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UAと浅井健一が語る、AJICOの現在地と『ラヴの元型』制作秘話「期待を外さない自信はある」

Rolling Stone Japan / 2024年2月19日 18時0分

UA、浅井健一

3月13日にリリースされるAJICOのニューEP『ラヴの元型』レコーデイング終了直後にインタビューを実施。UAと浅井健一が伝説的バンドの「今」を大いに語る。最新作の完成形を想像しながら読んでみてほしい。

UA(Vo)、浅井健一(Gt、Vo)、TOKIE(Ba)、椎野恭一(Dr)。この4人で2000年に結成され、約1年間を駆け抜けて活動を止めたAJICOは、鍵盤とサウンド・プロデュースに鈴木正人を加えて2021年に再始動。EP『接続』のリリースと「Tour 接続」、それにフジロックなどのフェス出演で、時を超えて鮮やかに再生したことを印象付けた。コロナ禍真っ只中という厳しい時期ではあったが、メンバー全員がAJICOをより良いバンドにすべく結束し、その唯一無二のライブのありようからは彼らがさらに”この先”を見据えているようにも感じられたものだった。

そして「Tour 接続」のファイナルから2年と数カ月(再始動から約3年)。昨年11月にAJICOは突如、全国ツアー『アジコの元型』の開催を発表。コロナの影響が残るなかで前回は断念した人を含む多くのファンを大いに喜ばせたが、それだけではない。バンドはしっかり新しい音源の用意もしていたのだ。

ツアーに先駆け、3月13日にリリースが決まっている全6曲の新EP『ラヴの元型』。そのレコーディングを1月15日の週に終え、ミックスダウンが行なわれている最中だという1月23日に、UAと浅井健一に話を聞いた。ミックス前の音源を聴いてすぐのインタビューであり、この段階では曲順も決まっておらず(※2月9日に発表)、表題も直前に決まったばかり。本人たちもまだ全体像を客観的に捉えることのできていないタイミングではあったかもしれないが、それだけにまた動きだした現在の思いや、新しい楽曲の誕生にあたっての逸話と手応えに対する生々しい言葉を聞くことができたように思う。


AJICOの最新アーティスト写真
左から時計回り:UA(Vo)、浅井健一(Gt, Vo)、TOKIE(Ba)、椎野恭一(Dr)


AJICOは「楽しいから続けたい」

―2023年も、おふたりとも非常に精力的に動いていたという印象です。浅井さんはSHERBETS結成25周年ということで、ライブとリリースをものすごいスピードで重ねていって。SHERBETSで行けるところまで行こうというモードだったわけですよね。

浅井:うん。そうですね。

―UAさんも2022年に引き続き、新しいバンドでライブをたくさんされていました。あのバンドは本当に観る度に進化を感じます。無限の可能性があるバンドだなぁと。

UA:ありがとうございます。すごい嬉しいです。成長を諦めないバンドなので。

―7月にはリキッドルームでSHERBETSとUAさんの2マンもありました。それぞれのバンドで共演する機会は、今まで意外となかったですよね。

UA:1回もなかったんじゃないかな。

浅井:ずっと前にブランキーとミッシェルとUAで、大阪の港のほうのでかいところでやって以来じゃないかな。あのときは盛り上がったね(1999年8月15日、大阪南港で開催されたイベント「RHYTHM TERMINAL」)。

UA:ああ、あったね。あのときの私はルースターズのチームがバックをやってくれて、ロック色も強かったときだったから。

―去年の2マンはやってみてどうでした?

浅井:単純にすごい楽しかったですね。

UA:自分たちはジャンルの違いとか、そういうのまったく関係ないんですけど、「お客さんはどう受け止めるのかな?」って思っていたんですよ。でもみんなえらい楽しそうだったから「なんだ、いいんだ」って。

―どっちも好きという人が意外と多かったようで、すごくいい雰囲気でしたよね。

UA:そうですね。だから楽しかったです。

―で、AJICOをまた始めようという話には、いつなったんですか?

