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imase×なとり対談 J-POP新時代の象徴に聞く「バズり続けなきゃいけない」時代の戦い方

Rolling Stone Japan / 2024年2月14日 18時30分

Photo by Kentaro Kambe

SNSを通じて世界的ヒットを生み出した、imaseとなとりの対談が実現。両者は同時期(2021年5月)にTikTokへの投稿をスタートし、瞬く間に時代を象徴する存在へと駆け上がっていった。Spotifyが発表した2023年のランキングにおいて、imaseの「NIGHT DANCER」は「海外で最も再生された国内アーティストの楽曲」4位、なとりの「Overdose」は「海外で最も再生された国内アーティストの楽曲」13位、「国内で最も再生された楽曲」6位にランクイン。今回の対談では、TikTokをはじめとするSNSプラットフォームから生まれる世界的ヒットの「音楽的要素」と「SNSの使い方」、その両面から二人の知見を語り合ってもらった。なお、インタビュアーを務めるのは元TikTokの社員である編集者・音楽ライターの矢島由佳子。アーティストにとって「バズり続けなきゃいけない」時代の重圧、常に数字が見える世界でいかにメンタルを保っているのか、そして「ポップスに対するバズの功罪」まで話が及ぶ、貴重な対談となった。


影響を与え合う「健全なライバル」

―お互いを認識し始めたのはいつ頃ですか?

imase:めっちゃ初期だよね。お互いフォロワーが1000もいなかったとき。

なとり:活動を始めた時期がほぼ同じで。僕は自分が投稿する前からimaseくんを見ていて――といっても初めてTikTokに投稿した日が、imaseくんは(2021年)5月3日で、僕が5月15日なんですけど――この人めっちゃすげえなと思って。音楽面でいうと、僕はネット文化の系譜を受け継いでいるんですけど、imaseくんに出会ったとき、それプラスR&Bの要素があると思って。「このテンションの歌は聴いたことない!」と思って、度肝抜かれたんですよね。


Photo by Kentaro Kambe

imase:それでコメントをくれていて、フォローを返して。

なとり:「TikTok LIVEに入ってきてくれませんか?」って僕が言ったのが、最初の関わりだった気がする。

imase:(2021年)6月頃かな?(TikTok LIVEで)「お絵描きしりとり」みたいなことをやってたよね(笑)。

なとり:僕のユーザーネームが「@siritoriyowai_」なんですけど、「お絵描きしりとり」で負けてそれになったんです(笑)。

imase:僕が「しりとり弱いね」って言って、罰ゲームでユーザーネームを変えて、ずっとそのままになってる(笑)。

―あの名前はそういう経緯だったんですか!

imase:だからずっと切磋琢磨してる仲というか。なとりが伸びて、俺が伸びて、またなとりが伸びて、みたいな。常に刺激を受けますね。

なとり:健全なライバルという感じですよね。

imase:どうやって曲を作っているかとか、どういうルーツなのかとか、なとりから聞いたりもしますね。いいところは盗みまくろうと思って。

なとり:僕はimaseくんのTikTokとかSNSの動かし方をめっちゃ参考にしていて。それこそ(「Overdose」の1曲前に)初めて実写の動画を出そうと思った理由も、imaseくんに「一回やってみたら」って言われたからで。

@siritoriyowai_
imase:たしかに、言ったわ。あと、マイクは変えろって言ったよね(笑)。あまりにも音声が悪かったから「絶対にバズらないぞ。曲がいいのにもったいない」って。

なとり:そう。僕の一個前のマイクはimaseくんが誕生日に買ってくれたものです。「Overdose」の初期とかはそのマイクで録ったから、imaseくんの力がなかったら「Overdose」はバズってなかったかもしれない。imaseくんが教えてくれる曲の影響も大きくて。韓国R&BのDEANとかを教えてくれて、それをめっちゃ聴いてる時期があったり。imaseくんに教えてもらったアーティストで一番好きになったのはKroiですね。

imase:懐かしい、教えたね(笑)。そのとき「洋楽はあまり知らないです」って言ってたので、なとりのブラックミュージックのルーツに合いそうなプレイリストを送ったり。逆に僕はボカロをあまり聴いてこなかったので、なとりから教えてもらったりしてました。




