SANTAWORLDVIEWが語る、「SANTA」というユニークさの源泉、ヒップホップの無限性
Rolling Stone Japan / 2024年7月9日 18時15分
SANTAWORLDVIEWが、三作目となるアルバム「NICE TO KNEE YOU」をリリースした。昨今の国内ヒップホップを彩る多様な音楽性をさらに拡大していくような、渾身の力作だ。アニメ『カウボーイビバップ』の楽曲をアレンジした2曲に始まり、随所で花を添えるサンプリング、ジャズやロックの要素——それらを飲み込みながらまとめ上げるプロデュース力がすばらしい。背景には、自身でビートメイクをするようになったことや、哲学・神秘学への傾倒があるよう。「BOUNCE」でLeon Fanourakisとともにシーンの最前線に現れてから5年、SANTAWORLDVIEWはユニークな変化を遂げようとしている。「自分がやってることは絶対に今の世の中に必要なことだと思う。確実に必要。俺の魂がそう言ってる」と熱く語る彼の話に、耳を傾けてみよう。
―『NICE TO KNEE YOU』、すごく良いアルバムですね。楽しくて、でも渋さもある面白い作品だなと思いました。このタイトルはどうやって決まったんですか?
アルバムタイトルは、最後に決めました。ヒップホップをやっていく上で初心に返るということと、自分はよくガヤで「KNEE(ニー)」って使うので、それを組み合わせた造語ですね。
―なぜこのタイミングで初心に返るという意識になったんでしょう。
ひとつは25歳ということで、節目だなと。これまではアッパー系の曲、いわゆるクラブでも聴けるものが多かった。大きかったのは、自分でビートメイクをやるようになったんですよ。そうなると、ラップだけではなくビートに対するこだわりも強くなってきた。段々、自分が伝えたいことや残しておきたい歌詞というのがトラップ系のビートに合わなくなったんですね。ブーンバップ系のビートの方が文字量も込められるし、やっぱりクラシックなアルバムを残したいなと思ってきて。
―今作のリリックを聴いていると、確かに、トラップ系のビートに乗るイメージがあまりつかないですね。もうちょっと深遠な、俯瞰した視点が強くなってきた印象です。
「BOUNCE」をリリースして以降、俺ほんとにこんな歌詞のままでいいのかなと思うことが多くなった。今、世の中がすごく混乱してるし、そんな時に「楽しくいこうぜ!」ってことを歌ってもいいけど、それはもうやりすぎた感があるというか。『XEONWORLDVIEW』とか他の人と作るEPと違って、自分のアルバムではもっと自分を突き詰めていきたい。実際、社会の状況ってもう笑えないところまで来てるじゃないですか。そんな時に、自分はポーカーフェイスを貫くんじゃなくて言いたいことを言おうって思ったんです。でも自分は人前でラップできるような教養もないし、色んなアンテナを張って学んでいく中で、一番ハマったのが哲学や神秘学だった。
―「Arrivederci」では「フロイトは言った人の欲動 タナトスとエロス」というラインがありますね。同様に、「成せば成る」でも「人を動かすエロスとタナトス」と歌っています。
フロイトはかなり影響を受けました。アインシュタインとの手紙のやりとりをまとめた『人はなぜ戦争するのか』という本があるんですけど、フロイトが「人間には欲望の前に欲動というものがある」と言ってるんです。そこでは、生への欲動であるエロスと死への欲動であるタナトスという概念を使いながら、原始人が敵と味方をエロスとタナトスによって判別していたこと、仲間意識をどうやって形成していたことなどが説明されます。他に、感情のアンビバレンツという考え方とかもけっこう共感して。自分ももちろん全部は理解できていないですけど、すごく納得することを言ってるし、単純にかっけーなって思う(笑)。
―その「Arrivederci」では、「俺自身過信してしていた時期もあったし 正気を保ちながら狂気の狭間ん中で自分と対峙」というリリックもあります。今作では、自分に自信を持とうという部分と、悩んで夜も眠れないという部分が混在していて、SANTAWORLDVIEWというラッパーが分裂しているような印象も受けました。
それは本当にその通りで、アーティストって病む人多いじゃないですか。陰と陽は常にありますね。二面性が両方ある。そのあたりも哲学に救われているところがあります。でも基本的にはね、やっぱり飯食おうってことですよ。美味い焼肉食おうよっていう、それが一番です(笑)。
―そこはシンプルなんですね(笑)。
俺も哲学は好きですけど、最後はそうですよ。そこを難しくすると、もっと泥沼にハマっちゃうから。「何言ってんだよコイツ、こっちは落ちてるんだよ」ってなるじゃないですか。本当に悩んでどうしようもなかったら、「じゃあ焼肉食いにいこっか!」「行く行く!」って、それが全てです。
―めっちゃ良いですね。そこがSANTAさんのバランスの良さというか、深くいくところと、軽やかなところがこのアルバムにも出ていると思います。
だって、フロイトの本とか難しいんですよ。お前頭いいんだから、小学生にも分かるように書けよって思う(笑)。自分が歌詞を書いていても、深いことを伝えつつも、基本的には分かりやすいメッセージで伝えるようには意識しています。
ビートメイクするようになった理由
―もう一つ伺いたいのが、ご自身でトラックを作るようになったという点で。SANTAさんというと以前からトラックはYamieZimmerさんが手がけていることが多かったかと思います。どのようなきっかけがあって自分で作るようになったんですか?
