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Novel Core武道館公演を総括 「何者でもない自分」が「誰かを救うヒーロー」になるまで

Rolling Stone Japan / 2024年2月4日 20時0分

Novel Core(Photo by Satoshi Hata)

2024年1月17日。東京・日本武道館。Novel Coreが「メジャーデビューから3年以内に武道館をやる」という夢を叶えた日。Novel Coreの22年間のライフストーリーを描いてみせた約2時間半。独りよがりで、大馬鹿者で、問題児で、エラーとして扱われた存在が、自分にとってのヒーローの背中を追いかけて、誰かのヒーローになるまでのストーリー。それを彼は余すことなく描き切った。

【写真をまとめて見る】ライブの様子

Novel Coreは自分にとっての夢である初の日本武道館公演を、新曲でスタートさせて、新曲で終わらせた。通常のライブの作り方でいえば、みんなが知っていて会場のボルテージが一気に上がるような曲を1曲目に置く。そうしなかったことこそ、「一般的には」と言われることを飛び越えた選択を重ねてきたNovel Coreの生き様の表れであり、ここが到着点ではなくまだまだ描きたいものがあるということの明確な提示でもあった。彼はこの先、音楽界における唯一無二のスターに、革命家と呼ばれるような存在に、自身を押し上げていくつもりだ。その道中では、ここまでの歩みを知らない人がNovel Coreと出会う機会もたくさんあるだろう。だから今ここに、「Novel Coreが初の武道館公演で描いた22年間のストーリーとは何だったのか?」を記しておこうと思う。これからNovel Coreと出会う人が、Novel Coreのこれまでを知ることができるように。

『ONEMAN LIVE -I AM THE- at BUDOKAN』とタイトルが発表されていた本公演は、大きく分けると「これまで」と「これから」を表現する2つのパートが、細かく見ると4つのパートが、それぞれ連なるように流れていった。最初は、最新曲「I AM THE」で15歳から現在までに手にした自信を堂々と見せて、「WAGAMAMA MONDAIJI」「BABEL」「JUST NOISE」「TROUBLE」、claquepotとの共作で音楽業界や社会をチクリと刺す「blue print」などを挟み、インディーズ1stシングル「Metafiction」へと続いたパート。Novel Coreの人生を振り返ると、「WAGAMAMA MONDAIJI」で歌っている通り、青春/学生時代から学校や世の中の「こうあるべき」や「杓子定規」とされるものに馴染めないことに苦しんでいたという。そして高校生になると家でラップを始めて、のちにMCバトルや路上ライブ、さらに2017年(当時16歳)には「高校生RAP選手権」に参加。高校を中退して退路を断ち、アーティストになることに人生を懸けたが、早々に出鼻を挫かれる想いを経験する。この日のMCでも当時についてこう語った――「高校生RAP選手権に出て、準優勝したあと優勝して、一気にたくさんの人の注目を浴びるようになって、すごく嬉しかったんだけど、同時にびっくりするくらい厳しい言葉が増えました。今までは俺が何か言ったらバコーンって湧いていた会場が、急に湧かなくなった」。理解者や味方などいないと思い込み、感情もうまくコントロールできずに愛する家族にまであたってしまい、家から出ていく夜もたくさんあった。さらにはラップ業界から批判が多く苦しいときに父親が他界。生きることから逃げ出したくなる日もあった。


Photo by Satoshi Hata


Photo by Satoshi Hata

批判が集まったのは、一言で言えば、ラップ/ヒップホップ業界においてNovel Coreのスタイルはそれまでにないものだったからだ。でも彼はその批判を、孤独を、アーティストストーリーの脚本の一部として扱うことに決めた。1stアルバム『A GREAT FOOL』では普通からはみ出して賢く生きられない「大馬鹿者」を主役にし、2ndアルバム『No Pressure』で業界や他人から嘲笑われても忖度も迎合もしない自身とその心意気を「TROUBLE」「JUST NOISE」と表して、次作のEP『iCoN』ではエラーとされた存在が新世代の象徴になっていく様を体現した。









