BTS・RMの「チームプレイ」を考察、韓国のオルタナティブな才能がソロ傑作に集った意義
Rolling Stone Japan / 2024年6月6日 19時10分
兵役のため本人自らのプロモーションが限定的だったにも関わらず、発表と同時に当然のように世界中で話題となり、週間2位を記録した日韓だけでなく、欧米の主要チャートでも米・ビルボード5位を記録するなど、ソロ2作目でもまさに圧倒的なリアクションを得ているBTS・RMのニュー・アルバム『Right Place, Wrong Person』。
「チームプレイ」という言葉はこの作品を語る上での重要なキーワードだ。全体的なトーンや音の質感こそ統一感があるけれど、ロック、ラップ、エレクトロニカなどいろんなジャンルが混ざっているし、楽曲ごとに参加した様々なミュージシャンの声や多様な楽器の音が入れ替わりに聴こえてくる。まさにコラボレーターの幅の広さが作品の多様性に直結しているアルバムだ。リトル・シムズ、モーゼズ・サムニー、ドミ & JD ベックなど世界的に評価の高いミュージシャンたちから、never young beach、岡田拓郎、DYGLのギタリスト下中洋介といった日本のミュージシャンの名前が話題になっているが、そんな中でも筆者はアルバム全体のカラーを決定付ける役割を果たした、韓国のオルタナティブ・ミュージシャンたちの功績を強調したい。
『Right Place, Wrong Person』にはアルバム全体のプロデューサーである Balming Tiger(バーミング・タイガー)のSan Yawnと、ソロ・ミュージシャン兼プロデューサーのJNKYRD(ジャンクヤード)の2人をはじめ、アンダーグラウンド・シーンを中心に活躍する韓国のミュージシャンたちの名前が全曲でクレジットされている。そもそもRMと彼らは昨年秋ごろから一緒にスタジオ入りしている姿を何度もInstagramにポストしており、双方のファンの間では話題になっていた。そこには先述のSan Yawn、JNKYRDの他にもBalming Tigerの他のメンバーたちや、いま韓国で最も勢いのあるバンド、Silica Gel(シリカ・ゲル)のメンバー、キム・ハンジュの姿もあった。その写真はどこか彼らが古くからの友達のように気軽で親しそうに見えたし、何度も一緒に集まりながら切磋琢磨している姿からは、どこか「チーム」という言葉が似合う団結感が伝わってきて、どんな作品が制作されているのか気になって仕方なかった。
RMのInstagram(@rkive)ストーリーズより引用
そして出来上がったアルバムを聴いて驚いたのは、参加したミュージシャンたちの個性的なサウンドや歌唱スタイルがはっきりと聞き取れ、そのまま完成した作品に残っていること。彼らはただRMに制作済みのトラックの提供をしたり、楽曲の飾り付け的な役割をしたわけではない。ビートを作るのが上手なプロデューサーから、エフェクトやシンセサイザーを巧みに使いこなすミュージシャン、グルーヴを生み出す演奏者や、メロディックに管楽器をプレイする演奏者、ハスキーな歌声から、か弱い歌声のボーカリストまで、それぞれ異なる個性や得意分野を持ったミュージシャンたちが集まり、一緒にアイデアを寄せ合い、自らの作曲や演奏のスタイルをそのまま楽曲に投影した。そんなアルバムの制作手法が想像でき、まさに「チームプレイ」で作られたアルバムだと思ったのだ。
日本の読者には馴染みのない名前が多いかもしれないが、彼ら本作に参加した韓国のミュージシャンたちは、普段からアンダーグラウンド、あるいは各ジャンル内で支持を得て、重要な役割を果たしているミュージシャン達だ。本稿ではコラボレーターである彼らのことを紹介するとともに、その役割を検証、そしてそこから見えてくるRMの意図について考察してみる。彼らのことを知ればアルバムの聴こえ方が変わってくるはずだし、本作のようなコラボレーションが実現する韓国音楽シーンの背景からも重要な気づきが得られるはずだ。
この投稿をInstagramで見る san yawn(@kangghettodaewang)がシェアした投稿 上掲投稿の写真2枚目:左からRM、JNKYRD、San Yawn
San Yawn、bj wnjn、unsinkable(Balming Tiger)
