AAAMYYYが語る『(((ika)))』のサウンドメイキング、「大人になったアルバム」の意味
Rolling Stone Japan / 2024年5月16日 20時0分
Tempalayが約3年ぶりにフルアルバム『(((ika)))』を完成させた。今作のリリースに関するインタビューを受けるにあたって、メンバー3人が同じ机について答える形式は取らないらしい。それならと、小原綾斗(Vo, Gt)、藤本夏樹(Dr)、AAAMYYY(Syn, Cho)を、同じ時間帯に別室で別のライターがインタビューするという、前代未聞の形式を提案した。私はAAAMYYYのインタビューを担当させてもらったが、他の2人がこのアルバムや現在のTempalayについてどのように語っているのか、まだまったく知らない。バンドや音楽に対する見方は人それぞれで、インタビューで語られる言葉とはいかに主観的であるか、ということが浮き彫りになるんじゃないかという気がしている。その上で、「やっぱりTempalayというバンドは歪で面白い」ということが表出すればいいのだけれど……。
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シンセサイザー&コーラスとしてTempalayの音を担っている、AAAMYYY。前作からの期間に出産・産休を経て、現在はソロとしても素晴らしい作品をリリースしライブも行うなど、精力的に活動を続けている。AAAMYYYから見た『(((ika)))』についてさまざまな言葉を紡いでもらったこのインタビューは、とても和やかな雰囲気の中で進んでいった。
―先日放送された特番『Music Proof〜Tempalay〜』を見て、「あれ、Tempalayってこんなに仲悪かったっけ?」と思ったんですけど(笑)。実際、メンバー間の距離感はどうですか。
みんなが言うほど、仲悪くはないと思う。大丈夫。
―よかった(笑)。でもインタビューは、全員ではなく別々で受けようということになったんですね。『ゴーストアルバム』(2021年リリース)の取材は3人でやりましたよね。
みんな自由なことを言うから、(小原)綾斗が語り尽くせなくて、多分1人のほうがいいってなって。(AAAMYYYと藤本夏樹は)音の話ばっかりしちゃうから、綾斗が単体で作品全体の造形を話したほうがよさが伝わるということで、そうなったんだと思います。
―仲悪いとか、一緒にしゃべりたくないとかではなく、そのほうがアルバムの中身を伝えやすいというシンプルな理由で。
多分、そうだと思います。
―AAAMYYYさんから見て、『(((ika)))』はTempalayにとってどんなアルバムになったと感じていますか。
すっごく大人になったアルバムだと思いました。
―大人? それはどういうところで?
まず、音数が今までの中で一いちばん少ない。それによって綾斗が書いてくる哀愁とか、ふざけた部分、ギミックがより可視化した感覚がして、そこが大人になったなって思います。
―音数を減らしたのは、どういう要因からですか?
「ドライブ・マイ・イデア」を作ったのが1年以上前で、その時くらいまでは、シンセにテックを入れたことがなくて。ギターテックとかドラムテックはいるんだけど、シンセのテックってどうしてもいないから、私が家でやったり、スタジオでみんなで「どう?」って言いながらやったりしていたんですけど、挑戦的に人を呼んで手伝ってもらいました。80sライクのいろんなシンセの遊んだ音を入れたいということで、小西(遼)を呼んだのが「Superman」。「今世紀最大の夢」はライブのベースサポートをしてくれたShin Sakainoくんを呼んで。他の曲は全部、夏樹と一緒にやりました。
―1個1個の音を研ぎ澄ますことができて、必要な音だけを厳選して入れられるようになったからこそ、全体の音数を減らすことができたということですよね。
そう。飽和しないというか。いろんな楽器のいいところが聴こえるようにしたくて引き算したり。リッチな音だけどちゃんといい音で、他に干渉しない、ということを夏樹とすごく考えながら作ったので、音が可視化された感じです。夏樹の感覚もすごく面白くて。ソロでシンセとか機械を操ってるので、すごく詳しいんですよね。私が感じるTempalayでのアプローチと違って、夏樹はドラマー目線で全体を見て、ドラムのフレーズが引き立つところもちゃんと押さえたものが出てくるから、新しい視点で面白かったです。
―AAAMYYYさんにとって、今作において音の面でいちばん苦労した曲は?
「遖(あっぱれ)!!」「愛憎しい」とか。綾斗のこだわりも強くて、何回も作り直しました。
―2曲目「愛憎しい」と18曲目「Aizou」、別バージョンが入っていることの意図を色々と想像してしまうのですが……。
綾斗の意図はわからないんですよね。いつも教えてくれないから、私たちも綾斗のインタビューを読んで「へえ」みたいな。
―(笑)。AAAMYYYさんが感じた、「愛憎しい」の綾斗さんのこだわりポイントはどういったところでしたか?