「異端児」からの「王道」を目指して

音楽に限らずどの分野においても、新しい熱狂は「異端児」と呼ばれる人たちが作ってきた。誰にも理解されなくても、たった一人の人間が狂気を持ち続けた先で多くの人が巻き込まれて、普遍的な利便性や喜びなどを超えた「熱狂」が、もしくは「革命的」と呼ばれるものが、この世に誕生する。Novel Coreはその道筋を信じてここまで歩んできたのだ。その過程において、ずっと強く逞しく美しく在られたわけでは決してない。メジャーデビュー直後に抱えきれなくなって休みを取ったこともある。1stアルバムではまだ、不貞腐れたような感覚で歌詞を書いているところがあったとインタビューでも語ってくれた。そうして人間くさい弱さを抱えながらも、一つひとつ努力を積み重ねてここにたどり着いた事実が、武道館のステージの前に集まった人たちの背中を押していた。

「生きていると、何かやろうとすると、いろんな人からやっかみとか嫌味を言われたりすると思うんだけど、俺のことを応援してくれるみんなには気にしないでほしいです(中略)これだけは絶対に誰にも負けないって言い切れる武器を、ひとつでも見つけるためだけに一生を使ってください。少なくとも俺はそういう生き方をしていきます。そんな俺の武器は何だと思う? ラップ? ファッション? 歌? 最近始めたダンスですか? 全部違うね。俺の武器はたったひとつ。どんなに不可能といわれるような物事に直面したときでも、ほくそ笑みながら直進していく、この大馬鹿っぷりだよ」


Photo by Satoshi Hata


Photo by Satoshi Hata

中盤の「BYE BYE」からは、そんな彼がこの先で唯一無二の音楽スターになっていくことを音そのものでガツンと証明していった。タオルを振り回すポップパンク「BYE BYE」、Novel Coreなりの新感覚ミクスチャーロック「独創ファンタジスタ」、高いラップスキルを炸裂させる「DOG -freestyle-」、ボーイズグループにいる自分を想定して作った曲でダンスも披露した「TYPHOON」、さらにはサプライズゲストで山中拓也(THE ORAL CIGARETTS)が飛び入り参加したボカロ色の強い「カミサマキドリ」など、Novel Coreにはここまで見せてこなかった音楽ルーツがあり、人々をエンターテインさせるための表現手法をまだまだ備えていることを示す。



終盤に差し掛かるところで、メジャーデビュー曲「SOBER ROCK」を歌い終えて、ファンへの想いを語ったあと、Novel Coreにとってのヒーローに向けた言葉が伝えられた。そう、SKY-HIだ。厳しい状況に立たされていた2017年を振り返って、Novel Coreはこう語った。

「当時の俺の救いだったのは、先輩アーティストの存在でもあった。SKY-HIというアーティストがいるんです。日高さん(SKY-HI)との出会いが俺を変えてくれました。理解者とか、味方してくれる人とか、俺のことを大切に思ってくれる人の数が、本当に少なかったのね。俺のことなんかみんなどうでもいいんだって思ってた。でも日高さんはきっと自分もいろんなことを言われて、それでもめげずに続けてきて今があるから、俺を見たときに何かを感じてくれたんだと思う。声をかけてくれて、仲良くしてくれました。そして2017年。この日本武道館で、SKY-HI名義で、2デイズ、日高さんは成功させたの。俺はちょうど一番しんどかった時期で、世間からもバッシングを受けていたし、毎日のように家出してたんだけど、その映像を画面越しに見て、『ああ、続けていったらこんな景色がいつか必ずくるんだな』って、そう信じて今日まで走り続けてきました。改めてSKY-HIにお礼を言わせてください、本当にどうもありがとうございます」

そうして、当時のNovel Coreを救った大切な曲である、SKY-HIの「Over the Moon」を歌唱した。しかも、2017年のSKY-HI武道館公演『SKY-HI Tour 2017 Final "WELIVE" in BUDOKAN』での「Over the Moon」の演出を丁寧にオマージュし、海外の街並み、レンガの壁、月と星が浮かぶ夜空を映像に映し出す形で(今回Novel Coreのチームにライブ演出担当として加わったKensukeは、当時のSKY-HIの公演でダンサーとしてステージに立っている)。この曲をやることを、チーム一丸となってSKY-HIには内緒にしていたという。私の座席の後ろにはSKY-HIが立っていて、そんなサプライズ演出や、Novel Coreの言葉と満員のファンに囲まれながら逞しくステージに立つ姿に、両手で顔を覆うほど涙を流していた。SKY-HIはNovel Coreと出会ったとき、「当時の自分を見ているよう」だと思ったという。Novel Coreに手を差し伸べてきたSKY-HIにとって2024年1月17日は、SKY-HI自身の人生も肯定された日になったのではないかと思う。


