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BABYMETAL主催「FOX_FEST」考察 グルーヴ表現の広がりから見るメタルの多様性

Rolling Stone Japan / 2024年5月28日 19時15分

BABYMETALとエレクトリック・コールボーイ(Photo by Taku Fujii)

5月25日(土)、26日(日)さいたまスーパーアリーナにて開催された BABYMETAL初主催フェス「FOX_FEST」。2日間を通して約3万人を動員したこのフェスについて、音楽ライター・s.h.i.に振り返ってもらった。

【写真を見る】BABYMETAL初主催フェス「FOX_FEST」

個々のアーティストの良さはもちろんのこと、フェス全体の流れまとまりの美しさが印象に残るイベントだった。優れたアルバムを評する際に「アルバム全体が1つの組曲のようだ」と言うことがあるが、今回のFOX_FESTもまさにそんな感じ。どの出演組にも突き抜けた親しみやすさがあり、それでいて異なる魅力もあるために、続けて観ることで各組の個性が互いを引き立てあい、双方に対する理解を深めてくれる。ラインナップ全体の相性の良さと、それを活かす並びの良さを兼ね備えたFOX_FESTは、完成度の高いコンピレーション作品のような居心地と出会いの楽しみを与えてくれる機会になっていた。ここまで音楽的な設計がうまくいっている大規模イベントもそうないのでは。本稿では、FOX_FESTのこうした持ち味について、メタルならではのグルーヴ表現の広がりという点から振り返っていきたい。
(筆者による出演アーティスト紹介はこちら

自分が参加したのは日曜日(2日目)で、全ての出演組が見事なパフォーマンスをしていたが、なかでも最も新鮮な驚きを与えてくれたのがMETALVERSEとASTERISMの共演だった。METALVERSE がSUMMER SONIC 2023に出演した際、バッキングを担当していたのは神バンド(西の神)で、そのメカニカルで抜けの良いサウンドを基準に考えると、ASTERISMは技術的には問題ないけれども80年代HR/HM(ハードロック/ヘヴィメタル)的な質感が微妙に合わないのでは……と事前に思っていたところもあったのだが、蓋を開けてみれば結果はむしろ逆。そうした80年代HR/HM要素が楽曲の歌謡エッセンスに絶妙に合っていて、この手の音楽性でここまで完璧な相性を示す組み合わせは世界的にみても稀では、というくらいの手応えを感じさせてくれた。Official髭男dism「Cry Baby」のカバーも、めまぐるしいキーチェンジを前提とした歌メロを不思議な形で活かすリアレンジもあってか、80年代のメタルパンクを超プログレッシブにしたような異様な滋味が生まれていて凄かった(初日はLiSAの「紅蓮華」をカバー)。デスコア的な高速フレーズを弾いていてもHR/HM的なグルーヴが出せる、というのは本当に得難い持ち味。またこの編成でやってほしいと願うばかりだ。


METALVERSE(Guest Band:ASTERISM)(Photo by Taichi Nishimaki)


METALVERSE(Guest Band:ASTERISM)(Photo by Taichi Nishimaki)

生で観ることで得られる納得感という点では、続いて登場したビルムリも素晴らしかった。音楽語彙が豊かすぎることもあって掴みどころなく思える面もあるバンドだが、親しみやすく開放的なステージングとあわせて観ると、”メタルコアやハイパーポップを通過したメロディアス・ハードロック”みたいに捉えられることがよくわかる。それを引き立てているのがサウンドの風通しの良さで、ギターはヘヴィだがベースレスなので低域がこもらない、という編成がこれほど合う音楽性もなかなかない。クリーンな歌声も流麗なサックスもその点で絶妙で、輝かしいけれども陰もちゃんとある、暖かい寂しさが漂い続けるような雰囲気によく寄り添っていた。このようなサウンドは、一般的なメタルフェスでは”ちょっと新風を吹き込んでみるためのイレギュラー枠”的に呼ばれることはあっても現場では浮いてしまうことが多いのだが、FOX_FESTでは全く違和感なくはまっている。こうしたところにも、今回の座組のうまさが出ているのではないかと思う。


ビルムリ(Photo by Taichi Nishimaki)


ビルムリ(Photo by Taichi Nishimaki)



「越境的グルーヴ」を体感

演奏面での衝撃が最も凄かったのはポリフィアだ。現代テクニカルギターの最高峰とみなされるバンドで、手数の多いフレーズを滑らかに弾きこなす超絶技巧が注目されることが多いのだが、生で観るとむしろグルーヴ表現の凄さがよくわかる。スペース(間)の活かし方やポケット(リズム打点の気持ちいいポイント、ツボみたいなもの)へのはまり方がとにかく絶妙。それはメカニカルな技術精度の高さがあればこそ実現可能なものなのだろうし、現時点での最新アルバム『Remember That You Will Die』におけるネオソウルやオルタナティブR&Bへの接近は、そうしたリズムコントロールを特にうまく活かすための必然的な帰結でもあるのだろう。その上で、曲間の繋ぎまで考え抜かれた世界観表現をしつつ、それを中断してまでフロアを積極的に煽っていく姿勢も良かった。心地よくエレガントなサウンドと情熱的なノリの両立が見事。基本的にはボーカルが入らないインストバンドなのに物凄い人気がある、というのも頷けるパフォーマンスだった。


