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カイゴが語る、名曲をリミックス/リメイクする理由、トロピカル・ハウス発祥の裏側

Rolling Stone Japan / 2024年4月24日 17時30分

左からカイゴ、ザック・エイベル

ダンス・ミュージックのスーパー・プロデューサー、カイゴが新曲「For Life feat. Zak Abel & Nile Rodgers | フォー・ライフ feat. ザック・エイベル&ナイル・ロジャース」をリリースし、ミュージックビデオを公開した。同曲は2000年にリリースされた、フランス出身のハウス・デュオ=モジョのヒット曲「Lady (hear me tonight)」をサンプリングした楽曲。原曲の印象的なサビに、カイゴ特有のメロディのアレンジが加わり、見事にオリジナルの魅力を引き出しながらも、高揚感溢れるモダンなダンス・ポップ・トラックへと生まれ変わらせている。



トロピカル・ハウスの火付け役でもあり、名曲のリミックス、リメイクでも知られるカイゴ。全世界で大ヒットした2016年のデビュー・アルバム『CLOUD ININE』を始め、『KIDS IN LOVE』『GOLDEN HOUR』『THRILL OF THE CHASE』と、アルバムを出すたびにアプローチを変えてサウンドも進化。美しいメロディ、最新のサウンドという軸はぶれないまま、ジャンルを超えたグッド・ミュージックを聴かせてきた。

2024年1月28日にさいたまスーパーアリーナで行われたGMO SONICに出演するために来日したカイゴ。今年1月29日には「 Whatever (with Ava Max) | ホワットエヴァー feat. エイバ・マックス」をリリース。今回のインタビューはその来日時のものだが、この時点でニュー・アルバムは80%出来ているとのことだった。

ー新曲「Whatever」が出ましたが、この曲はシャキーラのヒット曲「Whenever, Wherever」へのトリビュートになりますね。

シャキーラのクラシック・ソングを基に作ってるからね。今のところ良いリアクションをもらえているよ。



ーシャキーラのあの曲を選んだ理由は?

デモを聴いて一発で好きになったんだよ。あのメロディはすぐに覚えてしまうからね。それで僕がプロデュースに取りかかって、エイバ・マックスをボーカルに迎え、リリースすることになるんだけど、デモを聴いた時にこれは大ヒットするという予感がしたんだよね。

ー客演にエイバ・マックスを起用したのは?

エイバと初めて出会ったのは2年ぐらい前だけど、その時以来何か一緒にやろうという話はしてたんだ。この曲は彼女と一緒にやるのに最高の曲だと思ったんだ。だから、ごく自然な流れで彼女と一緒にやることになったんだ。

ーシャキーラのオリジナル曲をベースに、どのようなプロセスで曲を形にしていったのですか? 

シャキーラのオリジナルのメロディがありつつも、僕は新しいバージョンを作りたかった。僕はメロディを考える時、オリジナルとは全く関係のないドロップを作りたいんだよね。それで、オリジナルとは違う部分がありつつも、シャキーラのコーラス部分の良さは残しておきたかった。制作の方は、ノルウェーの自宅に戻って、いろいろトライや実験をくり返して進めていったよ。アイデアはたくさんあったし、いろいろやってみたけれど、結局今のドロップに入ってるメロディに落ち着いた感じなんだ。



ー歌詞を変えているのも面白いですよね。シャキーラのオリジナル曲では「私たちは一緒になる運命」と歌っているのに、「Whatever」では恋愛関係の終わりを歌っていますね。

真逆だよね(笑)。このアイデアは僕も気に入ってるんだ。シャキーラの「私たちは一緒になる運命」というラブストーリーが、愛の終わりに変わってしまってるからね。


楽曲をセレクトする基準

ーこの曲の前には、ポール・マッカートニーとマイケル・ジャクソンの「Say Say Say」のリメイク曲も出していますよね。昔の名曲はそれこそ膨大にありますが、その中からどのような基準でリメイク、リミックスする名曲を選んでいくのですか? 

