CHAIはなぜ解散を選んだ? ラストライブから考える「NEOかわいいをフォーエバー」の真意
Rolling Stone Japan / 2024年3月22日 17時25分
今年1月に活動終了を発表したCHAIのラストライブとなった、全国ツアー「CHAI JAPAN TOUR 2024『We The CHAI Tour!』」のファイナル公演が3月12日に六本木EX THEATER ROPPONGIにて開催された(当日の模様とドキュメンタリー映像を収録した映像商品『We The CHAI Tour! FINAL ~NEO KAWAII IS FOREVER♡~』が7月3日にリリースされる)。デビュー当初から4人を取材してきた音楽ライター/編集者・矢島由佳子は、最後の勇姿をどのように受け止めたのか。
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3月12日をもって、”ニュー・エキサイト・オンナバンド”CHAIが解散した。
解散について、CHAIは次のように発表した――「このたびCHAIは次のツアーを最後に「NEOかわいいをフォーエバー」(=かいさん)することにしました。CHAIがずっと発信してきた「セルフラブ」、なりたい自分になることをこれからも自分たちがかなえていくために、メンバーそれぞれの道を進むことにしました」。
そのニュースは世界中のメディアで報じられた。社会的なメッセージもユーモラスに伝えてきたCHAIが解散さえも自分たちらしい言葉で表現したことに私は感心したが、中には「NEOかわいいをフォーエバー、って何?」と思った人もいることだろう。
CHAIに限らず、バンドが解散する理由の真実とは本人たちにしかわからないものだ。夫婦やカップルが別れた際に「なんで別れたの?」と聞いても、大抵の場合、人に伝え得る出来事の奥には本人たちにしかわからない複雑な心情が絡まっているのと似ている。
Photo by Yoshio Nakaiso
Photo by Yoshio Nakaiso
CHAIとは、2012年、マナ(Vo, Key)が双子の姉妹であるカナ(Vo, Gt)に「やっぱりバンドがやりたい」と話したところから、高校の軽音楽部で同級生だったユナ(Dr)と、マナの友人だったユウキ(Ba/当時はベース未経験だった)を誘って結成されたバンド。2015年に1st EP『ほったらかシリーズ』を完成させて、ラストライブ「CHAI JAPAN TOUR 2024『We The CHAI Tour!』」のダブルアンコールでも披露した「ぎゃらんぶー」は、いきなりSpotifyのUKチャートTOP50にランクイン。2017年にはSXSWに出演、初の全米ツアーを敢行するなど、活動当初から世界に向けて音楽を届けてきた。
私はこれまで数えきれないほどCHAIのインタビュー記事やコラムなどを執筆・編集してきたが、2016年の初取材から、4人は「グラミー賞を取りたい」とはっきり語っていたことを覚えている。その夢は多くのバンドが口にするものであるが、実際に叶えていくために具体的な歩みを進めていける人はなかなかいない。CHAIは作品やライブを重ねるごとに、悔しい思いも経験しながら、自分たちの音楽をアップデートさせて、世界で戦うために必要なスキルと実績を着実に積み重ねていった。「1年の半分くらいは海外にいる」というようなペースで世界ツアーを何度もまわり、アメリカの音楽メディアPitchforkでは早い時期から高い評価を受けて、「The New York Times」「The Guardian」など主要メディアにて取り上げられるだけでなく「NPR Music Tiny Desk Concert」にも出演(「Tiny Desk Concert」は最近NHKにて日本版がスタートしたことでも話題だが、本場版に出演した日本のアーティストはコーネリアスに次いでCHAIが2組目だった)、さらにはPitchfork Music Festival、Primavera Sound Festivalなど世界各国の大型フェスに参加、ゴリラズやデュラン・デュランなど世界的アーティストたちとのコラボを果たすなど、ここに書ききれないくらいの唯一無二な方法で日本から世界へと続く道を切り拓いていった。