まず最初に紹介すべきは、昨年のフジロック出演も記憶に新しい、オルタナティブK-POPバンドを標榜するグループ、Balming Tigerのメンバーであるこの3人だろう。Balming Tigerには多くのユニークな側面があるが、本稿で言及しておきたいのは、彼らが作曲や編曲はもちろん、MVの制作、A&Rなど、一般的なミュージシャンならレーベルや外部のクリエイターに任せる部分まで自分たちでこなしてしまうハイパーDIYなグループであること、またラップ、エレクトロニカ、パンク・ロックなど多様なジャンルをごちゃ混ぜにしながら、誰にでもシンガロングできるようなフック・センスで、新鮮なポップ・ミュージックを作っていることだ。RMとコラボした「Sexy Nukim」や彼らのキャッチーなフックが満載な「Kamehameha」「Trust Yourself」などはその一例だ。
メンバーの中でも、元々レーベル「HIGROUND」でのA&Rの経験があり、Balming Tigerでもリーダーとして、グループの作品や方向性をディレクティングしている San Yawnは『Right Place, Wrong Person』のアルバム全体のプロデューサーであり、RMの本作制作におけるパートナー的存在だ。音楽的な方向性やコラボレーションなどはもちろん、MVでもクリエイティブ・ディレクターとしてクレジットされており、音楽、映像、カバー写真など複数のアートフォーム同士を結び付けた、完成度の高い総合芸術作品を作りたかったRMのアイデアを一緒に形にし、監督する役割だったのではないかと想像する。またSan Yawn以外の2人も、プロデューサー兼ボーカルを務めるbj wnjnが「Nuts」「Domodachi(feat. Little Simz)」など3曲、同じくプロデューサー兼ボーカルのunsinkableが「Right People, Wrong Place」「out of love」など4曲の作曲・編曲にクレジットされているが、彼らがBalming Tigerで培ってきたオルタナティブなポップネスが、本作の一つのジャンル名では形容できない音楽性に寄与していそうだ。
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JNKYRD
JNKYRDは2014年より活動しているソロ・ミュージシャンでありプロデューサーだ。ソロでは10作以上のシングルと3作のEPを発表しているほか、日本でも人気のバンド、hyukoh(ヒョゴ)と親交が深く、2017年に発表された『23』からはアルバム制作に関与するようになり、2020年のアルバム『through love』のツアーでは健康上の問題でツアーに参加できなかったメンバー、イ・インウの代わりにドラムを担当した。最近の彼の仕事の中で特に素晴らしかったのがシンガーソングライター、Dajungの「Unlearn」のプロデュースだ。一つのギター・リフをループさせるだけのシンプルな構成ながら、ボーカルやギターにかかった分厚いリヴァーブが効果的で、楽曲に温かく幻想的な雰囲気を与えていた。歌声や生楽器の音響、コンピューターやシンセサイザーのようなツールを実験的に活用して見せる彼の手腕は、いつも新鮮で可能性にあふれている。
RMはJNKYRDを先述のSan Yawnに次ぐアルバム全体のセカンド・プロデューサーとして起用した。大衆が聴きやすい様式に合わせることよりも、RMと彼がコラボしたミュージシャンたちが思うまま自由に作りこんだ、本作のエクスペリメンタルな作風を考えると、絶妙な人選だ。
韓国屈指の先鋭バンド/ソングライターも貢献
Oh Hyuk, Lee In-woo, Lim Hyun-jae(hyukoh)
ここで改めて説明する必要もないほど、2010年代後半にはここ日本でも人気が定着していた4人組ロック・バンド、hyukohだが、2020年に発表したアルバム『through love』とその直後のワールド・ツアーを最後に、バンドは事実上の活動休止状態に。近年はCIFIKA(シフィカ)、yaeji(イェジ)らとのコラボシングルを発表していたボーカル・ギターのオ・ヒョクや、ハードコアな3人組バンド、bongjeingan(ボンジェインガン)で活発に活動するギターのイム・ヒョンジェなどメンバー個々の活動がメインだったが、最近、バンドのアート・ディレクター、キム・イェヨンが彼らについて「カムバックのためのウォームアップをしている」とSNSに投稿したり、メンバーの知人の結婚式で久々にバンド4人が集まって演奏する姿を公開したりと、ファンの間でカムバックへの期待が高まっている。