浅井:さっきの取材で判明したんですけど、ちょうど1年前くらいに代々木の蕎麦屋で会議がありまして。そのときに「やろうか」って話になった。ってことをさっき思い出しました。

―2023年はそれぞれの活動をやれるところまでやって、じゃあ次はAJICOだねと。

浅井:そういうことなんでしょうね。

UA:タイミングって大事だよね。私がずっと日本にいるなら、もっとリラックスした感じでやりたいときにやろうってできるかもしれないけど、ずっと日本にいるわけじゃないから(現在はカナダに移住)、前もって決めていかないと動けないんですよ。



―2000年〜2001年にかけてのAJICOを仮に「AJICO1」、2021年に再始動したAJICOを「AJICO2」と呼ぶとすると、今回はどうでしょう。僕は今回のEPの音を聴いて「AJICO3」というよりも「AJICO2」の続きという印象を持ったんですが。

UA:そうですね。「2」はクローズしていないので。2021年の夏に東京でツアーを終えたんですけど、ちょうどチャーリー・ワッツが亡くなったときだったんです。で、一緒に車に乗っていて、いつかは自分たちもフィジカル的にできなくなるときが必ず来るわけだけど、できるうちはやりたいよねって話が出た、ってことを覚えていて。せっかくこうやってお客さんに喜んでもらえているんだから、やめるという選択はまったくないよねって話をした。だから恒久的に続くってことだと自分は思っているんです。そう、だからAJICO2の続き。2のまま。

―2021年のツアーをやりながら、これで終わりというわけではないなと感じていた。

浅井:そうですね。大事なのは、ライブが楽しいと感じられることなので。それが自分のなかにあったから。楽しいライブは続けたいんで。



―2000年~2001年に活動したときは、ふたりでよく喧嘩もして、ツアーが終ると同時にバンドも終わったと、どこかのインタビューで読んだ記憶があります。

UA:若かったからねえ。呑みすぎっていうのもあったかもしれない(笑)。

―それに対して、2021年のツアーは、より互いが互いを尊重しながら心底楽しんでやっているように感じられたんですよ。

浅井:(鈴木)正人くんが入ったでしょ。それがでかい。正人くんが入ったことでサウンドも広がったし、ライブをやっていて楽しいんだよね。あとまあ自分の成長もあるだろうし。そういういろんなことが重なって。それと、お客さんも楽しそうでね。それもでかいかな。

UA:ファンのみんなはベンジーの歌が好きで、歌詞の世界観にぞっこんでっていうのをわかった上で言うと、本来浅井さんという人はギターを弾くことが何より好きなんだと思うんです。歌うことも好きだろうけど、それ以上にギターを弾くことが大好きで。そのときに鍵盤がいるのといないのとじゃギターの広がりが全然違うっていうのはあるんじゃないですかね。だから鈴木くんが入ったことですごく楽しくなったんだと思う。

浅井:キーボードがいると、やれることが広がるからね。ギターでコードをキープしなくてもいいとか、そういうのもあって。

UA:鈴木くんはああいう人だから、より引き出す感じで弾いてくれる。だから本当に正解でしたね、彼がサポートで入ってくれたのは。


左から3番目が鈴木正人

―何しろメンバー全員がAJICOをもっといいバンドにしようと考えながらやっていることが、2021年のライブを観ていて強く伝わってきたんです。

UA:20数年前のときは、4人でやることがそこまで貴重なことなんだと気付いていなかった。やっぱり時を経たから、こうしてまた集まれるのは貴重なことなんだって思うようになったというか。みんなが年をとって、いろんな経験をしたからこそ、気づけたことなんでしょうね。

―今回またAJICOで動き始めるってなったときは、どんな気持ちでした? 純粋に「ああ、また楽しいことが始まる!」というふうにワクワクする感じだったのか、それとも「気合い入れなきゃ」みたいな感じだったのか。

浅井:みんなに求められている感じがあったから、やりたいと思った。もちろんツアーを発表する前からやることは決まっていたわけだけど、発表したらすごくいい反応がたくさんあったから、それで余計喜びがプラスされたって感じでしたね。

UA:私は前回のリユニオンのとき、本当に覚悟を決めて、気合い入れて取り組んだ覚えがあって。今回はやるってなったときに、もう少しラクな気持ちで……というかこう、日常の延長みたいな気持ちで取り組もうと、自分で決めました。

―気負わずやろうと。

UA:そう、気負わないようにしようと自分で決めたって感じ。そのほうがよくなる……というか、気合いを入れても入れなくても実は結果は変わらないんじゃないかと思ったから。

―気合いを入れることが必ずしもいい結果に繋がるとは限らないと。

UA:そうそう。

浅井:あんまりチカラ入らんほうがいいよね、なんでも。

―力まずにやるのがいい。

浅井:じっくりやるって感じかな。そのほうがいいっていうのは、最近気づいたんだけどね。

UA:特別なことをしているというのはわかっているし、それは前提としてあるんです。ただ、そこに対して自分が気負わないようにするのがいいんじゃないかと思っている。だからそうできたし。「AJICO2」が始まるときとは全然違った。

鈴木正人と荒木正比呂がもたらした変化

―では、そのように取り組んで録音し終えたEPの話を。レコーディングを先週(1月15日の週)終えて、いまはミックスダウンの最中なんですよね。

UA:そうです。

―今回もミックスは奥田泰次さんが?

