清春とBorisの共闘、インディペンデントの精神、誇り高く生きる「美学」を語る
Rolling Stone Japan / 2024年7月9日 12時0分
2024年3月初旬、Borisと清春は約1週間にわたるオーストラリア2マンツアー「Boris ”Heavy Rock Breakfast” -extra- AUS Tour March 2024 Special Act 清春」を行った。清春とBorisのフロントマンAtsuoが7年前に出会ったことをきっかけに、Atsuoの誘いで実現したこのツアー。清春にとって初のオーストラリア公演であり、初の海外ツアーだった。
11月末には、日本での2マンツアー「HEAVY ROCK BREAKFAST JAPAN TOUR 2024」を控える2人に、オーストラリアでの10日間を振り返りながら、そこで感じた想いを語ってもらった。
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―そもそもの出会いから聞かせてもらえますか?
清春:知り合ったのはMORRIEさんがきっかけです。DEAD ENDのトリビュートアルバム(『DEAD END Tribute - SONG OF LUNATICS -』)にBorisが参加するのを知って、MORRIEさんに聞いたら日本人で海外を中心に活動しているバンドだって教えてくれたんです。トリビュートに収められているBorisが演奏した「冥合」を聴いて、最初すごく違和感があったんですよ。日本語の曲なのに英語のようにも聞こえて、僕が子供の頃から崇拝しているバンドの曲なのに、なんだこれは?と。写真を見たら見た目も怪しかったし(笑)。初めて会ったのは(目黒)鹿鳴館ですか?
Atsuo:2017年に鹿鳴館でやったMORRIEさんとBAKIさん(元GASTUNK)のライブ(2017年6月25日「BAKI vs MORRIE "In Gods' Garden”」)でしたね。
清春:そこでAtsuo君を見つけて、思い切って声をかけたんです。
Atsuo:その時、『Dear』っていうアルバムのサンプルをお渡しました。
清春:そのCDのジャケットがすごくかっこよくて、このデザイナーさんと仕事をしたいって話したんだよね。デザイナーの河村康輔君に連絡を取って『夜、カルメンの詩集』のジャケットのアートワークをやってもらいました。
Atsuo:僕は黒夢もSADSも、知ってはいましたが曲を聴いたことがなかったんですけど、『夜、カルメンの詩集』にめちゃくちゃハマっていろいろ聴くようになりました。MORRIEさんを介して知り合っているので、これまで聴いてきたルーツ的な部分も共通しているし、それから何度かお会いするなかで距離が縮まっていった感じです。
―そうした交流を経て、今年初めてツアーが実現したんですね。
Atsuo:出会って7年ですね。
清春:その間、コロナもあったからね。
Atsuo:今回のツアーはこちら側が発端ですが、お互い音楽活動に対してとても慎重ですから、すぐに一緒にライブをやろうって感じにはならなかったんですよ。何があり得るのかなってずっと模索してきて、声をかけることができたのが今回のツアーでした。日本で一緒にやると、どうしても清春さんに甘える状況になってしまうので、まずは海外でやったらいいんじゃないかと思って。
―それがオーストラリアだったのは何か意図があったんですか?
Atsuo:実はオーストラリアでツアーをまわるのってすごく大変なんです。毎日飛行機移動だから。でも、サイズ的には大都市6、7本で完結できるから期間は短くて済むんですよ。全米ツアーやるとしたら30本以上はやらないといけないし、VISAの問題もある。ヨーロッパもやはり6週間は回るので。海外ツアーを組む時は現地のサポートを付けて、できるだけ長期間回る方が効率がいいので、スタッフも長くやりたがるんです。
―清春さんは周年イヤーの最中ですし、そんなに長い時間日本を離れられないですからね。
Atsuo:だからそう考えると、オーストラリアが現実的だなと思って、10日の中で週末に大きい都市を回るように組んで、Borisがフェスに出る時に休憩入れてもらって……とか考えて。ブッキング当初に、連日はちょっと厳しいっていうリクエストがあったので。
清春:若い時ならいいんだけどね。今回は1公演1時間だったから、やろうと思えばできたけど。
清春「Boris ”Heavy Rock Breakfast” -extra- AUS Tour March 2024 Special Act 清春」にて
清春がBorisと一緒にやりたかった理由
―清春さんもBorisといつか一緒にやりたいと思っていたと思うんですが、いきなり海外で、しかもオーストラリアっていうのはどうでした?