―「ボカロ」「ブラックミュージックをベースにしたバンドサウンド」「世界的トレンドのビート」など、いくつものシーンの要素を引き継いで新しい時代の音楽を生み出している背景として、それぞれが詳しくないジャンルの音楽を互いに教え合っていたというのは重要な話ですね。自分たちの曲が海外にまで広まった音楽的な要因については、どのように考えていますか。

imase:Spotifyの「海外で最も再生された国内アーティストの楽曲」のランキングを見ると、アニメタイアップの曲もありつつ、SNSでバズった曲はリズム重視でノれるような曲調だなと思っていて。「NIGHT DANCER」も踊りやすいし、耳にも残りやすいのかなと。メロディに関しても、なとりも僕もちょっと歌謡曲っぽさがあると思うので、根底にあるそのキャッチーさも海外で受け入れられた要因なのかな。

なとり:リズムもめちゃくちゃ大事だと思いますし、あとはグルーヴの出る言葉を選び続けると「日本語の音楽」というよりも「音楽」として海外の人に聴かれるので、そこにバズる要因があったのかなと思います。僕らの歌い方、なんか英語っぽいですよね?

imase:そうね。母音が柔らかいし、言葉の繋ぎも滑らかだし。

なとり:ちょうど引っかかるところがないというか、いい意味で流れるように歌っていることはひとつの要因かもしれないです。

―日本語の発音、母音の処理の仕方や韻の踏み方などでいかに歌にリズムやグルーヴを作るか、ということを二人は巧みにやってますよね。それが海外の人も心地よく感じる曲になっている要因のひとつだと私も考えてました。

なとり:そこはimaseくんに影響を受けてますね。

imase:最近のアーティスト、わりとそういう方多いですよね。藤井 風さんもそうだし、紫今さんやjo0jiさんもそう。母音を崩すと聴き心地がよくなりやすいですよね。




―その中でもimaseさんの歌い方はかなり特徴的ですよね。藤井 風さんが「ねそべり配信」で「NIGHT DANCER」をカバーしようとしたら歌えなかったじゃないですか(笑)。カバーできないほどの特徴があるということが、あれでも明らかになったなと。

imase:あれめっちゃ面白かったです(笑)。「NIGHT DANCER」と「Nagisa」、どっちも弾いてくれて嬉しかったですね。

「バズること」と「やりたいこと」のバランス

―「TikTokでバズる曲のジャンル、BPM、コード進行とはこういうものである」ということをみんな見つけたがっていると思うんですけど、二人の実感として、そういうものはありますか?

imase:僕は、本当にわかんないなって。キャッチーさは絶対に必要だと思いますけど、バンド寄りの曲がバズることもあれば、R&B系がバズることもあるし、ダンスでバズることもあれば、最近だと乃紫さんの曲(「全方向美少女」)とかは歌詞先行でバズってますよね。バズり方は本当に多種多様なので、何とも言えないのかなと思います。タイミングと運もかなり大きいですよね。

なとり:もう本当にそうですね。わかんないですよね。

imase:だって「NIGHT DANCER」が韓国であんなに踊ってもらえるなんて、わかるわけがないじゃないですか(笑)。何がバズるかわからないし、どれがチャンスになるかもわかり得ないから、どの曲においても「やれることは全部やってみよう」というスタンスですね。積極的に動いていたからこそJUNGKOOKさんにも届いたと思うし、JUNGKOOKさんが歌ってくださったおかげで国内外にたくさん広まったので、本当に感謝しています。やっぱりいつ何が起こるかわからないので、「全部、ちゃんと、やる」ことが大事だなと思います。

―何がバズるきっかけになるかわからないから、やれることは全部やる。そしてバズっている最中も、それをさらに広げるためにやれることは全部やる。imaseさんはそれを徹底していますよね。「NIGHT DANCER」が「海外で最も再生された国内アーティストの楽曲」の4位に上り詰めるヒットになるまでには、2022年5月にHoodie famの振付が国内でトレンドとなって以降、大きな波が何度かあったと思うんですね。

imase:ありましたね。2022年の年末くらいにStray Kidsさんが踊ってくださって、その後また韓国のアーティストの方が踊ってくれて。その都度リアクション動画を撮ったり、自分でも踊ってみたり、積極的にコラボもしたり。スタッフさんから「こういうことをやった方がいいんじゃない?」と言ってもらってやったりして。そういう細かいことが広がりに繋がったのかなと思います。

@imase119
―今の話はバズり始めているときに何をやるか、ということだと思うんですけど、楽曲をリリースする前のSNSの使い方についてはどういった考えを持ってますか?

