯瞰してみるのとは違うMONONOKEさんの姿が新鮮だなと思いました。これがメジャーの第一歩となったというのはすごくよかったんじゃないですか?
そうですね。この曲を持ってメジャーの世界に行けたっていうのは、自分にとっては強みになったんじゃないかなと思います。
―東京に対する見方は、この曲を作ったときと今とでは変わってきましたか?
変わってきつつあります。自分の中の都会へのイメージがだんだん丸くなってきたというか。最初は東京っていうものをすごく警戒していた感じもあって、行くときはずっと気を張っていたんですけど、最近は「東京っておもしろいな」って思えてきている部分があって。それをまた作品に昇華したらどういうことになるんだろうっていうのがすごく楽しみです。
―どういうところがおもしろいと思います?
なんだろうな。みんな群れてるというか、たとえば渋谷駅の人の波というか、あの集団で行動している感じがすごくおもしろいなって思って。地元にあるんですけど、あれ以上のものはないので。
―その群れの中にいるときって、安心感もあるかもしれないけど、そこに埋没してしまう恐れみたいなのもあったりするじゃないですか。MONONOKEさんにとってはどうですか?
僕自身は、現段階では集団で動いていた方がすごくいいなって思っています。これから変わっていくかもしれないですけど。その中でどこか反骨心を出せるところで出す、みたいな。そういうマインドで東京に行っていたり、そういう感じで見たりしています。
―今「反骨心」という言葉がありましたが、「トーキョー・ジャーニー」はすごく反骨心が出ている曲だと思うんです。東京という街でどうやって自分の感性を頼りに進んでいくかという曲だと僕は受け止めたので。そういうマインドはMONONOKEさんの根底にあるものなのかなと。
そうですね。反骨心みたいなものを作品に織り混ぜるみたいなことは人知れずしてるのかなと思います。
―だからすごくこの曲はメッセージになっていると思います。いろいろな人にとっての東京があるとして、それに対して「俺にとってはこういう場所なんだ」っていうのを歌っている曲だなと感じました。
主人公を立てて話を作ったっていうのはあるんですけど、やっぱりインプットを受けてるのは自分なので。自分が思い描いている視点は歌詞にもすごく出ているのかな、と思います。
―この曲の主人公と同じように、MONONOKEも未来に向かって突き進んでいくタイミングですしね。そういう意味ではこれからのMONONOKEについてはどんなビジョンをもって進んでいきたいですか?
他の人がやっていないことを、うまくメジャーで成立できる方法を作っていきたいなと思っていて。それこそ「これから3枚アルバムを作る」みたいなやりたいことを、いろいろな層にも受け入れてもらえるようにして活動していきたいなと思います。その中でおもしろいことをやれたらなと思っているので、そこをメジャーシーンで模索していけたらなって。
―MONONOKEとしての最終到達点みたいなのってイメージしていますか?
なんか、最終的には自分がいなくても成り立つMONONOKEになれたらいいなって思います。もう自分が歌わなくてもいいし、自分が表に立たなくてもいいみたいな状態に、もしかしたらなっているのかなって思います。
―それこそ本当に「MONONOKE」という感じですね。
そうですね。もう影も形もない(笑)。そういう謎めいた、でもおもしろいみたいなことを最終的にちゃんと形にしてやれたらいいなと思います。
<リリース情報>
MONONOKE
『トーキョー・ジャーニー』
配信中
https://mononoke.lnk.to/TOKYOJOURNEY
Official HP:https://office-augusta.com/MONONOKE/
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