清春:僕はもともと自分の曲のバッキングトラックをBorisが演奏したらどうなるのかな、って考えていたんです。それをパッケージしたいなとか、Borisというすごい才能と一緒に何ができるんだろうっていうことをエディット感覚で考えてた感じですね。Borisってラウド、メタル、ハードロック、パンクともハードコアとも違う。ジャンルとして形容しがたいじゃないですか。
Atsuo:そういう意味では、清春さんの音楽も、どんどん形容しがたい方向にいっているので、すごくタイミングがよかったと思います。僕は、コロナ禍に入ってから、MORRIEさんと清春さんのライブを一番たくさん観ているんですよ。ツアー中のLAでも清春さんの配信ライブを観ていたくらい(笑)。
清春:優しいのよ。
Atsuo:ウォッチャーです(笑)。清春さんのライブって、実際に観ると本当にすごいんですよ。何が起こるかわからない。だから、自分たちが受け継いでいるこの隠された日本のロックの文脈を、海外の人たちにも知ってほしいという想いもありました。清春さんなら通用すると思ってましたし。本当に唯一無二だから。そういう人しか海外へ出ていけないじゃないですか。
清春:そうじゃないバンドも海外に出ていってる気がするけどなぁ(笑)。っていうのは、そもそもAtsuo君と知り合って、彼のSNSをフォローして見ていて、活動の世界線がぜんぜん違うんだなって思っていたんですよ。今回一緒にツアーに出て、それがよりリアルに感じられました。
―何が、どう違うんですか?
清春:以前からよくAtsuo君と話していたけど、「海外のフェスに出ました」とか「海外で活動してます」って言ってる日本バンドがたくさんいるじゃない。ああいうのって基本、PRだよね(笑)。MORRIEさんは長い間ニューヨークに住んでいるのでBorisの現地でのライブも観に行っていて、「Borisは本当にすごい。現地のお客さんだけで2000~3000入れちゃうから」って聞いていたんです。
―確かに、海外でライブをやっても結局日本人が行ってるという話はよく聞きますよね。
清春:それに、フェスだとかライブだとか言っても、ほとんどがアニメ系の影響だもんね。
―現地のアニメエキスポ的なものに、アニメの主題歌がヒットしたことで呼ばれて、日本のカルチャーが好きっていう人が集まっているってことですよね。要するに、音楽そのもので勝負していない。
清春:今回ツアーを一緒に回って、Borisがやっているフィールドはリアルロックなんだってわかったんです。Borisこそが唯一無二ですよ。でも、日本の人たちからは不思議な存在だと思われているところがありますよね。日本の人たちからするとBorisはどこのジャンルにも入ってない。もっといえば、シーンの中に入っていない。たぶん、どこに出ても浮くんですよ。だけど、本人たちが別にそこに入ることも、入らないことも望んでない。Atsuo君は日本のフェスに対しての感覚もぜんぜん違うんですよ。前に話していたんだけど、日本だと、例えばフジロックに出ることが評価になってたりするじゃないですか。
―出たことで、本物の仲間入りみたいな?
Atsuo:日本だとそういったフェスを目指すのがアーティストとしての一番正しい姿みたいなところがありませんか? 評価のされ方がそれしかないんだと思うんですけど、そこに出られたらアーティストとして評価されたっていう免罪符みたいになってる気がして。アーティストとして評価を受ける道筋がとても限定されている。
清春:それは何十年も海外でツアーをして、フェスに出て、自然と身についた本場の感覚なんでしょうね。日本に来てる外タレにしても、日本のディストリビューターが呼んでいるから、日本ではまだまだ知られていないアーティストがたくさんいるけど紹介されるのは同じような外タレ。オーストラリアのツアー中にBorisが出演するフェスに1曲出させてもらったんですけど、出演しているバンドを僕は1組くらいしか知らなかったんです。でも、ちゃんとそのフェスはソールドアウトになってる。
Atsuo:Golden Plains Music Festivalっていうオーストラリアの3大フェスの一つに出演したんですが、現地ではすごく知られているけど、日本では知られていないバンドがたくさん出ている。日本で紹介されていない、リアルにすごいバンドが世界にはたくさんいるので。
清春:それくらい僕らの知ってる音楽って少ないんですよ。
―あるフィルターを通ったものしか知らないってことですよね。今はサブスクなどで自分からその情報を取りにいくこともできるにはできるけど……。
清春:結局日本のロックシーンと言われているものは選択肢が少ない。海外ではBorisはメタルヘッズたちにも共感されているし、それ以外のいろんなジャンルが好きな人たちも観に来てる。
―要するに、先ほども言っていた、日本のカルチャー好きとかじゃなく、しっかり音楽で評価されているってことですよね。
清春:日本自体が好きでライブに来た人は、そんなにいなかったと思う。それが僕の印象ですね。実は日本ではロックシーンがまだぜんぜん始まってない。
―始まってない、ですか?
