WILYWNKAが語る、「逆にフレッシュ」なアルバムに込めた真摯な想い
Rolling Stone Japan / 2024年6月12日 17時30分
ソロ・ラッパーとして、また変態紳士クラブの一員としてポップ・フィールドからコアなヒップホップ・シーンまで多方面でその才能を発揮してきたWILYWNKAが、待望の4thソロ・アルバムを完成させた。
「90's Baby」と名付けられた今作は、90年代生まれであるWILYWNKAの音楽的バックグラウンドや彼のラッパー観を存分に感じることが出来るアルバムだ。彼がこれまで作り上げてきた音楽全てに共通する、好奇心旺盛でやりたいことは全てやろうとする良い意味での「キッズ感」は、自身のルーツである90年代〜00年代のヒップホップ・サウンドの大胆且なオマージュの数々にも現れているだろう。また、歯に衣着せない「毒」を感じさせるリリックの数々や、葛藤や内面を素直に吐露した楽曲なども彼がキャリアを通して表現してきたことであり、10代の頃から変わらないスタンスだ。
だが、その基本的スタンスに変化はないかもしれないが、今作ではそれをより自然体でアウトプットすることに成功していて、そういう意味では彼のアーティストとしての成長も感じさせるという、無邪気さと成熟が共存しているのが興味深い。そんな、WILYWNKA自身も手応えを感じているという『90s Baby』の制作背景を訊いた。
ー前作『COUNTER』のリリースから2年近く経ちますが、この2年間を振り返るとどんな期間でしたか?
WILYWNKA:2ndアルバムの『PAUSE』制作後から『COUNTER』の間に自分の中の意思や気持ち的な部分がしっかりし始めて、「もっとこうありたい」とか「こういうラッパーになりたい」というイメージが出来てきたんです。で、それを『COUNTER』で表現しようと思ったけど、一回思ってやってみてもすぐにはモノにならなくて。でも、あのときはあのときでアルバム・タイトル通りのマインドやって、それはそれで自分にとっては大事な時間だった。そこから2年経ちましたけど、今作に関しては自信作で最高傑作やな、と思えるモノが出来た。だから、この2年間は大したリリースはなかったけど充実した時間だったと思ってます。ラップするのが窮屈やった時期もあったんです。「昔みたいに何も考えないでラップできてた頃のほうが良かったな」みたいに思ってしまったことがあって。それこそ変態紳士クラブとかメジャーな活動をしていく内に(仕事として)こなしてる自分もいたと思うし。でも、そうじゃないじゃないですか? 仕事なんですけど、極力仕事とは言いたくない。「仕事遊び」みたいな。やりたいことやのにやらされてる、みたいになるのはサブいと思ってて。そういう意味では、今回はホンマやりたいことをめっちゃ楽しくやれた。去年の6月ぐらいに先行シングルの「Excuse Me」が出来たとき、「あ、何か分かったかも」みたいな気持ちになりました。ラップのノリも、トラックの音楽的な部分も自分のリリックも。あのリリックに関してはスゲェ俺っぽいというか、昔からあんなこと言ってるヤツなんですけど(笑)、アレを自然体でやったっす。「Excuse Me」が出来た時点では今作の収録曲のほとんどが出来てたわけではないけど、アレが出来た瞬間「あ、アルバムもう作れるな」という手応えを感じた。1stアルバムの頃まではそれが余裕で出来てたんですよ。
ーキャリアを重ねていく上で増えてきた責任感のようなものが影響している?
WILYWNKA:自分が楽しく好きなトラックにラップするだけっていう、ホンマ単純なことでしかなかったんですけど。やっぱり大阪の片隅の、なんてことないクソガキが音楽を始めて、東京のレーベルと契約してワンマン・ライブまでするようになって、自分のライブに来てくれるお客さんがいるということを認識し始めたら、良くも悪くも気張ってしまっていた部分があった。勝手な責任感なんですけどね。もちろん、バズりたいと思う感覚はないわけじゃないけど、バズのために音楽はやっていない。自分にはやりたいことや言いたいことがあってラップを始めたはずなのに、大人になってお金を持ち始めて、もっとお金欲しいってなって……もちろんお金は欲しいですけど、「お金が欲しくてバズりたいからラップしてる」ってなったらバズに取り憑かれてると言うか……やりたいからやってるだけで今はもっと自分に忠実。意外とシンプル。
『90's Baby』というタイトルの意味
ー同名曲も収録されていますが、今作のタイトルを『90's Baby』と名付けた理由は?