UA:はい。奥田くんは今回、録りも見てくれて。前回は体調不良で録りは別の方だったんですけど、今回は録音からミックスダウンまで通して見てくれているので、仕上がりがすごい楽しみ。奥田くんの力はかなり大きいんですよ。

―録り終えての手応えは、いかがですか?

浅井:すごくいいと思う。まあここからどうなるか。

UA:やれる限りはやったし、あれ以上なんも出ませんって感じはあるよね。といっても練りに練ったみたいなことではないけど。”元型”ってタイトルを付けた通り、あんまり意図しないでやろうと思っていたので。

―ツアータイトルの『アジコの元型』がそのままEPのタイトルに?

UA:『ラヴの元型』。リード曲をそのまま表題にしました。

―今回、レコーディングはどのくらいかけてやられたんですか?

UA:とっても短くて、昨年中に数日、今年に入ってまた数日。全部で2週間もかかってないんじゃないかな。

浅井:1週間くらいじゃない?

―そんなに短期間で! それはプリプロまでやってからの作業としてですか?

UA:前回の『接続』まではセッションとかプリプロもやってからの録りだったんですけど、あれでだいたい筋が見えたので。今回は曲にもよりますけど、ベンジーのデモがあって、それをアレンジャーに聴いてもらって、この音はいるとかいらないとか話しながらデモをある程度の形にしていって、そこでトッキー(TOKIE)と椎野さんにシェアして、っていう感じでした。

―浅井さんは、作った曲のなかから、これはAJICO向きだなというものを選んで出すわけですか?

浅井:うん。あと、作っていて気がついたり。「ラヴの元型」はなんかのためとかじゃなく作っていて、途中で「これ、UAが歌ったら絶対かっこいいな」と気がついたんで、AJICO用にしましたね。



―『接続』を作ったときと今回とで、気持ちの持っていき方や作り方に関して決定的に違ったところはありました?

浅井:『接続』のときはオレ、歌わんかったじゃん。コーラスだけで。今回は2曲、歌詞も自分で書いたやつを歌ってるんで、そこが一番違う。UAの世界とオレの世界が混ざってるんで、より楽しめるものになってるんじゃないかと思うけどね。

―初めからそういうふうにしようと?

浅井:そうだね。「キティ」は自分で歌おうと思ってたかな。UAの声とのミックスでちょうどいいだろうなと思ってた。「あったかいね」は12月に突然できた曲で、ああいう、優しいというか、ちょっとフワッとした世界があったほうがいいなと思って、急遽入れることにしました。

―全体のバランスを考えてということですか?

浅井:そうだね。バランス、考えました。

―UAさんはどうですか?

UA:さっきの話と重複しますけど、気合いを入れない、気負わない、あんまり用意をしない、練らない、っていうことは最初から決めていて。作詞にしても、ギリギリまで吟味するようなことはやめようと。そういうふうにしたことがサウンドにどう影響したかは、今の段階では測れないですけど、意識としてはとにかくそれがあったかな。

―そういう意識を持って臨んだのは、衝動とか生々しさといったものをより前に出したかったからですか?

UA:う~ん、そうねえ。まあいくらでも直そうと思えば直せるんだけど、何しろ今回はできるだけ最初のテイクで行きたかったんですよ。あと、UAもAJICOも同じ頃にもう一回やり始めて、どっちもポップへの回帰というのをお題にしてやって。もちろん今回もポップでありたいし、「売れなきゃね」って言葉も浅井さんから引き出せた。で、ポップでありつつ、一回聴いたらしばらく聴かないでいいやっていうものじゃなくて、「今のはなんだったんだろ?!」となってもう一回聴きたくなるようなものにしたいと思っていたから、曲に対する解釈をあまり深めないようにしようと。だから衝動的に書いた言葉をパズルみたいにハメて歌ったりもしたんです。