清春:まだまだ「芸能」の感覚が強くて、それが邪魔するっていうか。
Atsuo:日本のロックは「カタカナ英語」ではなくて、「日本語英語」という感じです。英語のようで海外では通じない。そういう中でも、清春さんと僕らがシェアできるのはインディペンデントってところなんです。日本の音楽用語のインディーズじゃなくて、インディペンデント。自分で決めて、自分で動いている、自立、独立したアーティスト。清春さんは、ずっと自分の事務所で活動していますが、こんなメジャーな規模の活動を全部自分自身でハンドリングしている。とてつもなく強靭な意志と行動力ですよ。そこが一緒にツアーをやりたいと思った一番の理由です。すごくまっとうに音楽をやっている人だと思いますね。
清春:でかい事務所に入っていたら一緒にやらなかったでしょうね。Borisは、今回の規模のツアーをマネージャーなしでやっているんですよ。日本だとしょうもないバンドでも、必ず会場にマネージャーいるじゃないですか。
Atsuo:そこが根本的に違いますよね。海外ではバンドがマネージャーを雇うんです。僕らもアメリカに1人マネージャーがいます。自分たちで雇って、いろんな窓口をしてもらっていますが、基本的に何をするかチョイスするのは自分たちなので。
Boris「Boris ”Heavy Rock Breakfast” -extra- AUS Tour March 2024 Special Act 清春」にて
オーストラリアツアーでのハプニング
―バンドによると思いますが、特に大手だと事務所が方向性を決め、マネージャーをつけて、その元で活動を行うっていうのが一般的ですもんね。とはいえ、実際、海外のライブはイレギュラーなことが本当に多いと思うので、大変だったんじゃないですか?
Atsuo:いろいろありました。今回、よく清春さん最後までやってもらえたなって思いました(笑)。本当にすみませんでした……。
清春:ぜんぜん。いい経験。そもそもBorisがいなかったら行ってないですから。
―ちなみにどんなハプニングがあったんですか?
清春:日本だったら絶対に起きないことで言うと、機材が届かない(笑)。2回ありましたね。ライブが8時半から始まるのに、7時半になっても届かない。
Atsuo:地方だと機材レンタル会社が一つしかなくて、独占企業だからふんぞり返ってるんですよ。連絡すると「1人ドライバーが吞んじゃってさぁ」って言っていて。
―それで遅れるんですか?
清春:しかも違う機材が来るんです、ギリギリに(苦笑)。もちろん自分たちで楽器は運んでますけど。
Atsuo:機材は一部、エフェクターボードとかギター、ベースとかは運んでいるんですが。
清春:今回、辻(コースケ)君が一緒にツアーをまわっていたんですけど、パーカッションは現地で調達したんですよ。
―なのに遅れる(笑)。
清春:最後のほうはもう慣れて、「辻君、もう今日はなしですね」って(笑)。
―踊ってるだけ、みたいな(笑)。
清春:「今日は見ててください、僕らだけでできますから」って(笑)。
Atsuo:プロンプターの話ってしてもいいですか?
清春:あぁ、いつも歌詞を表示しているプロンプターが爆発したんですよ(笑)。
Atsuo:初日ですよね。Borisはスモークをめちゃくちゃ焚くのですが、僕たちのリハ中にスモークマシーンのコントローラーを押してないのに煙が上がってて、何だろう?って思ったら、プロンプターのモニターが焼けてた(笑)。
清春:僕は目撃していないんですけどね。スタッフが奮闘していました(笑)。それで、初日のライブは忘れたけど、もう1本は勘でやりました。どうせ海外だから歌詞なんて更にわからないし(笑)。
Atsuo:あの動じなさはさすが(笑)。
清春:初日のシドニーでいろいろ慣れましたね。やるまでイメージできてなかったけど、ステージに出て、3、4曲目くらいでこれはかなりの覚悟でやらなきゃいけないなって。来る人のほとんどが、僕のことを知らないBorisのファンでしょう。僕らに対しては、Borisのフレンドで、日本のロックシンガーだって情報だけで、「誰ですか?」って感じだろうから。今の僕の音楽はパーカッションとサックスとギターという編成だから、音楽性もぜんぜん違うし、どうしようかなって思ったけど、やってみて考えようって臨んだんです。実際にやったら、Borisとまったく違うから逆に良かったなって思いましたね。
Atsuo:清春さんのキャリアで、そこにトライできるのがすごいですよね。そもそも、ライブへの取り組み方が、Borisと清春さんは真逆。例えば、僕らは何度もリハーサル入るんです。ツアー先でどんな状況になってもいいように、何も考えなくても演奏できるぐらいまで準備します。僕らは決めたらずっと同じセットをやるけれど、清春さんは毎日セットリストを調整していましたし、その時その時でステージ上でも変えていく。でも、それはお互いのその瞬間に対して反応するためのやり方なんです。アプローチが違うだけで、今を大切にしているという部分では同じですね。今回ツアーをして、そこがすごく面白かったですね。
―確かにアプローチは真逆だけど、そこは近いですよね。清春さんは、そもそもセットリストって、行く前に決めてたんですか?