多分、本人の想像する世界観が壮大な感じで。でもシンセで壮大にしようとすると、うるさくなっちゃうというか。最初は耳につくような、ビンビン、ジイジイいうようなリリースの長い音だったんだけど、「なんか違う、なんか違う」ってなって音をダイエットして。木を打ってるようなナチュラル要素のあるシンセの音を作って、これになりました。壮大さを補ったのは、クワイヤーとか歪みのギターだったんじゃないかなと思います。
―祝福感や人間讃歌的なことを表現するためにクワイヤーを入れようという意図が最初からあったわけではなく、色々試してみて、想像している壮大さを出すためにクワイヤーを入れてみよう、という順番だったんですね。
いや、わかんなくて。「クワイヤーを入れたいらしい」ということをマネージャーづてに聞いて、「そうだったんだ、じゃあこのシンセはあれだね」みたいな。綾斗ってあんまり言葉にしないから。聞けば言ってくれるんだけど。
AAAMYYYが語る、小原綾斗の「人間味」
―AAAMYYYさんがいちばん気に入ってる曲は? 1曲を選ばせるのは酷かもしれないけど。
「月見うどん」。
―おお! 私もこの曲、大好きです。
この曲はシンセもすんごいすんなりハマって、「おお(拍手)」みたいな感じでみんなが合致した曲でした。「あびばのんのん」以来の、ちょっと和テイストで、切ない感じで、綾斗の人間味がすごく見えるような曲。めっちゃ好きです。
―綾斗さんの人間味とは、言葉にしてもらうと、AAAMYYYさんから見てどういうものですか。
なんだろう……一言で言うとするなら、「哀れむ」とか。「あびばのんのん」や「ドライブ・マイ・イデア」でもそれを感じたんですけど。全力で生きてる人を見ると涙が出てくる、みたいな。そういうものを、私は個人的に感じたんだと思います。
―人間の誕生と死、「この世」「あの世」というテーマを浮かび上がらせることが、綾斗さんの筆致であり、Tempalayの音楽であり。
うんうん。それ、(綾斗は)ずっと考えてると思います。
―「和テイスト」の話でいうと、Tempalayらしいオリエンタル感や仏教の表現もあるけれど、今作には西洋的な風景や宗教観が浮かび上がってくるものもありますよね。
多分、そうで。一連して宗教観というところがテーマとしてはあるっぽくて。それは少し聞きました。「(((shiki-soku-ze-kuu)))」「)))kuu-soku-ze-shiki(((」とか、「NEHAN」とか、宗教用語が出てくるから、悟りでも開いたのかなと思いながら。
―「湧きあがる湧きあがる、それはもう」でいえば”HALLEYA!”とか。
そうそう。綾斗の中での「宗教感」に統一感があるのかどうかはわからないんですけど、頭の中ではいろんな音楽が混じってカオスなものになっていると思ってて、それが曲に出てるのかな。だから「湧きあがる湧きあがる、それはもう」は「月見うどん」と真逆だし。レンジの広い曲が目白押しのアルバムですよね。聴いていて飽きない。
―いろんな時代、国、宗教の「人間」という生き物を混ぜ合わせて問いかけてくるような音楽だと感じました。だから「Booorn!!」はAAAMYYYさんにお子さんが生まれた時に綾斗さんが書いた曲だけど、他の曲も「Booorn!!」に近いテーマがあるなと思って。ちなみに「Booorn!!」は、どのタイミングで初めて聴かせてもらったんですか?
(産休後の)復帰のタイミングかな。綾斗から「泣き声がほしい」って言われて、送ったら、この曲のデモがきました。
―とても素敵なプレゼントですね。
確かに、そうだったのかもしれない。
―(笑)。AAAMYYYさんとしてはこの曲を受け取ってどう感じられたんですか。
子どもを育てたことないわりには、すごくわかってる感じの歌詞だなって。一回育てたことあるのかな?と思いました。
―(笑)。
綾斗って、想像力がすごく豊かなんですよね。これは別の話になるんですけど、「Booorn!!」を出してライブをした時に、開場中にうちの子が産まれる直前の心音を流していたんです。分娩室で子どもの心音がモニターで聞こえるのを携帯で録音していて、それを開場中の音にしたいって言われて、軽い気持ちで「いいよ」って送って。でもライブの直前になったら、急にその時のことを思い出してドキドキしちゃって。でもそれって私にしかわからないから、「やばいやばい」って言ってもみんなからは「大丈夫?」って言われるくらいで。
―AAAMYYYさんとしては、人生初の出産のドキドキを思い出して、しかもライブの緊張と相まって。
そう、グチャグチャになりました。ライブの序盤は大変でした。
―その開場中の演出も、「誕生とは」「生死の境界線とは」「輪廻転生」といったテーマを、ライブで表現したかったゆえなんですかね。
本人に聞かないとわからないけど、そうなのかも。このアルバムもそういう感じありますよね。身内に不幸があったり、いろいろあったみたいで。そしたら家に篭って曲がどんどん書けるタームがきて。小原綾斗とフランチャイズオーナーもやってるし、楽曲提供もやってたからコンスタントに曲を作り続けてはいたけど、自分のアルバムで表現したいものを模索していた中で、「見つけた」みたいにスイッチが入った雰囲気を感じました。
―そこから「愛憎しい」「遖(あっぱれ)!!」とかが生まれてきた?
そう、あと「預言者」「NEHAN」「湧きあがる湧きあがる、それはもう」「Room California」「月見うどん」「時間がない」。最初、新曲しか入らないアルバムだと思ってたけど、スタッフからの意見で「まだ盤になってない曲も入れましょう」ってなって、綾斗がうまいことやってこうなったという。すごい曲数になったけど、流れがめっちゃかっこいいなと思います。
―「(((shiki-soku-ze-kuu)))」(=色即是空)から始まって「)))kuu-soku-ze-shiki(((」(=空即是色)で終わることの概念について、AAAMYYYさんはどういうふうに解釈してますか?
山に遊びに行って美しいと感じるだけの感覚と一緒というか。それを説明するのは野暮で。見てるものを美しいと思うけど、一つひとつの原子とかに分けちゃったら何もないわけで。水、風とかも、原子レベルで分けちゃったら特に何もないものになる、みたいな。
Photo by Mitsuru Nishimura
今は「マジでかっこいいものを作りたい」みたいなマインドのほうが強い
―音楽も、そうであるといえますよね。一つひとつの音が集まったものが、美しいと感じる「音楽」になる。Tempalayの音楽観が、このアルバムの全体に出ているし、歌詞の端々でも明確に書かれていて。「愛憎しい」や「Aizou」の”愛憎しい映像にメロディー/むきだすほどに狂気/もっと遠く深く新しい/痺れるものに触れてほしい”とかもそうだなと思ったんですけど。
みんな大人になると丸くなっていったり、角が削れて優しい感じになっていったりするけど、綾斗はあえてトゲを収集してるというか。そういうスタンスを心のどこかで持ってる人だと思います。リリックを見ると、迎合しない感じを意志表示してるようなところもありますよね。
―「時間がない!」は、音楽をレールに乗せて扱う業界へのアンチテーゼであり。
これは本当に笑った。クリエイティブをする人って、何をしていても、いいものを作りたいんですよね。でも大人の事情で「じゃあ納期1週間で」「絶対無理です」みたいな案件がすごく多いから、それに対してのアンチテーゼソングな気がします。綾斗って本当に、かっこよくないものを出したくない人だから。作ってるものは絶対にかっこよくて。デモで出してくるものには絶対に自信がある。それはすごいことですよね。だから意志があるし、いろんなグチャグチャが濃く詰まっているんですよね。
―綾斗さんの意志が軸にあるとしても、当然、バンドだからAAAMYYYさんと夏樹さんの存在感や意志があって成り立っていると思うんです。
綾斗って、コード感、ハーモニー感とかがすごく独特ですよね。前に「ギターって、なんでこれの半分の音が出ないんやろう」みたいなことを言っていたんですけど、そういう音感を持ってて。本人もそれを理解してるんだけど、それが完成形じゃないという感覚もあるから、私が何かいうと「ええやん、やってみて」っていうオープンマインドさもある。声も、今はピッチ修正とかできちゃうけど、綾斗はしないほうがよくて。それを絶対にキープしたくて、私が使ってるシンセは、デチューンしたり温かみがあるようにしたりちょっとピッチのずれたようなものにも寄り添える楽器なので、それを非常に駆使して作りました。私も夏樹も、綾斗の独特な感じを頑張って死守したかな。
―つまり、バンドというものも実は実体がなく、メンバーの存在から成り立っているということを、「色即是空・空即是色」に重ねて今のTempalayがリリースするこの作品で表現しているというふうにも捉えられると思いました。AAAMYYYさんとしては、Tempalayのサウンドを進化させられたアルバムだという手応えが強いですか?
うん、めちゃめちゃ。いちばん強いかも。綾斗はなかなかGOサインをくれなくて、ボーカルを入れたあとに「このシンセはちょっと違うかもしれない」みたいな感じで修正することもあって。そうやって最後まで調整してできた感じでした。それでいうと「月見うどん」は綾斗の「ええやん!」がめっちゃ強かったから嬉しかった。「月見うどん」の冒頭の音は、綾斗が地元の高知に戻って音を録ったり。「(((shiki-soku-ze-kuu)))」「)))kuu-soku-ze-shiki(((」もそうですけど、フィールドレコーディングで録った音も入っていて、より音楽と映像が融合した雰囲気があるし、記憶の中の音が入ってきた感じがします。
―記憶の中にある音やメロディをいかに作品にするか、というのはこれまでもTempalayが音楽を作るうえで大事にしてきたアプローチですよね。
綾斗を見てると、子どもの頃の記憶ってすごく鮮明で強烈なものなんだなって思います。今、子どもを育ててるから、「どうなるんだろう」ってよぎったりもします。
―現在進行形でまっさらなところに記憶を吸収していってる人間と、それを引っ張り出して作品を作っている人間の、両方を見ながらAAAMYYYさんは過ごされてるという。
そうそう。うちの子どものことでいうと、0歳から1歳にかけてのあいだは手とか口からの感覚で脳のシナプスがいちばん増える時期らしくて、だから砂場で遊んだり、お水触ったり、食べ物を掴んで食べたり、ということがいいと言われていて。でも今の育児だと、汚さずに食べさせようね、手は綺麗にしようね、という感じだから、「どっち?」ってなったりして。でも綾斗を見てると、自由奔放に育つとこうなるんだな、面白い!と思って、全部自由にやらせてます。
―綾斗さんが育児の手本になってるというのは、綾斗さんという人間への究極のリスペクトですね。AAAMYYYさん自身の産休・出産による心や時間の使い方の変化とかは、このアルバム全体を語る上で重要な話ですか? それともあまり直接的な影響はない?
当初、私はどのくらい休めばいいかわからなくて。一応ライブが決まってたので、そこで復帰することになったけど、とはいえ初めての育児でガンガン予定を入れることはできなくて。だからみんなに時間ができた、という意味では影響あったのかもしれないですね。「もっと休めばよかったのに」とか言われましたもん。
―あ、メンバーから? 優しい……!
そうそう。それぞれが焦らなくなったかな。昔から「売れなきゃ」みたいな気持ちはあったけど、今は「マジでかっこいいものを作りたい」みたいなマインドのほうが強いし、焦っちゃダメということを理解した。だからみんな時間をたっぷり使って楽しんだりしている感じがします。焦らないことをよしとして、大人な時間の使い方をするようになったかな。そういう意味で、大人のアルバムになったのもあるかもしれない。
―今、AAAMYYYさんから見てTempalayはいいモードだなという感じ?
いい感じです。たとえば私のシンセが超下手になっちゃったらすぐクビになるだろうなという危機感があって、頑張りたいという気持ちがすごくあるけど、多分それはみんな一緒で。だから超いい企業、みたいな感じ。「仲良し!」みたいな感じではないんだけど、いいものを作る会社としてはすごくいい形態。
―みんなでひとつの目標に向かって、それぞれがいい成果を作って。
そうそう。いい会社です。
―AAAMYYYさん自身、Tempalayに加入した頃の自分とは変わったなという感覚がありますか。
めちゃあります。全然変わりました。
―10月の日本武道館公演『惑星X』を、AAAMYYYさんとしてはどのように捉えてますか? Tempalayが武道館をソールドアウトさせたことは、それこそ業界に対して「やってやった感」が強いですよね。
すごく楽しみです。アドレナリンが出ると思います。でも武道館が終わっても、引き続き面白いことを綾斗は考えていると思うので、これが目標というよりかは過程の中です。解散とかは多分ないので、そこは全然心配しなくて大丈夫だと思います。
【関連記事】藤本夏樹が語る、Tempalayを通して見る「音楽」のあり方、果敢な実験精神
Tempalay(Photo by Mitsuru Nishimura)
『(((ika)))』
Tempalay
ワーナーミュージック・ジャパン / unBORDE
発売中
配信リンク:
https://tempalay.lnk.to/ika_Album
Tempalay Tour2024 ”((ika))"
5/17(金)東京・Zepp Haneda
5/24(金)北海道・Zepp Sapporo
5/26(日)宮城・仙台PIT
5/29(水)愛知・名古屋Zepp nagoya
5/31(金)福岡・Zepp Fukuoka
6/1(土)広島・ブルーライブ
6/9(日)新潟・LOTS
惑星X
10/3(木)東京・日本武道館
https://tempalay.jp/
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