リンダ・リンダズが語る「成長するってこと」 パンクと多様性、愛する音楽との繋がり
Rolling Stone Japan / 2024年3月27日 18時30分
2022年春に1stアルバム『Growing Up』を発表し、SUMMER SONIC 2022で初来日を果たして以降もリンダ・リンダズ(The Linda Lindas)は(学業にも追われながら)精力的に活動を続けてきた。
まずは2022年末にクリスマス・ソングの「Groovy Xmas」をリリース。2023年は「Too Many Things」「Resolution/Revolution」と2つの新曲をリリースしつつ、レイ・チャールズのバージョンが有名な「Drown In My Own Tears」や、ミュージック・エクスプロージョンのバージョンが有名な「Little Bit 'O Soul」といった気の利いたカバー曲もリリース。ゴーゴーズの「Our Lips Are Sealed」とバングルスの「Manic Monday」のコピーから始まったというリンダ・リンダズのカバー・バンドとしての出自を改めて知らしめるかのような展開となった。
そして2024年。PUNKSPRING 2024への出演に併せて、東京と大阪で待望の単独公演が開催。3月18日に渋谷duo MUSIC EXCHANGEで行われたライブでは、ラモーンズの「Do You Remember Rock 'n' Roll Radio?」を出囃子に登場、日本では初披露となったビキニ・キルの「Rebel Girl」やマフスの「Big Mouth」といったカバーを織り交ぜつつ、以前より骨太になった演奏でロック・バンドとしての確かなスケールアップを観客に印象付けた。締めくくりはもちろん「リンダリンダ」! 一見するとクールながらも観客を煽りまくるベラ、天真爛漫な振る舞いのルシア、マイペースにビートを刻み続けるミラ、ハードなシャウトで吠えるエロイーズと、四者四様の個性はきちんと健在。バンドの未来への期待はさらに大きくなるばかりだ。
7月から始まるグリーン・デイの全米スタジアム・ツアーにフロントアクトとして帯同することも決定し、1stアルバム『Growing Up』のタイトルである「成長」を体現し続けている彼女達が、東京公演の開演直前にインタビューに応じてくれた。
エロイーズ・ウォン Photo by 岸田哲平 (C)PUNKSPRING All Rights Reserved
ベラ・サラザール Photo by 岸田哲平 (C)PUNKSPRING All Rights Reserved
2度目の日本、LAパンクと多様性
―ライブの1週間ほど前にすでに日本に到着されていたようですが、どんなところに行かれていたのですか?
エロイーズ:今回は京都に行って猿を見たり(注:おそらく嵐山モンキーパークのこと)、奈良で鹿を見たり、色んな寺や神社に行ったりした。
ルシア:日本に前回来た時は夏だったから暑くて湿度も高かったけど、今回は気温も低くて旅行するのに最適な時期に来れたと思う。日本には名所がいっぱいあるから、今回も色んな新しい体験ができて凄く楽しかった。
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―ジブリ美術館にも行かれてましたよね?
ベラ:ええ。とっても感動した。
エロイーズ:ジブリ映画の制作工程が知れて本当によかった。キャラクターのスケッチや絵コンテがアニメになっていく過程は職人技の極みって感じで。
ベラ:自分は美術館とかに行ってもそんなに感動することってないんだけど、ジブリ美術館に展示されていたスケッチの数々を見た時は本当に涙が出そうになっちゃった。
エロイーズ:そこで見たキャベツの絵は、自分がこれまで見てきた中で最も美しいキャベツだと思った。
ルシア:絵に感動したっていうより、食い意地が張ってるだけでしょ(笑)。
エロイーズ:食べたくなるぐらい素敵なキャベツの絵だったのは確かだけど(笑)。
ルシア・デラガーザ Photo by 岸田哲平 (C)PUNKSPRING All Rights Reserved
ミラ・デラガーザ Photo by 岸田哲平 (C)PUNKSPRING All Rights Reserved
―今回の来日ツアー用に作られたツアーTシャツにはタコが描かれていますが、大阪名物のタコ焼きは食べられましたか?
エロイーズ:タコ焼きは食べてないけど、タコの中に卵が入ってるやつは食べた(注:たこたまごのことだと思われる)。卵が入ってるって知らなくてビックリしちゃったけど美味しかった。
ミラ:その時の写真を見せてもいい?
