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全米大ブレイクのトミー・リッチマン、ファレル&ティンバランドから受け継ぐ越境性とは?

Rolling Stone Japan / 2024年6月18日 17時30分

トミー・リッチマン

トミー・リッチマン(Tommy Richman)の「MILLION DOLLAR BABY」は、この夏を代表する一曲だ。トラップを通過したエレクトロファンクのようなサウンドや多重録音コーラスが印象的なこの曲は、4月26日にリリースされBillboard Hot 100に2位で初登場。それまでチャート入りしたことのなかったアーティストとしては鮮烈な大ヒットとなった。

勢いに乗るトミー・リッチマンは、先日新たなシングル「DEVIL IS A LIE」をリリース。ファルセットを多用したヴォーカルやファンクの要素は「MILLION DOLLAR BABY」と同様だが、トラップ的な要素はなくまた異なる一面を覗かせていた。これは現行メインストリームど真ん中の音というよりは、2000年代にザ・ネプチューンズが取り組んでいたようなスタイルと近いものだ。





ノー・ジャンルなスタンスの中でファンクやR&Bを一つの軸に

「MILLION DOLLAR BABY」で突如大ブレイクを掴んだトミー・リッチマンだが、そのキャリアは急に始まったものではない。初リリースは2016年のシングル「Ballin Stalin」で、その後も精力的にシングルを発表。2022年にはEP『Paycheck』とアルバム『ALLIGATOR』、2023年にはEP「THE RUSH」をリリースしている。また、2023年にはR&Bシンガーのブレント・ファイヤズが立ち上げたレーベルのISOスプレマシーと契約しており、ブレント・ファイヤズのアルバム『Larger Than Life』収録の「Upsest」に客演も行っている。初リリースから数えればキャリア8年、積み上げてきたものがあるアーティストなのである。

「MILLION DOLLAR BABY」と最新シングル「DEVIL IS A LIE」はファンキーな路線だったが、これまでの作品で聴かせてきたスタイルはそれだけではない。初リリースの「Ballin Stalin」は暖かいホーンとタイトなドラムを使ったブーンバップだったし、曲によってはパンクなどの要素もある。ヴォーカル面でもR&Bシンガー的な歌い方だけではなく、ラップやロック文脈のシャウトも聴かせる多才なアーティストだ。こういったノー・ジャンルなスタンスは今の時代珍しいものではないが、そんな中で「MILLION DOLLAR BABY」で聴かせたようなファンクやR&Bの要素を一つの軸としているのがトミー・リッチマンの個性と言えるだろう。





SoundCloudラップのシーンとヴァージニアの地域性

トラップ、ブーンバップ、R&B、パンク……トミー・リッチマンが挑んできたスタイルを並べてみると、いわゆる「SoundCloudラップ」と呼ばれているシーンで人気を集めるスタイルとある程度重なっていることに気付く。例えばSoundCloudラップを代表するラッパーの一人のXXXテンタシオンは、トラップの「Look At Me!」やブーンバップの「Riot」のような曲に挑みつつ、トラヴィス・バーカーとの共作もたびたび行っていた。歌とラップ、シャウトを自在に使うヴォーカルスタイルもトミー・リッチマンと共通するものだ。また、トミー・リッチマンの現時点での唯一のアルバム『ALLIGATOR0』収録の「NET WURTH」では、トリッピー・レッド「Miss the Rage」に代表されるSoundCloudラップ発のサブジャンル「レイジ」的なシンセを導入している。2000年生まれのトミー・リッチマンはソーフェイゴやイートといった現行SoundCloudラップシーンの中心人物たちと同世代であり、そのシーンからの影響も大いにあるのではないだろうか。「MILLION DOLLAR BABY」には、ケン・カーソンやリル・テッカなどを手掛けるプロデューサーのカヴィの名前もクレジットされており、人脈的にも共通している。