そんなヒョゴの面々は、オ・ヒョクが「Come Back to Me」の作曲やギター演奏とバック・ボーカルに、ドラムのイ・インウが「Nuts」「Domodachi」など3曲のドラム演奏、さらにギターのイム・ヒョンジェは「LOST!」のギター演奏でクレジットされている。特にオ・ヒョクが落日飛車(Sunset Rollercoaster)のKuoと共作し、イ・インウがドラムで参加している「Come back to me」でのRMの気怠くつぶやくようなボーカルは、オ・ヒョクの歌唱法そのものを想起させるし、全体的な陰鬱なムードそのものもhyukohの『through love』、落日飛車とオ・ヒョクがコラボした「Candlelight」と共有していると思った。
ちなみに本作で「Heaven」「Around the world in a day with Moses Sumney」のレコーディングに参加したnever young beachは、hyukohとは以前より対バンライブなどで親交があるし、落日飛車ともコラボ・シングル「Impossible Isle」を発表するなど、本作参加のミュージシャンたちとの関係は今に始まったものではない。こうした東アジアのインディ・シーンの繋がりが本作の豊かな音楽性に寄与していることは重要なポイントだろう。
Mokyo
本作のソングライティング面での貢献度が大きそうなミュージシャンをもう何組か続けて紹介しよう。まずは、ヒップホップ、R&Bフィールドで活躍し、ソロ・ミュージシャンとしてはもちろん、pH-1、LOCOなど人気ラッパーの楽曲を多数手掛け、プロデューサーとしても絶大な支持を得ているMokyo(モキョ)だ。彼は暗く叙情的なムードのトラック(Mokyoの「uleum」やBeenzinoに提供した「Camp」を聴いてほしい)から、pH-1やLocoのようなシンギング・ラッパーにフィットした聞き心地のよいヒップホップ・トラックまで、器用に幅広く作曲している。そんなMokyoは本作で5曲に作曲、編曲などで参加しているが、本稿執筆時点で彼が作曲した部分が明確に明かされているのが、RMのリズミカルにスピットするラップとの相性が抜群な「Groin」のトラックだ。多数の楽曲に参加しているだけに、様々な貢献度が見つけられそうなMokyoだが、今までのRMの作品とも異なるオルタナティブな作風の本作の中で、彼のそもそものアイデンティティである 「ラップ・モンスター」を引き出したことは、重要そうだ。
Kim Hanjoo (Silica Gel)
そして、先述の「Groin」でシンセサイザーと、Mokyoのビートの上でのベースのリフレイン演奏をしているのが、5月には4,000人規模のアリーナを3日間即完させ、今年の韓国大衆音楽賞では「今年のミュージシャン」賞を受賞するなど、今韓国の音楽シーンで最もホットなバンド、Silica Gelでボーカル、ギター、鍵盤を担当するキム・ハンジュだ。彼は最近ではSilica Gelでの活動以外にもKim Doeonとコラボした電子音楽のライブ活動や、ボーカルとしての他ミュージシャンへの客演参加など幅広い活動を行っている。「Groin」のシンプルなベースライン自体はSilica Gelの楽曲も想起させるが、彼らの音楽性からは想像もつかないヒップホップ・ビートとの組合せは、まさにこのアルバムならではだ。
また彼は「自分の声は楽器の一つ」というモットーの持ち主で、シリカゲルでも他のミュージシャンへの客演参加時でも、自らの声をロボ声に変調させながら歌うことが多い「声」への探求心が強いミュージシャンだ。キム・ハンジュが本作で作曲、楽器の演奏だけでなく、バックボーカルでも複数の楽曲に参加していることを見ると、RMはそうしたキム・ハンジュの「声」の表現方法にも興味を持っていたのではないかと想像したくなる。彼が所属するSilica Gelは本作収録の「LOST!」を彼ららしくサイケデリックにカバーした動画を公開しているが、キム・ハンジュのボーカル・アレンジにも注目してほしい。
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Jclef, gim jonny
