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現代屈指のギターアイコン、マーガレット・グラスピーが語る「生々しさ」の美学

Rolling Stone Japan / 2024年6月5日 17時30分

マーガレット・グラスピー

マーガレット・グラスピー(Margaret Glaspy)は現代屈指のギターアイコンである。みずから曲を作り、歌う彼女はシンガーソングライターと一般的に認知されており、もちろんその呼び方も間違いではないのだが、そうして生まれる楽曲のなかで彼女が奏でるギターの比重はあまりも大きく、尋常でないパフォーマンスに誰もが驚くはずだ。

1989年・カリフォルニア州出身の彼女は、2016年に発表したデビュー作『Emotions & Math』で瞬く間に知られるようになった。ウィルコがツアーに誘い、ノラ・ジョーンズがコラボ相手に選び、プライベートでのパートナーでもあるジュリアン・ラージはブルーノートと契約後の3作で彼女をプロデューサーに起用している。そんなマーガレットが昨年発表した最新アルバム『Echo The Diamond』では、ジュリアンを共同プロデューサーに迎え、デイヴ・キング(Dr:ザ・バッド・プラス)とクリス・モリッシー(Ba:ノラ・ジョーンズ、マーク・ジュリアナ)とのトリオで録音。力強く真っすぐでありながら、いつ崩れるともわからない緊張感を宿した一枚で、優れた歌ものであるのと同時に、類い稀な即興音楽でもある。

6月18日〜19日、ついにブルーノート東京で初の来日公演が開催される。アルバムで聴かれるあの生々しいギターサウンドを、実際にこの耳で体感できるのがとにかく待ち遠しい。その直前に実施した今回のインタビュー。日本ではこれまで語られることの少なかった、彼女の魅力をようやく伝えられる内容になったと思う。


『Echo The Diamond』のリードシングル「Act Natural」のMVでは、彼女の元勤務先でジュリアン・ラージとの「デートコース」でもあるギターショップ・TR Crandallでの一幕も(詳しくは後述)


ノラ・ジョーンズとのセッション映像(2023年)


フォークからオルタナティブへの音楽遍歴

ー楽器を演奏するようになったきっかけは?

MG:私は家族全員がギターを弾く音楽一家に育ったので、子供の頃からギターに囲まれていた。だから自分もギターを弾くことが特別なことというよりは、普通のことだと思ってた。8歳からはフィドルも弾いていて、16〜17歳まで、かなり真剣に弾いていたわ。私がいたアコースティック・ミュージック/フォークのコミュニティにはかなりレベルの高いミュージシャンたちが大勢いたので、そのうち私もギターをより深く学ぶようになり、17歳頃で曲を書き始めた。バークリーに入学したけどいたのはわずか。その後NYに移り、クラブで演奏するようになり、そこからマーガレット・グラスビーの音楽を作るようになったというわけ(笑)。

ーあなたの家族はどんなギターを弾いてたんですか?

MG:父はジャズが好きで、ジャズやポピュラーミュージックの曲なら、若い頃から大抵なんでも弾ける人だった。母はジョニ・ミッチェルやジェイムス・テイラー、キャット・スティーヴンスなどシンガーソングライター系が好きで、家族でキャンプに行くと曲をギターで弾いていた。兄はロックンロール好きでギターがうまかった。私は兄を見て学んだ部分がだいぶ大きいと思う。姉も当時のポップスやロックが好きで、ノー・ダウトやローリン・ヒルなど幅広く聴いていた。そんなふうにいろんな音楽や考え方に囲まれていたし、家中にギターが転がってた。

YAMAHAからFender、そして有名ではないけど十分な音が出る謙虚なギターまで。5本しか弦がないようなギターもあったし、あまりに弾きすぎてボロボロなギターもあった。それこそ各部屋にギターがあったのよ。最初ジュリアンと知り合ったばかりの頃、彼から家族のことを聞かれて、そのことを話した。「全ての部屋にギターがある家だった」って。彼に「それは珍しいね」と驚かれたけど、私はどの家にもギターがあるのが普通だと思ってた(笑)そんな家庭環境だったの。今じゃ私は、ギターと結婚したようなものだから。もうギターは家族みたいなもの。


ローリン・ヒル「Ex-Factor」のカバー映像(2016年)

ーそれなのに、最初はフィドルを弾いてたんですね。

MG:それは学校のプログラム。アメリカのすべての学校に音楽プログラムがあるわけではないけど、私の学校にはたまたまフィドルのプログラムがあった。音楽であることには変わりないし「面白そうだからやってみよう」と試したわけ。そんなわけで、8〜16歳の私はフィドラーとして、コンクールで競っていた。弾いていたのはテキサス・スタイルのフィドル・ミュージック。

ーカントリーやマウンテン・ミュージックとか?