コロナがきっかけですね。緊急事態宣言が出た時に、これは活動が止まるなと思って、30万だか40万だかはたいてパソコン、スピーカー、キーボード、マイクなど機材を全部買い揃えました。でも、それまでもスマホのGarageBandアプリで時間ある時に作ってはいたんですよ。それを本腰いれてやろうかと決めて始めた感じです。でもなかなか世に出せるレベルにはならなくて、今回ようやくその水準に達したかなと。だから、そっちの方面も色々構想を考えてはいます。覆面かぶってビートメーカーとしてデビューしようかなとか(笑)。
―YamieZimmerさんみたいな凄いトラックメイカーが身近にいると、学ぶことも多いのでは?
最初はLogicの使い方からスネアの入れ方まで、Yamieに教わりました。師匠は誰かと聞かれたら、Yamieって答えるかもしれない(笑)。でも、彼はビートメイカーの中でも異色な人じゃないですか。音数少ないけど個性が出せるっていう特別なカラーを持っているので、そういうところは真似できないというか。だから、最初の基本的なところだけ教わりました。ヒップホップはループ音楽だし、基本的にはヴァースとフックさえ作ればそれを組み合わせて完成させていけるので、途中からは一人で作れるようになりましたね。
―サンプリングも?
やってます。この前「異邦人」をサンプリングして、バレないだろうと思って先輩に聞かせたら、一発で「異邦人!」って言われました(笑)。
―今作では「Arrivederci」をご自身でビートメイクしていますね。
あの曲はGarageBandなんですよ。飛行機乗ってる時に作りました。自分はもう最近はゲームもしなくなって、空き時間はビート作ってます。Apexやってると自分は弱いからすぐやられるし、そんなことでイライラしてるならもう曲作ろうと思って。あと、ピアノも独学で始めました。
―今まではビートをもらってそこにラップを乗せていたと思うんですけど、自分で作るようになって、その順番も変わりました?
そうですね。「成せば成る」は、メトロノームだけ鳴らして歌詞を先に書いてラップを録ってから、その後にトラックをつけてるんですよ。ケンドリック・ラマーはそういう手法でやってるとかで、自分も挑戦してみました。そうなると、フロウで仕掛ける感じではなくて、一定のメトロノームに合わせてとにかくメッセージを作っていく形になる。その順番では初めて作りましたね。フロウに捉われずに作れた。
―SANTAさんの中での大きな変化ですよね。いずれ、何もかも全部一人で作ったアルバムを出すかもしれない。
いえーい、ファレルじゃん。でも確かに、自分は前からタイラー・ザ・クリエイターが大好きなんですよ。彼の作品はどんどん成長していってるし、ピアノも弾いて歌も弾いて、それがやりたかったんだろうなと思う。自分も同じです。それに、ラッパーもいつまでできるか分からないし。ラッパーって、いわゆる世の中のラッパー像というものがあるじゃないですか。それにいつまでも合うかは分からないし。ファレルってトラックメイカーともラッパーとも言わないでしょ。ファレルはファレル。だから、自分もSANTAって肩書になる。
―というか、すでに今回のアルバム自体が少しずつ「SANTA」という内容になってきてますよね。ヒップホップが中心にありつつも、音楽性が幅広い。
それは嬉しいですね。今回、音がすばらしいでしょ。AWSM.も(甲田)まひるちゃんも、皆がすばらしい。今回のビートって、ストックしていたものが一つもないんですよ。一から作られたものばかり。「BEGIN」では、Taka Perryとスタジオに入ってセッションして作りました。ブーンバップ系でいこうってなって、Takaがドラム叩いてる間に自分が歌詞書いてフックのメロディを歌ってたら、Takaがそれいいね!って反応して入れてくれた。お互いのやりたいことが全て噛み合ってできた曲ですね。
「キックボクサーがMMA習ったみたいな感じ」
―「Honest / Feeling Good(Piano Black)」では甲田まひるさんのピアノがとんでもないことになっていますね。
AWSM.とスタジオ入って作りました。最初ピアノの音をサンプリングしようと思ったんですけど、後ろにシャカシャカした音が入っていてサンプリングしづらいなと。そこで魔法カード使うしかないなということで、甲田まひるという最強の手札を使うことになったわけです。すばらしい演奏をしてくれましたね。