さらにもう一人、本作での「声」での貢献という意味で欠かせないのがオルタナティブR&Bミュージシャン、Jclef(ジェイクレフ)だ。本作のタイトル曲「LOST!」ではイントロから聞こえてくるJclefのか弱く、柔らかい発声のボーカルが、バックボーカルと呼ぶには惜しいくらいの存在感を放っているし、RMのリズミカルに強く吐かれる声とのギャップも魅力になっている。また「LOST!」はJclef以外にも、キム・ハンジュ、Nancy Boy、Marldn、Unsinkable、Qim Isleと多くのミュージシャンがバックボーカルとして、多層的な歌声を作っており、ボーカル面の実験性が一番色濃い一曲だ。
またJclefの昨年発表したEP 『O, Pruned!』を共作したプロデューサー、gim jonnyも本作に参加している。 『O, Pruned!』は全曲Jclefのボーカルとgim jonnyの繊細なギターのみで作られたミニマムな作品で、特に2人の制作中に育まれた友情を歌った温かなバラード「jonnys sofa」が素晴らしかったが、gim jonnyが作曲とギター演奏などで関わった 「Around the world in a day with Moses Sumney」は 『O, Pruned!』のアプローチの延長にあるような一曲とも言えそうだ。
実り豊かな交友関係が意味するもの
Lee Taehoon (Cadejo)
本作『Right Place, Wrong Person』が贅沢なのは、ソングライターやプロデューサー、ボーカルだけでなく、楽器を演奏するプレイヤーも、韓国アンダーグラウンド・シーンから実力者を招集していることだ。ここからは印象的な3人を紹介しよう。まずは3月にも来日公演を行った3人組ジャム・バンド、Cadejoのギタリスト、イ・テフンだ。2曲目の「Nuts」ではRMの「I could make this right place for you~」というラップとシンクロするファンキーなベースラインと鋭いギター・ソロを、さらに「Domodachi」でもリズムの揺らぎに応じた同楽器の演奏を披露しているが、それらはまさにブルースやファンク、ソウルを通過した彼の普段のプレイに通ずるものがある。
Kim Oki
今年3月にピアノ、ベースとの3人編成、Kim Oki Saturn Balladで日本ツアーを行ったことも記憶に新しいサックス奏者、キム・オキ。彼はロック・バンドからR&Bシンガー、エレクトロニカまで境界を設けずにコラボレーションをしており、他ジャンルのサウンドの中でも埋もれない力強い演奏で、ジャズ・シーンよりもむしろインディ・ミュージックのシーンでアイコン的な存在だ。本作収録の「out of love」で彼のサックスは普段よりは脇役に徹しているものの、この曲の持つ不穏なムードを見事に演出している。
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Park Ki Hun
最後に紹介するのは、自身の名義でのソロ活動のほか、セッション・プレイヤーとしてもジャンルを超えてラブコールを受けるサックス、クラリネット、フルートなど木管楽器の演奏者、パク・ギフンだ。彼の豊かなコラボ履歴の中でも共通しているのは、どんな位置に彼の楽器が配置されていても、木管楽器にしか出せないトーンを用いて、歌を華やかに、カラフルに引き立てていること。『Right Place, Wrong Person』収録の「Domodachi」でパク・ギフンはイントロから鳴り響くサックス演奏を担っており、複雑で忙しないリズムとは対になるような、ゆったりとしたメロディが印象的だ。彼の参加楽曲については、筆者が作成した下掲のプレイリストも参考にしてほしい。
ここまで紹介したのは、本作に参加した韓国のオルタナティブ・ミュージシャンのうちのほんの一部に過ぎない。他のコラボレーターたちについても詳しく知りたい方は是非、各ストリーム・サービスでクレジット欄を確認してほしい。
さて、ここまで紹介してきたミュージシャンたちは、皆いろいろなジャンルから影響を受けながら独自のサウンドやボーカル・スタイルを生み出したり、ジャンルを超えて活動していたり、特定のジャンルを基盤にしつつもその中で主流なスタイルとは異なる表現をする「オルタナティブな」ミュージシャンたちであることが共通している。言い換えるなら彼ら・彼女ら自らのユニークな個性や、ジャンルへの固定観念を破る作品を通して、韓国の音楽シーンで多様性を広げてきたミュージシャンたちだ。RMは彼らのそういう表現やスピリットをリスペクトしてきたのだろうし、そのスタイルや才能をアルバムという一つのアジェンダのために調整してもらい共作するよりも、キャラクターをそのまま生かし反映する「チームプレイ」という方式で作品を完成させた。そうすることで彼はメインストリーム音楽とは異なる「新鮮」で、たくさんのバラバラな個性が花開く「カラフルな」アルバムを作りたかったのではないだろうか。そして、たくさんのミュージシャンと共に共作することで起きる新たな化学反応、多様性の拡がりを楽しみたかったのだろうし、彼はそうした自由で柔軟なマインドを持ったアーティストなのだろう。