MG:ええ、主にね。子供の頃はジャズとか、アイリッシュ音楽、スコティッシュ音楽なんかもフィドルで弾いてた。二胡の奏者から学んだこともあった。クラシックも……ほんの少しだけ。アコースティックの世界には、本当に色々なジャンルの優れたミュージシャンがいたから。私も幅広く影響を受けてきた。もちろん、一番多かったのはテキサス・スタイルのフィドル奏者、ブルーグラス、オールドタイム・フィドルの奏者だった。

ー子供の頃はアコースティックな音楽を演奏してたんですね?

MG:そう。バークリーに行った後も、主にアコースティックギターを弾いていた。18〜21歳になるまで。エレクトリックギターを弾くようになったのは、NYに行ってから。短期間で転向して、その後はエレキがメインで歌も歌うようになった。



今年4月リリースの最新EP『The Sun Doesn't Think』はアコギ弾き語り主体の5曲入り

ーバークリーに進学した理由は?

MG:とにかく東海岸に行きたかった。知り合いもたくさん通っていたし。そうなると、カリフォルニアで育った私としては、おのずと選ぶ道はバークリーというか。それで奨学金を工面して行ったのだけど、大学には1学期しかいなかった。でも、その後もボストンに住み続けて、しばらくは仕事をしながらボストン中で演奏をした。IDもそのまま、大学の近くでウロウロしてたので、まだ通っているんだと思われてた(笑)。

ボストンはあくまでもNYに行くための経由地で、子供の頃からNYに行くことが私の唯一の夢だった。本当の意味での私の音楽学校は、駆け出しのアコースティック・ミュージシャンとして過ごしたNYでの日々だったと思う。バークリーは様々な音楽を演奏する世界中からの学生たちがいる大きな海。それはいい意味で、私に刺激を与えてくれた。そしてNYに行くことで、さらなる刺激が待ち受けていた。とても心地よい刺激だった。「私はここにいるんだ」と思えたから。

ーその頃にはもう自作曲を演奏していたんですか?

MG:ええ、10代の頃はフォークソングを演奏してたけど、バークリー以降は、自分の曲を書き、自分の音楽を作ることに関心が向いていった。もちろんカバーもしたけどね。レイ・チャールズやエイミー・ワインハウスとか。だって、まだ18歳だったから(笑)。何が自分に向いているのかわからなくて、色々と試していたの。

ーレイ・チャールズはカントリーっぽい曲?

MG:いや、もっとソウルフルな曲。”You give your hand to me〜♪”(口ずさむ)。この曲が大好きだったから(「You Give Your Hand To Me」)。


Photo by Ebru Yildiz

ー世代的にオルタナティヴ・ロック、インディ・ロックも通ってます?

MG:高校生になって、自分で見つけたロックを聴くようになったかな。特に影響が大きかったのはエリオット・スミス。ブライト・アイズもよく聴いた。そしてソニック・ユース、ビョークがすごく好きだった。

その頃はまだフォークを弾いていて、夏休みはフィドル・キャンプ、フェスティバル、コンサートなどに出演していたから、高校にいるときは友達が聴いてる同時代のポップミュージックが心地よかった。落ち着くっていうか。

ところが大学生になると、音楽への好奇心が一気に爆発したの。こんなにも知らない音楽があったのかって。私のコードのセンスは、子供の頃に聴いたビートルズによって形成されたと思うけど、大学に入ってからエリオット・スミスをより深く聴くようになり……代表曲だけでなく、アルバムも全部聴いて。ビョークやアラニス・モリセットも、小さい頃から大好きだったけど、その頃は兄や姉の音楽だった。でも、一人暮らしを始めてから聴き直したら、その向き合い方にアイデンティティみたいなものが生まれ始めた気がした。「自分の音楽」として聴くようになったというか。

ーエリオット・スミスはどんなところが好きでしたか?