―ポップという言葉の捉え方は人によって様々でしょうけど、おっしゃる通り、AJICOのポップさは一回聴いて流れていく種類のものではない。必ず引っ掛かりがあるんですよね。で、1回2回では理解しきれなかった歌詞の意味が、数カ月後に突然わかったりすることもあるし、突然景色がはっきり見えてくることもある。

UA:ああ、それは光栄ですね。



―ちなみにサウンドに関して、鈴木さんの加入が大きかったという話がさっきありましたけど、今回は荒木正比呂さん(UAの最新作『Are U Romantic?』やライブバンドに参加、中村佳穂やドレスコーズなどのアレンジ/プロデュースも手がける)がサウンド・プロデュースを担当した曲も入っています。『接続』のときは関与していなかったですよね。

UA:してないです。私はあのときも彼とやることを提案したんですけど、浅井さんがちょっとピンとこなかったみたいで、今回改めて。今回やる前に、UAバンドのメンバーとして紹介はしていたし、なんかのフェスに出た帰りに偶然名古屋駅で浅井さんとばったり会ったりもしたんですよ。そんなことでエピソードも増え、今ならいいんじゃないかなと思って提案したら受け入れてくれて。結果、すごくよかったと私は思っているんです。

浅井:さっき言ってた去年の夏のUAとの対バンのやつがあったでしょ。あのときの打ち上げで意気投合したんだわ。いいやつだなと思って、こういう感じだったら一緒に音楽作れるかもって思った。あのときが大きかった。

―人柄のよさが決め手になった。

浅井:人柄だね。人柄、大事だわ、音楽は。

UA:荒木くんも名古屋の人だったりするし、ブランキーも大好きだったりして。

―ああ、それもあったんですね。

浅井:なんか面白いよ、あの人。UAがブースで一生懸命歌うじゃん。で、彼は卓にいて。UAが歌い終わっても、なんも言わないんだわ。「いいですね」とか「ここはもう一回」とか、なんも言わずに黙っとるもんで、替わりにオレが言っとったけどね。で、「なんか言ったほうがいいよ」って言って。そうしたら少しは言うようになったけど(笑)。

―荒木さんはサウンド・プロデュースだけでなく、鍵盤も?

UA:彼がプロデュースした曲で、ちょっと鍵盤を入れてくれています。

―そうして荒木さんが参加したことも、変化という意味で大きかったんでしょうね。

浅井:そうだね。正人くんと荒木くん、センスが違うからね。荒木くんのセンス、すごくいいと思うよ。

―新しい色を加えてくれる感じですか。

浅井:うん。オレの知らん世界のところで、ずっと悩んでいたりするから。なんか嬉しいじゃん。オレからしたら全然わかんないけど、まあ何かがきっとよくなっているんだろうなと思って。

―今回のを聴いて、『接続』から引き続きポップであることと同時に、聴いている自分の日常に繋がっている音楽だなとも感じたんです。例えば1stアルバム『深緑』は、その世界に没入しないと見えてこない世界があった気がしていて……。

浅井:あれとは全然違うよね。

UA:あれはまあ、サイケっていうかね。



―そう。でも今作は自分の日常にも馴染む感覚があるというか。

UA:それは、完全にポップをやろうと決めて作っているから。『深緑』のときは、ポップをやろうなんて微塵も思ってないですからね。ただ、やる。ただAJICOというバンドをやるってだけで、目標とかテーマとかは何もなかったから。言葉の選び方も当然違ってきます。まあ、年をとったので当たり前ですけどね。今は聴いてくれる人のことをめちゃめちゃ意識して言葉を選んでいるんですよ、私は。かといって、わかりやすいJ-POPみたいなものにはまったく興味がないので、そういうものとは違いますけど。

―『深緑』はやっぱりギターロックだったと思うけど、今はもうロックかどうかということさえどっちでもいいというか。

UA:うん。ジャンルはね。私は今回、すごい好きな作品になるなと思った。もちろんほかのも好きですけど、思い込みすぎてやった通りにはならなかったこともあるわけです。今回は意図しないようにしたから、全部をすごく素直に受け入れることができている。やり方として本当に間違っていなかったなって思えて。

―浅井さんはどうです?