エロイーズ:私の鼻もタコみたいに赤くなってるの(笑)。
ミラ:動画もあるよ(笑)。
その時の写真(Photo by Mila de la Garza)
エロイーズ:Tシャツの絵については、何年か前にベスト・コーストのベサニー・コセンティーノと一緒に「Color Me Mine」って陶芸スタジオに行った時に、顔が猫で身体がタコになってるリンダ・リンダズの4人をマグカップに描いたんだけど、それが元になってる。
ルシア:素敵な絵だったから何かの形で使いたいとずっと思ってた。
2024年来日ツアーTシャツ(こちらのリンク先で販売)
―そのベサニー・コセンティーノの1stソロ・アルバム『Natural Disaster』が昨年リリースされました。この作品はシンガーソングライター・アルバムの大傑作だと思うのですが、ブックレットには「音楽を作る新世代の女の子達にインスピレーションを与えてくれたリンダ・リンダスに感謝を」との謝辞が綴られています。かつて自分達に影響を与えてくれた人達に対して、今は逆に自分達が影響を与えるような立場になったという状況の変化についてどう思いますか?
ルシア:信じられないぐらい。ベスト・コーストはずっと聴いていて、子供の頃から「When I'm With You」や「The Only Place」は大好きな曲だったから。ベサニーは才能溢れるシンガーソングライターだと思うし、今もミュージシャンとして成長を続けているのが本当に凄いと思う。しかも、とっても優しくて素敵な人だし。
ベスト・コーストのメンバーのボブ(・ブルーノ)は今や私達のギター・テクニシャンとして一緒にツアーを回ってくれている。こうやって彼らと繋がることができたなんて、奇妙にも思えるけど最高にクール!
エロイーズ:ベサニーはリンダ・リンダズの結成当初から私達の熱心なサポーターでいてくれたし、そこも含めて凄く嬉しく思ってる。ベサニー大好き!
―マフスのアルバム『Whoop Dee Doo』のブックレットに掲載されているライブ写真はエロイーズさんの父親のマーティン・ウォンさんが撮影されていて、あなた達もマフスの「Big Mouth」をカバーしています。ここまでのリンダ・リンダズとしての活動で、自分達もマフスのように何世代にも渡って影響を与え続けるバンドになったという実感はありますか?
エロイーズ:「影響を受けた」と言ってもらえるのは嬉しいことではあるけど、ちょっと不思議な気持ちにもなるかな。自分達は好きなことをやって楽しんでるだけだし、実感はあまりないかもしれない。それはともかくとして、マフスは本当に大好き。キャッチーなんだけど、荒々しさもあって素晴らしいと思う。
ルシア:マフスはずっと好きだな。彼らの曲を聴くと懐かしさと安心を覚えるというか。自分にとってはそういう存在。アルバムで矢継ぎ早に曲が繰り出されるのも最高だし。
―エロイーズさんの歌唱法はマフスのキム・シャタックっぽいと感じることもあります。
エロイーズ:自分もあんな風に歌えるようになれたらと思ってる。メロディアスな曲の中で放たれる彼女のシャウトが大好きなの。
―マーティンさんとリンダ・リンダズも出演しているドキュメンタリー『Chinatown Punk Wars』を観て、LAパンクの中心地となったのはチャイナタウンのライブハウスであり、その場所柄もあってLAパンクは最初から人種の多様性を内包していたことを知りました。あなた達は以前にササミの「Not The Time」のMVに出演していましたし、最近ではヤー・ヤー・ヤーズやジャパニーズ・ブレックファストとも共演されていましたが、そういったアジア系アーティストの現状は半世紀近く前の『Chinatown Punk Wars』の頃からどう変わったと思いますか?
エロイーズ:パンクって一般的には「白人男性が叫びまくっている音楽」みたいなイメージがあるのかもしれないけど、実際には当初からもっと多様性に富んだものだったわけで。有色人種もいたし、男性のバンドばかりでもなかった。たとえばアリス・バッグ。たとえばアレイ・キャッツのダイアン・チャイ。パンク・シーンにちゃんと目を向ければ、例は無数にある。どんな人でも作れる音楽で、そういう多様性のあるところこそが私はパンクの美しさだと思ってるから。
ルシア:時代は確実に変わってきている。今はK-POPもあるし、これほどアジア系アーティストの音楽が世界中で広く受け入れられてる時代もないんじゃないかな。今は誰もが、どんなタイプの音楽が好きでも許されるようになったと思うし。
エロイーズ:インターネットで簡単に世界中の面白い音楽を知ることができるのも大きいよね。必要なのは好奇心だけ!
『Chinatown Punk Wars』は米メディアPBS SoCalによる南カリフォルニア文化史を追った番組シリーズ「Artbound」の第14シーズンとして2023年に放映。ジョン・ドゥ(X)、アリス・バッグ(バッグス)、キース・モリス(サークル・ジャークス他)らも出演
―『Chinatown Punk Wars』のキーパーソンであるマダム・ウォン(LAパンクの中心地となったライブハウスの経営者)と、エロイーズさんとマーティンさんのウォン家は家系的に繋がってたりするのですか?