MG:すべて! コードも素晴らしいし、曲をアコギで弾くと、どこかにパンクロックに感じさせる。その二つが同時に起きることが私には衝撃だった。残酷なまでに正直な彼の曲からはとてもインピレーションをもらえたしね。彼の音楽を聴くと、ひとりぼっちじゃないんだという気持ちにさせられた。「この人は寂しいんだ。それを寂しいと言っている。それで良いんだ」って感じ。私のデビュー作『Emotions and Math』はエリオット・スミスからの影響が大きいと思う。彼のいたバンド、ヒートマイザーも好きだったし。

あと、初期ローリング・ストーンズの「とっ散らかった感じ」もすごく好き。あんなふうにふらっとスタジオに現れて、音楽を作ったらそれっきり……みたいな感じに憧れるし、自分のアルバムでもそれを実践している。ミュージシャンとスタジオに集まって録音したら、あとはあまり手を加えない。そのやり方はストーンズからの影響だね。私はただギターを弾き鳴らして、最高のミュージシャンたちとスタジオに入り、レコーディングボタンをONにするだけ!(笑)


エリオット・スミスの曲では「Stupidity Tries」をお気に入りに挙げている

ーアラニス・モリセットもあなたの音楽性に近い気がしますが、どんなところが好きでしたか?

MG:当時の音楽業界や、自分たちが押し込まれなければならなかった枠に不満を持っていた女性ミュージシャンのために、道を切り開いたのがアラニス・モリセットだと思う。同じ若い女性として、アラニスのそんな姿を見て「すごい!」と思った。彼女みたいになりたい、とも思った。何も恐れていないように見えたし、彼女が作る音楽は予測がつかない、それでいてポジティブで、一緒に歌いたくなるような音楽だし、女性の権利についても歌っている。そういうメッセージを聴き手の頭にこっそり送り込んでいるのがクールだと思う。


アラニス・モリセット「You Learn」のカバー映像

ーNYでエレキギターを弾くようになってから音楽性も変わったと思いますが、その頃はどんなギタースタイルを目指していたのですか?

MG:最初は「アコースティック・ギタープレイヤーがエレキギターで弾いてます」という感じ。当然それしか知らなかったから。最初のギターはHarmony Stratotone Jupiter。ロックンロールというよりは、シンガーソングライターがソフトにエレキを弾いている、みたいな。

それ以降、エレキギターの知識が深まるうちに、ロックがどんどん好きになっていって。経験を積むうちに、多くのギタリストを知っていった。例えばネルス・クライン、サーストン・ムーア。ソニック・ユースは本当に大好きだった。アルバムを聴いて「どうすればこんなふうに弾けるの?」と思ってた。同時に古い人たちでも、B.B.キングやチャック・ベリーのように、ギターでロックンロール/ブルースを奏でる人たちに憧れて、自分もこんなふうにギターを前面に出した音楽がやりたいと思っていた。単なるバックグラウンドの楽器としてのギターじゃなくてね。


Harmony Stratotone Jupiterを弾いていた頃(2011年)



ーさっきから何度も名前が出てきてますが、ソニック・ユースに深い思い入れがあるんですね。

MG:実は私自身、今もまだミュージシャンとして模索していることなのだけど、ソニック・ユースのソニック・ボキャブラリーが大好き。彼らが奏でるエレキギターは単なるエレキギターではなく、ベースも単なるベースではない。ギターが、ベースが、それ以上のサウンドになっている。やってることはノイズロックでありながら、曲にはそれ以上の要素がある。今の私はどちらかというとリズムギター・プレイヤーだけれど、彼らのように「サウンドで何かができる」ギタープレイヤーにすごく憧れていて、将来そうなることにもかなり興味がある。ネルスは親しい友人だけど、彼が弾くギターはまるで別の楽器みたい。私が弾くとギターなのに、彼が弾くとノイズマシンになる(笑)。

ソニック・ユースもそう。単なるプレイヤーではなく、楽器でアートを作るアーティスト。アート・ノイズというか。彼らの音楽はノー・ウェイヴともオルタナティヴとも微妙に違う独自のもの。個人的にここ5年くらい、そういう音楽に夢中で。ノー・ウェイヴのバンドを聴くことが多い。例えばDNAとか。

ーへぇ! アート・リンゼイがいたバンドですよね。

MG:そうそう、大好き! あとはテレヴィジョンとか、スーサイドもクールで好き。ここ4〜5年はまるで音楽の里帰りをしているような感覚。「こんなに好きなバンドがいっぱいいたんだ」と、知らなかった音楽の世界を未だに発見し続けている。



生々しいギターサウンドの秘密

ーギタリストとして愛用してきたギターやアンプ、ペダルの遍歴を教えてもらえますか?