曲を選ぶのはけっこう偶然の産物なんだよね。それに今まで僕が手がけてきた名曲は、どれも僕自身が大好きな曲ばかりなんだ。僕がマーヴィン・ゲイの「Sexual Healing」をリミックスした時も、オリジナル曲が大好きだから、常にやってみたいと思ってたし、いろいろ試していく中で、ボーカルを軸に制作を進めていくことにしたんだ。それは「Say Say Say」もドナ・サマーの「Hot Stuff」も同じことで、僕は大好きな曲をリメイク、リミックスしたいだけなんだよね。どの曲も結果として良い曲になったと思うけど、実はトライしたものの上手くいかなかった曲もあるんだ。だから基本、大好きな名曲があって、それをいろいろ試してみるのが楽しくて、リミックスすることによって新しいバージョンが生まれたらいいなと思ってやってるんだ。



ー「Sexual Healing」のリミックスをSoundCloudに上げたのは10年前ですよね。あの時は同時にドリー・パートンの「Jolene」のリミックスも上げていました。選曲のセンスが絶妙なんですよね。

2013年だから11年も前になるね。ドリー・パートンの「Jolene」も大好きな曲なんだ。当時の僕は学生で、音楽はまだ趣味みたいなものだった。「Sexual Healing」も「Jolene」も大好きだからリミックスをして、それをSoundCloudに上げただけなんだ。



ーそういった名曲はどれも元々知っている曲なんですか? それともどこかで再発見したりもするんですか?

ほとんどの曲は元々知ってる曲だね。父が大の音楽好きでいつも音楽を聴いてたから、僕も小さい時から本当いろんな音楽を聴いて育ったんだ。80sの曲も聴いてたし、10代の時はフー・ファイターズ、メタリカ、ザ・キラーズのような、当時の人気ロック・バンドも聴いてた。そこから徐々にエレクトロニック・ミュージックを好きになって、アヴィーチーがきっかけでどっぷりハマるようになったんだ。「Say Say Say」に関しては、子供の頃に聴いて知ってた曲だけど、3~4年前に再び聴くことになって。15年も聴いてこなかった曲だけど、再び聴いた瞬間にリミックスのアイデアが浮かんだんだ。

ー昔の名曲はたとえ良い曲でもサウンドが古かったりします。でもあなたは名曲の良い部分を今の音楽の新しいサウンドと上手く融合させていますよね。どのようなアプローチで融合させていますか?

そこを上手く融合させるのは簡単ではないんだけどね。例えば、オリジナルの「Say Say Say」はギター、ベース、ドラムのプレイヤーも含めて、世界で最も才能のある人たちによって作られた、非常にクオリティの高い曲だ。だからリミックスをして、そうやって作られた最高の要素を取り除いてしまうのは馬鹿げたことになるんだ。だから、僕はなるべくオリジナルの要素を残しつつも、新たな要素を加えていきたいんだよね。

ー「Sexual Healing」のような曲は、世界中の人たちに何十年にも渡って愛されてきた、名曲中の名曲ですよね。そういう名曲に手を加えることはかなりのチャレンジだと思うし、怖い部分もあると思うのですが。

そうだね。だから僕はオリジナル曲に対するリスペクトは忘れないようにしてる。「Sexual Healing」が名曲中の名曲なのは、もうそのままで完璧だからなんだ。だから本当はリミックスなんて必要がないんだよ。当時の僕は怖くはなかったけど、心配ではあった。それでも僕はリミックスをやってみたし、出してみたらリアクションはかなり良かった。オリジナル曲が好きでリミックスをそんなに好きではない人も、名曲が新しいサウンドで生まれ変わったことは喜んでくれたんだ。それにリミックスが気に入らなくても、オリジナルは消えてなくならないからね(笑)。リミックスは昔の名曲を今のサウンドで聴きたい人向けのものだと思ってるから。

ー今のサウンドではあるけれど、5年も経ったら飽きられてしまうようなものではなく、この先何年も愛されるような、アップデートされたクラシック感もありますね。

そこは難しいところだけど、なるべくそうやろうとはしてるね。曲が生まれてから30年経って、今も多くの人たちに愛されてる名曲だから、そこの良さは残しておかないとね。だから名曲の鍵となる要素は確実に残して、今のサウンドで作るようにはしている。

ーホイットニー・ヒューストンの「Higher Love」のコラボレーションも手がけていますが、オリジナル曲は日本盤のみのボーナストラックだったんですよね。

そうそう。あの曲は日本でしかリリースされてなかったんだ。「Higher Love」はレーベルから送られてきたんだよ。ホイットニー側がこの曲を蘇らせたいという意向があったようで、僕に送ったらいいんじゃないかってなったみたいだ。それで僕はプロデュースを手がけたんだけど、それをリリースしたいってなってくれたわけだから、最高だよね。



ー2024年の第1弾として「Whatever」をリリースしましたが、2024年はニュー・アルバムのリリース予定があるんですよね。

今はまだ詳しく話せないけど、間違いなくスタジオの制作に多くの時間を費やしてるし、ニュー・アルバムを今年リリースするというのは断言できる。まだ完成はしてないけど、曲はすでに出来てるし、あとは最終調整をいろいろやるところまで来てる。今から2ヶ月の間に何曲かシングルをリリースする予定で、アルバムの方は夏の前か夏が終わった後にリリースする予定だ。

ー今のところ何%出来ていますか?