エロイーズ:ただ同じ苗字ってだけ(笑)。名前といえば、私の「エロイーズ」って名前はダムドの「Eloise」(バリー・ライアンの60年代のヒット曲のカバー)から名付けられたの。だからPUNKSPRINGでダムドのライブを観れたのは嬉しかったな。興奮してモッシュにも突入しちゃった(笑)。
バンドは人生そのもの、2ndアルバムの展望
―レッド・クロスのキャリアを追ったドキュメンタリー映画『Born Innocent: The Redd Kross Story』にリンダ・リンダズも出演していると聞きました。レッド・クロスは兄弟が、リンダ・リンダズは姉妹が在籍しているパンク/パワーポップ・バンドで、共通点も多いように思います。レッド・クロスのどういうところに魅力を感じますか? また、映画への出演を依頼されてどう思いましたか?
エロイーズ:レッド・クロスのことは超大好きだから出演依頼を受けた時は凄く嬉しかった。
ミラ:私達が子供の頃から聴いてきたバンドだし。
ルシア:マフスとも繋がりのあるバンドだしね(注:マフスのドラマーのロイ・マクドナルドはレッド・クロスの元メンバー)。
エロイーズ:しかも少年ナイフとも友達だし。レッド・クロスは元々はパンク・バンドだったわけだけど、そこに固執せずにポップな方向にも音楽性を拡大させていったりと、自分達が本当にやりたいことを追求し続けているところが偉大だと思う。「他人にどう思われようと構わない」という姿勢も含めてね。
(注:リンダ・リンダズの東京公演にはメルヴィンズのメンバーとして来日中だったレッド・クロスのスティーヴン・マクドナルドが観客として足を運び、MVの撮影も行われた大阪公演では少年ナイフの山野直子が観客を煽る特別MCとしてリンダ・リンダズのステージに登場する一幕もあった)
―レッド・クロスとリンダ・リンダズはどちらも10代のかなり早い内から活動を始めたバンドですが、今後リンダ・リンダズはバンドとしてどのようなキャリアを積んでいきたいと思っているのか教えてください。
ルシア:そんなに深くは考えてなくて、音楽を作り続けてライブをずっと続けられればいいなと思ってる。
エロイーズ:まったくの無計画(笑)。
ルシア:今やっていることはとにかく楽しいし、バンドで日本に来れるなんて最高だしね。しかも学校を2週間もサボって(笑)。
エロイーズ:バンドを始めたことで、パラモアだったりヤー・ヤー・ヤーズだったりジョウブレイカーなんかと共演できたりしたわけだから、こんなに幸運なことはないと思う。彼らがずっと昔から現在に至るまで活動を続けているのにも勇気付けられる。彼らを見ていると、バンドが「若気の至り」とかじゃなくて人生そのものになっているのが素敵だな、と。私達もそんな風になれたらと思ってる。
―ベラさんは服飾デザイナーとしてのキャリアもスタートさせていますが、そういった個人的な進路とバンドの兼ね合いをどのように考えていらっしゃいますか?
ベラ:まだ学生だし、デザイナーとしても駆け出しだけど、個人的な進路とバンドのキャリアは決して相反するものではないと考えてる。バンドとファッションは密接に関係していると思うし、好きなバンドにはクールな格好をしててもらいたいしね。でも、世の中には機能性に欠けてたり、すぐに破れたりする服も多いでしょ。だからデザイナーとしても私はバンドに貢献できるんじゃないかと思ってる。私の夢はバンドの為の服が作れるデザイナーになること。バンドで演奏するのは大好きだし、服を作るのも大好きだから、この2つを上手く並行していけたらなと願ってる。
この投稿をInstagramで見る The Linda Lindas(@the_linda_lindas)がシェアした投稿 リンダ・リンダズ来日公演のステージ衣装は、ベラが立ち上げたブランド「La Rosa de La Esquina」がデザインしたもの
―2023年にリリースされた新曲「Too Many Things」と「Resolution/Revolution」を聴いて、サウンドが以前よりもハードになってきていると感じたのですが、どうしてそのような変化が生じたのか教えてください。
ベラ:『Growing Up』の頃と比べると、私達も歳を重ねて、色々なことを経験して、音楽の趣味も広がってきた。その結果が曲にも表れたんだと思う。つまり成長したってこと!
―2ndアルバムはどんな内容になりそうですか?
