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DJハリソンが語る 古いレコードの質感を追い求め、アナログの魔法を今に蘇らせる美学

Rolling Stone Japan / 2024年4月18日 17時30分

Photo by Eric Coleman

米ヴァージニア州リッチモンドを拠点とする、ブッチャー・ブラウン(Butcher Brown)という5人組がいる。ヒップホップ/ネオソウル以降のジャズ系バンドである彼らは、サウンドの質感への徹底的なこだわりに加えて、そのインスピレーション源やカバー曲の選曲センスも高く評価されてきた。

アナログ機材やテープでの録音は当たり前。まるでマッドリブがバンドを結成したかのように敢えて音質を落としたり、ノイズ交じりで録音したり、ジャズ系のバンドはまずやらない手法を駆使している。そのこだわりからレコードだけでなく、カセットテープでのリリースをずいぶん前から行なっていた。

さらに彼らは、トム・ブラウン「Funkin' For Jamaica」、デヴィッド・アクセルロッド「Holy Thursday 」、ボブ・ジェイムス「Nautilus」、ワンネス・オブ・ジュジュ「African Rhythms」、タリカ・ブルー「Dreamflower」など、レアグルーヴもしくはサンプリングの文脈で知られる曲を数多くカバーしている。そんなセンスを持ち合わせたうえで、クリスチャン・スコットやカート・エリングなどにも起用される敏腕が名を連ねているわけで、こんなバンドは世界中を探しても他に存在しない。

そのバンドの中心人物が、DJハリソン(DJ Harrison)ことデヴォン・ハリス。彼は鍵盤を中心にマルチ奏者としてバンドをけん引しながら、アナログ機材を自在に操るエンジニアとして録音やミックスを担い、ブッチャー・ブラウンのディープな音楽を作り上げてきた。しかも、ビートメイカーであり、プロデューサーであり、2017年からはDJハリソンとして名門Stones Throwからソロアルバムをリリースしている。同名義では自身ですべての楽器を演奏し、それを録音〜サンプリングしながら構築したプロダクションを、みずからミックスしている。マカヤ・マクレイヴンやカッサ・オーバーオールらと並ぶ、現行シーン屈指のミュージシャン兼プロデューサーだ。

そんなDJハリソンの最新作『Shades of Yesterday』はカバー集。独自のDIYスタイルで様々なジャンルの名曲を自分のカラーに落とし込んでおり、どこからどう聴いても彼にしか作れないアルバムとなっている。

今回、日本初インタビューが実現した。まずは日本語での情報が少ない彼を知るための話をたっぷり掘り下げ、最後に新作の話に辿り着くのだが、そのすべてがひとつの流れで繋がっている。ハリソンの影響源からサウンドメイクで目指していることまで、どの話にも一貫性があり、そこには同じ美学が宿っている。この記事を読むことで、彼がどんなアーティストなのか、ブッチャー・ブラウンがどんなグループなのかも明らかになるはずだ。




―10代の頃に夢中になった音楽について聞かせてください。

DJハリソン:初めて車を手に入れた頃によく聴いていたのは、ジョン・コルトレーンの『A Love Supreme』とか『Africa/Brass』だったけど、ディアンジェロの『Voodoo』の日もあったり、N.E.R.D.の『Fly Or Die』とか、ソウライブを聴いたり、とにかく色々聴いてたよ。色んなジャンルから選りに選って聴くっていう今のスタイルはその時からかもしれないね。

―楽器を演奏するようになったきっかけは?

DJハリソン:子供の頃、ドラムセットとかキーボードがある環境で育ったし、その時はわからなかったことだけど、僕にはいわゆる絶対音感があって、音の技術的なことなんてわからない頃から耳にした曲を覚えることができたんだ。例えば、6歳か7歳の頃、マーヴィン・ゲイの曲を聴いて、どのコードだとか説明することはできなかったけど、正確にコードを弾くことはできた。だから音楽ってそういうものだってずっと思っていたけど、高校生の時に自分に絶対音感があることがわかって、「おいおいデヴォン、どうやら誰もがそうというわけじゃないみたいだぞ」って気づいたんだ。

―バージニア・コモンウェルス大学での専攻は何でしたか?

DJハリソン:ジャズ専攻で、楽器はドラムだった。

―へえ、キーボードじゃなかったんですね。

DJハリソン:うん、でもジャズ・ピアノも在学中にレッスンは受けてたよ。

―鍵盤以外にも数多くの楽器を演奏するようになったきっかけは?