なとり:キャッチーな部分を切り抜いて、その動画を何本も出す。その下準備はめちゃくちゃ大事だと思います。でもそれが二次創作に使われなかったときは「どうしようかな」ってずっと考える(笑)。そういうときはリリース後の反響を待つしかないですよね。

imase:でも、フルで聴いていい曲もあるし、バズらないけどいい曲もあるし。

なとり:バズらないけどいい曲の方が多いですよ、この世界には。

imase:僕もリリース前の曲は徹底的に投稿しまくる、という準備はします。たとえばすごく影響力のあるインフルエンサーの方がたまたま自分の投稿を見つけて、音源を使ってくれて、ということもあるので、諦めずに根気強く同じ曲を投稿しますね。数を打ちまくることもわりと大事だと思っています。僕はほぼ毎日TikTokやInstagramに投稿しているので。


なとりの公式TikTokより。「Sleepwalk」(昨年12月8日リリース)の動画を配信前後の11月25日・11月30日・12月12日にアップしている

―リリースが決まっている曲の一部をリリース前からTikTokに投稿するパターンと、デモを投稿してリリースするかどうかを測るパターンがあると思います。後者で「自分的には渾身の1曲を作ったのに反応が悪いからリリースしてない」という曲はありますか?

なとり:めちゃくちゃありますね。そっちの方が多いかもしれない。

imase:へえ! 僕は、最近はありがたいことにタイアップの書き下ろしが多いので、それ以外のデモを作るタイミングはあまりないかも。「これは伸びるかな」という曲と、自分の好きなルーツの曲と、そのバランスを大事にしたいなとは思ってます。

なとり:それはめっちゃ思いますね。


Photo by Kentaro Kambe

―なとりさんはアルバム『劇場』をそのバランスで作ったと前の取材で話してくれましたよね(「アルバムでいうと、前半には今までなとりが一番デカい層に向けて作った曲を置いていて、後半がこれから自分の作りたいものを意識して作った曲」と発言)。単曲で聴かれる時代に「アルバムとは?」という議論もありますけど、単曲のヒットがアーティストの活動を大きく左右する時代だからこそ、自分の本当にやりたいことはアルバムでやるようになっているとも言えますよね。

imase:Vaundyさんとかもそうですよね。「黒子」「常熱」とか、自分で全楽器を演奏していて、完全にやりたいことやってるなと思いました。

なとり:あのアルバムは本当に合理的というか。面白かったですね。『replica』というタイトルをつけるのも天才だなと思って。

imase:でもやっぱり自分が気に入ってる曲が伸びてほしいよね。

なとり:めっちゃわかる。

「数字」との向き合い方、未来を担う二人の使命感

―imaseさんは「自分の気に入ってる曲」と「伸びる曲」が乖離してる感覚ですか?

imase:いえ、わりと気に入ってる曲が伸びやすくて。「NIGHT DANCER」もそうだし、「Nagisa」もそう。みんなから好きって言ってもらう曲と自分の好きな曲が、まだあまり乖離はしてないです。でもいずれ自分の感覚や時代がガラッと変わるような気もしてるから、それが怖いなと思ってます。ブームの移り変わりがめちゃくちゃ早いから、2年後、自分が全く好きじゃないジャンルや系統しかバスらなくなってしまったら怖いなって。もう、バズり続けないと難しい時代なのかなと思うんですよね。Vaundyさんとかずっとバズってるじゃないですか。それが今の時代に合ってるし、正解な気がしていて。どの道、そうしないと2年後くらいにはいなくなっちゃうんだろうなと思ってるから……バズり続けるしかないなって。

―その心持ちはしんどすぎません? 「バズ」とか「数字」と向き合い続ける中で、病むことはないですか?

imase:(メンタルの)波はある(笑)。

なとり:ありますよね(笑)。

imase:その日その日によって……。

なとり:マジでわかる。一喜一憂ですよね。

imase:やっぱり? でもしょうがない。

なとり:定めですよね……。

imase:本人たちは数字を気にしちゃいけないのかも。自分で見すぎると苦しくなっちゃうから、僕はもう見ないことにしてます。まあ、たまに情報を得るために見たりはするんですけど。でも1本1本の投稿の数字を気にしすぎるとそればっかり見るようになっちゃって、自分の作業もできなくなっちゃうし。シンプルにいい曲を作るという自分の仕事に徹することにしてます。いい曲は聴かれるから。

なとり:かっけえな!

imase:だってずっと数字見てたら絶対に病むもん! Spotifyの月間リスナーが減っていくのを見るのがマジで怖いって、なとりも言ってたよね(笑)。

なとり:Spotifyの月間リスナーが減っていくのはマジで怖い!

imase:伸びたときは「世界からめっちゃ聴かれてるんだ」って思うけど、数字が悪いときは怖いよ!