ルシア:私達が生まれて初めて書いた楽曲群が『Growing Up』には収録されてる。それが世に出て、みんなに気に入ってもらえたのは本当にクールな体験だった。そこから私達がどのように成長したのかを次のアルバムでは見せられると思う。「Too Many Things」と「Resolution/Revolution」はハードな感じだけど、アルバムではもっと色々なタイプの楽曲を用意してる。
ミラ:間違いなく1stアルバムよりいい作品になるはず。バンドとしての結束も強くなったし、ソングライターとしても成長できたと思うから。
エロイーズ:成長すれば、それが音楽の変化として表れてくると思う。そうやって変化していくのが音楽の面白さだとも思うし。私は以前よりもヘヴィな音楽が好きになってきてる。というのは、自分にとっての音楽はエモーションの大切な表現手段だから。普段の生活の中では抑圧されている感情も、音楽を通してなら吐き出すことができる。
差別や偏見との闘い、トリビュート・アルバムを作るなら
―最近はどんな音楽がお気に入りですか?
ルシア:マネキン・プッシーの新作が凄くよかった。ビー・ユア・オウン・ペットやウィローもよく聴いてる。パンクだけじゃなくて、ミツキやフィオナ・アップルなんかもね。
エロイーズ:私は昔のバンドをよく掘ってる。それこそ『Chinatown Punk Wars』に出てきたようなバンドを。
でもそれだけじゃなくて、新しいバンドを聴くのも本当に楽しい。私の友達が在籍してるbeforeyouleaveってスクリーモ・バンドがいるんだけど、小さいライブハウスとかで彼らの演奏を聴くと、バンドの混じり気なしのエネルギーが感じられて最高なの。彼らからはとても大きな刺激を受けてる。
あと、通ってる高校でジャズ・コンボに所属していることもあって、最近はジャズを聴き始めてるかな。チャールス・ミンガスをよく聴いたり、ジョン・コルトレーンの『Ballads』を聴いたりしてる。音楽の趣味を広げていくと、様々なことを学べてとっても面白い。
ベラ:最近はサリー・シャピロをよく聴いてる。それと荒井由実。
ミラ:Spotifyの履歴を確認したんだけど、私が最もよく聴いているのはパラモア。その次がガール・イン・レッドだった。
―パラモアといえば、彼女達のリミックス・アルバム『Re: This Is Why』でリンダ・リンダズは「The News」をリミックスしています。非常にパンキッシュでかっこいい仕上がりですが、いわゆる普通のリミックスとは違うように聴こえます。このリミックスはどのように制作されたのですか?
ルシア:リミックスのやり方を知らないから、とにかく思いつくままにやってみた結果があれ(笑)。カウベルを加えてみたり、スペイン語で喋ってみたり……。
エロイーズ:ダブみたいな処理を加えたり、パワーコードを上から重ねたりとか。
ルシア:やっていて楽しかったし、いい感じに仕上げられたと思ってる。
―パラモアは今年のグラミー賞で、女性がフロントパーソンを務めるバンドとしては史上初となる最優秀ロック・アルバム賞を受賞しましたが、音楽業界における性差別は改善されてきていると思いますか?
エロイーズ:改善されてきてるとは思うけど、まだまだ差別は残っているように感じる。
ルシア:音楽だけに限らず、あらゆる分野で女性は過小評価され続けていると思う。過去の酷い差別を知るのはつらくもあるけれど、差別と闘ってきた人達の話を聞いて、歴史から学んで、より良い世界を私達で築いていくことはできるはず。私はそう信じてる。
―リンダ・リンダズとしての活動で差別を感じたことはありますか?
エロイーズ:「こんな子供達が本当に演奏できるのか?」なんて言われたこともあったし、自分達で曲を書いてないんじゃないかと疑われたこともあった。ライブ中に人種差別的なことを言われたりも。だからこそ、そういう差別をなくしていかないとね。
―トーキング・ヘッズの『Stop Making Sense』のトリビュート・アルバムにリンダ・リンダズも参加することが発表されましたが、もしリンダ・リンダズのトリビュート・アルバムが作られるとしたら、どんなアーティストにどの楽曲をカバーしてもらいたいですか?
ベラ:私が書いた曲の中からだったら、「Oh!」をカバーしてもらいたいな。「Oh!」」はリンダ・リンダズのアンセムの一つになった気がしてるから。アレンジの仕甲斐がある曲だとも思うし。
ルシア:それこそトーキング・ヘッズがカバーした「Oh!」なんてあったら聴いてみたい。
ミラ:私達の知り合いのアーティストがみんな参加してくれたら最高なんだけどね。
エロイーズ:私はジョニー・マラカ&ザ・マロッカーズに「Why」をカバーしてもらいたい。彼らのことが大好きだから。でも、究極の理想を言うなら、誰でも参加できるトリビュート・アルバムを作りたいな!
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