MG:長く弾いてきたのはDanocaster。要はテレキャスターなんだけど、インディペンデントのビルダーが作ったのでDanocasterというの。クリームっぽい白いギターで、新品だったけどレトロ風な見た目。

最近のレコードで弾いているのは、1978年製のTelecaster Deluxe。これはテレキャスターなんだけどHumbuckerを2台搭載してる。そしてとても重い。それまでのギター2本分の重さがあるんじゃないかってほど重い。でもそのぶん、サスティンがとても長くて、若干ダークなサウンド。Danocasterはカントリー風のテレキャスらしい、トゥワンギーなサウンドだったけど、Tele Deluxeはロックンロール・ギター。トム・ヨークがレディオヘッドで弾いていたと思う。キース・リチャーズもDeluxeじゃなくてハムバッカーが1台だけのタイプを弾いていたはず。要はカントリーというよりロックンロールの系譜にあるギターで、重くてハムバッカーを積んでいるところはレスポールに似ている。つまり、全く違うタイプの獣ってこと(笑)。


Danocaster


Telecaster Deluxe

ー獣って(笑)。

MG:ペダルに関しては昔から最小限しか使ってない。多用し始めると音楽の邪魔になるし、ペダルで音楽を語らせようとしたことは一度もない。ディレイも試したけど好みじゃなかった。『Emotions and Math』で使ったのはチューニング・ペダル、リヴァーブ・ペダル、ブースト・ペダルだけ。今は、チューニング・ペダルとStrymonのリヴァーブ・ペダル、新しいPete Cornishペダルを使ってる。一種のプリアンプ。結構大きくて、コンプレッション・ペダルとディストーションが同時に出せるカスタムユニットで、私のサウンドの大きな部分になってきている。

ーPete Cornishにはどんな質感やソニックを求めているのですか?

MG:ちょうどいい、適度なオーバードライブ感というか。でも一言で言えば、とにかくいいサウンドを求めてるだけ(笑)。出してみて「お、いいじゃん」と思ったらそれで行く。アンプの音を上げても「アンプからいい音が出てる」という音にしたい。アンプで好きなのはPrincetonかReverb Deluxeのどちらか。演奏する会場にもよるけど、一番好きなのはPrincetonかな。

ー『Emotions and Math』を初めて聴いた時、とにかくギターの鳴りに驚いたんですよね。そこはこだわっている部分じゃないですか?

MG:ええ。あのアルバムを作っていた頃、Champという5〜8ワット程度の小さなアンプで鳴らしていたこともあった。すごくコンパクトだけど挑戦して音量を上げると、オーバードライブがすごく美しく崩れる。それがとても好きだった。そしてもっと低音を出すのに大きなアンプを使いたい時は、更にChampを通してリアンプした。小さなChampを通して再録音することで、さっきも言った美しい崩れ具合が加わるから。ギターサウンドにはもちろんこだわるけど、そのギターを聴いた時に「これは何の機材を使ってるんだろう?」と思わせるのではなく、ただ聴いて「いい音だ」と思ってほしいだけ。ギターに関しては本能的に感じたいから。



ーそうそう、「ギターそのものの音の魅力」が聴こえてくる録音なんですよね。音作りに関して参照にしたアルバムとかありますか?

MG:ジミ・ヘンドリックスを参照にしたこともあったし、ストーンズの『Some Girls』みたいに、ブルージーなロックギター・サウンドをパンキッシュな曲で使う感覚がすごく好き。1stアルバムはストーンズからの影響もかなり大きかった。他にはパティ・スミスも少しだけ。

1stアルバムはソニック・ユースが何枚もレコーディングしてきた、マンハッタンのシアー・スタジオで録音したんだよね。「ここにソニック・ユースがいたんだ」という雰囲気があったし、私も彼らに恥じないような、嘘のない純粋な音楽をギターサウンドで表現しようと思ったのを覚えてる。シアー・スタジオの名を汚すようなことはしたくなかったから。



ー『Emotions and Math』も『Echo The Diamonds』もギタートリオで録音してますよね。その編成も含めた作曲に関しても聞かせてもらえますか?