—この曲は、菅野ようこさんの曲のサンプリングも話題になりました。
「Too Good Too Bad」と「Piano Black」を使わせてもらえないかと手紙書いたんですけど、気持ちが届いたのが嬉しかった。しかも、自分のことをちゃんと見てくれて聴いてくれてるんだなって。『カウボーイビバップ』大好きで、肩にでかいタトゥー入れてるくらいなんですよ。夢が叶いました。この2曲についてはずっと前から構想があって、ようやく実現した感じです。あと、「I Wish For U feat. Bank.Somsaart」のサンプリングも面白くて。Instagramで流れてきた犬の動画の鳴き声が良くて、それを使いました(笑)。
—SANTAさんがクレジットされていない曲は、トラックには関与していないんですか?
いや、それこそ「Don't Worry」は基本のビートは自分で組んでいて、そこにAWSM.がギターやベースを入れてくれた感じ。「Boys don't cry」も、自分でLogicでピアノとドラムパターンを組んで、それにNOCONOCOくんがピアノアレンジをしてギターを入れてくれて、みたいな。基本的にはそういうパターンが多いです。
—なるほど。じゃあやっぱり、クレジットされてない曲についてもSANTAさんが何かしらビートメイクに関与しているということですね。それは大きな変化だ。
そう。以前は、送られてきたビートから選んでそれにラップ乗せてただけだったので。だから、キックボクサーがMMA習ったみたいな感じですごいでしょ?
—(笑)。セルフプロデュース度合いがだいぶ高まってきてますね。
ラップだけ磨きすぎても凝り固まってくるんですよ。それに、巧いラッパーは他にたくさんいるし。Leon (Fanourakis)もralphも、あの低い声だけでもう最高じゃん。あれには勝てないよ。そうなった時に、自分は音で勝負しないといけないなと。
—最近は、周りのラッパーについてはあまりもう意識しないようになってきてますか?
最近は周りのラッパーの曲は聴いてないですね。自分は、リスペクトしすぎるとスタイルが似ちゃう癖があるし、MACCHOさんとかやっぱりすごすぎるじゃないですか。以前は、どう動くかというところで周りとか外側ばかり見てた。こう見られたいから流行りにどう乗るか、みたいな。でも、自分が世界だということに気づいたんです。今は内側を見るようにしてます。最大の敵は自分なんですよね。弱い自分がそこにいるから、架空の敵を周りに作って数字で勝負してた。それは、内側を変えることで外も反応するという良い例。「内から外」ですよ。あれ、OZROSAURUSだ。やっぱMACCHOさんの言う通りだな。すごいわ(笑)。
Photo by 24young
「決まりきったラッパー像に固執する必要はない」
—たとえば現行の国内ヒップホップを聴いている、いわゆる若いヘッズたちに今回の作品がどういうふうに聴かれるのかは興味があります。
自分は、そこを狙おうという気持ち自体を捨てました。というか正確には、そこでバズるのを捨てたというのに近いかな。そこはがんばってないし、今はもう完全に等身大のものしか作ってない。これがトレンドにならなくてもいいし、でも本当に悩んでる人や苦しんでる人には刺さると思う。それでいい。俺の友達でも、無理して笑ってて一週間後に自殺しちゃった人とかいたし、今の世の中ってそうじゃないですか。そういう人には聴いてほしい。トレンドには沿ってないかもしれないけど、自分がやってることは絶対に今の世の中に必要なことだと思う。確実に必要。俺の魂がそう言ってる。たとえば「チーム友達」はすごく楽しくて、あれも世の中に必要な良い音楽。一方で、自分がやってるのは何かに気づかされる音楽で、そういうのも世の中に必要。トレンドの音ばっかり聴いていてちょっと疲れたなという人は、ぜひ聴いてもらいたい。
—ヒップホップシーンの音楽性が画一化されてしまうのはつまらないので、そういう点で今のSANTAさんはその幅を広げる役割をしてますよね。