WILYWNKA:自分は1997年生まれだから、そのまま「90's Baby」ですよね。で、1997年に生まれた自分が中学1年生からヒップホップを聴き始めたりラップをするようになって、そこからいろんな縁があってヒップホップの先輩たちと出会った。90年代やったらDJ PREMIER、2000年代初頭やったら50 CENTやDIPSETみたいな音楽を先輩たちに教えてもらって、それが自分のバックボーンであり自分がヒップホップを好きになった部分。だから、リアルタイムで聴いていたわけではないけど、そういう意味では俺が影響を受けてきたヒップホップは90年代から始まってるんです。あと、今の10〜20代は最新のヒップホップを聴いてる人が多いと思うんですよ。トラップとかドリルとか。でも、俺のサウンドを聴いてくれたらそういうスタイルじゃない部分が多いと思うし、曲によって「『90's Baby』はあのドラム使ってるね」とか「『Gorgeous feat. ¥ellow Bucks & Nephew』の元ネタはこれかな?」みたいに連想できるサウンドになってると思う。あくまで俺が影響を受けたヒップホップだけど、俺の音楽を通して今のキッズたちが「こんなヒップホップもあるんや」って知ってくれたら更にヒップホップの幅も広がるかな、ヒップホップの楽しみ方を更に広げてくれるかな、と思ってこのタイトルにしました。
ー初期からWILY君の音楽を追っている人たちからは、WILY君がいわゆるブームバップと呼ばれる90年代ヒップホップ的なサンプリング主体のサウンドが好きというのは広く知られていたと思うんです。今作では更に、「Gorgeous」「Oh Girl feat. guca owl」「Good Motherfxxer」のような楽曲で2000年代前半のUSメインストリーム・ヒップホップのオマージュを大胆に表現していますね。
WILYWNKA:「Good Motherfxxer」は余裕でNEPTUNESサウンドでしょ(笑)。「Gorgeous」とかは、今ちょっと問題になってる某ビッグ・プロデューサー(笑)。
ー正直、ここまで大胆なアプローチで来るとは思っていなかったし、故にフレッシュにも聴こえます。
WILYWNKA:「逆にフレッシュ」というのはホンマ俺も思ってることです。この部分は『COUNTER』との大きな違いになったかもしれないですね。90'sサウンドもめっちゃ好きですけど、結局俺が一番グッときたのは2000年代初頭のヒップホップなんです。今でも「一番好きな曲は?」って聞かれたら50 CENTの「21 Questions」一択。あの曲を初めた聴いたとき「何コレ!?」ってなりましたね。NATE DOGGの歌も50のラップも好きだけど、あの一個のリフをワンループでずっと流して、あとはベースとドラムしかないという、あのシンプルさはヒップホップにしかないと思うし、多分そこに食らったんやと思います。そこからNEPTUNESプロデュースの曲を聴いて、N.O.R.E.の「Nuthin'」とか……あの曲もトップ5に入るなー。あのへんのムードを日本でやりたい!って。
ー2000年代前半のサウンドを今作に取り入れるというアイディアはWILY君発のものだった?