浅井:あんまり複雑なことはわかんないんだけど、かっこよければいいんだわ。かっこよけりゃいい。そんだけ。もう一回聴きたいなって思ってもらえるものになっていればいい。聴いた人がときめくような、そういう音が入っていればバッチリ。

―今回、まさしくそうなってますね。聴いていて、ときめく感覚が確かにある。

浅井:それを目指してやっているから。やっぱり、ときめきがないと。車でも女の子でもなんでもそうでしょ。それが全て。

『ラヴの元型』先行全曲解説

―(この取材時点で)曲順はまだ決まっていないんですよね?

浅井:うん。オレは「ラヴの元型」が1曲目がいいかなと。で、「あったかいね」がきて……(※)。まあ、UAが決めてくれるでしょう。

UA:私も「ラヴの元型」が1曲目がいいと思いますけど、でもあんまりこだわってない。今回は特に、自分の思い入れを込めないようにしようと意識しているから。普段は思い入れがありすぎちゃって、いろいろ大変なわけ(笑)。最近はだから、誰かに決めてもらうほうがいいなと思っていて、奥田くんとかに「やってみて」って言ってるんですけど。

浅井:そのほうがいいわ。

※2月9日に発表された実際の曲順も、1曲目が「ラヴの元型」で2曲目が「あったかいね」となった


『ラヴの元型』通常盤ジャケット写真

―では、各楽曲の話を。とりあえず事前にお送りいただいたフォルダの収録順で訊いていきますけど、まずスローの「8分前の太陽光線」(※EPの6曲目)。リリックがUAさんで、曲が浅井さん。サウンド・プロデュースが鈴木さんです。

浅井:その曲はオレが初めに持っていった形とまったく変わった。まあ、正人くんを信じて、その方向でいいかなって判断なんだけど。初めはベースラインとギターの絡みが自分としては大事だったんです。でもやっていくうちにまずベースラインがなくなって。そうやって変化していくことが、プロデューサーに頼むことの意味なのかなって捉えたので、そのまま突き進んだんだけど。最終的にどういう形になるのか、オレも楽しみです。

―”じゃあね じゃあね 振り返らず おやすみなさい”という歌詞が耳に残りますが、あれって……。

UA:死ぬときのことです。

―死について考えることがあったんですか?

UA:仮歌でたまたま歌っていた言葉が「じゃあね」に聞こえて、「じゃあね」ってシンプルでいいなと思って、そこから広がっちゃったんです。で、何が「じゃあね」なのかなって考えて。もちろん私もこういう年ですから、身近な人が亡くなることが実際あるし。自分の場合、生まれたときから父親も祖父母もいなかったから、これまでは突然身近な人がいなくなるようなことがなかったんですけど、一昨年、叔母を亡くしまして。結構きつかったんですけど、でもそれによって、死というものに対して、かえってラクな気持ちになれたんです。いないんだけど、いるということがわかるというか。いなくなってからのほうがもっと、いるようになるということのリアルがわかった。

―浅井さんのメロディに導かれて、そのイメージが歌詞になっていったんですか?

UA:しっかりした構成がなくて、リピートしている曲でしょ。だから映画音楽みたいな感じになるといいのかなって話をして、浅井さんも異論はなさそうだったから、鈴木くんとその感じで進めました。曲に展開がないから、ビジュアルを言葉にするみたいになっていって、なんかサイケっぽい歌詞になって。自分でも「何を言ってるんだ?」って感じなんだけど、臨死体験の本とか読むと、死ぬ間際に全部が見えるって言うじゃないですか。死ぬときってこう、全てがひとつの夢みたいに美しい世界として見えるんだろうなって。そんな感じの視点で書きつつ、あとは自分が好きな言葉を残して、パズルみたいにハメこんだんです。

―「あったかいね」(※EPの2曲目)は浅井さんによる詞曲で、サウンド・プロデュースは荒木さん。”あったかいね 半袖でいいかも”と普段使いの言葉で始まるから、すっと入っていける。さっき僕が言った「日常に繋がっている感覚」というのは、例えばこうしたところから感じたことで。去年のSHERBETSのアルバムを聴いたときにも思ったんですけど、浅井さんはキャリアを重ねるに連れて言葉の選び方がより自然体になっていっているように感じるんですが、どうでしょう。

浅井:要は聴いた人の心が震えるかどうか。オレはそこしか見てないんで。かっこつけた言葉なんかどうでもよくて、聴いた人がときめくかどうか。それが自分にとっては重要。だから普段喋っている言葉で歌うのが、オレは本当だと思っとって。歌うときだけかっこいい言葉を持ってくるようなことは全然やりたくない。で、この曲で言いたいことは、実は最後のほうにあって。

