ニア・アーカイヴスが語るジャングルとUK音楽文化の再定義、多文化・多人種的であること
Rolling Stone Japan / 2024年7月10日 17時45分
近年、ジャングル~ドラムンベースが再び「時代の音」として求められているのは多くの人が気づいていることだろう。英国クラブシーンでは数年前から人気が再燃していると言われるが、メインストリームも巻き込んだ現象として広がったきっかけはやはりピンクパンサレスのブレイク。そこからNewJeansやドージャ・キャットなどがオリジナル曲やリミックスでドラムンベースを取り入れたり、ケニア・グレイスのドラムンベースポップ「Strangers」が全英No.1ヒットを獲得したりするなどして、大きな広がりを見せてきた。そしてこのニア・アーカイヴスは、イギリスのジャングルカルチャーのど真ん中から登場した新世代。今注目を浴びているのはクラブカルチャーの外側=ポップからドラムンベースにアクセスしてきたアーティストが多いが、ニアは言わば英国クラブ/ジャングル文化からのポップに対する回答である。
そんな彼女のデビューアルバム『Silence Is Loud』は、現場で鍛え上げたパワフルなジャングルのブレイクビーツが通底しつつ、これまで以上にポップソング的なアプローチを強めた作品だ。そしてアートワークや最新のアーティスト写真にユニオンジャックが使われていることが象徴するように、「英国的」であることが標榜されている。ここでの英国性とは多文化・多人種的であること、ハイブリッドを称揚することを意味する。そもそもイギリス発祥のジャングルとはジャマイカのサウンドシステムカルチャーとイギリスのレイヴカルチャーの融合であるし、彼女がこのアルバムで試みているのは黒人文化にルーツを持つジャングルと白人文化であるブリットポップ/インディロック的なソングライティングの融合でもあるからだ。その意味において、『Silence Is Loud』は白人男性中心主義的だったブリットポップの再定義という側面もあるだろう。
既に発表されている通り、ニア・アーカイヴスは8月16日(金)に幕張メッセにて開催されるソニックマニアで早くも2回目の来日を果たす。初のアルバムをリリースし、進化を続ける彼女の今をフェスの大会場でぜひとも体感してもらいたい。
ジャングルとの出会い、ドラムンベースとの違い
—『Silence Is Loud』はあなた自身にとって新しいチャレンジであると同時に、ジャングルの定義や可能性をさらに押し広げるような素晴らしいアルバムだと思います。リリースから数カ月が経ちましたが、改めて振り返ってこのアルバムをどう思うか、また世間からの反応をどう感じたか、それぞれ教えてください。
ニア:初めてちゃんとした作品をアルバムという形で発表出来たことが本当に嬉しくて。やっぱり本格的な作品づくりをするのってすごく重要なことだし、仕上がりにはとても満足してる。ヴィジュアルについてもすごくハッピーだし、とても良い反応をもらっていて。みんなに会ったり、音楽を聴いてもらえたり、ライブで演奏出来たりすること、それ自体が本当に素晴らしいことだし。年末までには達成したい目標が幾つかあるんだけど、それが実現したら本当に成功したと感じられるんじゃないかな。
―幾つかの目標というのは、具体的には?
ニア:今年のマーキュリーアワードにノミネートされたら嬉しいなって。それが私の夢。っていうのも、1996年に発表されたロニ・サイズの『New Form』が、ジャングルでノミネートされた最後の作品だから。こういう権威のある、オルタナティブミュージックに光を当てる賞で評価を受けることは、私にとって本当に大きな意味がある。だから近々の夢はそれ。
―他にも目標としていることはあるんですか?
ニア:来年にはニューヨークに少し長めに滞在したいと思ってる。それと、私のアーカイブをもっと発展させたり、自分のレーベルを立ち上げたいな。私が興味を持っている新進のアーティストと契約して、そういう人たちをプロデュースしてみたい。
―どれも実現したら素晴らしいですね。では、本誌では初めてのインタビューなので、基本的なところから改めて訊かせてください。そもそもあなたはジャングルとはどのように出会い、どのようなところに惹かれたのでしょうか?
ニア:物心ついた時からずっと、背景にジャングルミュージックが流れているような環境で育って来たけど、その音楽が何と呼ばれるものなのかは知らなくて。でも、カーニバルに行くようになって、さらにたくさん耳にするようになった。そのカーニバルは西インド諸島のお祭りで、毎年8月に開催されているんだけど(※ノッティング・ヒル・カーニバルを指していると思われる)。で、ティーンエイジャーになってから本格的にドラムンベースやジャングルを聴くようになって、こういう音楽もあるんだと知って、底なし沼にはまっていった感じ。ジャングルの歴史について知れば知るほど、この音楽が持つカルチャーにのめり込んでいったっていう。
―歴史的な観点で言うと、ジャングルはジャマイカのレゲエやダブとイギリスのクラブカルチャーとの出会いで生まれた音楽ですよね。そしてあなたもジャマイカとイギリスにルーツを持っています。そのようにジャングルが自分の人種的なアイデンティティを象徴していることは、あなたにとって重要なことですか?
ニア:自分の伝統や出自に誇りを持つことはすごく重要なことだと思う。ジャングルはイギリスの(カリブ海)移民から生まれたサウンドシステムのカルチャーだから。自分がイギリス人として受け継いだものや、ジャマイカ人として受け継いだものを誇りに思うことで、また次の世代へと受け継いでいくっていうのは、すごくクールなこと。ジャングルはすごく英国的なサウンドだから、すべてが上手く調和しているし、自分のアイデンティティをとても誇りに思ってる。
―では、特に影響を受けたジャングルやドラムンベースのアーティストを挙げるとすれば?