しかし、トミー・リッチマンの音楽はこういったSoundCloudラップ的な要素だけではなく、先述した通りR&Bやファンクの要素がキーとなっている。そのルーツを考えるのに重要なのが、トミー・リッチマンの出身地のヴァージニアのシーンだ。

ヴァージニアは、トミー・リッチマンと同じく「R&Bやファンクを軸にジャンルを横断する」スタイルの先駆者を多く輩出していた。例えばファレル・ウィリアムスは、ヒップホップやR&B作品をプロデュースしながらN.E.R.D.でロック的な路線にも挑んでいた人物だ。こういったクロスオーバー志向を持ちつつも、自身の作品では代表曲「Happy」などR&B寄りのスタイルが軸となっており、ダフト・パンクに客演した「Get Lucky」のようなファンクのヒット曲も持っている。ラップと歌を両方こなしファルセットを巧みに使うボーカルスタイルもトミー・リッチマンと共通するもので、実際にトミー・リッチマンはリリカル・レモネードなどのインタビューでたびたびその名前を出している。その大きな影響源の一つであることは間違いないだろう。



DMVの連帯を主導してきたブレント・ファイヤズ

リリカル・レモネードのインタビューでは、ファレル・ウィリアムスと並んでティンバランドの名前も挙げている。ティンバランドもアリーヤやジャスティン・ティンバーレイクの作品でR&B~ファンク名曲を多く生み出し、マグーと共にラップアルバムを出し、自身のソロ作ではワンリパブリックやフォール・アウト・ボーイと共にロック的なノリにも挑んでいた。「MILLION DOLLAR BABY」では「VA next(次はVA=ヴァージニアだ)」というラインが登場する。トミー・リッチマンの音楽はSoundCloudラップ世代らしい越境性を纏いつつも、地元のヴァージニアを背負っているのだ。



ヒップホップ/R&Bの分野において、ヴァージニアは地域として注目を集めたことはこれまでなかった地だ。しかし、先述したファレル・ウィリアムスやティンバランドのほか、トレイ・ソングスやミッシー・エリオットなどスーパースターはこれまでにも何人か生まれている。トミー・リッチマンはリリカル・レモネードのインタビューで、「ヴァージニアの音楽シーンについて思うことは、才能のある人たちはいっぱいいるんだけど、多くの人たちが門戸を閉ざしているように感じるということ。分断されていて、まとまっていないように感じる」と話している。

また、ヴァージニア(V)は、隣接する州のワシントンDC(D)とメリーランド(M)と合わせて「DMVエリア」と呼ばれている。それを踏まえると、メリーランド出身のブレント・ファイヤズがトミー・リッチマンをフックアップしたことはその大きな一歩だ。そして、振り返ってみるとブレント・ファイヤズは、これまで自身の作品にザ・ネプチューンズやティンバランド、ミッシー・エリオットとDMVの先人たちを迎えてきた。キャリアの転換点となったのもDC出身のゴールドリンクのシングル「Crew」への客演であり、DMVの連帯感を高めるような動きをずっと取ってきていた。だからこそ、DMVらしい音楽に取り組むトミー・リッチマンと契約したのだろう。

トミー・リッチマンが「MILLION DOLLAR BABY」でのブレイク後にリリースした注目のシングル「DEVIL IS A LIE」は、先述した通りザ・ネプチューンズ風のサウンドだ。本人の地元に関する発言やブレント・ファイヤズの動きを思うと、この路線はDMVの系譜への自覚から生まれたものだろう。彼らの成功がDMVのシーンを切り開くことに繋がるのか、トミー・リッチマン本人の今後と共に要注目だ。





トミー・リッチマン
「DEVIL IS A LIE」
ISO Supremacy / PULSE Recordings
配信リンク:https://tommyrichman.ffm.to/DEVILISALIE


トミー・リッチマン
「MILLION DOLLAR BABY」
ISO Supremacy / PULSE Recordings
配信リンク:https://tommyrichman.ffm.to/milliondollarbaby

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