清春:もちろん初日は決めてました。
―その後は、初日に感じたことを受けて変えていったんですか?
清春:これは通用しない、これは通用するっていうのを会場で感じながら変えましたね。日本とはまったくムードが違うし、毎日違うんですよ。Borisのライブに対しても、街によってめちゃくちゃ盛り上がったり、ただ音を浴びて聴き入っていたり、反応が様々だったから。やっていくなかで、2本目くらいから、僕たちには目的がないことに気づいたんですよ。
―どういうことですか?
清春:自分の出番が終わった後にBorisのステージを観ていると、人生の違いを感じるわけ。Borisは長い期間オーストラリア、US、ヨーロッパと世界を回ってるから、今回もその道のりのひとつじゃないですか。一方、僕らの場合は自分が海外でどれぐらい通用するのか、っていうことでしかない。Borisの場合はそこが主戦場だから、必死さが違うんです。僕はそのライブでウケればいいだけだから、生半可なんですよ。僕らの方が必死かと思いきや、Borisの方が必死なんだってことがわかりましたね。
―Borisはまた同じ場所に帰ってくるわけですからね。
清春:僕は、国内には自分が恐怖を感じるバンドはひとつもないってよく言ってるけど、海外だとそうはいかない。日本だと想像がつくけど、今回観たのはそれとまったく違う世界。
―とんでもないバンドがたくさんいますもんね。
清春:お客さんにしても、いろんなライブに行っていいものを観てきた中からBorisを選んで来てるのがわかるから。お客さんとも闘っているというか、やるかやられるかの世界。骨が折れるんじゃない?ってくらいAtsuoさんがダイブしてケガもしてるし。日本でライブをやる時とは違うAtsuoさんの一面を感じましたね。本腰の入れ方が違うっていうか。誤解を与えるかもしれないけど、Borisの日本でのライブは遊びって感じがするくらい(笑)。
Atsuo:(笑)いやいや
清春:日本は箸休めでやってるような……(笑)。もちろん一生懸命やってるんでしょうけどね。変な話、僕らが仮に変なヴィジュアル系のイベントに出たら本気ではやらないかもしれないけど、ジャンルの関係のないフェスに出たらちょっとがんばるじゃないですか(笑)。そういう差は感じましたし、Borisの本当のすごさを思い知らされました。
清春「Boris ”Heavy Rock Breakfast” -extra- AUS Tour March 2024 Special Act 清春」にて
「僕らは、本当に日本の音楽業界に参入してない感じがする」
―目的や本気度が違うっていうお話がありましたが、Atsuoさんとしてはいかがですか?