WILYWNKA:「Excuse Me」「Gorgeous」「Good Motherfxxer」なんかはモロ2000年代初頭感あると思うんですけど、それは自分がプロデューサーのTAKA PERRYさんやDJ UPPERCUTさんに「こういうのをやりたい」ってレファレンスを出したり話し合って作りました。今作は自分からイメージを伝えてトラックを作ってもらったものが多いと思うし、これまでのアルバムよりもそれは多いと思います。自分が今作に納得できたのは、そういう部分も影響してるかもしれないですね。
TAKA PERRYとDJ UPPERCUTの存在
ー今、名前が挙がったTAKA PERRYとDJ UPPERCUTの2人は今作の半分以上のトラックを手掛けているので、今作のキーマンと呼んでもいいですよね。
WILYWNKA:TAKA PERRYさんは日系オーストラリア人で、何でも楽器弾ける感じの人。自分でギターを弾いてからドラムをパッドで打ち込んでトラック作る、みたいな。「Gorgeous」や「Excuse Me」あたりが分かりやすいんですけど、今作のキャッチーでポップなサウンドを作ったのはTAKAさんです。UPPERCUTさんは、ポップな部分だけではなく、そこに「深み」を与えてくれました。UPPERCUTさんは、彼がプロデュースしてる$MOKE OGっていうイカした東京のラッパーの曲を聴いたりしてて。映像監督のSPIKEY JOHNと同じ事務所に所属してるから、その流れで紹介してもらいました。前作収録曲の「That's Me」や「Listen feat. KID PENSEUR & STICKY BUDZ」も彼のプロデュースですね。TAKAさんが「横軸」を伸ばしてくれたとするなら、UPPEERCUTさんが「縦軸」を伸ばしてくれた。この人たちとは一緒にスタジオに入ってああだこうだ言い合いながら作れたというのもあるし。本当、今作はこの2人がいなかったら成し得なかったし、キーマンです。
ーDJ UPPERCUTは森山直太朗の「さくら(独唱)」をサンプリングした「SAKURA」も手掛けていますね。
WILYWNKA:日頃、USの音楽もよく聴いていて、昔のポップスのヒット曲をサンプリングしたヒップホップも多いじゃないですか。純粋にそれがカッコ良いと思ってたし「俺もやりたい!」って。でも、それで俺らがUSの有名ドコロの曲をサンプリングして作るのはちょっと違うな、と思ったんです。それやったら日本人アーティストのめっちゃ名曲なポップスで作ろうとDJ UPPERCUTさんと話して。そこで、自分の1stアルバムのタイトルが「SACULA」で一緒というのもあったから、多分出て来たのが森山さんの曲やったんです。サンプリングの許可を出してくれた森山さん、SETSUNA INTERNATIONAL、UNIVERSAL MUSICにはホンマ感謝です。
ーフィーチャリングもベテランから若手まで幅広いラインナップで豪華です。「I am」ではWILY君もシーズン1で出演した「ラップスタア誕生!」の主宰者でもあるRYUZOを起用していて、驚きました。しかも、アルバムのイントロの前の1曲目にこの曲を配置しているので、WILY君もこの曲には思い入れがありそうですね。
WILYWNKA:それこそ今のレーベル(1%)に入ったキッカケはRYUZOさんから電話をもらって、そこからレーベルを紹介してもらったからなんです。RYUZOさんは関西ドープ・ミュージックの系譜の直系の方やし、俺もその系譜の下にいる。俺は「孫」ぐらいな感じです(笑)。だから、ここはビッグOGに「ここはお願いします!」と。「WILY、(レコーディングをするのが)、7年振りやで!」って言ってましたけど、ラップし始めたら俺の知ってるRYUZOやった(笑)。「リアルなフリした偽モン無理」とか「イカれてるヤツが好き」とか、RYUZOさんっぽくてあの人が言うから腑に落ちるワードがスゲェあるし、あの人のヒップホップへの愛もすごい感じた。自分のアルバムで7年振りのRYUZOさんのヴァースをみんなに聴かされるというのは光栄なことですね。
ー「Gorgeous」で参加している¥ellow Bucksは初共演となりますが、彼も2000年代前半のBAD BOY RECORDSサウンドを彷彿とさせるキラキラしたビートと相性が良いですね。
