ペット・ショップ・ボーイズ「40周年記念ライブ映画」を徹底解説 名曲の数々でキャリアを祝福
Rolling Stone Japan / 2024年1月24日 17時30分
イギリスを代表するデュオ、ペット・ショップ・ボーイズのデビュー40周年を記念して、彼ら史上初のベスト・ヒット・ツアーを収録したライブ映画『ペット・ショップ・ボーイズ・ドリームワールド:THE GREATEST HITS LIVE AT THE ROYAL ARENA COPENHAGEN』が1月31日・2月4日の2日間限定で上映される。音楽ライター・新谷洋子に見どころを解説してもらった。
ヒット曲なら以前からいくらでもあった。だからなぜこのタイミングを選んだのか理由は定かではないが、ニール・テナントとクリス・ロウ=ペット・ショップ・ボーイズ(Pet Shop Boys、以下PSB)は目下、来年にはデビュー40周年を迎えるという長いキャリアにおいて初めてのグレーテスト・ヒッツ・ツアーを敢行中だ。その名も「DREAMWORLD:THE GREATEST HITS TOUR」。残念ながら、現時点ではアジア方面に足を延ばす気配は窺えない同ツアーのライブ・フィルム『ペット・ショップ・ボーイズ ドリームワールド:THE GREATEST HITS LIVE AT THE ROYAL ARENA COPENHAGEN』が、日本を含む世界各地の映画館で劇場公開される。
思えばニールとクリスが2016年発表のアルバム『Super』に伴う「The Super Tour」を、単独では19年ぶりの来日公演で終えたのが2019年4月のこと。その半年後には早くも「DREAMWORLD~」の告知がなされ、次いで最新作『Hotspot』が2020年初めに登場するのだが、5月に始まる予定だったツアーはパンデミックの影響で度々延期され、2022年5月10日にようやくミラノでスタート。昨年末までにヨーロッパと南北アメリカで当初の予定の倍近い約60公演をこなす中(途中2022年秋には北米でニュー・オーダーとのダブル・ヘッドライナー「The Unity Tour」も成功させた)、2023年7月7日にデンマークはコペンハーゲンのロイヤル・アリーナ(約17000人収容)でのソールドアウト公演を、デヴィッド・バーナード(音楽関連の映像作品を専門とするベテラン監督で、PSBの作品ではほかにも2007年の『Cubism』と2019年の『Inner Sanctum』のふたつのライブ・フィルムも手掛けている)を監督に迎え、14台のカメラを用いて撮影。こうしてマルチ・アングルで『DREAMWORLD~』のパフォーマンスを記録したフィルムが生まれたわけだが、まさにグレーテスト・ヒッツ・ツアーであるがゆえに、見せ方を従来とはやや変えている。
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というのも2006年の「Fundamental Tour」から「Super Tour」までの4度のツアーでは、毎回ステージ・ディレクションの第一人者エス・デヴリンとコラボ。最近ではU2のラスベガス公演「Achtung Baby Live at Sphere」やビヨンセの『Renaissance Tour』も手掛けている彼女に、ポップ・ミュージック界で逸早く目を付けて、それぞれのアルバムに準じてモチーフを定め、あらゆるシーンが美しくデザインされたコンセプチュアルなステージを制作。U2やコールドプレイのロック・スペクタクルとも、カイリー・ミノーグやレディー・ガガのポップ・エクストラバガンザとも一線を画す、美意識の高さとアート性に磨きをかけていた。
これに対して今回のPSBは、クリエイティブ・ディレクター兼セット&コスチュ―ム・デザイナーとして、初顔合わせのトム・スカットに白羽の矢を立てた。演劇やダンスから展覧会まで幅広く話題作に関わっている彼が、大物ミュージシャンのツアーを手掛けるのは恐らく初めてだ。トムとPSBは、特に80~90年代前半に重きを置いたシングルずくめの25曲をプレイするにあたり、視覚への刺激には事欠かないものの、何よりもセレブレーションの場として音楽を分かち合い、楽しむことを主眼にした、エンターテイニングなショウを構築している。いみじくもニールがMCで、「これからドリームワールドに、僕らの世界に、音楽と記憶の世界に出かけよう~そこでは、退屈するのは(「Being Boring」)罪なんだ(「Its a Sin」)」と語ったように。