MG:大抵、曲は家でアコギで書き、レコードを作る段階でその曲をエレキで「カバー」する。だからレコーディングではまるで、他人の音楽をエレクトリック・ギター奏者として演奏しているような感覚。そしてギタートリオという編成は……なぜかわからないけど、すごく楽しい(笑)。各自が責任を負い、ライブ中も気を抜くことなく綱渡りしている。バックアップは一切なし。誰も私のギターパートをダブルで弾いてくれないわけで。責任感を持って何かを届けなければならないという一種のリスク、それこそがある種の期待感を生み出してくれる。私はトリオのそういうところが好き。次の瞬間には、すべてが壊れてしまうかもしれないっていう危うさがたまらないというか。

私自身、ライブを観に行くのが好きなのもそういう理由。ライブは「今、ここ」でしか起きない。ステージでは、スタジオ・マジックを駆使して作られた音楽の再現は観たくない。私はただ、生々しくて興味深いものが見たいだけ。トリオはそういう音楽を共に作ってくれる。

ーソングライターではどんな人が好きですか?

MG:やっぱりエリオット・スミス。若い頃はジョニ・ミッチェルからも影響を受けた。そしてボブ・ディラン。フォーキーな初期も大好きだし、エレキギターを弾いてロックンロールな曲をやっていた『Shot Of Love』もすごくいい。


最近のライブでは『Shot Of Love』から「In The Summertime」のカバーを披露している

ー80年代初頭のディランですよね。

MG:あとは作曲面に関していうと、『Echo The Diamond』の制作中、好きな音楽を聴き返していて気づいたのは、特に兄や姉に教わったロックバンドからの影響。例えば、パール・ジャムとか。

ーへぇ!

MG:もともとパール・ジャムは大好きだったけど、幼い頃はソングライターとしては見てなかった。でも、兄や姉が家でかけていた彼らの楽曲を、大人になってから改めて聴くとかなり刺激を受ける。エディ・ヴェダーが歌う静かで美しい曲も、「Spin The Black Circle」みたいなロックンロールも。特に好きなアルバムは『Vs.』と『Vitalogy』かな。



ジュリアン・ラージとの家での過ごし方

ーボーカリストとしての影響源も聞きたいです。綺麗に歌うだけでなく、叫んだり、軋ませた声も披露していますよね。

MG:驚くかもしれないけど、若い頃のバーブラ・ストライサンドとか。

ーそれは意外すぎます(笑)。

MG:予想外でしょ?(笑)。でも、彼女はジャズシンガーとして超一流。特に若い頃は誰にも止められないと言わんばかりにシャウトし、唸り、本当に素晴らしかった。もう一人、大好きなのはメアリー・マーガレット・オハラ。『Miss America』が良かった。とてもユニークな歌手で、曲の真ん中に即興で色んなことをしたり、言葉にエコーをかけて曲間でずっと流したり、それまで聴いたことのないような変わったことをする人だった。そんな彼女のスタイルを長いこと尊敬してきたので、5年前に会えたときは単なるファンになっちゃってた(笑)。あとはキム・ゴードンも最高だし、PJハーヴェイも大好き。




ー『Echo The Diamond』はデイヴ・キング、クリス・モリッシーとのトリオで制作されたわけですが、あなたとジャズの音楽家が持つライブ感と即興性を、プロデュースを務めたジュリアン・ラージもうまく引き出しているように思いました。

MG:デイヴやクリスの音楽への理解力は本当に速いので、リハーサルで長い時間をかける必要がないし、一旦スタジオに入ればいい結果が生まれるってすぐにわかる。プロデューサーとしての私は、スタジオで一度演奏するだけでマジックが生まれるようなものの方が好き。収録曲の「Female Brain」はリハーサル・テイク。二人はほとんど曲も知らなかったけど、演奏を始めたら、それが結果的にあの曲になった。そういうのが私は大好き。

ジャズ・ミュージシャンと一緒にやるのが好きなのは……というか、デイヴやクリスとやるのが好きなのは、二人ともパンクとジャズの感性を併せ持っているから。クリスは今まで会ったなかでいちばんのパール・ジャム・ファンだし(笑)。実際、私はクリスに「パール・ジャムだったら、ここのベースはどうしたと思う?」と聞いたことがある。すると、彼は普通ジャズではやらないような、ロックンロールなベースを弾いてくれる。




ーところで、ジュリアンとは家でどんな音楽の話をするんですか?