なとり:しかも嫌なのが、じわじわ減っていくんですよね(笑)……自分だけは数字が見えないようにしてほしい(笑)。

imase:ある意味コメントとかよりも辛辣ですからね。

なとり:最近は僕も数字を見ないことを意識しているんですけど、何より、好きなことをするのが一番大事かなと思うようになりました。数字の暴力には逆らえないですよね。

imase:一生付き合っていくしかないよね。自分がいいって思う曲が、結局、自分にとってのいい曲だから。

なとり:音楽なんて、結局は自己満ですもんね。最近はそれをめっちゃ意識してます。とにかく、自分が好きだった時代みたいな上質なポップスを作れるようになろうと。


Photo by Kentaro Kambe

―アルバム『劇場』のインタビューのときにも、「昔の人たちが作ってきたような上質なポップスをリバイバルさせたい」とおっしゃってましたもんね。

なとり:昔聴かれていたような上質のポップスを作ることが、僕ら世代のアーティストの課題じゃないですか? 僕、J-POPの質を若干下げちゃったかなって、結構負い目を感じていて。

imase:え? そんなことないでしょ。

なとり:スピッツとか、aikoさんとか、ああいう曲ってやっぱりすごいじゃないですか。そういう曲が今後ないと、聴く曲が昔のものしかなくなるから、逆に僕が生きていけないなと思って。そこに対して投げかけたいし、新しい時代のポップスを作りたいなと思います。それこそ、そういう曲を作っても海外で聴かれるような時代になってきたから作る理由ができたなとも感じますし、僕らの根幹にあるポップスを継承して海外の人たちに伝えることが役目なんじゃないかなという気がしてますね。チャートを獲ったからこそ、たくさんの重い責任を感じないといけないなとは思ってます。

―imaseさんは今の自分が置かれている立場の使命感や責任感など、何か考えることはありますか。

imase:NewJeansとか、JUNGKOOKさんの「Seven」が流行ったりしていて、昔よりは洋楽も聴かれやすくなっているものの、地元の友達に聞くと有名な洋楽アーティストでも「それ誰?」ってなるし、音楽を聴く人と聴かない人のギャップがあるなと思うんですよね。最近は、そこを埋められたらなと強く思っています。自分が海外のトレンドを提示することで、自然と洋楽がもっと受け入れられやすい環境にできたらいいなって。日本にR&Bとかソウルのいい曲っていっぱいあるじゃないですか。そこにもフォーカスする窓口になれたら嬉しいなと思ってますね。

なとり:その考えは「NIGHT DANCER」のグローバルヒットがないと生まれないですよね。

imase:たしかに。最近その考えが強くなりました。そこは本当に頑張りたいです。だからこそ、逆に「ドJ-POP」な曲も作らないといけない気はしていて。聴かれやすいバラードとかロックを作ることも必要だなと思ってます。松原みきさんの「真夜中のドア〜Stay With Me」が海外でリバイバルして聴かれたりするように、昔からいいとされているJ-POPは時代が変わっても掘り出されると思うから、そういう曲を現代で作れたらいいなと思う。だから2024年は、シンプルで普遍的ないいメロディを作りたいなと思ってます。

なとり:今日しゃべって思いましたけど、やっぱり考え方がめっちゃ似てますよね。同じものを抱えているんだろうなと思いました。

imase:それがあって最初に引き寄せられたのかもしれないね。


Photo by Kentaro Kambe



◎imase


最新シングル「恋衣」
配信リンク:https://imase.lnk.to/koigoromoWE

imase Tour 2024 ”Shiki”(全公演SOLD OUT)
2024年3月8日(金)愛知県 DIAMOND HALL
2024年3月13日(水)宮城県 Rensa
2024年3月19日(火)北海道 cube garden
2024年3月23日(土)広島県 広島CLUB QUATTRO
2024年3月30日(土)福岡県 DRUM LOGOS
2024年3月31日(日)大阪府 なんばHatch
2024年4月6日(土)東京都 Zepp DiverCity
2024年4月21日(日)岐阜県 岐阜club-G

公式サイト:https://www.universal-music.co.jp/imase/




◎なとり


1stアルバム『劇場』
配信・購入:https://natori.lnk.to/gekijo

なとり 1st ONE-MAN LIVE「劇場」
2024年3月29日(金)東京・Zepp Haneda(TOKYO)
2024年4月5日(金)大阪・Zepp Osaka Bayside

『劇場』特設サイト:https://natori-theater.com

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