「コンプレックスはアートなり!」。その言葉も、CHAIは初期から掲げていた。マナとカナは小さい頃から、写真を撮られるたびに「目を開けなさい!」と親から言われていたそうで、「かわいい女の子=二重で大きい目」といった世の中に蔓延っている価値観から自らを解放させるために、音楽を通じて「コンプレックスはアートなり」という考え方を発信するようになった。CHAIがのこした怒りと肯定のマスターピース「N.E.O.」(ラストライブでは2回演奏し、CHAIとして最後に演奏したのも「N.E.O.」だった)でも、”目ちっちゃい 鼻低い くびれてない 足太い オーライ! Ye Yeah!”と痛快に叫ぶ。掲げたコンセプトの言葉通り、”目が小さい!”とステージ上から大きな声で叫び、自分のコンプレックスをアートに変えることで、CHAIは世界の人々と繋がっていったのだ。
Photo by Yoshio Nakaiso
Photo by Yoshio Nakaiso
解散の発表を聞いたとき、私は衝撃を受けた。定期的にインタビューをさせてもらっている中で、バンド内の関係性が変わっていることや各メンバーのモード変化などを感じることはあったが、ここで解散を選ぶことは想像していなかった。最後にCHAIとしてインタビューをしたのは、4thアルバム『CHAI』を完成させた昨年8月。『CHAI』は、Ryu Takahashi(3rdアルバム『WINK』からタッグを組んでいる、アメリカ在住のプロデューサー。坂本龍一、BIGYUKIなどの作品にも携わる)がサウンドプロデューサーとして全面的に参加し、バンドサウンドに縛られず、メンバー以外のプレイヤーも交えながら、今の時代を生きる世界中の人たちの耳に馴染みやすいグローバルトレンドの音像を徹底的に追求し、CHAIのポテンシャルを広げることに挑戦した作品だった。それを経て、セルフプロデュース色を再び濃くしたアルバムを作るとどういった音像やエネルギーが生まれてくるのかを見たかった、というのが私の正直な想い。『CHAI』で得た武器を自分のものにしてさらに振り回していけば、もっとすごいものができるんじゃないか、と妄想してしまっていた。『CHAI』はグラミー賞にエントリーまでしていたといい、その夢に一歩ずつ近づいているように見えていたからこそ、ここで歩みを止めることはとても寂しかった。
しかし、「CHAI JAPAN TOUR 2024『We The CHAI Tour!』」ファイナル公演を見て感じたのは、このタイミングが引き際としてベストであったのだということ。マナが「すごく明るい未来に行くためのCHAIとみんなの門出」と呼んだラストライブで、4人――特にマナ――からは複雑な表情も垣間見えたが、ここで「NEOかわいいをフォーエバー」=永遠のものにすることで、ここまで築き上げてきた「CHAI」と「NEOかわいい」の概念を守ろうとしたのだと汲み取った。
Photo by Yoshio Nakaiso
4人が守ろうとしたもの、最後に伝えてくれたこと
「CHAI」「NEOかわいい」とは、概念だった。ステージ上でも、Instagramやメディアでも、メンバーたちはそう表現している。
「バンド」というものは、一人の人間が持っている思想を超越し、もっと大きな思想が確立した世界を立ち上がらせることができる。CHAIが立ち上がらせていた世界とは、日常の中で心ない言葉を浴びせられても、自身に劣等感を抱いても、ここに入れば心を守ってもらえるようなセーフゾーン。世の中で「かわいい」「かっこいい」「正解」とされるものから外れたものもすべて肯定してくれるような、否定をなくし肯定の範囲を広げた世界。ラストライブでユウキが言った言葉を借りると、「自分を愛することは難しいことじゃない」と気づかせてくれる世界。自由で無敵で愛が溢れている心の行き場所、それが「CHAI」の概念だった。
そんな概念を壊さないために4人はここで潔く解散を選んだのだ、と私はラストライブを見て確信した。CHAIの活動が、それぞれの「なりたい自分」を奪ってしまっているのであれば、「NEOかわいい」のメッセージを説得力もって伝えることはできなくなるだろう。メンバー同士で何かを強いることや、自分がなりたい方向に誰かを付き合わせることは、「NEOかわいい」の考えに反する。そんな状態で、「CHAI」という概念が立ち上がるようなバンドマジックは起こせない。そもそも、自分の生き方に自主性を持って、自分が決めたことに愛を持つことで人生は好転すると教えてくれるのが「NEOかわいい」だ。これまで作り上げてきた「CHAI」の概念や「NEOかわいい」の思想を汚さずに、楽曲を再生すればそれらが美しいまま立ち上がって永遠に一緒に生き続けられるように、ここで活動を止めることを決断した。そういった意味で「NEOかわいいをフォーエバー」と表現したのだと私は感じ取った。