Atsuo:そんなところまで感じてもらえて嬉しいです。向こうでヘヴィな音楽をやろうとしたら、まず言葉も、体格も違うし、気持ちだけでも一生懸命やらないと音が届かない。海外のドラマーは体格が大きいから圧倒的に音量がデカいし、生音勝負が当たり前。だから同じステージ上で魅せていくために日本人ではいられないですね。
―バンドのジャンルにもよるけど、シーケンサーもあまり使わないですもんね。ちなみに、リハーサル中にお客さんが入ってきてしまったという話も聞きました。
清春:機材が遅れた日にリハをしていたら、開場前なのにお客さんが入ってきちゃったんですよ。急いで裏に入ったけど。それもいい体験。もはや面白かったです(笑)。
Atsuo:今回のツアーでは、清春さんのセットに僕らが1曲参加して、清春さんにもBorisのセットに1曲参加してもらったんです。こちらのセットでは、Dead Endトリビュートに入れた「冥合」で清春さんに参加してもらいました。連日その曲が始まるセットの中盤くらいでステージに呼び込んでいたんですけど、ある日のライブの時、呼んでもぜんぜん清春さんが出てこなかったんですよ。お客さんにコールをしてもらったりしながら待っていても、まったく出てこない。そしたらツアマネが出てきて、「清春さんが蜂に刺されてしまって動けません……」ってこともありました。
清春:そうなのよ。めっちゃ痛かったわ(苦笑)。
Atsuo:そうこうしてる間に状態が回復して、ステージに上がって歌ってくれたんですけど。ロックスターってやっぱり持ってるんだなって思いました(笑)。絶対に記憶に残るじゃないですか、こんなこと。
清春:スタッフにも持ってますよねって言われたけど、最終的に持ってるのはAtsuo君だったね(笑)。最終日に携帯を失くして大変だったじゃないですか。
Atsuo:そんなこともありました(笑)。でも、新しいことやろうと思ったら絶対にトラブルは起こるんですよ。
―そりゃそうですよね。
Atsuo:お互い自分で決めて、自分で動く。ずっとそういうスタンスでやってきているから、トラブルはしょうがないですよね。
清春:自分とは関係ないところで起きますからね。ま、携帯なくしたのは自分ですけど(笑)。話を戻すと、Atsuo君と知り合っていろいろ話してきたなかで、日本の狭い環境で満足しちゃってる人たちやオーディエンスが国内で不思議な「何々系」ってカテゴライズしていることや、洋楽に根拠のないリスペクトしていることに対して、すごくジレンマを感じていたんです。でも、今回のツアーで、結局同じ人間なんだから洋楽も邦楽もなく、本物かどうかだけなんだってことがわかりましたね。
―なるほど。
清春:僕は本場で何年もツアーをしてるBorisが、日本代表としてフジロックのメインに出ればいいと思うんです。この国の人は、たいしたことない人を特別に扱っていたり、ちゃんとしている人が扱われていなかったり、っていうことが多すぎる。そういう連鎖がずっと続いているからロックが廃れるんだとは思います。今、ロックよりもラップのほうが上に来てるじゃないですか。本物の匂いに気づく人は、ロックに嘘臭さを感じてるんだと思う。別にいいんですけどね。ロックバンドでも、一発アニメソングがヒットしたことで、ちょっと海外でライブをして「海外で人気です」「海外で通用しています」ってプロモーションをしている、本当にしょうもないなって。でも、そういう風にしてこの国の音楽シーンは回ってる。
Atsuo:僕らは嘘偽りなく何度も海外ツアーしてるのでね。自分で考えて、決断して、行動して、特に国内に向けてそれらをPRする必要もない。
清春:だから、真実をやってる人たちと一緒にツアーに回れたっていう感触がありました。別に、デカい事務所が海外施策として向こうのエージェントと繋がって、外タレと組ませてすごく人が入った、でもいいんですけどね。でも、いつの間にかロック畑の人たちやフェスを運営する人たちも、そういうことばかりに終始してる。
―音楽の本質と関係ないところで音楽シーンが動いている感じはします。
清春:結局、今も昔もたくさんいる中で頭一つ出ていい生活をしたいってだけの話だから。僕らみたいな感じだと、どこにも属せない感じがある。そこがBorisとは様子が似てるんですよ。Borisは世界で活動してるけど、リアルにサバイブしてる。
Atsuo:日本で、音楽で食べて行こうと思うと、どうしても歪にならざるを得ないところがありますよね。アメリカだと大都市て1000人から2000人規模の会場を埋めるくらいでツアーに回ればそれで食えたりするんですよ。日本だとリキッドルームを埋めたからって食えないじゃないですか。地盤がぜんぜん違うんです。
―確かに。その地盤の違いからバンドの活動も違ってくる。
Atsuo:どうしても国内ではバンドごっこが目につきますね。
清春:最近のダイブやらモッシュやらの問題も然りね。
Atsuo:確かに、全部真似ごとですね。大人になっても学園祭ノリが抜けきらないというか。
清春:日本のミュージシャンでも海外に行ったことある人はたくさんいるんだから実際は気づいてるはずです。
