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Le$が語るヒューストン・ヒップホップへの愛情、「ブログ・エラ」の交流、来日ツアーの抱負

Rolling Stone Japan / 2024年1月15日 19時45分

Le$

もしかしたら、Le$(レス)の成功こそがインターネットが生んだ最高の成果かもしれない。ヒューストンを拠点に活動するこのラッパーは、同地の伝統を汲んだメロウでソウルフルなサウンドをトレードマークにしつつ、インターネットを通してヒューストンの外にも人気を拡大。ここ日本でもファンが多く、来日公演も複数回行っている。

Le$はヒューストンの人気ラッパー、スリム・サグのDJだったミスター・ロジャース(Mr. Rogers)のフックアップで2000年代後半にシーンに登場した。その基本的な音楽性は、ヒューストン・ヒップホップの遺産を継承するメロウネスを纏ったサウンドで、ソウルフルでゆるさを備えたラップを聴かせるもの。ドレイクやエイサップ・ロッキーなどがヒューストンのDJスクリューからの影響を消化しつつ新たなスタイルで2010年代前半から人気を集めていった傍ら、Le$は本場ヒューストンの伝統的な魅力をキープしたスタイルを提示した。音楽性は拠点であるヒューストンに根差したものだが、その人気はOnSmashなどの音楽ブログによって広まった部分も大きい。Le$の音楽は「インターネット発」と呼ばれるようなものではないが、Le$を取り巻く状況はインターネットによって築き上げられたものだ。

ヒューストンの正統派ラッパーであるLe$だが、近年はノースカロライナを拠点に活動するプロデューサーのタヴァラス・ジョーダン(Tavaras Jordan)とタッグを組むことが増えてきている。タヴァラス・ジョーダンは90年代の南部ヒップホップやR&Bのエッセンスを現代のフィルターで蘇らせたような作風で、Le$とは活動拠点は異なれど近い方向性を向いているプロデューサーだ。それだけに二人のコンビネーションは素晴らしく、Le$自身も刺激を受けているのか制作ペースと作品のレベルがさらに上がってきている。キャリア15年以上のベテランの域に差し掛かったLe$だが、今が黄金時代と言ってもいいだろう。

今回、1月19日から21日にかけて行う来日ツアー直前にLe$へのメールインタビューが実現。ヒューストン・ヒップホップへの愛情やタヴァラス・ジョーダンとの出会いなどを答えてもらった。



―あなたのお父さんと叔父さんがジャズミュージシャンで、あなたも幼少期にはドラムをプレイしていたそうですね。ジャズのバックグラウンドがラッパーとしての活動に活きていると感じることは何かありますか?

Le$:ジャズの背景がラップへのアプローチに影響を与えているとは確かに感じている。音楽に込めたニュアンスから、ビートの選択、音楽のリリース方法に至るまでだね。ジャズアーティストは、よりまとまった作品を作ることに力を注いでいて、それぞれに独自の世界がある。俺がラッププロジェクトに取り組む方法はそういうところで養われたよ。

―ノースカロライナにも一時期住んでいたそうですが、時期としては何年頃ですか? また、その時に触れた音楽についても教えてください。

Le$:確か1999年くらいにノースカロライナのグリーンズボロという町に短期間住んでいたんだ。あそこでは本当にみんながバスケをプレイしていたね。みんな東海岸の音楽を聴いていたんだけど、俺はキャッシュ・マネーやノー・リミットに夢中で、みんなにボロボロに言われたことを覚えているよ(笑)。

―あなたはニューオーリンズで生まれ、ノースカロライナに住んでいた時期もありますが、音楽に一番強く表れているのはヒューストンの色だと感じます。やはりヒューストンのヒップホップには、ほかの地域のヒップホップよりも特別な思い入れがあるのでしょうか?

