「なぜ校舎に入らなかった?」...米ロブ小学校銃乱射事件、遺族の悲しみと怒り
Rolling Stone Japan / 2024年2月1日 7時45分
米・ロブ小学校での銃乱射事件発生からほぼ2年、司法省は警察当局の対応が「至らなかった」とする報告書を公表した。
【動画を見る】犯人が30分近く発砲を続ける中、右往左往する警察官たち
2022年5月24日、銃を持った男がテキサス州ユバルディ市のロブ小学校に侵入し、5年生の生徒19人と教師2人を射殺した――そのうちの1人がヴェロニカ・テスさんだった。犯人は突入した警察に射殺されるまで、1時間以上も校内に立てこもった。校舎の外では取り乱した親や家族が警察に詰め寄り、警察はバリケードを張って中に入ろうとする保護者を止める一方、校内では子どもたちがなんとか助けを呼ぼうとしていた。事件から約2年、司法省はユバルディ乱射事件での警察当局の不手際をまとめた詳細な報告書を発表した――その内容は実に忌まわしい。
ついに報告書が公表されたことで事件への関心が再び高まる中、母親のマタさんは壁にかかったテスさんの遺影をじっと見つめ、戦い続けることを誓った。「テスは戦う子でした」とマタさん。「あの子たちがあんな目に遭っていいはずがない。本来なら、今もこの世で生きていたのに」。
1月17日夜にメリック・ガーランド司法長官が遺族と面会し、翌木曜の午前に報告書が一般公開された。複数のメディアが入手した報告書のコピーには、「一言で言うなら、2022年5月24日ロブ小学校で発生した大量殺害事件への対応は失策だった」と書かれていた。
「本報告書に記された痛ましい教訓は、すでに悲劇を生んでいる状況を悪化させたり、5月24日から数日間、数週間、数カ月間の出来事で直接被害を受けた人々の痛みやトラウマを蒸し返すのが目的ではなく」、むしろ「直接被害を受けた人々に答えを提示するとともに、学ぶべき教訓や勧告を国内に広めるのが目的である」と報告書には書かれている。
これとは別に、2022年にテキサス州下院議会が行った調査も同じような結論に至り、甚大な死者を出した原因は「組織としての失敗と許されざるお粗末な意思決定」だったと非難した。「駆けつけた警察当局は、乱射事件対策訓練に従わず、罪のない被害者の救出よりも自分たちの身の安全を優先した」と、テキサス州議会の報告書は厳しく分析した。
今回の報告書に対し、遺族は複雑な心境だ――ようやく答えが出たことに安堵しつつも、悲しみと怒りは計り知れない。「すでに周知の事実が司法長官自らの口から聞けたので、多少の正義が果たされました」と、キンバリー・マタ・ルビオさんはローリングストーン誌に語った。複数の遺族が設立したNPO団体「Lives Robbed」で会長を務めるマタ・ルビオさんは、事件で10歳の娘レキシーさんを亡くした。
「複雑な気持ちだと思います。でも、やっぱり一番大きいのは怒りですね」と彼女は続けた。「報告書には挙がっていませんが、常識的な銃規制法案を施行できない連邦政府の過失でもあります」。2023年、マタ・ルビオさんは銃規制を公約に掲げてユバルディ市長選挙に出馬。落選したものの、公職への立候補はあきらめていないという。
ヴェロニカ・マタさんにとって、報告書は古傷を広げて怒りをかきたてる結果となった。「なぜ校舎に入らなかったのでしょう?」と、警察当局についてマタさんは言った。「本人たちから話を聞きたい。なぜあんな決断をしたのか、教えてもらいたい。自分たちに非があったと認めてもらいたい」。
多くの遺族がそうであるように、マタ・ルビオさんも答えのない問いが頭から離れずにいる。「娘はどのぐらいまで生きていたのでしょう。早くに殺されたのか、それともじっと待機して怯えていたのか」と言うマタ・ルビオさんは今でも毎日娘に語りかけているという。「今日は娘のために、ひとつ任務が果たされました。娘も喜んでいるといいのですが」。
ヴェロニカ・マタさんも同じような悲しみや混乱を抱いている。「テスは最初のほうで殺されたのか、それともずっとずっと最後の方だったのか。それを思うと、みぞおちの辺りが痛くなります。ひょっとしたら娘を救える可能性があったかもしれない。警察は全力を尽くしてくれなかった」。
事件の後、ユバルディ警察は事件発生から最終的に犯人を射殺するまでの77分間、実際に校内で起きた出来事について矛盾する説明を発表した。事件から1カ月以上が経過した2022年7月12日、オースティン・アメリカン・ステーツマン紙が校内の監視カメラの映像を公開し、警察は事件発生から3分後には校内にいたことが判明した。犯人が30分近く発砲を続ける中、戦術装備や盾で武装した警察官は突入方法を巡って言い争っていた。
映像には警察当局が携帯メールを送ったり、電話を掛けたり、壁に取り付けられた消毒液で手をこすり合わせる姿が映っていた。拳を突き合わせて挨拶をかわし、犯人が立てこもっている教室の鍵を探し回っていた。その間教室に閉じ込められた子どもたちは、負傷した同級生や教師や射殺体に囲まれながら、何度も緊急番号に通報を試みていた。
ユバルディ警察のピート・アレドンド署長は2022年8月、ユバルディ教育委員会の全会一致で解雇が決定した。同年10月にはユバルディ学区管轄の警察部門の職員全員が停職処分となった。
事件を受けてロブ小学校は廃校。2022年6月には市より校舎の解体が発表された。ユバルディ市のドン・マクローリン市長は解体決定について、「子どもたちや教師に、あの学校へまた通えとは言えません」と述べた。
校舎はいつかなくなるだろうが、我が子や愛する者を失った遺族の痛み、コミュニティに刻まれた傷が消えることはない。
報告書から遺族は何を望んでいるのか。マタ・ルビオさんが求めているのは説明責任だ。「地元行政には報告書を読んで、勧告をしっかり検討していただきたい。そして責任のある警察官を懲戒処分にするとか、刑事起訴するとか、二度と同じことが起きないよう政策を改めるとか、行動で示してほしい」。
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