DJハリソン:家では両親が常に色んな音楽をかけていた。カセット・テープやCDのようないわゆるフィジカル・フォーマットのアルバムがたくさんある環境で育ったんだ。そういうのを見ながら母が「ほらね、これがバンドっていうの。みんな色んな楽器持ってるでしょ」って説明してくれた。で、僕が「バンドって何するの?」とか「このレコードに載ってる人たちって誰なの?」って聞くと、両親は「そうだね、この人たちはね、スタジオでこのレコードに入っている曲を演奏した人たちだよ」ってわかりやすく教えてくれたんだ。そこから「レコードってどうやって作るの?」って具合に、とにかく子供の頃から曲作りの仕組みや音響、楽器全般とか、レコードが作られる過程にすごく興味があった。そこから始まったんだ。


DJハリソンの多重演奏セッション動画

―これまで特に研究してきたピアニスト、キーボード奏者は誰ですか?

DJハリソン:ハービー・ハンコックにチック・コリア、ジョー・ザビヌル、それともちろんロバート・グラスパーとか。あとジョージ・デュークも。彼らみたいにレコードで聴いてきたアーティストたちはもちろんだけど、仲間のミュージシャンたちも僕にとっての研究対象だった。彼らだって僕と同じアーティストたちに影響を受けているわけだからね。まあ、言ってみれば同じ木から分かれして伸びているいろんな枝、みたいな感じだよね。

―これまでで最も研究したコンポーザーを教えてください。

DJハリソン:スティーヴィー(・ワンダー)にディアンジェロ……ディアンジェロだって、今挙げた巨匠たちを学んだ立場だしね。もっと遡るとヴィンス・ガラルディとかマーヴィン・ゲイ、それとミニー・リパートンやアース・ウィンド・アンド・ファイアーの作品に貢献したチャールズ・ステップニー。ジャコ・パストリアスもそうだね。

―今挙げたような人たちに何か共通点はありますか?

DJハリソン:彼らの持っている感覚っていうか、フィーリングみたいなものかな。コードとか歌の構成に関して熟知していたり、技術的に達人であることはもちろん重要だけど、そういった音楽的なルールとかを知らないリスナーも含めて、聴く人の気分が良くなったり、何かを感じさせることができるものを作る能力というかね。やっぱり良いものは良いんだよね。それに尽きるよ。


Photo by Ross Harris

―あなたがビートメイクやトラックメイクを始めたきっかけを教えてください。

DJハリソン:Stones Throwと契約したことかな。契約する前からJ・ディラとかMFドゥーム、マッドリブとか尊敬してやまない錚々たるメンバーが揃っているレーベルだからすごく関心はあった。彼らが音源を抽出したり、サンプリングの素材として選んでいたレコードの大半は、僕にとっては自分が小さい頃から聴いていたものばかりだから、そういったレコードはもちろん研究したけど、その一歩先を行って実際に自分がそれらをリプレイできるっていうのは、また全然違う次元なんだよね。そんな感じで始まったよ。だから彼らのおかげなんだ。

―特に研究したビートメイカーやトラックメイカーを教えてください。

DJハリソン:J・ディラにマッドリブ、カリーム・リギンス、アルケミスト、あとブラック・ミルク、カニエ(・ウェスト)、DJプレミア、ザ・ルーツ、クエストラヴとか、とにかくたくさんいるよ。僕はそんな彼らの遍歴から抽出したものを元に自分自身のサウンドを作っているんだ。彼らが僕に与えてくれたインスピレーションを最大限大切にしながら、自分のサウンドを追求している。

―今挙げてくれた名前に共通点などはありますか?

DJハリソン:ソウル(魂)だね。アイデンティティというか。今挙げたアーティストはみんな、同じサンプルを使っても、それぞれが自分のサウンドにしている。そこに自身のアイデンティティを込めるんだ。ソウルにアイデンティティが込められているという意味で、言ってみればハートだよね。



―マッドリブからの影響をいろんなところで語っていますよね。具体的に言うと?