Le$:ヒューストン、テキサスで過ごした時間は、ニューオーリンズや他の地域で過ごした時間よりもずっと長いんだ。特にグリーンズボロは6か月ほどしか住んでなかったしね。テキサスは人生の30年以上住んでいる場所だから、俺の音楽では間違いなくヒューストン・サウンドを聞くことになると思う。

ヒューストンにはラップやヒップホップの独自の世界があるんだ。スラブやスクリューとか様々な独自の文化があって、俺たちはここで独自のことをやっている。テキサスのレジェンド達は別のレベルにいるように俺は感じているよ。この街はここに来るすべての人に感動を与える魅力があると思っている。

―あなたのミックステープやアルバムなどのアートワークの多くには車が写っていますよね。あなたの音楽と車の結び付きについて教えてください。

Le$:テキサス、アメリカは車社会で、どこに行くにも車に乗るし、車に乗ると必ず音楽を聴くからね。個人的にも車が大好きなんだ。ほとんどすべてのタイプの車が好きだから、同じものが好きな人のために、自分が夢中になっているものを(アートワークに)載せたいと思っているよ。




―私があなたのことを知ったのは2008年か2009年頃に音楽ブログをチェックしていて聴いたシングル「Sittin Low」がきっかけでした。あなたは「ブログ・エラ」と呼ばれる時期(※2007~2012年頃)に人気を集めたラッパーの一人ですが、名前が広まり始めた当時の心境や、何か印象に残ったエピソードを教えてください。

Le$:ブログ・エラは、そこにポストされていることがクールな時代だったね。誰かが自分の作品を投稿するのを見るのはドープな気分だった。OnSmashのブログに載って成功したような気分になったのを覚えているよ(笑)。自分の作品がブログからブログへと広がり、リアルタイムで成長していくのを感じるのは気持ちが良かったね。

―同時期(ブログ・エラ)に人気を集めたラッパーで、刺激を受けたラッパーや交流のあったラッパーには誰がいましたか?

あの頃沢山の人たちと一緒に仕事をしたり、関係を築くことができたのはラッキーだったよ。ビッグ・クリット(Big K.R.I.T.)、カレンシー(Curren$y)、ドム・ケネディ(Dom Kennedy)、フレディ・ギブス(Freddie Gibbs)、スターリー(Stalley)、スモーク・DZA(Smoke DZA)、マック・ミラーとか他にも沢山のアーティストと繋がったね。ニプシー(・ハッスル)も当時のお気に入りの一人だったよ。





―近年のあなたの作品によく関わっているタヴァラス・ジョーダンとはどのようにして繋がりましたか?

Le$:仲間のモンロー・フロー(Monroe Flow)とフィーチャリングした時が彼のビートだったんだ。制作の時に彼に連絡を取ったら、タヴァラスがドープなビートを沢山送ってくれて。その時から近い距離感で制作しているよ。タヴァラスの才能はクレイジーで、めちゃくちゃ努力家な男だよ。多分俺の知り合いの中で一番(笑)。

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左からタヴァラス・ジョーダン、Le$

―タヴァラス・ジョーダンのどのようなところが素晴らしいと思いますか?

Le$:彼にはスペシャルな才能があり、音楽に対する姿勢が本当にすごい。成長するために常に学び吸収する姿勢があるんだ。自分にインスピレーションや影響を与えるものを研究し、深く掘り下げ、それを取り入れて自分のものにしているところが素晴らしいと思う。

―タヴァラス・ジョーダンやミスター・ロジャースとは、いつも一緒にスタジオに入って制作しているのでしょうか?

Le$:タヴァラスはノースカロライナに住んでいるから連絡をよく取るけど、ビートはいつも送ってくれるね。いきなりビート5個送ってくれた翌日に7個追加で送ってくれるみたいな(笑)。

ロジャースとは、制作を始めた頃からスタジオで一緒に仕事をしてきた。ロジャースが初めて俺を本物のスタジオに入れ、本物の制作に携わらせ、ミックスしてマスタリングしてプロフェッショナルに仕上げてくれたんだ。約15年間、一緒にこのサウンド、雰囲気、音楽の風景全体を彼と一緒に作ってきたよ。