ポリフィア(Photo by Taichi Nishimaki)


ポリフィア(Photo by Taichi Nishimaki)

人気という点では、今回最大の盛り上がりをみせたのはエレクトリック・コールボーイだろう。機内アナウンス風の映像で優しく煽る導入部からメンバー登場への滑らかな繋ぎに始まり、ライブ全編が一分の隙もなく緻密に構築され、それでいて窮屈な感じは一切なく進んでいく。「Hypa Hypa」のフィットネス風MVを再現する衣装チェンジなど、エンタテインメントな楽しさに溢れたステージなのだが、そうした見せ方と同じくらい絶妙なのが音楽性だ。速くいきすぎず遅くなりすぎずの宙吊り感あるBPM設定は、伝統的なメタルに連なる野暮ったさと重厚さを見事に両立する引っ掛かりを生んでいる。それがアホっぽさと程よい翳りを兼ね備えた佇まいとともに繰り出されることで、アバや北欧メタル(ヨーロッパなど)の系譜も感じさせる80年代HR/HMのテイストが醸し出され、ハマったら抜け出せない優れた渋みになっているのだ。エレクトロニコア以降の音でこうしたテイストを出せるのが凄いし、そうした配合が間口の広さに繋がっているからこそ老若男女を惹きつけることができているのだろう(これはMETALVERSE+ASTRISMに通ずる在り方でもある)。実際、フロアの熱気は物凄く、他アーティスト目当てで来場した人が予備知識なしで観てハマる例も多かった。こうした盛り上がりは、LOUD PARK 2015で初来日したサバトンが大好評を得たのを連想させるものでもある。エレクトリック・コールボーイも、ぜひとも単独公演で再来日してほしいものだ。


エレクトリック・コールボーイ(Photo by Taichi Nishimaki)


エレクトリック・コールボーイ(Photo by Taichi Nishimaki)

最後に登場したBABYMETALは、実力と貫禄に溢れたパフォーマンスの良さもさることながら、以上のようなラインナップの多彩なグルーヴ表現力を引き受け総括する役割も担っていたように思う。選曲をみても、ニューメタルやトラップメタル、祭囃子など、ビート形式の異なる曲ばかりが並べられていて、メタルならではのグルーヴ表現の広がりが意識的に示されていた。特に、ポリフィアのギタリスト2名が客演した「Brand New Day (feat. Tim Henson and Scott LePage)」や、エレクトリック・コールボーイのフロントマン2名が客演した「RATATATA」は、そうしたグルーヴのグローバルな交流を体験できる絶好の機会だった。個人的な印象としては、バッキングを務めた神バンド(西の神)の”著しく上手いがリズム表現のニュアンスは均一”な感じが勿体なく思える場面も多かったが、「メギツネ」や「ギミチョコ!!」「Road of Resistance」といったストレートなメタル曲では神バンドのその感じこそが正解になっていたし、フェス全体としてみても、他アーティストとの違いが映える良い演奏だったと言える。トリに相応しい素晴らしいライブだった。


BABYMETAL(Photo by Taichi Nishimaki)


BABYMETALとポリフィア(Photo by Taichi Nishimaki)


BABYMETAL(Photo by Taku Fujii)

こうして振り返ってみると、オープニングアクトとして登場した赤子金属の存在意義もよく見えてくる。「メギツネ」リミックスのダンスパフォーマンスで、メタルのアルバムによくあるインスト序曲みたいな位置付けでもあったのだが、ブロステップ(EDM)とトランスとシンセウェイブを速めのBPMで混ぜるアレンジは、和音階を軸に据えた原曲のカラーもあわせ、上記のような越境的グルーヴ表現を示唆するものにもなっていた。

タイムテーブルをうまく構成して早い時間帯からの来場を促し、日本国内での知名度はそこまででもない(しかし海外での人気は凄まじい)実力者を紹介して大きなインパクトを与えるFOX_FESTの構成は、優れたコンピレーション作品としても、高品質な教育的エンタテインメントとしても、稀有の完成度を示すものだったと思う。メタル領域でこうした大規模イベントが行われるようになったのは本当にありがたい。シーンの今後に大きな恩恵をもたらしてくれる機会。第2弾以降もぜひ開催し続けてほしいものだ。

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