3つのセクションでキャリアを祝福
そんな『DREAMWORLD~』は大きく3つのセクションに分けることができる。まずパート1は、シンプルに、クールに、ほぼブラック&ホワイトでまとめた世界の中に完結。音叉をモチーフにしたマスクをかぶり白いコートを羽織って現れたふたりは、街灯を象ったスポットライトに照らし出され、流れるようにパターンを映し出す帯状のスクリーンを背景に、オープニング曲の『Suburbia』以下7曲を披露してウォームアップしていく。例えば「Where the Streets」から「Rent」へ、「I Dont Know」から「So Hard」へ、メドレー風に切れ目なく曲をつないだりと、誰もが聞き慣れた曲の数々にヒネリを加えながら――。
(C) 2024 Pet Shop Boys Partnership Limited
このあと作業服を着たローディーによるステージ転換を経て、パート2へ。今度のセットは建設現場のようでもあり、衣装を変えて戻ってきたニール&クリスと一緒に、バッキング・シンガーを兼ねた3人のサポート・ミュージシャンも姿を見せる。過去のツアーにも同行したアフリカ・グリーンとシモン・テリエの両パーカッショニストに加えて、見覚えのあるキーボード奏者がいるなと思ったら、ハリー・スタイルズのバンドにいたクレア・ウチマだ(彼女は「Dreamland」ではイヤーズ&イヤーズ=オリー・アレキサンダーの、「What Have I Done to Deserve This?」ではダスティ・スプリングフィールドの代理も務める)。このセクションでは眩しいライトと色彩が加わり、熱量も増して、言わばレイヴ・バンドとしてのPSBを提示。オーディエンスを踊らせるパーティー・モードに、スイッチを切り替える。
そう、マッシュアップに仕立てた「Single-Bilingual」と「Se a Vida é(Thats the Way Life Is)」のサンバ、「New York City Boys」のディスコ、「Its a Sin」のハイエナジーなどなどグルーヴ感に特徴のある曲が詰め込まれ、さながら人通りの少ない通りから、重いドアを開けてクラブの中に入ってきたかのよう。時折客席に向けられるカメラは、長年のファンと思しき世代が目立つオーディエンスが、夢中になって声を張り上げ、体を揺らしている様子を捉え、ニールも饒舌になって曲にまつわるエピソードを随所で披歴。クリスとふたりで初めて一緒に書き上げた曲だという、PSB流パワー・バラード「Jealousy」で一呼吸入れたあと、パート2の後半ではさらにテンションを上げ、メッセージを打ち出すことも忘れない。スターリング・ヴォイドのレイヴ・クラシック「Its Alright」のカバーと、彼らがEDMに急接近した「Vocal」の2曲は、人々をつなぐ音楽の不滅のパワーを讃え、「Go West」と「Its a Sin」では抑圧に抗い、解放を訴える。
(C) 2024 Pet Shop Boys Partnership Limited
残るはパート3のアンコール。パート1のモードに立ち返り、再びふたりだけが街灯に照らされて、ステージに立つ。しかも、ニールはフォーマルなロングコートとネクタイ、クリスはBOY LONDONのキャップとレザー・ジャケットに身を包み、80年代の彼らのアイコニックなファッションで40年の時を巻き戻し、デビュー・シングル「West End Girls」(”From Lake Geneva to the Finland station”を”From Mariupol to Kyiv Station”と変えて、ウクライナに想いを馳せていた)と、もしかしたらPSBのベスト・シングルかもしれない「Being Boring」で幕を引く。エイズで亡くなった友人への追悼を込め、若い頃を回想して時間の経過を歌う「Being Boring」はツアーの趣旨を鮮やかに切り取っているとはいえ、輝かしいキャリアのレトロスペクティヴをこんなにも切ない曲で締め括るというのがなんともPSBらしい。
ちなみにこのコペンハーゲン公演に先立って彼らは、1991年の『Discography』以来のシングル・コンピレーションで、35年分・55曲の全シングルを網羅する『SMASH:The Singles 1985-2020』を発売。「DREAMWORLD~」ツアーのコンパニオン的なリリースとなったわけだが、トラックリストを一瞥すれば、25曲プレイしてもまだまだ名曲・代表曲がたくさん残っていることを思い知らされる。そして春にはツアーを再開する一方、これまで3作品でコラボしたスチュアート・プライスに代わって(ツアーのミュージック・プロデューサーもスチュアートだ)、ジェイムス・フォードをプロデューサーに起用した15枚目のアルバム発表が控え、となると間もなく56曲目のシングルも聞けるはず。夜な夜な過去を振り返って自分たちの足跡を辿りながらも、ニールとクリスは同時に、しっかり未来を見据えていたのだ。