我々人類は大昔から、あらゆる進歩を遂げてきました。化学が進歩して、いっろーんな物が発明されていって、領土の奪い合い、富の奪い合いで数えきれない殺し合いがあり。核が発明され、遺伝子組み換えとかが行われるようになり。雨さえも人工的に降らせたり、AIなんかに歓喜したり。神の領域にまで手をのばしちゃって。そんなの絶対にだめでしょって、科学者とか絶対にわかってるくせに踏みとどまるなんてこと、できないでしょう絶対に。いつか必ずしっぺ返しがくる。

そんな世界で日々生きていて、ふと思ったこと。ただ焚き火の周りなんかでみんなで踊って楽しく過ごす、年に2回ぐらいで良いからさ。酒でも飲んで、みんなが笑顔で、自由に誇らしげに恥ずかしさも忘れて気楽に騒ぐ。それで十分なんじゃないの? 欲望の最終地点はって思ってね。そこに立ち返ろうよ、ってこと。人間はもう。それ以上のところに行こうなんてしなくていいじゃんって、せめてこの歌が鳴っているほんの数分の間だけでもそんな世界に行ってみようぜ。っていうこと。そんなことが言いたいんです。

―”焚き火囲み 踊るのさ それを天に 見せなくちゃ”と歌われていますが、「天」というのは「天国」という意味も含まれていたりします?

浅井:天国ではないね。要するに神様みたいなもの。昔の人は空に向かって、ナスカの地上絵を描いたり、ピラミッドを作ったりしたわけじゃん。天に何かを感じていたんだよね。人間ってそういうものなんじゃないの? 火を囲んで、みんなでフォークダンスとかした日にゃ、それは最高な気分だろうから、そういう最高を天に見せようぜって。そんな感じかな。

―「キティ」(※EPの5曲目)も浅井さんが詞曲を書いたもので、サウンド・プロデュースは鈴木さんです。

浅井:オレだったら、ここでランチを作ってみんなに配りたいなとか思いながら書いていて、最終的に、”あ、それをオレの新しい夢にしよう”って思って、言葉がポンと出てきた。そのときに、これで曲としてまとまるなと。「あったかいね」と同じで、そういうのは偶然出てくるものなんだ。書いているときは、こういうことを言いたいとか自分でわかってないし、こういうふうに感動させるためにこういう順序で書こうだなんてまったく考えてない。そんな才能も持ってないし。宮崎駿も言っとったけど、「こういうものを作ろう」と思いながら作るなんて、嘘っぽいんだよね。たまたまできちゃった、っていうのがオレは本当だと思う。

―そうなんでしょうね。頭で歌われる「飼ってる仔猫」というのは……。

浅井:それは子供のときに拾ってきた猫の記憶だね。

ーちなみにその猫の名前は?

浅井:チーヤ。

―そうした日常の風景と夢とが合わさってひとつになる感じがとてもいいなと思いました。

浅井:うん。なんかいい感じになったなって。それはあとで気づくんだけど。これもデモとはちょっと違う世界になっていった曲なんだ。



―「ラヴの元型」はリード曲で(※EPの1曲目)、リリックがUAさん、曲が浅井さん、サウンド・プロデュースが荒木さん。80年代あたりのディスコ・ロックっぽい曲ですね。

UA:そうなんです。もともと浅井さんが仮タイトルで「ディスコ」って付けていて。テンポはもっと遅くて、もっとグルーヴがある感じだったんです。錚々たるロックバンドがディスコに流れた時代があったでしょ? あの感じがクールだと思って、実は前回の作品で私がやりたかったジャンルなんですよ。でも前回は結局やれなくて。そうしたら浅井さんからこういう曲が出てきて、仮タイトルも「ディスコ」になっているし、キター!って思って。これは荒木くんにやってもらうのがいいなと。で、やっていくうちにテンポを上げちゃって、ロック色も強めたんですけど。

浅井:もともとは、それこそディスコだったからね。でも気に入っとるよ、荒木くんがやったこの感じを。さすが、展開がよく考えられてるなって。次から次に新しいものが出てくる。

―初めからダンサブルな曲を作ろうと?