MG:あはは! どうだろう、普通の話だと思うけど(笑)。

ーお互いの作品をプロデュースし合う一方で、戦前ジャズやフリージャズについて詳しく解説してくれるような彼と、ソニック・ユースへの愛を熱弁するあなたの間に、どんな共通項があるのかなと思いまして。

MG:音楽面での共通点は、二人ともセーフティネットなしの、ライヴ・ミュージックがもつマジックがとにかく大好きってところ。今ここでしか起こりようがない音楽を目撃したいから。それもあって、昔の音楽が好き。だって当時は、今のようなテクノロジーがなかったからそうなるしかなかった。なので、二人でセロニアス・モンクが演奏する古い動画や、アーマッド・ジャマルの演奏を見て「すごい!」って、ボブ・ディランやソニック・ユースの動画を見ても「すごい!」って。そんなふうに、二人でずっとYouTubeを見ては「すごい、すごい!」と言い合ってる(笑)。

ー楽しそうですね(笑)。

MG:一緒に自宅で演奏したりもする。今はお互いツアーが多いので、同じタイミングで家にいることは少ないけど、二人でいられる時はアコースティックギター2本で演奏する。ギター・ミュージックへの愛は共通している部分で、時代やジャンルは関係ない。、それに二人ともギターが大好きだから、ギターの話もよくしてる。私は「ギターのことなんてあまり気にしていない」と口では言いながら、実際は何本もギターを持っているタイプ。ジュリアンは「ギターにすごくこだわりがある」と言いながら、いつも同じギターに戻るタイプ。つまり私と彼はギターの周りを、すごく異なる、そして似た軌道を描きながら回っているってこと。

あと、二人でNYのTR Crandallというギターショップにギターを持って行って、セットアップしてもらう。それはとても楽しいデートコースになってる。

ーお二人が一緒に来たら、店員さんは緊張しそうですね。

MG:そんなことない(笑)。家族みたいな間柄だから、みんな楽しんでる。数カ月おきにギターを持ち込んで、そこでセットアップしてもらう間、コーヒーを飲んで過ごすのがすごく楽しい時間になってる。一緒に過ごしているあいだに、ギターのメンテナンスまでできるわけだから!



ーいよいよ初の来日公演ですね。

MG:ジュリアンが日本に行った時に同行したことがあって、その時はすごく楽しかった。日本でプレイするのは私にとっての夢だったから、とても光栄だし興奮してる。日本で美味しいものを食べるのも楽しみ。前回行った時は肉を食べたけど、今は肉を食べないから、日本のベジタリアンフード事情がどうなのかも興味がある。カルチャー、食べ物、アート、ショッピング、何もかもが楽しみだし、誰もが優しくて、本当に楽しみで仕方がない。

ーパフォーマンスに関してはどうですか?

MG:普段はロッククラブのようなダーティーで、ラフな会場でやることが多いから(笑)。ブルーノートに出演することに興奮しているし、これが『Echo the Diamond』ツアーのラストになるので、エネルギッシュなステージになるだろうし、アルバムからの曲を演奏することを楽しみにしている。『Echo the Diamond』は日本を訪れた時に感じた、日本のアートやクリエイティブなヴァイヴに触発されたアルバムでもあって。日本のディテールやアートに対する深いこだわりに制作中の私は刺激を受けてきた。そんなアルバムの曲を届けられるのが楽しみ。日本の皆さんには、私がディテールに込めた思いを理解してもらえる気がするから。





マーガレット・グラスピー来日公演
2024年6月18日(火)、19日(水)ブルーノート東京
Open5:00pm Start6:00pm/Open7:45pm Start8:30pm
ミュージック・チャージ:¥8,800(税込)
公演詳細:https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/margaret-glaspy

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