Novel Coreが提示し続ける「新たな正解」

そこからピアノの伴奏に乗せて母親への手紙を歌い上げ「EVE」へとつなげて、これまでたくさんの心配も迷惑もかけた母親への愛と感謝を届けた。そうして自身が幸せになることができた姿をSKY-HIと家族に見せてから、最後のパートへ。

最後は、武道館に立っていたSKY-HIが自分のヒーローであったように、次は自分が誰かのヒーローになるという意志が表現された。「THANKS, ALL MY TEARS」「ジェンガ」には、アーティストを目指す次世代の人たちが映像で合唱に参加(本来はこのステージに上がってもらうことをNovel Coreは思い描いていたが、武道館の厳格なルールなどによってそれは叶えられず、映像での参加となった)。この日合唱で参加した人にとって、この経験が夢に向かい続けるための希望となり、数年後、武道館のステージに立っていたら――そんなことが実現したら、どれだけ素晴らしいだろうか。



ラストの29曲目が歌われる前、Novel Coreはマイクを両手で握りしめて涙を流しながら力強く言葉を紡いだ。それは、この世に味方はいないと思っている人、自分が死んでも世界は変わらず回り続けると思い込んでいる人、ヒーローを探している人に向けたものでありながら、あの頃の自分に語りかけているようでもあった。

「俺がこれだけはどうしても伝えたいってことだけ伝えさせてもらっていい? しんどくなったら人を頼ってください。1人で生きていこうとしないでください。大丈夫だよ。俺は1人でいけるよ。仲間なんかいなくたっていいよ。孤独だって、一匹狼でもいいよ。そうやってひねくれないでください。どんなときでも絶対に理解しようとしてくれてる人はいます。探してください。どんなに悔しいことがあっても、どんなに辛いことがあっても、こいつだったら信じてもいいかなって思える人の存在を探し続けてください。もしも自分の周りにはそんな人いないよって思うんだったら、俺がその1人目になります。俺たちがいくらでも味方します。だから、1人で生きていこうとしないでください」


Photo by Satoshi Hata


Photo by Satoshi Hata

最後に、この日の公演のタイトルが『ONEMAN LIVE -I AM THE HERO- at BUDOKAN』であったことが告げられた。武道館の入り口に掲げられた看板も、終演後にはそのタイトル通りに変更されていた。さらに、翌日にニューアルバム『HERO』がサプライズリリースされた。Novel Coreはこの舞台を踏んで、正真正銘、「ヒーローに憧れていた自分」から「誰かを救うヒーロー」になったのだ。その「誰か」には自分自身も含まれる。派手に転んだ過去を終わりではなく物語の序章にして、幸せなシーンまで走り抜けてきた自分自身。最後に歌われたのは、ニューアルバムのタイトル曲でもある「HERO」。この曲の冒頭では、”本当のことは僕しか知らない”と歌われる。私がここに長々と書いたNovel Coreのストーリーも、彼が表に出したものでしかないし、それを私が解釈して文字にしたものでしかない。彼の本当のストーリーも、心の底にある複雑な感情も、彼自身しか知らない。ただ、そんな中でも私の目線から確かに言えることがひとつだけある。それは、Novel Coreはこの先、ポップシーンにおいて「新たな正解」を生み出しながらさらなる大勢を認めさせるスターへの道を直進していくこと、そしてそのためのセンスや技術だけでなく覚悟と努力ができる才能を十分に鍛え上げてきたということだ。

【関連記事】Novel Coreが語る、期待と後悔を経て手にした「本当の自分」と武道館ライブ、『HERO』の真意

Major 3rd Album
『HERO』
Novel Core
配信中
https://NovelCore.lnk.to/20240118_3rdAL_HERO

LIVE DVD & Blu-ray
『ONEMAN LIVE -I AM THE HERO- at BUDOKAN』
Novel Core
2024年3月27日(水) 発売
https://NovelCore.lnk.to/at_BUDOKAN_LIVEBOX

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