Atsuo:僕らは、本当に日本の音楽業界に参入してない感じしますね。
清春:参入してないですよね。さっきも話したけど、ほんとはBorisがフジロックのホワイトステージやグリーンステージに出ててもおかしくないと思うんです。これだけ海外でしかも長い間活躍できているバンドって他にいないんだから。
Atsuo:僕からすれば、この規模感で独自の活動を自分たちの力でできている清春さんのすごさに気づいたほうがいいと思いますけどね。そういうアーティストが国内にもちゃんといるっていうことを。
清春:絶対にみんな事務所に入りますからね。そこで一回戦いが終わってる。日本だと、まぁまぁな人たちの中からカッコいいのを探さなきゃいけない気がするな。まぁまぁの中で「尖ってるふう」な人を探してるみたいな。
―本当に尖っていたら締め出されてしまいそうですもんね。
清春: Borisはちゃんと尖ってるんですよね。さっき日本の音楽業界に参入してないって言ってたけど、参入できないような何かが作られちゃってる。それは、僕が日本で30年間やってきた印象ですね。時代は変わったみたいに言われていますが、ずっとずっと何も変わってない。まず芸能界があって、オリコンだったじゃないですか。簡単に言うと、今はあの時代のオリコンがフェスになっただけの話ですよ。
―評価の軸が、「オリコン何位」から「あのフェスに出た」に変わった。
清春:オリコンでいえば、大阪、名古屋、北海道とか、それぞれの都市のチャートがあるけど、どれも1位は同じ。そりゃ東京発信の人が1位になるよな、っていう感じで。
―事務所の力とか、プロモーション次第だったってことですよね。アメリカでは地方のいい音楽をやっている人がちゃんと評価されているし、地方でも音楽で食えていますよね。そのぶん、淘汰もされているんでしょうけど。
清春:日本は、本当に自由にやってる人たちは除外されていくんだよね。Borisのように海外でちゃんとやってる人たちが目に入らない仕組み。それはよくない。もちろん日本にもBorisを評価している人たちがいるし、熱狂的なファンもいるんです。もっと声を上げてもいいのになって思うけど、たぶんみんな日本を諦めてる。
Boris「Boris ”Heavy Rock Breakfast” -extra- AUS Tour March 2024 Special Act 清春」にて
日本での2マンツアーに向けて
―確かに諦めてる気はします。でも、今回、国内でBoris&清春ツアーをやることで、何かのブレイクスルーになる気配もあると思うんです。それぞれ、ツアーの目的ってあるんですか?
清春:僕は、今回はシンプルに日本でもやりたいねって気持ちですね。今後アメリカにも、ヨーロッパにも行くかもしれないし、オーストラリアの反省点を生かして、違う形態でやるのもいいなと思うし。その日、その都市、その期間だけでもチャレンジをして、それが気持ちいいのであれば、僕の音楽人生においてやる価値はある。日本では、僕のイメージが固まってるけど、海外にはそんなの無いしさ。SADSだとか黒夢だとか知らないから。
Atsuo:逆に言うと、清春さんは30年間日本の音楽業界に閉じ込められてきた気がするんです。
清春:その響き、いいですね(笑)。
Atsuo:今回のツアーですごく思いましたね。実際、ライブを観ると本当に圧倒的。国境、言葉も関係ない。みんな早く気づいたほうがいいですよ。カリスマって言葉で簡単に済ませないで。この間地上波にも出ていましたが、清春さんはそうやって一般層にも届けられる。そこからこっち側に引きずり込むような流れを作れる人だから。それは、僕らにはできないこと。
清春:バラエティ番組に出ただけですけどね(笑)。
Atsuo:それをきっかけに実際にライブを観て、傷を受けてほしいですね。観たら絶対にすごいってわかるのでね。
清春:Borisは主戦場も、生きてきた種類も、選択してきたものも違うんですけど、同じような年代で、そっち側を選んだんだっていうのもすごいと思う。普通ならこっちを選ぶんですよ。僕はその「こっち」が間違ってると思ったから、ずっと自分でやってきたんだけどね。ある意味、こっちの中での違う生き方を選んだ。最初から選ばなかったのがBorisなんだなって。なるほどねって感じでした。別にデカい事務所を選ぶわけでもなく、日本におけるロックフェスに出るようアプローチするわけでもなく、それでやっていけてる。海外でツアーすることで生活が成り立っちゃってる。
Atsuo:それはラッキーなだけですけどね。
清春:何度も言うけど、海外の人も交えて日本の音楽を紹介するのがフェスだとしたら、日本のフェスで、Borisが日本代表なんだって示せばいいと本気で思うんです。なぜそれをやらないんだろう?って。先日、能登の被災地に行って思ったんです。能登も東北もそうですけど、なぜ復興が進まないのか、なぜ少数の人しかそれに目を向けないのか。今の音楽の状況とも近いと思う。現地には行かず、写真だけ見て、かわいそうですねって言ったりしていますよね。そもそも取り扱われないし。それは、日本の政治や行政が蓋をしてるからなんでしょうけど。別のものへ目を逸らさせるような世の中の動きになってるのは、日本の音楽シーンにも感じますね。音楽はエンタテインメントだけど、エンタテインメントってリアルじゃないと思ってるのかな? そこにリアルを感じない人が多いから、逆に言えば実際に起きてる震災や事件もリアルに感じないのかなとか思っちゃいますよね。だって、嘘でいいんでしょ? フェイクで熱狂できるんでしょ?って。それが、日本に帰ってきて、最近思ってることですね。