WILYWNKA:今までは自分の友達ばかりフィーチャリングに呼んでて、そういうイメージもあったと思いますし、あまり他所の人とやろうと思ったことがなかったんです。でも、今回Bucksを誘うことが出来たのは自分の中での良い成長やったと思います。純粋に、このアルバムはたくさんの人に聴いてもらいたいし、その中で俺が頭でっかちになってる場合じゃないな、って。そういう自分の尖ってた部分が自分を形成してたし、悪いところでもないと思うけど、それによって自分が思い描いてる風にならなかったり損してきた部分もあると思う。もっと素直になったらいいのにな、って。そこで今回Bucksに頼ませてもらったんですけど、ホンマに気持ち良い人で快くやってくれました。このトラックが出来て自分のヴァースを入れた後に「これは¥B絶対好きやろ!」と思いましたね。この曲が出来てアルバムが更にパワーアップしたと思います。
ー「Oh Girl」で客演しているguca owlは、既に彼名義の楽曲でもWILY君が参加しているし、近年メキメキと頭角を現している、WILY君が推している大阪シーンの若手ですね。
WILYWNKA:俺が推しているなんておこがましいですよ。彼は彼で突き進んでるから、俺は彼をフックアップしてるという意識はまったくないです。いちラッパーとして彼はカマしてるし、そんな彼にフィーチャリングで歌ってもらいたいと思っただけです。大阪に溜まり場となっているスタジオがあって、パッと行ったら誰かがYouTubeで動画を流してたりして、そこから関連動画で日本語ラップの曲が流れたりするじゃないですか。そこでようguca owlの曲が流れてくるんですよね。「High Wall」とかがメッチャ流れてきてカッコええな、って普通に思って、彼のライヴがghost(大阪のクラブ)であるというのを聞きつけて勝手に観に行ったのが最初に会ったときですね。前作で参加してくれたKID PENSEURもguca owlと同じ東大阪ですし、俺と同じ南大阪のSTICKY BUD$もいますし、今の大阪はホットですよ。
俺は「こうだから俺は悩んでるんだ」と理解して向き合った上で次に行きたい
ー客演陣の大部分が参加したアルバム前半では派手さやワヤ感が強く出ている一方、後半では孤独感や仲間の存在の大事さなど、エモーショナルな曲が多く、感情的な振れ幅も大きいアルバムだと感じました。
WILYWNKA:後半の「I Mean」以降の楽曲はそう(エモーショナルな楽曲)ですよね。で、最後の「RICHMAN feat. VIGORMAN」でまた最初に戻るというか。後半の楽曲は、普通に自分がふとしたときに思ったことですね。俺の中にもただアッパーなだけじゃなくてちゃんと情緒が存在している(笑)。別に病んだりはしてないですけど、病むことが悪いとも思わない。でも、病んでる部分に溺れたくはないんですよね。たまにいるじゃないですか、「まったく悩まない」ってタイプの人。そういう人を羨ましく思う一方、かわいそうにも思えてくるんです。そういう人たちのタフさに憧れもしますけど、俺は悩みたいですね。不満に思ってることや寂しくなるときもあるから、そのときに「何でなんやろ?」って考えます。もちろん、答えが見つからないこともザラにありますけど、俺は「こうだから俺は悩んでるんだ」と理解して向き合った上で次に行きたい。
ー「90's Baby」で現時点での最高傑作を作り上げた手応えがあるとのことですが、ここから先はどんな景色を思い描いていますか?
WILYWNKA:相変わらず好きなことをやり続けていくという意味では単純作業ではあるんですけど、純粋にライブをキッチリやっていきたいな、って。これからZEPPツアーがあるんですけど、アルバムを出してツアーをやるところまでが自分のやれることというかやりたいことですし、そのステージをデカくしていきたい、というのは目標としてあります。ソロで武道館のようなデカいステージでライブが出来るようなラッパーでありたい。未来は読めないしどうなるかは分からないけど、何でか知らんけど中学生の頃から湧き出てるこの根拠のない自信はまだ消えてないみたいですね。『ONE PIECE』みたいに、何があるか分からないけどワクワクするから取り敢えず向かってる。ワクワクすることをやっていきたいから、これから俺のアルバムを聴いたりライブを観に来てくれる、「あの頃」の俺みたいなヘッズたちをもっとワクワクさせられるようなモノを作っていきます。
『90's Baby』
WILYWNKA
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発売中
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