ヒューストン・ヒップホップの先人への敬意

―最新作は『Settle 4 Le$』シリーズ第三弾ですが、『2』が2011年リリースでそこから12年が経っています。今続編を作ろうと思ったきっかけを教えてください。

Le$:『Settle 4 Le$』シリーズは、常に俺とロジャースがすべての制作、またはほとんどの制作をやっているものなんだ。Vol. 1は俺にとって音楽シーンへの名刺代わりだった。今回最初の数曲に取り組んだ時に、タイトルがぴったりで、シリーズを続けるには良い時期だと感じたんだ。

―「Settle 4 Le$ 3」は全曲をミスター・ロジャースがプロデュースしたコラボ作品です。ミスター・ロジャースとのプロジェクト単位でのコラボはこれまでにも行ってきていますが、タヴァラス・ジョーダンとの出会いもあった今、それに再び取り組んだのはどういう流れがあったのでしょうか?

Le$:最近はタヴァラス、ロジャース、カード(Cardo)、ハッピー・ペレス(Happy Perez)といった多くのプロデューサーと仕事をしているんだけど、プロジェクト毎に違う雰囲気を持たせるために常にプロデューサーを切り替えたいと考えているんだ。一人のプロデューサーが担当する場合もあれば、異なるプロデューサーが担当する場合もあるよ。



―『Settle 4 Le$』もそうですが、昨年リリースの『Bigger in Texas』ではスリム・サグとキラ・カイリオン(Killa Kyleon)が参加していますよね。収録曲「Candy Blue」でマイク・ジョーンズの名曲「Still Tippin」と同じスリム・サグのラップをサンプリングしていたり、「What it iz」のビートがスリム・サグのアルバム『Already Platinum』でのザ・ネプチューンズのビートに通じるものだったり、ブートレグ・エディションでの「Heavy in the game flow」がスリム・サグの名曲「3 Kings」ネタだったりと、2000年代のヒューストン・ヒップホップを思い出すような要素が多く感じられました。これらの取り組みには何か狙いがあるか、もしくはその時期のヒューストンのヒップホップを振り返る機会があったのでしょうか?

『Bigger in Texas』はすべて狙っていたんだ。スリム・サグは大好きなラッパーの一人。スリムは弟のレイフェイスと一緒に俺を発掘してくれたラッパーで、ミスター・ロジャースは彼のDJだったんだ。『Already Platinum』は大好きなアルバムの一つで、サウンドとヴァイブの源の一部なんだ。『Bigger in Texas』はスリムへのちょっとしたトリビュートで、俺にとっての『Already Platinum』だね。





―昨年は「Le$ is more」のVol. 2のリリースもありました。あの作品についても教えてください。

Le$:あのシリーズは大きなプロジェクトを終えるまでの間、リスナーの皆にフレッシュにいてほしくて新しい音楽を届けるためにドロップしたんだ。



―4月には『Midnight Club』(2017年)収録の「45 South」と「Top Down」のレコードが出ますが、この2曲についてのエピソードを教えてください。

Le$:この2曲は、テキサスの人たちに愛されているアルバム『Midnight Club』からの曲。俺自身も大きな2曲で、車でひたすら流してH・タウン(ヒューストンの愛称)の雰囲気を掴むのに最適な曲だと思うよ。




―今年はミックステープ『Steak X Shrimp, Vol. 1』のリリース10周年にあたります。あなたは「Steak X Shrimp」という言葉をその後もたびたび使っており、今回の日本ツアーのタイトルも「Steak X Sushi」ですが、あの作品はあなたにとって重要な作品だったのでしょうか?

Le$:南部の人達は、お金を稼ぐとステーキとシュリンプを食べるとよく言うんだ。あのネーミングは、より高い志と目標を求めるというストイックな姿勢を表している。「Steak X Shrimp」シリーズは最初のブランドだから、これからも自分にとって最も重要な名前だね。



―あなたは2000年代後半から人気を集め始め、気付けば10年以上に渡って活躍するベテランになっていますよね。現在テキサスのシーンではドン・トリヴァーやミーガン・ザ・スタリオンの活躍があったり、ビッグXザプラグ(BigXThaPlug)やザット・メキシカン・OT(That Mexican OT)が注目を集めたりと、また盛り上がりつつあるように思います。あなたは今のテキサスのシーンに関してどう感じていますか?

