問題児に「苦痛」を与え更生せよ 「地獄のキャンプ」から見る非行更生プログラム 米
Rolling Stone Japan / 2024年1月18日 8時10分
独房での監禁。強制労働。虐待。トラウマ。まるで米・連邦刑務所での長期収監のようにも聞こえるかもしれないが、全米の更生施設で13歳になったばかりの子どもたちを待ち構えるのはこんなものではない。我が子が問題児だと考える親たちに、更正キャンプは問題解決を約束する。だが和解や係争中あわせて数十件にのぼる裁判からもわかるように、手に負えない問題児の更正プログラムは上手くいかないばかりか、場合によっては死者も出している。
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Netflixの最新ドキュメンタリー『地獄の更生キャンプ』では、こうしたプログラムの誕生から、最終的に裁判沙汰になって閉鎖されるまでが描かれている。退役軍人で実業家の故スティーヴン・カルティサーノ氏が設立したChallenger Foundationは、大自然でのサバイバルプログラムを謳い文句に、「手に負えない」子どもや「悪知恵の達人」をユタ州の砂漠で無理矢理500マイル歩かせ、次世代リーダーに更正させることを目的としていた。このプログラムは1980~90年代に人気を博したが、10代の若者が死亡し、度重なる虐待疑惑が浮上、1994年には連邦訴訟で訴えられ、和解の末に閉鎖された。カルティサーノ氏はChallengerの閉鎖後も、HealthCare AmericaやPacific Coast Academyといったティーンエイジャー更正キャンプを新規に立ち上げたが(どちらも虐待疑惑を受けてのちに閉鎖)、業界では名の知れた存在だったため、同氏が破産して最終的にこの世を去った後も、更正キャンプの活況は続いた。
アメリカの非行少年更正業界は、軍隊式訓練や治療センター、大自然プログラム、宗教系の学校で構成される1億ドル規模の市場だ――州法と連邦法が統一されていないがゆえに、規制が緩く、監視も行き届いていない。こうした施設の目的は単純明快だ。子どもが問題を抱えている? 夜更かし? ドラッグ? よからぬ連中との付き合い? 口答え? 引きこもり? だったら更正プログラムへどうぞ。規律の下で根性を叩き直します。たいていはまず子どもたちを夜中に自宅から連れ去って、好きなものから無理矢理引き離し、ありがたみを感じさせるまで怖がらせる。だが、組織的虐待の被害者救済を目的としたNPO「全米青少年の権利協会」によると、懲罰や体罰での行動矯正にもとづく規律訓練プログラムの場合、非行を繰り返す確率が8%も高いという。一方で、認可を受けたカウンセリングでは常習性が13%減少することが分かっている。
「社会での上手なふるまい方を子どもに教えたいなら、外の世界から完全にシャットアウトして、無秩序なルールやいつ厳しい懲罰が飛んでくるかもわからない環境に閉じ込め、絶えず恐怖の中で生活させるのはナンセンスです」。ワシントンDCにあるメンタルヘルス法バゼロンセンターの広報を務めるジュリア・グラフ氏は、かつてローリングストーン誌の取材でこう語った。「たいていの子どもは退所後にもっと素行が悪くなります」。
更正センターの実効性の低さに加え、プログラムに参加した問題児は別の問題にも直面する。高い虐待率だ。しばしばこうしたキャンプに参加した子どもたちは、訓練を受けていないスタッフから非情な扱いを受けることになる。『地獄の更正キャンプ』でも、ハイキングを拒否した元生徒が、ロープで岩間を引きずられ、数十カ所に擦り傷などを負ったと警察に通報するシーンがある。別の参加者は、カルティサーノ氏がサモアで運営していたPacific Coast Academyで両手足を縛られ、村の酋長から性的暴行を受けたが、職員は聞く耳を持たなかったそうだ。2007年には米国会計検査院が1990~2007年に運営されていたプログラムを調査し、数千件の虐待疑惑があったとの報告書を公表した。2022年にソルトレイク・トリビューン紙が行った調査によれば、2018~2021年の期間中に13人の青少年更正センターの職員が、性行為または性的暴行の疑いで解雇または辞職したという。またローリングストーン誌も2023年、拘束や断食、マインドコントロールといった拷問に近い仕打ちを受けたという生徒の主張をすっぱ抜き、ミズーリ州にあるキリスト教系のアガペ寄宿舎学校を閉鎖に追い込んだ。
場合によっては、施設で受けたトラウマで死に至るケースもある。16歳のクリステン・チェイスさんがハイキング後に心臓発作を起こして死亡したのを受け、遺族は1990年にカルティサーノ氏とChallengerを訴えた。ユタ州の青少年向け牧場Tierra Blancaでは、当時18歳のブルース・シュテーガーさんが走行中のトラックから放り出されて死亡し、複数の指導員が2014年に暴行罪で起訴された――遺族とキャンプの他の職員は、殴打や断食など数週間に及ぶ暴行が原因だと主張している。
2021年には大富豪の令嬢でメディアを賑わすパリス・ヒルトンが議会で証言し、集団更正施設に入所する若者の権利を保護する法案を支持した。10代の時に問題児とみられていたヒルトンは、似たようなキャンプに参加した際に受けた過酷なトラウマを語った。
「ユタ州プロヴォキャニオン・スクールでは、番号札のついたユニフォームを渡されました。もはや私は私ではなくなり、127番という番号でしかありませんでした。太陽の光も新鮮な空気もない屋内に、11カ月連続で閉じ込められました。それでもましな方でした」とヒルトンは証言した。「首を絞められ、顔を平手打ちされ、シャワーの時には男性職員から監視されました。侮蔑的な言葉を浴びせられたり、処方箋もないのに無理やり薬を与えられたり、適切な教育も受けられず、ひっかいた痕や血痕のしみだらけの部屋に監禁されたり。まだ他にもあります」。(同校は現在も稼働しているが、2000年の買収でオーナーが変わった。ローリングストーン誌は学校側にコメントを求めたが、代表者から返答は得られなかった)
ヒルトンをはじめとする人々は、更正キャンプや問題児産業に関する連邦規制の強化を訴え続けている。こうした慣行を禁止する連邦法はいまだ成立していない。
関連記事:パリス・ヒルトン、15歳の時に薬を盛られてレイプされた過去を暴露
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