1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 芸能
  4. 音楽

クイーン+アダム・ランバート来日公演を総括 大合唱と人間愛に満ちた集大成的な一夜

Rolling Stone Japan / 2024年2月15日 21時0分

Photo by Ryota Mori

クイーン+アダム・ランバートによる「The Rhapsody Tour」の一環として開催された、日本公演史上最大級となる4都市5公演のドームツアーが大盛況のうちに閉幕。荒野政寿(シンコーミュージック)による、最終日の2月14日・東京ドーム公演の本誌独自ライブレポートをお届けする。(※ライブ写真は2月13日撮影)


SF的オープニングに見る「新たな解釈」

1992年4月20日、ウェンブリー・スタジアムで開催されたフレディ・マーキュリー追悼コンサートの映像は壮観の一語だった。クイーンの残された3人──ブライアン・メイ、ロジャー・テイラー、ジョン・ディーコンをバックに、ロバート・プラント、ロジャー・ダルトリー、エルトン・ジョン、イアン・ハンターといった先輩たちから、ジェームス・ヘットフィールド、アクセル・ローズらクイーンの子供たち、そしてライザ・ミネリまでもがリード・ボーカルを務めた夢の一夜。中でもアニー・レノックス&デヴィッド・ボウイがデュエットした「アンダー・プレッシャー」と、ジョージ・マイケルのはまり具合は群を抜いていた。ジョージ・マイケルに至っては、クイーンへの加入説まで囁かれたほどだ。

その後、元フリー~バッド・カンパニーのポール・ロジャースと組んだ2000年代のクイーンに、ジョン・ディーコンの姿はなかった。シンガーとして圧倒的な技量を持つポール・ロジャースだが、彼の背景にあるのはブルース。多種多様なゲスト・ボーカリストによって成り立っていたフレディ追悼コンサートの後に触れると、そのステージはどうしても幅が狭いものに感じられたし、スーパー・セッションとしては超一級、しかし”クイーンのライブ”とは別物、と思わざるを得なかった。のちにポール・ロジャース自身も、クイーンとは音楽性がかけ離れていると感じたことを認めている。

ポール・ロジャースほどの名シンガーでも荷が重かった看板を、いったい誰が背負えるのか……恐らく多くのファンがそう思っていたところに、救世主が出現する。2009年、オーディション番組『アメリカン・アイドル』での劇的な出会いをきっかけに、クイーン+アダム・ランバートが発足。ヘッドライナーを飾った2014年8月の「SUMMER SONIC 2014」でのショウは、フレディの物真似を敢えてせず、しかし楽曲のイメージは決して損ねない……という難しいさじ加減で新旧ファンを楽しませる内容になっていた。フレディ追悼コンサートで何人ものシンガーが違った角度から挑んだアプローチを、全てとは言わないまでも、複数のチャンネルで包括的に表現できるアダム・ランバートは、クイーン・ファンのデリケートな心理を考えに考え抜いてツアーに臨んだはず。ファンの間で”QAL”という略称が定着していったことも、自身の個性を保ったまま最良の形でこのプロジェクトを成立させようと試行錯誤してきたアダムへの敬意が感じられた。一方的にスターがエンターテインメントを提供する形ではなく双方向の関係、ファンとの”交歓”がクイーン+アダム・ランバートを10年以上も継続させてきたのでは、と筆者は考えている。


Photo by Ryota Mori

2018年に映画『ボヘミアン・ラプソディ』が公開されて大ヒット、社会現象を巻き起こした後の「The Rhapsody Tour」は、QALに新たな課題をもたらした。映画がきっかけで新たに加わってきたビギナーたちを満足させながら、従来のクイーン・ファンも唸らせるショウとはどんなものか……それを実現させるために練りに練った演出、構成が「The Rhapsody Tour」を特別なものにしている。2019年からスタートしたこのツアーは、2020年1月にさいたまスーパーアリーナ、京セラドーム大阪、ナゴヤドームでの公演が実現。コロナ禍を挟んで中断した時期もあったが、世界各国を巡ってきたこの長いツアーは、締め括りに再び日本へと戻ってきた。2月4日のバンテリンドーム ナゴヤを皮切りに、京セラドーム大阪、札幌ドーム、東京ドームへと続く4大ドームツアー。北海道での公演は42年ぶりとあって熱烈な歓迎を受け、さっぽろ雪まつりにクイーンのエンブレムと『世界に捧ぐ』のジャケットでお馴染みのロボット(通称フランク)をかたどった巨大な雪像が登場。会場にロジャーとアダムもお忍びで駆けつけ、話題を呼んだ。