浅井:100パーセントそうだね。

―ど頭のギターリフもかっこいいですね。あの歪んだ感じがまた。

浅井:あれは、初めはああじゃなかったんだけど、荒木くんがこうやって弾いてみてって言うから弾いてみた(笑)。

UA:今回はローファイにするというのが各曲のテーマとしてあったんです。ツヤツヤのいい音は違うかなと。ローファイで、ドラムもドライにして、っていうのがみんなの今の好みとしてあったので。

―歌詞では、この時代のやばさをいろんな角度から言及しています。

UA:まあロックなんで、言ったろと思って(笑)。この曲はディスコで大人が躍っているんだけど、言ってることはシリアスじゃん!っていうのがいいと思ったんです。酔っ払って踊っているのを冷めさせるみたいな。

―最後には”野生ならではの不安は ラヴの元型”と歌われるわけですが、この「ラヴの元型」という言葉にはどういった思いを?

UA:不安を感じるのを恐れるな、ということです。ラヴという言葉には母性的なイメージがあるかもしれないけど、不安を感じることも哀しみも怒りも、実は愛がもとにあるからそうなることで。このご時世、いろいろ不安になることだらけでしょ。でも、左脳で考えたややこしい不安と違って、人間が動物に近かった頃、いつ襲われるかわからないから夜も火を消せないといったような不安は、もともとあるものじゃないですか。そういう意味では、不安を持つことはなんらおかしいことではない。若い子たちは自分たちの未来に不安を持って、それを無理に克服しようとするから余計におかしくなるというところもあると私は思うんです。だから「不安だー!」って叫んでしまってもいいんじゃないかって言いたくて。それはもともと、ラヴの元型としてあるものなんだから、ってことですね。

―すごく強力な曲だし、それこそポップでもあるし、リード曲にも相応しいと思います。

UA:あとから大サビを入れたんですけど、そこに「イザイヤホー」って入れられたことで、すごくポップになったなと思っていて。これはでも、テレビを見ている人たちには向けてない。インターネットでの情報リテラシーがちゃんとある人に聴いてもらいたいです。

「期待を外さない自信はある」

―「言葉は主役にならない」(※EPの3曲目)はリリックがUAさん、曲が浅井さん、サウンド・プロデュースが鈴木さん。6曲のなかで一番”UA節”が出ているように思いました。Aメロからしばらく低いところで歌っていて、「愛の存在~」というところで転調してバーンと跳躍するところにカタルシスがある。

UA:おおっ。そうですね。ベンジーが「もう一曲できたわ。これ、すごくUAに合いそうだよ」ってくれて。確かに!って思った。ただ「ラヴの元型」が既にあったから、また大きい曲がきたなぁと思って。だから歌詞はギリギリまで自分で待って、前日に書き上げて出した。すごく力のある曲ですよね。

―そう思います。ギターロックにもできたと思うけど、弦が入っていたり電子音が入っていたりで広がりも展開もあるし、モダンな作りだなと。

UA:そうですね。モダン。

浅井:もとはこれ、アコースティック・ギターの曲だったんだけど。

―こういうアレンジにしようというのは、完全に鈴木さんのアイデアで?

浅井:そうだね。

―「微生物」(※EPの4曲目)。これはリリックがUAさん、メロディが浅井さん、サウンド・プロデュースが荒木さん。とても素直で美しいアコースティック・バラードですね。

UA:ね! ギターがすごくキレイですよね、ソロのところとか。

浅井:これと「ラヴの元型」が最初に渡した曲で。

―そうだったんですか。”丁寧なテキストより馬鹿な声を聞きたい”というフレーズが印象に残ったんですけど、ここにはどんな思いが?

UA:今はみんな、声を聞くのを面倒くさがるじゃないですか。長くなるし、書いたほうが合理的だからですけど。でも大事な人だったら、やっぱり声は聞きたいものですよね。それがたとえくだらない話だったとしても、っていう。

―なるほど。そんな6曲からなるEPですが、全体的にサウンド面で影響を受けたとか、制作前によく聴いていたというような音楽はありましたか? 1stアルバムを作った頃はポーティスヘッドを聴いていたという話をどこかで読んだんですが。

UA:ああ、私はブリストル系が大好きで、どちらかというとアメリカよりもUKものをすごく聴いていたから。ポーティスヘッドも大好きでしたけど、それをAJICOに応用するイメージは持っていなかった。むしろ私より浅井さんにあったみたい。で、今回は……私は音楽の言語化が下手なので、好きな音楽を聴かせるということをよくやるんですけど、アンノウン・モータル・オーケストラをみんなにシェアしました。ただ、それをどこまで応用したかは、まあ聴いての通りです。バンドで私がいまクールだなと思うのはそれですね。



―浅井さんは制作前によく聴いていた音楽とかってありました?