アルバム・コンセプトと多様性の両立という意味で、本作でのRMのキュレーションは十分に成功といえる。またグローバルなリスナーたちがこのアルバムが韓国国内のオルタナティブ・ミュージシャンたちと共作されたことを知れば、彼ら・彼女らは韓国大衆音楽の多様性を知ることになる。それを韓国大衆音楽のイメージを世界に拡散したK-POPグループのリーダーが行ったことの意義はあまりにも大きい。
一方でこのコラボレーションの背景を考察してみることは、韓国音楽シーンについての重要な示唆を示すことが出来ると思うので、少し話を拡げて語っておきたい。先述の通りRMが韓国のアンダーグラウンド出身のミュージシャン達とアルバム全体を共作したインパクトはすごく大きなものであったが、このコラボレーションの実現自体は、筆者はそこまで驚くべきことではないと思っている。また少なくともそのほとんどは事務所やプロデューサーが主導して外から推進したものというより、RMや彼が初めに関わり出した(San YawnやJnkyrdのような)コラボレーターたちが自らの積極的なミュージシャン同士の交流や人脈を通して実現させたものだと捉えるのが自然だと考える。
というのも音楽産業の拠点がソウルに集中しており、(筆者の個人的な実感だが)日本と比べてフットワークの軽い交友関係を志向する人が多い韓国では、普段からミュージシャン同士の交流がジャンルやシーンを超えて活発だ。筆者も実際「ミュージシャンやレーベルのスタッフなどに付いて溜まり場に行ったりすると、さらにジャンルやシーンも異なるようなイメージだった別のミュージシャンも現場にいた」という経験が何度もあるし、ミュージシャン同士がそうして繋がっていることが「今すぐではなくともいつか実現するかもしれないコラボレーション」の布石になっている。互いへの興味と、その間を繋ぐ人脈さえどこかにさえあれば、どんな相手同士でもコラボレーションが実現する可能性はいくらでもあるのだ。
そして特に、今作に参加したコラボレーターたちは、これまで強調してきた通り「オルタナティブ・ミュージックを志向する」ミュージシャンたちだ。つまり、本作のコラボレーションは、そうしたオープンでゆるやかな交友関係が特徴的だと筆者が感じる韓国の音楽シーンのなかで、韓国のインディー、アンダーグラウンド・ミュージシャンの楽曲をSNSにアップロードするなど、他ジャンルへの関心を普段から見せていたRMと、もともと音楽的にも開かれていて、チャレンジングな志向を持っていたミュージシャンたちの間で起こるべくして起こったものなのだ。
その交流は冒頭でも記したとおり、今では日本を含む東アジアにまで広がっており、国やジャンル、シーンを超えた交流は今日もきっとどこか私たちの知らないところで実現しているのだろうし、その結果物は普段から作品のクレジットをチェックしているとより楽しむことが出来る。『Right Place, Wrong Person』はこうした韓国/東アジア音楽シーンの独自性や魅力を伝え、韓国のオルタナティブ・ミュージシャンたちを知らせるきっかけにもなってくれるアルバムだ。
本稿を執筆している途中の6月2日にも、本作に参加したミュージシャンのうち、キム・ハンジュ、Jclef、Qim Isleが、RMともコラボ歴のあるベテランのインディ・ミュージシャン、eAeon、電子音楽ミュージシャンのKim DoeonやHwiらと結成したクルー、Bat Apt.の初となるアルバム『Vol.0 Bat Apt.』が発表されている。本稿を読んで韓国音楽シーンに興味を持ってくれたあなたの、『Right Place, Wrong Person』を聴いた直後のアルゴリズム再生に現れるかもしれない作品は、思ったよりもすぐ傍らで待っている。
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