DJハリソン:とにかく自分の道を突き進むこと、そして自分の素材に責任も持つことかな。マッドリブぐらいになると、何をやっても手がけた作品には彼のカラーが出るけど、そんな彼から自分のやっていることに確信を持つことの大切さを教わったよ。たとえそれが万人受けしないことだとしても、自分が信念を持って取り組めば、聴く人には伝わるっていうこと。そのことを彼のジャズのアルバムや、彼がMFドゥームやJ・ディラとやったレコード、それにインスト盤とかビートコンダクター名義で出したアルバムを聴いた時に理解したんだ。同じサンプルから抽出するだけじゃなくて、それぞれの楽器を研究し、なおかつそこから出来上がったものに対してしっかり主導権を握っているアーティストだって思ったよ。

―マッドリブの中で特に影響を受けたアルバムやプロジェクトは?

DJハリソン:僕の今回のアルバムは『Shades Of Yesterday』だけど、マッドリブの『Shades Of Blue』は大きいよね。あと『Beat Konducta』シリーズ、『Medicine Show』、とにかくたくさん。それと初期Stones Throwのコンピレーション作品で、フリー・デザインっていうバンドのリミックス集もそうだな。あのプロジェクトにはPBW(ピーナッツ・バター・ウルフ)とかマッドリブをはじめとするたくさんのアーティストが参加しているんだけど、あれこそが初期のStones Throwサウンドなんだよね。そんな名だたるアーティストたちが名を連ねるレーベルに自分が加えられたなんて本当にマジかよって、いまだに信じられないんだ。


『The Free Design / Redesigned The Remix E.P. Vol.1』(2004年)に収録されたマッドリブ「Where Do I Go」

―真っ先に『Shades Of Blue』が挙がりましたけど、どんなところが好きなんですか?

DJハリソン:ブルーノートって最高峰のジャズ・レーベルの一つだよね? 大学でジャズを専攻して学位を取った僕にとって、そんな名門レーベルの音源をリミックスしたアルバムという突拍子もないものを出したヤツなんて、マッドヴィランやJ・ディラ以外で初めての衝撃だった。彼は名曲の数々をリミックスして独自のものを創り上げたんだ。すごいことだよね。若い時にディアンジェロを初めて聴いた時も同じような感覚を覚えた。母が「このアーティストはね、私たちがいつも家で聴いてるような古いレコードが好きで、そういうサウンドのアルバムを今の時代に作ってる。ちなみに彼、リッチモンド出身だから」って教えてくれたんだ。「ということは、僕にもできるじゃん。自分の進むべき道が見つかった」って思ったよ。

―あなたのスタイル的には、イエスタデイズ・ニュー・クインテットとか好きかなと思ったのですが。

DJハリソン:そうだね、『Yesterday's Universe』の「One For The Monica Lingas Band」はお気に入りの一曲だよ。高校〜大学時代によく聴いてた。カリーム・リギンスとコラボしたジャハリ・マサンバ・ユニットもいいね。

―あとは同郷のプロデューサー、Ohblivからの影響もいろんなところで語ってますよね。

DJハリソン:そうだね、僕が学生の頃、彼は地元で頑張る片割れみたいな存在だった。ビートのテープを作ったり、古いレコードからサンプリングしたりしていて、彼のおかげで地元で同じレコードを聴いている仲間たちとの繋がりができたんだ。SP-404(サンプラー)を教えてくれたのも彼だった。今でもその頃の古いカセットはいっぱい持ってるよ。昔はよく仲間たちとカセットテープからmp3に変換しなきゃいけなかったんだよね。ここ(自室)にある彼の音源のライブラリーはすごい量なんだけど、そういったサンプルの大半はJ・ディラやマッドリブ、アルケミストといった面々それぞれの流派のカタログの一部でもあって、そこからカルチャーが切り取られた様をうかがい知ることができる。今でも彼は自分のスタイルで活躍してるよ。間違いなく僕のなかでトップ10に入る人物だ。



溢れ出るヴィンテージ愛、ジャック・ホワイトへの共感

―あなたの活動拠点であるホームスタジオ「Jellowstone」の特徴を聞かせてください。

DJハリソン:昔のレコードのサウンドを再現することに取り組んできた僕が辿ってきた道が垣間見れるという意味で、僕を象徴している存在と言えるかな。ここにはヴィンテージの機材やピアノもたくさんあるけど、結局、僕にとっては今までずっと聴いてきたレコードのサウンドを追い求めている場所なんだ。例えるなら、作家が図書館を訪れるみたいな。目指しているものに向き合う自分へ影響を与えてくれるツールに囲まれていたいという感覚だよ。


Jellowstoneにて撮影された、『Shades of Yesterday』収録曲「Galaxy」の解説動画

―ヴィンテージの機材を多く使ってきた印象ですが、スタジオの機材面での特徴は?