そして迎えたジャパン・ツアー最終日、2月14日の東京ドーム公演。開演予定時刻の19時から5分ほど過ぎたところで、客入れ中のBGMがシンセ音に変わった。そこから焦らしまくるほど約7~8分、すでにほぼ総立ち状態のアリーナが、暗転と同時に大歓声に包まれる。スクリーンに映し出されたのは、巨大な機械と量産されたロボットのイメージ。1984年のアルバム『ザ・ワークス』から、ロジャー・テイラーとブライアン・メイが共作した「マシーン・ワールド」が、同じアルバムに収められていたロジャー作の「RADIO GAGA」へと続くSF的なオープニングだ。

スクリーンには、「RADIO GAGA」のMVでも引用されていたフリッツ・ラング監督のサイレント映画『メトロポリス』のロボットも登場、冒頭から過去と未来が結びつく。1984年にジョルジオ・モロダーのプロデュースで再編集された『メトロポリス』のサウンドトラックには、フレディ・マーキュリーが「ラヴ・キルズ」を提供。それが縁でクイーンとは切っても切れない映画になった。「マシーン・ワールド」の歌詞に”ランダム・アクセス・メモリー”が出てくるのも見逃せない。84年当時は今ほど一般的ではなかったRAMを指すその言葉は、ジョルジオ・モロダーをフィーチャーしたダフト・パンクの4枚目のアルバムのタイトルにもなった。ロボ声を用いた「マシーン・ワールド」自体、早すぎるダフト・パンクといった感じのエレクトロ風ロックだし、モロダーの片腕で『ザ・ゲーム』以降のアルバムを手がけてきたラインハルト・マックがバンドと共同プロデュースしている。こういう埋もれていたアルバム・トラックを掘り起こして新たな解釈を施し、攻めた演出でスタートしてくれたことが何よりうれしい。

フレディの姿に感涙、日本のファンも大合唱

続く「ハマー・トゥ・フォール」も『ザ・ワークス』から。アダムとブライアンがランウェイへ颯爽と駆け出して行く様子は、『LIVE AID』でこの曲が歌われたときの記憶を呼び起こしてくれる。ロジャーは背後で炸裂した花火の爆音に驚いて首をすくめていたが、バック・ボーカルを務める声に張りがあり、好調さが窺えた。「ファット・ボトムド・ガールズ」ではクイーンの売りのひとつであるコーラスの厚みを、サポートメンバーも加わって存分に見せつける。アダムがオーディエンスを煽り、早くも場内は大合唱だ。

「地獄へ道づれ」は簡単そうに見えるが、実はオクターブ上まで歌わねばならない難曲。しかし絶好調のアダムは余裕で艶やかに歌い切る。サポート・メンバーにも見せ場が用意されていて、ベーシストのニール・フェアクローがお馴染みのリフを弾いて喝采を浴びていた。ニールは元アヴェレイジ・ホワイト・バンドのヘイミッシュ・スチュアートともプレイしていた時期があり、ファンクはお手のもの。ジョン・ディーコン不在の穴を見事に埋めている。


Photo by Ryota Mori

1975年の傑作『オペラ座の夜』から、ロジャーのボーカルで「アイム・イン・ラヴ・ウィズ・マイ・カー」を聴けるのもうれしい。ヘヴィなビートを叩き出しながら歌う様は、クイーンのハードな側面とエッジを思い出させてくれる。今でこそ広く大衆に愛されるバンドになったが、初期クイーンの本分はポップスではなくシャープにデザインされたハード・ロックにあった。そこから乗り物シリーズで、曲は「バイシクル・レース」へ。回転する銀のバイクにまたがったアダムが、挑発的なアクションを繰り出してファンを熱狂させる。