Atsuo:清春さんがゲスト出演していたネット番組で社会学者の宮台真司さんが、一人一人が、行政や社会システムに依存する生き方じゃない生き方を模索すべきと言っていたのに共感しましたね。そういう意識を持つきっかけになるのが、僕らがやっている音楽であったり、ロックだったりするので、だから僕は続けなきゃならないと思うし。
清春:その活動が本物だってわかってる日本のアーティストはたくさんいるはず。日本人同士なんだから、ちゃんと紹介しないと。僕はその役割の一端を担えればいいかなと思います。Borisの果てしない美学をちゃんと伝えたいですね。
―Atsuoさんはどうなんですか? 日本で伝えたい、みたいな想いって。
Atsuo:諦めてるって言うと悪いけど、力の配分はどんどん減っていきますよね。
清春:そうでしょうね。
Atsuo:結局、海外で稼いできたお金を日本で使うことになるので。それはそれでいいんですけど、プロモーション代とかにお金がかかる費用対効果で言うと本当に日本は悪いんですよ。音楽以外のことに相当費やさなきゃならない時間とお金がかかるっていう実感はあります。でも、僕も何度も言いますが、清春さんを簡単にカリスマって便利な言葉でスルーしないで、その音楽を通した生き方、独自性、その美学を知った方がいい。清春さんはヴィジュアル系じゃないから。後からそのジャンルができて組み込まれたけど、その元になった人。日本の重要なロックの歴史を継承している。
清春:それにしても、この国の音楽シーンの歪みみたいなものって、僕らが50代で訴えることではなくて、もっと下の世代の子たちが発言すべきだし、何かするべきだと思うんです。この間のネットの番組でも言ったけど、被災地に何かをしたいっていう気持ちは50代の僕らだけじゃなくて、若い子たちが伝えて、さらに若い子たちに影響を与えていってほしいと思いますね。今、影響力のある若い人たちが、リアルを伝えるべきですよ。音楽カルチャーも、震災も含め日本の情勢も。
―なんで言えないんでしょうね。
清春:自由を身につけてからじゃないと言えないんだろうね。自分で活動していれば言えるんだけど。自分のことは自分で選んで、自分で決めて、自分でクリエイトしてサバイブしていくほうがいいよ。
Atsuo:今日思ったんですけど、コロナからまだ4年しか経ってないのに、街を見たらすっかりもとに戻っていてびっくりしたんです。コロナ禍でアーティストが何をしたかっていうのを、誰も検証しないまま過ぎていますよね。僕は、清春さんがやってきたことをしっかり見てきたし、その部分で信頼できたっていうのもある。あの時、ひどい活動してた人もいたでしょ?
清春:いましたね。
Atsuo:配信をやるにしても、カルチャーの息の根を自分で止めにいってる人達がたくさんいた。その中で清春さんがやっていたことは、本当に前向きで素晴らしかった。あの状況下で、今という瞬間をどうやって共有していくか常にアップデートしていましたよね。
清春:ありがたいですね。アーティストと呼ばれるのであれば、やっぱり妥協しちゃダメなんですよね。みんな職業欄の「アーティスト」でしかないから。
Atsuo:昨今は「食べていき方」の一つの業種として「ミュージシャン」っていう職業に就きたいんだなって感じがします。自分達はは音楽をやりたいってシンプルなところから始まって、妥協しないまま伝えるためのやり方を模索してきた。世の中ではミュージシャンっていう職業がある、そこに辿り着くには、事務所に入って、レコード会社と契約してっていう手順が一般的な方法として流通している。その手順を踏めば食えるのかな?とかってみなさん思っているのかな? アーティストっていうのはそれぞれが表現していること自体が全く違うし、自ずと方法論や運営の仕方も個々に違ってくるはずです。清春さんは、いつも正直に自分ですべて背負って、その時々に感じた違和感をどうアップデートしきるかってことをやっているじゃないですか。生きることに対しても、ロックっていう生き方において誠実だから。だからこうやって一緒に組めるんです。その辺はお互い真面目だなと思いますね。
清春「Boris ”Heavy Rock Breakfast” -extra- AUS Tour March 2024 Special Act 清春」にて
「黒夢が一番古くて、SADSがあって、ソロ、そして最前線」
―2人の美学に刺激される人がもっと増えてほしいと思いますし、それこそBorisと清春の2マンに来て、音楽を通して何かを感じ取ってほしいなと思っています。11月末からの2マンツアー「HEAVY ROCK BREAKFAST JAPAN TOUR 2024」に向けて最後に一言いただけますか?