80%かな。でも80%に1年間、残りの20%に1年間かかることもあるから、いつ完成するかはわからないんだけどね。だけど、完成に近づいてるとは言えるよ。

ー一旦完成した後もいろいろいじりたくなるタイプですか?

時々そうかな(笑)。リリースする時は完璧な曲にしておきたいからね。リリース後に、「あそこをこうしておけば良かった」とか思いたくないから。リリース前にこの曲はどうあるべきかというのを完璧にしておきたいんだ。そこのジャッジは非常に難しいんだけどね。あと、5年後に聴いても良い曲かどうかというのは考えてる。

ー2022年リリースのアルバム『Thrill of the Chase』はコロナ禍で制作されましたが、ニュー・アルバムは前作を引き継いだ、新たなチャプターになりますか?

そういうことになるね。ニュー・アルバムに収録される新曲は、『Thrill of the Chase』を出した後、2023年に作った曲ばかりなんだ。だから前の曲とは当然違うものになってる。新たなチャプターになるし、新しいサウンドも入ってる。ただ、ハッキリしたことはまだ言えなくてね。というのも30曲近く作っていて、そこからアルバムに収録されるのはおそらく14~15曲になるから。まだどの曲をアルバムに入れるのか決めてないんだよ。

ー『Thrill of the Chase』の曲をピアノのメドレーで聴かせる映像もありましたが、メロディとかコードに関しては、ピアノで作ることが多いのですか?

ピアノは子供の頃からやってるし、曲作りもピアノとキーボードでやってる。ニュー・アルバムの中にも1曲、ピアノとボーカルだけのバラードの曲があるよ。ピアノは僕の音楽の中ではとても重要なものだから。



ー何曲か曲作りのプロセスを公開している映像を観ましたが、スタジオでシンガーと制作をする時も、本当の意味でのコラボレーションという感じで、けっこうセッションしながら曲を形にしていくんですね。

そうなんだ。スタジオでアーティスト、ソングライターと制作する時は、ジャム・セッションのような感じでやってる。僕がピアノでメロディを弾き始めると、誰かがギターを弾く感じだし、いろいろトライしていく中で、突然、「お、このサウンド、いいね」ってなるから、そこからさらにアイデアを出して、どんどん形にしていくんだ。だからジャム・セッションと実験の繰り返しになるね。もちろんリモートでのやり取りもあるけれど、そういう時も、僕一人でデモを相手にジャム・セッションするつもりでやってるよ。僕は他の人たちとジャム・セッションをやりたいし、お互いにアイデアを出し合いたい。それが制作の中で一番楽しいところでもあるからね。セッションの面白いところは、何が生まれるのかわからないところで、最高の曲が生まれるかもしれないし、ひどい曲になるかもしれないんだ。


パン・フルートが僕のシグネチャー・サウンド

ー前回の来日は2018年ですよね。

ちょっと時間が経ってしまったね。でもコロナ禍だったから。

ーコロナ禍と言えば、コロナ禍中に雪山でのDJライブを配信しましたよね。

そうだね。コロナ禍のシャットダウンでどこにも行けなくなったから、ずっと自宅にいたんだけど、それはそれで家族と過ごす時間もたっぷりあったから良かったんだ。ただ1年半ぐらい経つとそういう状況にも飽きてきてね。雪山のDJライブは山の頂上でやったんだけど、最高だったよ。みんなを楽しませたい気持ちもあったから。

ーあの雪山はあなたの母国ノルウェーですよね。

そうそう。僕はあの山から車で5~6時間行ったところに住んでるんだ。

ーあの配信を観た時に、あなたの音楽はトロピカル・ハウスと呼ばれているけれど、雪山にも合うんだなと思いました(笑)。

雪山はかなり寒いから全然トロピカルじゃないけどね(笑)。

ーちなみに「トロピカル・ハウス」というワードはどこから出てきたのですか?