そこからの流れで「ボーン・トゥ・ラヴ・ユー」に突入すると、アダムがブライアンに寄り添って肩に手を置く場面も。当初は周囲に気をつかっているように見えたアダムが、すっかりバンドに馴染んだのを感じる、微笑ましい時間だ。頭上でミラーボールが回転する中、ギターソロで速いタッピングをこなすブライアンはとても若々しく見えて、御年76歳とはとても信じられない。


Photo by Ryota Mori

ここで照明が落ちて雰囲気が一変、アダムの詠唱に続いて始まった「アイ・ウォント・イット・オール」は、そのボーカリゼイションの巧みさに圧倒された。ブライアンは途中のヴァースを歌い、テンポアップしてからはランウェイまで走って来て熱烈なギターソロをキメる。かと思うと、いつの間にかランウェイ上に椅子が用意されていて、そこでブライアンがMCを。「日本の友達、こんばんは。お元気ですか? 本当です! いっしょに歌ってください」と日本語で語りかけ、12弦アコースティック・ギターで弾き語りを始める。それをキーボードで控えめにサポートするのは、80年代からクイーンをサポートしてきたスパイク・エドニー。ブライアンが一言一句を噛みしめるように歌う「ラヴ・オブ・マイ・ライフ」に、自然と合唱が巻き起こる。そしてスクリーン上、ブライアンの隣には、ありし日のフレディの姿が……”お約束”ではあるけれど、やはり感涙を禁じ得なかった。

そのまま「手をとりあって」に続き、ボーカルはブライアンがしばらく歌ってからアダムへとバトンが渡される。日本のファンにとっては特別なこの曲でスクリーンに歌詞が投影され、これも当然大合唱。折り返し地点を待たずにクライマックスが続いた感じだが、この日のショウはまだまだここからが凄かった。81年モントリオール公演でロジャーが熱演したティンパニのソロがスクリーンに流れ、続いて”今のロジャー”がドラムソロを披露。外見こそ渋くなったが、74歳とは思えぬ切れ味でアグレッシヴに叩きまくる。その熱を残したまま、曲は「アンダー・プレッシャー」に突入。フレディもデヴィッド・ボウイも去ってしまった地上で、アダム&ロジャーが高揚感溢れるメロディを歌い上げる。その直後、客席からのアピールに気付いたアダムが、ファンが描いたメンバーのイラストを掲げて紹介する一幕もあった。

ステージ演出に込められた「ヒューマニティ」

「タイ・ユア・マザー・ダウン」では、立体的に前後に配置されたスクリーンの効果が一段と映えていた。ソロではブライアンの鋭いスライドギターが冴え渡る。ランウェイ上にブライアン、ロジャー、アダムが揃った状態で、続いて「愛という名の欲望」が始まり、またも場内大合唱。思わず歌い出さずにいられない名曲の多さに、改めて感嘆させられた。

「テイク・マイ・ブレス・アウェイ」から「リヴ・フォーエヴァー」へと至るパートは、シンガー=アダム・ランバートの真骨頂。フレディの節回しを過剰に意識せず、持ち味を伸び伸びと発揮する名唱で、ここでも大きな感動の山を作る。まだいくらか残っていたオリジナルのクイーンに対する遠慮がだいぶ抑えられてきて、アダムの個性がより前面に出てきたのが、今回のツアーでは明らかに良い結果を生んでいるようだ。

アダムが歌い切ると、ブライアンのギター・ソロへと移行。「さくら さくら」の一節を弾いてから、ドヴォルザーク『新世界より』の第2楽章、日本では「遠き山に日は落ちて」として親しまれてきたメロディをモチーフに、たゆたうようなソロを弾き続ける。宇宙空間で星々と共に浮かんで演奏するブライアン、という映像の演出も、彼のキャラクターによく合っていた。そして曲が「悲しい世界」へと続き、スクリーンに枯れゆく木が登場した辺りで、冒頭に置かれた「マシーン・ワールド」の副題、”Back To Humans”が脳裏をよぎり、気づかされるのだ……ヒューマニティの奪還、それこそがこのツアーのテーマであると。2020年代の今も戦火が止まない世界情勢を踏まえての選曲、と考えるのは行き過ぎだろうか。切実な歌詞と共に、ブライアンが来たTシャツの”和”の文字が強く印象に残った。日本通のブライアンは、当然この漢字の意味を理解しているだろう。