Le$:昔も今もテキサスのシーンが大好きだね。皆がクレイジーな才能に溢れていて、自分の持ち味を持っているんだ。メキシカン・OTは大好きだね。彼はすでにスターだけど、もっともっとデカくなってくれると思っているよ。前の質問でも言ったけど、テキサスは独自の世界があって本当に沢山のアーティストが活躍しているんだ。

―バン・Bが昨年「ヒューストンではオールドスクールのアーティストがほかの都市よりもリスペクトされている」と語って話題になりましたが、あなたの作品からもヒューストン・ヒップホップの歴史への敬意が感じられます。ヒューストンがそのような地になったのはなぜだと思いますか?

Le$:俺達のオールドスクールな先人達はリヴィング・レジェンドだよ。スカーフェイスが世界中の偉大なラッパーのお気に入りのラッパーであるようにね。彼らは誰もが単なる「過去の時代の有名人」ではなくて、今も強打者でやり続けていて高いレベルで活躍しているからだと思う。

―あなたはバン・Bなど上の世代のラッパーとの制作を多く行ってきていますが、レジェンドとの共演を通して学んだことは何かありますか?

Le$:バンとのコラボレーション・プロジェクト(2021年リリースのEP『Distant』)は制作することができて光栄だったよ。何年も親密な関係だけど、バンは間違いなく俺の家族であり学ぶこと多き指導者だと思っている。挙げるのはキリがないくらい学んだことが沢山ある。あと、スリム・サグから学んだことは無限だね。



―あなたはスリム・ゲリラ(Slim Guerilla)やラリー・ジューンなど、リスナーが「共演してほしい」と思うようなラッパーとの共演を絶妙に実現させてきていると思います。今後共演曲が出る予定のラッパーや、今気になっているラッパーはいますか?

Le$:彼らとは自然な流れでリンクして、フィーリングが合って音楽を作ったんだ。音楽を作るためには人としてフィーリングが合うかが重要だと思う。常に自然な流れに沿っているだけなんだ。

―これまでにも来日公演を何回か行っていますが、SNSを見る限り毎回楽しそうに過ごしていますよね。今回の来日で何か楽しみにしていることはありますか?

Le$:いつも日本に来るのを楽しみにしているし、日本は海外で一番好きなんだ。ここにいる仲間、人々は皆とてもクールで大好き。景色と食べ物も大好きだし、ただ日本を体感することが本当に楽しみだね。

―あなたは多作なアーティストですが、今年も何か新作が聴けるのでしょうか? もし準備中でしたら、どんな作品になるのか可能な範囲で教えてください。

Le$:今年は沢山リリースする予定だよ。昨年は『Settle 4 Le$ Vol.3』で終わったばかりだけど、ミスター・ロジャースとタバラ・ジョーダンからさらにビートが来る予定だし。ボス・ホッグ・アウトロウズ(Boss Hogg Outlawz。スリム・サグやLe$らが所属するコレクティヴ)、スリム・サグとキラ・カイリオンとの新曲にも取り組んでいるよ。

そして、ファミリーであるIITIGHTMUSICのSHUと一緒にスペシャルな作品「STEAK X SUSHI」を作ったよ。ツアー会場先行でのリリースになるから皆に来てほしいね。



「LE$ STEAK X SUSHI RELEASE JAPAN TOUR」
2024年1月19日(金)CLASSIX 町田
2024年1月20日(土)DESEO 渋谷
2024年1月21日(日)SOUND BAR LIBERA 大阪

詳細・チケット・購入:https://www.2tight.jp/shopdetail/000000025500



Le$
「45 South / Top Down」7inch
詳細:https://anywherestore.p-vine.jp/products/p7-6399

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