僕がトロピカル・ハウスというワードの生みの親じゃないけどね。サウンドがトロピカルで、ビーチとかパームツリーのある環境で聴くのに最高な音楽のことだよ。たぶん僕が音楽を作ってた時、夏を恋しく思ったんだろうね。ノルウェーは寒いから、夏のことばかり考えてるんだ。トロピカル・ハウスはオーストラリアのプロデューサー、トーマス・ジャックが名前を考えたもので、それ以来多くの人がトロピカル・ハウスと呼ぶようになったものだ。

ーあなたがトロピカル・ハウスを打ち出した時は、どのような音楽性を目指しました?

パン・フルートが僕のシグネチャー・サウンドになるね。そこにスティールドラム、ボンゴ、マリンバなんかも入れるから、トロピカルになるんだと思う(笑)。

ー自身のブランドも「Palm Tree Crew」と名づけているぐらいだから、トロピカル好きなんですね。

もちろん。夏が大好きなんだよ。というのも、1年の大半が寒い気候の国に生まれたからだと思うんだ。夏を恋しく思う時間が長いからね(笑)。

ー2020年のバーチャル・フェス、Golden Hour Festivalでは、南の島で暮らすライフスタイルを提唱したアーティスト、故ジミー・バフェットと共演していますよね。

彼はトロピカル・ハウスのゴッドファーザーと呼ばれてるからね。トロピカル・ハウスよりも前に同じようなサウンド、同じようなビジョンを提唱してたし、彼のファンもアロハシャツを着てたりするから、全体のヴァイブスがトロピカルなんだよね。

ージミー・バフェットはMargaritavilleというホテル、バー、レストランも手がけていて、トロピカルをライフスタイルとして提唱しています。Palm Tree Crewでもライフスタイルを提唱していますよね。

そうそう。ジミー・バフェットからは大きなインスピレーションをもらってるよ。このライフスタイルをどこまで広げられるのかは彼から教わったようなものさ。音楽のカタログも膨大な上に、Margaritavilleを展開してるから、自分の世界観を大きく広げたよね。僕もPalm Tree Crewを通じて自分の世界観を広げていきたいし、ジミーからはそれが可能だということを教えてもらったんだ。

ーPalm Tree Crewはどのようなアイデアで始めたのですか?

最初は音楽フェスをやるところから始まったんだ。今はどこまで広げられるのかを考えていて、レストランなどもやってみたい。これから2年ぐらいでいろいろ形にしたいと思ってる。

ー2月にPalm Tree Music Festivalをやりますが、雪山でやりますね。

そうそう。コロラドのアスペンで開催するんだ。昨年もアスペンでやって大成功だったから、今年もやることにしたんだ。トロピカルな音楽だけど雪山にもハマると思うから(笑)。

ーPalm Tree CrewではPUMAとのコラボでゴルフのラインを出していますね。ゴルフは好きなんですか?

大好きだね。コロナ禍の時期に始めたんだけど、コロナ禍はゴルフばかりやってた。日本でもそうみたいだけど、ノルウェーでもゴルフは流行ってるんだ。

ー今回はGMO SONIC出演のための来日ですが、セットリストはどのように決めていますか? 去年6月のストックホルムのロラパルーザでは、ドナ・サマーの「Hot Stuff」が1曲目でした。いつも1曲目はどのように考えているのですか?

時と場所によるね。いつもイントロ、曲のバージョンはいくつか用意してるんだ。GMO SONICはダンス・ミュージックのフェスだし、DJもいろいろ出演するから、アップビートでエネルギーたっぷりの選曲をするつもりだ。ロラパルーザの時はバンドのライブもあったし、音楽もいろいろミックスしてたから、ダンスとライブの間のミックス感を意識した。だから、どこの国でプレイするのか、どんなフェスでプレイするのか、そこが重要になってくるね。自分のヘッドライン・ショーの時は、自分の音楽をプレイするし、楽器演奏も入れてやってる。自分でピアノも演奏するしね。GMO SONICでも、ラストの曲ではピアノを弾くつもりだ。ライブ演奏の要素はなるべく入れたいんだよね。



ーニュー・アルバム以外の2024年のプランは?

アルバムのリリースがあって、フェスにいくつか出演して、2024年の9月からワールドワイドで大きなツアーが始まる。日本でもヘッドライン・ショーをやりたいと思ってる。

ーゴルフ・コースを作ったりはしないのですか?

Palm Tree Crewでやってみたいね! ゴルフコースだけじゃなく、スタジオも作ったりして(笑)。

<INFORMATION>


Kygo | カイゴ
「For Life feat. Zak Abel & Nile Rodgers | フォー・ライフ feat. ザック・エイベル&ナイル・ロジャース」
配信中
●再生・購入リンク:
https://lnk.to/Kygo_FLRS

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