DJハリソン:このスタジオにはローズやウーリッツァー、ドラムセット、マイク2本、プリアンプも2台、それにコンプレサーやテープ・マシーンなどなど、色々ある。僕は昔から自分が愛してやまないもの、つまりレコードに興味があって。そのレコードがどうやって録音されたのかを学べる環境を整えておきたいんだ。レコードに入っている美学を学べるようにね。もちろん、今はデジタル化されたツールもたくさんあって自由に使えるし、僕もそういった機材を使うこともある。それでも本質を忘れてはいけないと思うんだ。一つの曲やサウンドを作り上げるには、管の中を電源が流れてそれが配線に伝わることで、はじめて大きな音を出すことができる、っていう仕組みがあることをね。

―そもそもテープマシーンのようなアナログの機材にのめり込んだ理由は?

DJハリソン:それは僕自身がカセット、CD、レコードのようなフィジカル・メディアを聴いて育ったからだよ。このアルバムの録音にはああいう機材が使われたんだな、ってことにずっと興味があった。それに当時のレコードの多くにはノイズが乗ってるし、カセットにはヒスノイズがある。僕はそれを聴き慣れているんだ。7、8歳の頃からそういったノイズも聴き取りたいと思っていた。それも音楽の一部だからね。僕はちょっとでもヒスノイズがないと耐えられない人間なんだ(笑)。

―ブッチャー・ブラウンでもフィジカル・メディアでのリリースにこだわっていますよね。

DJハリソン:僕たちメンバーは世代的にみんなカセットやCD、レコードがある環境で育ったから、音楽を聴きながら実際に手にとって眺める物があった体験を憶えている。リスナーとして繋がりを感じる何かがそこにはあったんだ。知りたいことは全部スリーヴの後ろとかに書いてあって、今で言うWikipediaのミニ版とかウェブサイトで入手するような情報が全部そこに収められていて、時には挿絵とかポスターがおまけで付いてたり。それはモーメントなんだよね、すごくリアルな瞬間がそこにはある。僕はそういう感覚を通じて、人の心を動かしたいと思っている。

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―話を戻すと、ヴィンテージ機材を使ったあなたのサウンドには独特の質感がありますよね。録音やミックスへのこだわりも聞かせてもらえますか?

DJハリソン:アーティストやバンドと曲に取り組んでいる時、僕は古いレコードが持ってる雰囲気も含めて再現したいと思ってる。雰囲気って歌だけじゃなくて、実際の素材の情報であり、それには元の曲への忠実性も関係してくる。ドラムのサウンドをもう少し暗めにしたいとか、キーボードはもう少しノイジーな感じにしようとか、このサウンドは通常より少しダーティーな感じにしたいな、ってこと。誰かと曲作りをする時、僕は一緒にレコードを聴く。そして、雰囲気が掴め始めたら「じゃ、このレコードをガイドにやってみよう」って感じで制作を始める。今回の『Shades of Yesterday』もそうだったけど、僕としては常に単純な音楽的情報に限らず、忠実性とか音質も追い求めたいんだ。自分が愛してやまないレコードのサウンドに対して、自分の耳を微調整しながら、さらに一歩踏み込んだ(自分自身の)サウンドを追求したいと思っている。

―そういう忠実性みたいなものって、ヒップホップにおけるサンプリングのカルチャーとも通じるものですよね。サンプリングの魅力はどこにあると思いますか?

DJハリソン:伝統を存続させているところかな。サンプリングによって、今日リスペクトされているプロデューサーたちに影響を与えた過去のレコードの存在が伝えられることになる。当時の音楽をリサイクルして、それを再び第一線に持っていくって感じだよね。サンプルされた曲の中には当時、その良さがあまり評価されなかったものもある。でも、誰かがそれをサンプリングしたり、ビートに乗せたりすることでそのレコードも脚光を浴びることもある。だから僕も「あれ、この曲の良さは僕には伝わったけど、アーティスト本人が思っていたようには一般には理解されなかったんだろうな」って曲に出会うと、アレンジし直したくなるんだよね。

―サンプリングされたジャズ、ソウル、ファンクの曲の中で特に好きな曲があれば教えてください。

DJハリソン:例えばエディー・ヘンダーソン。今回のアルバムでも「Galaxy」っていう曲をカバーしてるけど、他にも「Inside You」がよくサンプリングされてるね。