ヒップホップシーンって、格ゲーなんですよ。今日はこのキャラでいこう、明日はこっちで戦おう、みたいな。その日の気分によって、違うキャラを使っていく。だから、ラッパーの人たちも、無理に何かにならなくていいんです。自分でしか出せないものを出せば、それがそのまま格ゲーのキャラになる。2ndアルバムまでは、自分も何者かになろうとしてたんで。それに、毎日聴かれなくたっていいんです。クラシックって言ったって、別に毎日聴くわけじゃないでしょ。人生のある瞬間のBGMになれればいいんです。
—でも、25歳でその境地にいくというのがすごいですね。
弟の存在が大きいと思います。自分は三人兄弟の真ん中で、長男が中三の頃に家出したんです。今も連絡がつかない。両親も離婚して、家で父と弟と自分の三人で暮らしてるんですけど、弟も哲学が好きなんですよ。あいつはクラブでも瞑想してるから。いや、クラブでは踊れよって言ってるんですけど(笑)。気兼ねなく話せるし、弟と話すことで自分を知れる。
—音楽作品でインスピレーションの元になったものとかありますか?
今回は、いわゆる「これっぽい曲、これっぽいラップにしよう」といった作り方は一切してないですね。それよりは、自分が今まで聴いてきた全ての音楽が血肉となってる。その中でも、強いて言えば、ケンドリック・ラマーにタイラー・ザ・クリエイター、アール・スウェットシャツ、チャイルディッシュ・ガンビーノ、フランク・オーシャンとかかな。
—でも、こうなってくると、今後SANTAさんの音楽がどんな方向にいくのか想像がつかないですね。もちろんヒップホップというのは軸にあるんでしょうけど、バンドでジャズやロックをやってても全然驚かない。
確かにそうですね。バンド組もうかな(笑)。
—それこそカウボーイビバップの曲は、バンドで演奏したら絶対カッコいいですよね(※この取材後、ワンマンライブ「NICE TO KNEE YOU SHOW 2024」で、AWSM. & 甲田まひる擁するスペシャルバンド編成が発表された)。
そんなの、最高でしょ!
—「COWBOY'S LIFE」のMVは、そういうSANTAさんのラッパーにとどまらない演技が詰まってましたね。
あんな走ってるラッパーいないっしょ。決まりきったラッパー像に固執する必要はないし、そういう人になっていきたいです。
<INFORMATION>
『NICE TO KNEE YOU』
SANTAWORLDVIEW
発売中
1% | ONEPERCENT
配信リンク:
https://linkco.re/vgnssCbu
Tracklist:
01. BEGIN (Prod. Taka Perry)
02. COWBOY'S LIFE (TOO GOOD TOO BAD) (Prod. 菅野よう子 & Taka Perry)
03. Honest / Feeling Good (Piano Black) (Prod. 菅野よう子, AWSM. & 甲田まひる)
04. I Wish For U feat. Bank.Somsaart (Prod. AWSM.)
05. Don't Worry (Prod. AWSM. & SANTAWORLDVIEW)
06. Boys don't cry (Prod. NOCONOCO & Chevy Legato)
07. Arrivederci (Prod. SANTAWORLDVIEW)
08. MOMENT (Prod. YamieZimmer)
09. City to City feat. WILYWNKA (Prod. Taka Perry)
10. Chandelier feat. 9for (YamieZimmer)
11. 成せば成る (Prod. NOCONOCO & Yas Nomura)
12. Better Days feat. Kaneee (Prod. STUTS)
『NICE TO KNEE YOU SHOW 2024』
9月15日(日)
未成年入場可
OPEN:17:00
START:18:00
会場:渋谷 WWW X
出演:SANTAWORLDVIEW with AWSM. & 甲田まひる SPECIAL BAND SET
7月9日(火)12:00から7月28日(日)23:59までイープラスにて第二次先行前売りチケット販売中
チケットURL:https://eplus.jp/santaworldview/
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