『ペット・ショップ・ボーイズ・ドリームワールド: THE GREATEST HITS LIVE AT THE ROYAL ARENA COPENHAGEN』
2024年1月31日(水)、2月4日(日)2日限定 TOHOシネマズ 日本橋ほか公開
※東京・大阪は1月31日〜2月4日(木)まで続映
鑑賞料:2500円一律
監督:デヴィッド・バーナード
出演:ペット・ショップ・ボーイズ
本編尺:約115分
収録:2023年7月7日 ロイヤル・アリーナ(コペンハーゲン)
©2024 Pet Shop Boys Partnership Limited
公開作HP:https://www.culture-ville.jp/psb
海外オリジナルHP:https://psbdreamworldlivefilm.com
〈セットリスト〉
Suburbia / サバービア
Can You Forgive Her? / キャン・ユー・フォーギヴ・ハー?
Opportunities (Let's Make Lots of Money) / オポチュニティーズ
Where the Streets Have No Name (I Can't Take My Eyes Off You) / ホエア・ザ・ストリート・ハズ・ノー・ネーム/君の瞳に恋してる
Rent / レント
I Don't Know What You Want but I Can't Give It Any More / アイ・ドント・ノウ・ホワット・ユー・ウォント(バット・アイ・キャント・ギヴ・イット・エニイ・モア)
So Hard / ソー・ハード
Left to My Own Devices / レフト・トゥ・マイ・オウン・ディヴァイセズ
Single-Bilingual / Se a vida é (That's the Way Life Is) / シングル~セ・ア・ヴィダ・エ~幸せの合言葉
Domino Dancing / ドミノ・ダンシング
Monkey Business / モンキー・ビジネス
New York City Boy / ニューヨーク・シティ・ボーイ
Jealousy / ジェラシー
Love Comes Quickly / 恋はすばやく(ラヴ・カムズ・クイックリー)
Paninaro / パニナロ
Always on My Mind / オールウェイズ・オン・マイ・マインド
Dreamland / ドリームランド
Heart / ハート
What Have I Done To Deserve This / とどかぬ想い
It's Alright / イッツ・オーライト
Vocal / ヴォーカル
Go West / ゴー・ウエスト
It's a Sin / 哀しみの天使
West End Girls / ウエスト・エンド・ガールズ
Being Boring / ビーイング・ボアリング
〈公開劇場〉
北海道)TOHOシネマズ すすきの
宮城)TOHOシネマズ 仙台
東京)
TOHOシネマズ 日比谷
TOHOシネマズ 新宿
TOHOシネマズ 六本木ヒルズ
TOHOシネマズ 日本橋(※1/31(水)〜2/8(木)まで特別上映)
TOHOシネマズ 池袋
TOHOシネマズ 立川立飛
吉祥寺オデヲン
栃木)TOHOシネマズ 宇都宮
埼玉)TOHOシネマズ ららぽーと富士見
千葉)
TOHOシネマズ 流山おおたかの森
TOHOシネマズ 八千代緑が丘
神奈川)
TOHOシネマズ ららぽーと横浜
TOHOシネマズ 川崎
静岡)TOHOシネマズ ららぽーと磐田
愛知)TOHOシネマズ 赤池
大阪)
TOHOシネマズ 梅田(※1/31(水)〜2/8(木)まで特別上映)
TOHOシネマズ なんば
TOHOシネマズ ららぽーと門真
兵庫)TOHOシネマズ 西宮OS
京都)TOHOシネマズ 二条
岡山)TOHOシネマズ 岡南
福岡)TOHOシネマズ ららぽーと福岡
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