―ブッチャー・ブラウンもまた、サンプリングやレコード・ディグのカルチャーと強い関係をもつバンドですよね。

DJハリソン:ヒップホップを植物に例えると、ブッチャー・ブラウンはその地中に伸びる根っこの枝分かれした1本みたいなもの。僕たちはバンドとして、ヒップホップのビートメイクやサンプルのリクリエイトとか、そういうことに大半の時間を費やすこともできる。でも、僕が常に大事にしているのはリサーチ的な側面なんだ。僕らはヒップホップのカルチャーに貢献したいと思っているし、求められている形があればそれに応えたいと思っているよ。

―ヴィンテージ機材へのこだわりと言えば、ジャック・ホワイトの『Boarding House Reach』(2018年の3作目)に参加していましたよね。

DJハリソン:ジャックはすごく自分の音楽にこだわりを持っているアーティストなんだ。全てアナログで録音するし、バンドに対してもこのキーボードを弾いて欲しいとか、ギターはこれで、みたいに細部までとことんこだわっていた。でも、そもそもアルバムってそうあるべきなんだよね。リスナーが耳にするのは完成品なんだから、それを完璧な形で完成させるためには「マイクを何フィート離してほしい」「ドラムのサウンドはこれで」「テープ・マシーンはあの位置で」とか、すべてわかっている必要がある。あの時は後ろの方で座って眺めがら、「あんなすごいレベルになっても、クオリティにこだわる人なんだな」って感心していたよ。



原曲への愛ゆえのリサーチ

―本題の『Shades of Yesterday』について。まずはコンセプトから聞かせてください。

DJハリソン:簡単に言ってしまうとリサーチのためだよ。僕はオタクだからね。カバーをやるのが好きな理由は、さっきも話したように音楽的情報への興味もだけど、それだけじゃなくて原曲への忠実性、そしてレコードの持つ音質がすごく好きだから。例えば70年代のスライ・ストーン、80年代のプリンスやスティーリー・ダンみたいなサウンドをスタジオで再現できたらとよく思うんだ。それで練習のつもりで何曲かカバーしてみたら、レーベル側が「これめちゃいいじゃん、リリースすべきだよ」となってね。僕は「え、マジで? ラフに録っただけだし、自分でボーカルまで入れちゃってるけど」って思ったけど、「いやいや、最高だよ」と言われてリリースに至ったんだ。実は録りためているカバーはまだたくさんあるよ。

―選曲はどんな基準で?

DJハリソン:子供の頃から今に至るまで、自分が聴いてきた色んな音楽をバランスよく選んだって感じかな。若い頃はもちろんだけど、今こうして1人のミュージシャン、ソングライター、プロデューサーとして活動している僕にとって、これらの曲はボーカルや作曲、音響的な面で僕自身のスタイルを具体化する手助けをしてくれたものだと思う。ひとつのジャンルに絞ったカバー集を出すこともできたけど、最終的には異なるジャンルのサンプル・パックみたいなセレクトに落ち着いた。バラエティに富んでていい感じだよね。


Photo by Eric Coleman

―それぞれの曲についても聞かせてください。まずはビートルズの「Tomorrow Never Knows」。

DJハリソン:高校時代につるんでいた仲間たちの影響でロックに興味を持つようになって、レッド・ツェッペリンやビートルズを知ったんだ。『Let It Be』とか『The White Album』、あと『Abbey Road』といった「これぞ重要作」って感じのを聴いていた。その中でも最初に興味を持ったアルバムが『Revolver』で、「Tomorrow Never Knows」にすっかり心を奪われたんだ。ディアンジェロの『Voodoo』でもラッセル・エレヴァードがテープを逆回転させたり、裁断したり様々なテクニックを駆使してるけど、ジミ・ヘンドリックスやビートルズもやってたことなんだよね。そんな録音に出会ったのは『Revolver』が初めてだったから、とにかく聴き込んだよ。「どうやってやったんだろう? 60年代にこんなことしてたのかよ!」って感じで、本当に驚きの連続だった。そのせいで僕の家がテープ・マシーンだらけになったんだ(笑)。