Photo by Yoshio Nakaiso
ラストライブにて最後の挨拶を終えたあと、ステージ上には「NEOかわいいの五訓」が書かれた垂れ幕が開いた。そこにあった五訓は自分自身が探し求めていないと出てこないはずの言葉で、4人が12年間の活動を通して「NEOかわいいの五訓」に辿り着いたことが感慨深かった。10、20代という怒りや反抗心とともに戦った年代(女性としては特に外見的評価に晒される年代でもある)を終えて、これからは「NEOかわいいの五訓」をお守りにし、新たな心の豊かさや癒しを自ら求めながら私たちに伝えてくれるのだろう。ラストライブの前日に出演したラジオ番組『SONAR MUSIC』でマナは「次はみんなを愛すことを一番にしたい」「セルフラブも大事だけど、みんなのことをもっと愛したいと思うようになった」と語り、YouTubeの配信番組でカナは「ここ2、3年、ロックにちょっと飽きてきた。今までリズムを大事にしてきた。リズムに生きてきた。だけどもうリズムじゃないかも、って2、3年前に感じていたんですよ、実は」と語り、これからはヒーリングアーティストを目指すことを伝えている。
Photo by Yoshio Nakaiso
ラストライブの本編最後に演奏したのは「フューチャー」。”There is nothing stopping me!”、”どんな夢をこの先で歌いながら叶えよう? 思ってるよりもずっとわたしの世界は広い”、”Come on my FUTURE!”――その言葉は、オーディエンスの背中を押すだけでなく、4人が自身に言い聞かせるように響き渡っていた(Blu-ray『We The CHAI Tour! FINAL ~NEO KAWAII IS FOREVER~』が発売されたら、涙をこらえながらも一生懸命前に行こうとしている4人の複雑な表情を見返してみてほしい)。4人の心の中では、この先の未来について希望と不安の両方が渦巻いていることだろう。私はCHAIと出会った2016年からの8年間、「生きたいように生きているあなたが最高だよ」というメッセージをもらってきたからこそ、ここで4人に伝え返したい。「CHAIの○○」という肩書きがなくなっても、どんな形であっても、生きたいように生きているあなたが最高だよ。
CHAI
映像商品『We The CHAI Tour! FINAL ~NEO KAWAII IS FOREVER♡~』
2024年7月3日(水)発売予定
完全生産限定盤〈BD + フォトブック〉三方背BOX仕様
商品予約リンク:https://CHAIband.lnk.to/CHAITourFinalBD
CHAI「CHAI JAPAN TOUR 2024『We The CHAI Tour!』」2024年3月12日 EX THEATER ROPPONGI
01. MATCHA
02. IN PINK(feat. Mndsgn)
03. ラブじゃん
04. アイム・ミー
05. 物販紹介ソング
06. Sound & Stomach
07. ボーイズ・セコ・メン
08. We The Female!
09. PING PONG!(feat. YMCK)
10. ACTION
11. PARA PARA
12. まるごと
13. NEO KAWAII, K?
14. クールクールビジョン
15. ハイハイあかちゃん
16. END
17. N.E.O.
18. Donuts Mind If I Do
19. フューチャー
<アンコール>
20. ほれちゃった
21. sayonara complex
<ダブルアンコール>
22. ぎゃらんぶー
23. N.E.O.
セトリプレイリスト:https://CHAIband.lnk.to/WTCTFINALsetlist
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