清春:僕は30周年のツアー中で、Borisはアメリカツアーから帰ってきたくらい?
Atsuo:9月の終わりから11月の頭までアメリカツアーで、帰った後なので、たぶんバキバキになってると思います。
清春:スペシャルなアート作品を一緒に作ったりもしたいなっていう話もしてますし、形態にとらわれず自由にやろうと思ってます。
Atsuo:この2組が組んだらニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズに負けないものができますよ。清春さんとコラボレーションするのはすごくスリリングだし、自分たちの活動もビビッドになるので、またあの時間を持てるのは本当楽しみですね。清春さん中心に、周りが色めき立つんですよ、さらにお客さんも巻き込んでいきますし。
清春:僕はこの30周年ツアーの中に、Borisとのカップリングを入れられてよかったなと思ってるんです。ライブのMCやメディアのインタビューの時に、よくSADSとか黒夢のことを聞かれるんですけど、別にそこはわかってるからもういいんですよ。Borisとの2マンも30周年の枠じゃなくて別枠にもできたけど、あえてBorisとのツアーを入れているのは、これが今の僕の活動の最前線のひとつだからです。黒夢が一番古くて、SADSがあって、ソロ、そして最前線。
Atsuo:現在進行形の、最前線の中にラインナップとして入れてもらえるのは、本当に光栄です。
清春:黒夢もSADSも、僕という人間の温故知新なのでそれはそれで思い出の形としてはいいんですけど、なんでみんな今を生きてるのに、古きを見て新しきを見ないのかってずっと思ってます。なぜ今古いものが再生されているのかというと、今を生きてる人間がいるから。その今を見ないで、過去ばかり見ている人が多いっていうのも、またひとつのジレンマなんですけどね。そう考えると、スポーツっていいなって思いますよ。記録を作れば、最新の自分が注目を浴びられる。これがなぜ音楽にはないのかなっていつも思いますね。
Atsuo:音楽は答えがない世界ですからね。
清春:ないよね。だから、ある意味スポーツが羨ましい。音楽でも何か明確に評価される値があれば、Borisにとっても、僕にとってもいいのになって思う。
Atsuo:僕がどれだけすごいって言っても伝わらないですからね。すごいとしか言えない(笑)。
清春:僕も、Borisはすごいって言って終わり。なかなか伝わりづらいんです。本当に優れている人が世に出ないのは間違ってます。
Boris「Boris ”Heavy Rock Breakfast” -extra- AUS Tour March 2024 Special Act 清春」にて
清春×Boris
『HEAVY ROCK BREAKFAST』 JAPAN TOUR 2024
11/30(土) SUPERNOVA KAWASAKI
OPEN 18:00/START 18:30
12/01(日) SUPERNOVA KAWASAKI
OPEN 17:00/START 17:30
12/04(水) 梅田Shangri-La
OPEN 18:00/START 18:30
■ローチケ プレリクエスト一次先行受付
7/8 (月) 12:00 - 7/22 (月) 23:59
https://l-tike.com/kiyoharu/
オールスタンディング ¥9,000
・お一人様1申込4枚まで
・入場整理番号付
・入場時に別途Drink代が必要となります。
・未就学児童入場不可
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日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月24日 9時26分
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4“奇跡の40歳” 今年40歳を迎えた女性芸能人が美しすぎる
クランクイン! / 2024年11月24日 7時0分
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5「M―1」準決勝進出…「サンジャポ」でカズレーザーが衝撃「びっくりしました。ウソでしょ?」太田光は落胆「全員落ちました」
スポーツ報知 / 2024年11月24日 11時45分
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