プロジェクション・マッピングの効果は絶大で、メンバーの映像が煌びやかに彩られた「カインド・オブ・マジック」では、ディズニー映画『ファンタジア』さながらの展開に。そしてメンバー紹介を挟み、「ドント・ストップ・ミー・ナウ」から再び場内大合唱モードへと誘っていく。終盤に来てもアダムは疲れ知らずで、高音までこれでもかと突き抜けていく「愛にすべてを」には何度も鳥肌が立った。


Photo by Ryota Mori

「ショウ・マスト・ゴー・オン」では、それまでステージ上にそそり立っていた宮殿がすっかり崩れ去ってしまう。この大胆さも、映像を駆使した演出ならではの醍醐味だ。そして本編ラストの「ボヘミアン・ラプソディ」では、これまでのようにMVの映像をうまく活用、生演奏と組み合わせて魅せる。セリからミラーのかけらをあしらったジャケットに衣装替えしたブライアンが上がってくる演出も楽しかった。

アンコールの「ウィ・ウィル・ロック・ユー」では、『世界に捧ぐ』(77年)のジャケットを飾った殺人ロボット、ファンには”フランク”の愛称で親しまれているあの巨大ロボがスクリーンに登場する演出も、近年の定番。そこから再び冒頭の「マシーン・ワールド」「RADIO GAGA」に戻り、後者のサビではフランクが手拍子する。大量生産されたロボットの群れは破壊され、ヒューマニティが守られた……というストーリーのようだ。そして最後の最後、「伝説のチャンピオン」では、”一期一会”とプリントされたTシャツを着たブライアンが勇壮なフレーズを弾く中、大量の紙吹雪が降り注いで幕となった。

年齢を考えると、ちまたの噂のように「最後の来日」になる可能性を否定はできないのだが。加齢を経てもなお、溌剌と演奏するブライアンとロジャーの姿に、”これで終わり”という悲壮感はなかった。去り際、名残り惜しそうに何度も振り返り、客席に投げキッスを送っていたブライアンの表情は、自分の目には「またね」と告げているように見えた。このツアーの集大成的な一夜に、さらなる”次章”が控えていることを期待しよう。


〈2月14日(水) セットリスト〉
1. Machines (Or 'Back to Humans') / Radio Ga Ga 「マシーン・ワールド/RADIO GAGA」
2. Hammer to Fall 「ハマー・トゥ・フォール」
3. Fat Bottomed Girls 「ファット・ボトムド・ガールズ」
4. Another One Bites the Dust 「地獄へ道づれ」
5. I'm in Love With My Car 「アイム・イン・ラヴ・ウィズ・マイ・カー」
6. Bicycle Race 「バイシクル・レース」
7. I was Born to Love You 「ボーン・トゥ・ラヴ・ユー」
8. I Want It All 「アイ・ウォント・イット・オール」
9. Love of My Life 「ラヴ・オブ・マイ・ライフ」
10. TEO TORIATTE 「手をとりあって」
11. Drum Solo ドラム・ソロ
12. Under Pressure 「アンダー・プレッシャー」
13. Tie Your Mother Down 「タイ・ユア・マザー・ダウン」
14. Crazy Little Thing Called Love 「愛という名の欲望」
15. You Take My Breath Away~Who Wants to Live Forever 「テイク・マイ・ブレス・アウェイ~リヴ・フォーエヴァー」
16. Guitar Solo ギター・ソロ
17. Is This the World We Created…? 「悲しい世界」
18. A Kind of Magic 「カインド・オブ・マジック」
19. Don't Stop Me Now 「ドント・ストップ・ミー・ナウ」
20. Somebody to Love 「愛にすべてを」
21. The Show Must Go On 「ショウ・マスト・ゴー・オン」
22. Bohemian Rhapsody 「ボヘミアン・ラプソディ」
◎アンコール
23. We Will Rock You 「ウィ・ウィル・ロック・ユー」
24. Machines (Or 'Back to Humans') / Radio Ga Ga 「マシーン・ワールド/RADIO GAGA」
25. We Are the Champions 「伝説のチャンピオン」




クイーン
『絆(KIZUNA)』
発売中
再生・購入:https://umj.lnk.to/Queen_KizunaPR

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください