レッチリ来日公演を総括 破天荒な4人がロックの歴史を背負い、東京ドームを揺るがす意味
Rolling Stone Japan / 2024年5月22日 11時20分
レッド・ホット・チリ・ペッパーズ(Red Hot Chili Peppers)による「The Unlimited Love Tour」の一環として5月18日・20日に東京ドームで開催された、ベストヒット満載のスペシャルライブが大盛況のうちに閉幕。音楽ライター・石井恵梨子による公演2日目の本誌独自ライブレポートをお届けする。
【ライブ写真ギャラリー】レッチリ東京ドーム公演2日目(全40点)
暗転。まず始まるのはチャド・スミス、フリー、ジョン・フルシアンテによるジャムセッションだ。ゆったりした音の会話、他愛ない戯れに見えたものが、チャドの加速によってどんどん熱を帯びていく。ジョンはすでに最高のエモ顔でギターをギュインギュイン泣かせているし、高速スラップを連発するフリーは後半ステージにひっくり返って放心。最初の焦らし、というにはあまりにも熱量の高いスタートである。
そして、寝転がったままのフリーが、ベィーン、と鳴らすイントロは「Around the World」! 同時にアンソニー・キーディス登場! 彼がスタンドマイクを掴み雄叫びを上げた瞬間に会場中がどっかーん! 本格的な歌の始まる前から最高潮を迎えてしまう東京ドーム、というのがまずは圧巻だった。
さらに信じ難かったのは、いきなりピークを迎えた客席がその後二時間弱ずっと同じテンションであり続けたことだ。セットリストは「まさか!」「からの!」「さらに!」と全曲ビックリマークをつけたいものだったし、バンド演奏は硬すぎず弛緩もしない安定感。特に凝った演出も必要としない、4人をただ映すだけのスクリーン使いにも唸ってしまった。なんというか、ロックスターとはここまでのものになるのか、という感慨だ。
Photo by Teppei Kishida
Photo by Teppei Kishida
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思い出すのは、同じくセッションから始まり、「Around the World」で幕を開けた、2000年の日本公演のことだ。
それ以前、少なくとも90年前半までのレッチリは、人気はあっても王道ロックスター的に扱われる存在ではなかった。裸体を晒し、危なっかしい行為も平気でやらかすことで、テレビに映るスター偶像を破壊する時代のヒーロー。音楽的に言えば本格的なファンクやラップ風歌唱をいち早く教えてくれた、ヤンチャで格好いい先輩と呼ぶべき存在だった。
来日公演も毎回波乱含みだ。途中でまさかのジョン脱退となる92年、巨大台風が直撃した97年の第一回フジロックなど、さすが先輩、ヤバい話ばっかりじゃないっすかと言いたいエピソードが満載である。実際には笑えない状況だったのだけど、トラブルも含めて笑い飛ばすのがレッチリ先輩の流儀、という気分があった。みな総じて若かった。
Photo by Teppei Kishida
転期は四度目の日本公演、2000年の武道館だった。先輩は、突然メロウに枯れていた。ジョンの色が強烈な『By the Way』はまだ出ていない時期だから、ファンの間には路線変更に戸惑う声が多少残っていた。また、バンド内でも以前との切り替えが完全にできていなかったのか、バキバキのファンクと泣きの新曲が交錯する内容はあまり脈略がないように見えた。それでも、と思ったものだ。日本武道館が一杯になるんだから、これはこれで幸せなことだよな、と。
今となれば噴飯ものである。ヤンチャな先輩からメロウな歌主体に切り替わったのは、要するにレッチリのロック王道宣言だ。『By the Way』以降も増えていく名盤の数々が、またジョンの在/不在をめぐる4人のストーリーが、いつしかスター街道を揺るぎないものにしていった。武道館の五倍の集客量を誇る東京ドームが二日間ばっちり埋まる。中高年も20代も親子連れも、あらゆる世代が「*」に似たレッチリマークを着込んで全国から集まってくる。「Around the World」のイントロが響いた時のどよめきは、この曲が最初に人前で鳴らされた25年前とは比べ物にならないものになっているはずだ。
極東の観客も虜にする「我々のテーマソング」
もちろん歳月のぶん容姿も変わる。ジョンはともかく他の3人は還暦を超えているから、スクリーンに映るのはたっぷりと皺を刻んだ初老の男たちである。ただ、枯れ気味というなら25年前からその路線が続くレッチリなので、逆に目立つのは維持される技術力と体力であった。特にすごいのはチャドとフリーで、二人のグルーヴは今なお驚異的に若い。さらには、曲調がミドルテンポだろうがバネのように跳ね続けるフリーの体力に見惚れ続けた。本当に超人じゃないかと思える肉体が、今もまだそこにあるのである。
Photo by Teppei Kishida
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突然メロウに枯れた、ように見えて早25年。実際はそこまでの衰えも知らぬまま、ただ枯れた味わいの名曲が増え続けたのだ。二曲目以降続くのが「Dani California」「Zephye Song」「Here Ever After」というのは、贅沢極まりないメロウ歌謡の波状攻撃。どの曲でもジョンのギターがむせび泣くが、ベタベタした感情と直結していないのもよかった。自分の世界に没頭することなく、常にフリーと至近距離で向き合い、曲のアウトロが自由なセッションにつながっていくシーンが何度もあった。このバンドは、まだまだみずみずしい生き物たりえている。
Photo by Teppei Kishida
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そのうえで、最もグッときたのは最新アルバム『Return of the Dream Canteen』収録の「Eddie」なのだった。どこか乾いたメランコリーを持つメロディと、遠慮なく泣きまくるアウトロのギターソロ。タイトルが示すように、これはエディ・ヴァン・ヘイレンに捧げた一曲。アンソニーが高校生だった時代の思い出を歌う曲である。
彼が故人を歌にするのは珍しいことではない。リヴァー・フェニックスに捧げたと解釈できる曲、カート・コバーンの名前が出てくる曲もある。ただ、同時代を生きた仲間でもない、ハードロックの大先輩までが範疇に入ってくるのは、ロックの歴史を背負った今だからだろう。気が合うだけでは始まらないが、技術ある者だけを集めても続かないのがロックバンド。その複雑で長い歴史への敬意、今も自分たちが存在できる感謝と愛。そういうことまで歌っているのが今のアンソニーだ。繰り返される〈Please dont remember me〉は、どうしても〈dont〉を省いた意味で受け止めたくなってしまう。
いささか大袈裟か。ちょっとした思い出ソングに、かくも鬱陶しい解釈を加えられてしまうのが今のレッチリ、と書くのが正解なのかもしれない。ただ、ここまで来ると背負うものはどこまでも大きくなる。ただ演奏するだけで五万人を心酔させるロックバンドは現代でも稀だ。いつまで続くのだろうと考えてしまう。そんな季節になったと思わせるのが「Ediie」を筆頭とする新曲群である。
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ただ、前半ずっと着衣だったアンソニーが、後半「Suck My Kiss」で結局上半身裸になった瞬間、いややっぱこれ永遠だわ、と爆笑したくなる私がいた。怒涛の勢いでヒット曲が押し寄せる。「Californication」に「By The Way」、さらにアンコールに「Under The Bridge」。どれもカリフォルニアを舞台とする曲だが、極東の東京ドームにおいて、これらの曲も間違いなく「我々のテーマソング」なのだった。勘違いとは、なんと幸せなことか。それがまだずっと続きますように、と思う夜だった。
【ライブ写真ギャラリー】レッチリ東京ドーム公演2日目(全40点)
Photo by Teppei Kishida
〈セットリスト〉
◎5月18日:東京ドーム公演1日目
01. Intro Jam
02. Can't Stop
03. Scar Tissue
04. Aquatic Mouth Dance
05. Dani California
06. Eddie
07. Don't Forget Me
08. Whatchu Thinkin'
09. Soul to Squeeze
10. Right on Time
11. These Are the Ways
12. Tell Me Baby
13. Californication
14. Black Summer
15. By the Way
16. (アンコール)
17. Kooks(David Bowie cover)
18. I Could Have Lied
19. Give It Away
◎5月20日:東京ドーム公演2日目(本記事)
01. Intro Jam
02. Around the World
03. Dani California
04. The Zephyr Song
05. Here Ever After
06. Snow ((Hey Oh))
07. Eddie
08. Hard to Concentrate
09. I Like Dirt
10. Parallel Universe
11. Reach Out
12. Suck My Kiss
13. Californication
14. Black Summer
15. By the Way
(アンコール)
16. Under the Bridge
17. Give It Away
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