浅井:ないね。新しいのとか、聴かないんだわ。作るばっかで、リスナーになれない。リスナーになれない病。まあ、たまには聴くけどね。

―僕は「あったかいね」を聴いたときに、70年代っぽいというか、シカゴの「Saturday in the Park」を想起したんですよ。

浅井:あ、それそれ! そうそう、それはあった。ちょっと似すぎたかなとも思ったけど、メロディが違うからいいかなと思って。



―全然OKでしょう。では今回のEPを聴く人に、こう受け取ってほしいみたいなことはありますか?

浅井:ときめいてもらえたら。

UA:うん。AJICOを好きでいてくれている方々の期待を外さないだろうという自信はあります。と同時に、AJICOを知らない人たちが、先入観なく聴いてくれたらいいなと思う。かなりあると思うんですよ。先入観が(笑)。それを拭えるものになっていたらいいなと。

浅井:あとはライブに来てもらえたら。盛り上がって一緒に踊りたいですね。焚き火の周りで(笑)。

―いいですね。新作はライブ映えしそうな曲ばかりですし。

浅井:うん。「ラヴの元型」はトッキーと椎野さんにかかっとるね。トッキーのあのベース、すげえわ。

―確かに。ちなみに前回のツアーのときはコロナ禍真っ只中だったじゃないですか。

UA:そうでした。声は出しちゃダメ、拍手のみとか、制限がありましたからね。

―今回はもう制限なく、声出して、踊って、好きなように楽しめるわけで。

浅井:うん。踊りたい。踊りの師匠がここにいるんで(笑)。

UA:あははは。そうねぇ。ああいう窮屈なことって、みんなも苦しかったから忘れちゃいたくなることだけど、でもそういう時期があったってことを、あえてしっかり覚えておきたいですよね。今のこれが当たり前じゃないんだよ、今ここにあること、今また集まれることがいかに貴重なのかって、それを思いながらひとつひとつ取り組めたらいいですね。



―本当に窮屈なことや哀しいことばかりが続くこの数年ですが、そんななかでTOKIEさんのご結婚というとびきりハッピーなニュースもありました。

UA:ね! その道を選ぶというのは、本当にステキですよね。

浅井:結婚の道?

UA:うん。自分は子供がいる状態でもう一度結婚して、家族という感覚で今いるから、パートナーシップというところでの結婚というのは本当に尊敬します。お互いが本当に自立していないとできないことだと思うから。私、今回日本に来るまで知らなかったんですよ。お付き合いされているのは知っていたけど、結婚したことはまったく知らなくて、慌ててお祝いを買いに行ったという(笑)。

―まあそんなことも含めて最高のツアーになるでしょうから、楽しみに待ってます。

浅井:うん。オレも楽しみ。ローリングストーンにバリバリ書いてもらって盛り上げていかないと(笑)。


AJICO
『ラヴの元型』
2023年3月13日リリース


通常盤(CDのみ)2,200円(税別)
https://www.jvcmusic.co.jp/-/Linkall/VICL-65935.html


初回限定盤(CD+DVD)5,400円(税別)
https://www.jvcmusic.co.jp/-/Linkall/VIZL-2298.html

〈収録曲〉
【CD】
1. ラヴの元型
2. あったかいね
3. 言葉が主役にならない
4. 微生物
5. キティ
6. 8分前の太陽光線

【DVD】※初回限定盤付属
2021年に行われた「AJICO Tour 接続」より中野サンプラザ公演のライブ映像をノーカットで全18曲を収録予定


AJICO Tour「アジコの元型」
2024年3月17日(日)広島県 広島CLUB QUATTRO
2024年3月20日(水・祝)北海道 道新ホール
2024年3月23日(土)宮城県 Rensa
2024年3月30日(土)東京都 日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)*ソールドアウト
2024年4月6日(土)石川県 金沢EIGHT HALL
2024年4月7日(日)長野県 茅野市民館マルチホール
2024年4月11日(木)鹿児島県 CAPARVO HALL
2024年4月13日(土)福岡県 DRUM LOGOS
2024年4月14日(日)熊本県 熊本B.9 V1
2024年4月20日(土)大阪府 Zepp Namba(OSAKA)
2024年4月21日(日)愛知県 Zepp Nagoya
2024年4月24日(水)東京都 Zepp Shinjuku(TOKYO)*追加公演

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