―次は、ドナルド・フェイゲン「IGY」。

DJハリソン:スティーリー・ダンも子供の頃からよく聴いていた。ドナルド・フェイゲンは完璧主義者として有名で、とことんクリーンなサウンドを追求するアーティストだよね。2018年だったかな、僕は(ブッチャー・ブラウンで)スティーリー・ダンのオープニング・アクトを務めたことがある。『The Nightfly』を聴きまくっていた自分が本人に会えたんだ。僕にとっては特別なアルバムだ。彼のソロ初の作品だし、スティーリー・ダンのアルバムではないけど、どこか”イズム”みたいなのが感じられた。プロデューサーも同じゲイリー・カッツだったし、ホーンセクションもスティーリー・ダンのアルバムと同じメンバーだったしね。あれがリリースされたのは1982年だけど、僕がこのレコードに出会ったのはそれから6年後だった。初めて聴いた時、これが当時の最新テクノロジーなんだなって感慨深かったよ。今聴いてもその雰囲気は感じ取れると思う。




―では、シュギー・オーティス「Pling」は?

DJハリソン:シュギーのアルバム『Inspiration Information』のサウンドを、この曲を通じて体験してみようと思ったんだ。シュギーが全ての楽器を自分で演奏した最初のアーティストの一人であるということを忘れてはいけない。プリンスもそうだったし、今もそういった多才なアーティストはいるけど、シュギーは特別な存在なんだ。当時を振り返ると、いろんなヒップホップのアーティストたちがシュギーの作品からサンプリングしまくっている。みんながこぞってサンプリングしていた音は、シュギーがたった1人で演奏していたものなんだよね。




―今回、最も変わった選曲はゲイリー・ウィルソン「You Were Too Good To Be True」だと思います。

DJハリソン:マッドリブの曲でサンプリングされていたのを聴いて、どの曲か調べていく中でゲイリー・ウィルソンがStones Throwと繋がりがあったことがわかった。それでサンプルされた部分だけじゃなくて曲全体を聴いてみたら気に入って、これで一曲作ってみようってなったんだ。これこそリサーチの結果だね。





―意外だったのが、ジャズ・ピアニストのヴィンス・ガラルディ「Lil Birdie」です。

DJハリソン:僕は『チャーリー・ブラウン』を観て育ったんだ。だからヴィンス・ガラルディは子供の頃の思い出のサウンドだよ。毎年クリスマスには『チャーリー・ブラウン』のクリスマス・スペシャルを欠かさず観ていた。感謝祭の時に観ていたサンクスギビング・スペシャルで「Little Birdie」が流れてたんだ。両方とも必ず毎年観ていたね。お皿にロースト・ターキーを用意して、マリファナ片手に食べながら『チャーリー・ブラウン』を観て、ヴィンス・ガラルディが「Little Birdie」歌ってるのを聴くぞって感じだね。




―オハイオ・プレイヤーズが2曲も入っていたんですが、これはどういうことですか?

DJハリソン:オハイオ・プレイヤーズはよく両親が家でかけていたんだ。僕にとって彼らはソウル・ミュージックとブルース、ゴスペルっていう、いわば音楽のスピリチュアルな側面を融合させているグループって印象なんだ。それとリッチモンドでMontrose Recordingっていうスタジオを経営していた友達がいて、彼は60年代にオハイオ・プレイヤーズのレコードが録音されたフリッキンガーっていうミキシング・コンソールを持ってた。彼がLAに引っ越したんだけど、彼がまだリッチモンドにいる時に僕も自分でその卓を使ってたくさんレコーディングさせてもらったんだよね。

―最後に、ずっとリッチモンドに住んでいますよね。NYやLAに出ていくミュージシャンも多いなか、リッチモンドにこだわる理由はどんなものですか?

DJハリソン:自分が育ったコミュニティに囲まれていることが理想なんだ。このコミュニティは僕の活動も応援してくれているし、みんな子供の頃から一緒に育った仲間たちだしね。僕自身はこうして、音楽の世界でうまくやれてることを本当にありがたいと思っているけど、ここでは子供の頃からこの街で共に育った仲間たちも、この地に留まることを選択して、みんなそれぞれ違う分野で同じように頑張っているんだよね。それに僕の家族も全員リッチモンドにいる。僕は一人っ子だし、この歳になるとやっぱり母や祖母の生活を守らなきゃって考える。最終的には自分の家族を大切にしたいし、僕をずっと育ててくれたこのコミュニティのことも大事にしたいんだ。僕がこうして好きな仕事で頑張れているのも彼らのおかげだからね。だからしっかり恩返しをしたいんだ。



DJハリソン
『Shades of Yesterday』
再生・購入:https://sthrow.com/shadesofyesterday

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