ニア:私が大好きでお気に入りなのは……お気に入りというよりも、自分の音楽にもっとも大きなインスピレーションを与えてくれた人の一人は、4ヒーローかな。彼はマニックスやトム&ジェリーという別名義でも活動していて、彼の音楽はまさに自分が作ろうとしているものにとても近いというか、彼は長年、私にとってすごく大きなインスピレーションの源で。それにレモンDも大好きだし、もちろんゴールディーもね。私はゴールディーのエクスペリメンタルな作品がとても好きで……ギターサウンドをジャングルに乗せたり、そういう部分からたくさんのインスピレーションを得ているし、彼の人間としてのカリスマ性にも惹かれる。
ニア・アーカイヴスがまとめたジャングル楽曲のプレイリスト
―アルバムには、ゴールディーからあなた宛てのボイスメッセージがサンプリングされている曲もありますよね(「Tell Me What its Like?」)。彼はあなたにとってどのような存在なのでしょうか?
ニア:彼は私が長い間尊敬してきた人だし、私にとってのアイコン。彼はジャングル界では数少ない大ブレイクしたスターの一人で、ジャングル界ではもちろんとても大きな存在だけど、イギリスでは誰もが知っている有名人でもある。もちろん、彼は音楽だけじゃなくて、一人の人間としてもとても素晴らしい人で。だから、彼は本当に尊敬すべき偉大な人物だし、この数年間、私にとって本当に素晴らしい助言者(メンター)だった。彼との関係性を私はとても大切にしているし、彼と知り合えたことがすごく嬉しくて。たくさんアドバイスもしてくれるし、ある状況をどう切り抜けるか、色々教えてくれた。だから、彼とのフレンドシップをすごく楽しんでる。
―ロニ・サイズ以来のマーキュリー受賞が念願だと話していましたが、もちろん彼からも影響は受けている?
ニア:もちろん、ロニ・サイズも私にとても大きな影響を与えてくれた。(ロニ・サイズと同郷の盟友である)DJダイのようなブリストルを代表する音楽もすごく好き。(ロニ・サイズが率いるグループで、DJダイもメンバーの)レプラゼントはダブルベースを筆頭に生の楽器をたくさん使っているし、豊かな音楽性で、今私がやっていることに直接インスピレーションを与えてくれる存在だから。
―あなたは自分がジャングリストだと自称していますよね。最近はジャングルとドラムンベースを一緒くたにしたような言説も多いですが、あなたは両者の違いをどのように定義していますか?
ニア:ジャングルは、言ってみればドラムンベースの兄貴的な存在。それに、サウンドシステムのカルチャーとの関係性によって定義される部分がとても大きいと思う。いわゆるジャマイカからのヘリテージ(文化遺産)という部分でね。ドラムンベースは、またジャングルとは違ったサウンドだと思っていて。ジャングルはブレイクビーツを主体としていて、よりカオスなサウンドだと感じる。アーメンブレイクやシンクブレイクっていう、とても有名なブレイクビートがあるけど、それがジャングルミュージックのバックボーンになっている。それを使わずに音楽を作るのは、ほぼ不可能と言えるくらい。
―ええ。アーメンブレイクはウィンストンズ「Amen Brother」(1969年)のドラムブレイクをループさせたもので、シンクブレイクはリン・コリンズ「Think (About It)」(1972年)のドラムブレイクとチャントをループさせたものですね。どちらも非常に多くのジャングルのトラックで使われています。
ニア:他にもブレイクは色々あって……例えばヘリコプターとかね。とにかくブレイクがジャングルを形づくっていて、あとはサンプルのチョイスがラガのボーカルだったり、そういうものも構成要素になっている。一方でドラムンベースはもっとダークで、よりエレクトロニックなサウンドを主体としていて。ブレイクビーツはもっとずっと洗練されていて、ジャングルのクレイジーなスネアの代わりに、2ステップのようなパターンを使っているし。だから、その2つはサウンド的にはまったく異なるものだと思っていて。
―なるほど。
ニア:私は、ジャングルはかなり荒削りで、なおかつ親しみやすい感じだと思う。ちょっとローファイな、生のサウンドがあって。一方でドラムンベースは超絶的なミックスサウンドになっている。もうほとんど科学と言ってもいいような壮大なサウンドで、クリップを科学的にミックスしたような感じ。そこが、両者の大きな違いに感じるな。
「イギリス的」とは多文化・多人種的であること
―内省的な歌詞やメロディとパワフルなビートを掛け合わせるという方法論が、あなたの曲作りのベースにあるわけですが――。
ニア:その通り。そういうコントラストがとても好きなの。
―あなたにとってこの2つを融合させるのは当たり前のことですか、それともチャレンジだという意識があるのでしょうか?
ニア:私にとってはとても自然なことだと感じてる。私はメランコリックな音楽もとても好きで、多大な影響を受けているのは、おそらくエイミー・ワインハウスね。彼女は本当に悲哀に満ちた、深い歌詞をハッピーなビートに乗せた曲を書いているから。私は常にそういう悲哀をアップビートで覆い隠すようなコントラストを採り入れたプロダクションが好きで。それに私自身、曲を書くことをとても楽しんでいるしね。
—なるほど。では、ソングライターやシンガーとして影響を受けたのはエイミー・ワインハウスだと言えます?
ニア:やっぱりエイミー・ワインハウスかな。それと、私はレディオヘッドに多大な影響を受けていて。トム・ヨークが大好きなの。それにもちろんブラーもだし……他に誰がいたかな、思い出せない(笑)。グレイス・ジョーンズも好きだし、エリカ・バドゥもね。それこそたくさんいる。私は違ったタイプの音楽を色々と聴いてきたから。
―中でも、自分の歌唱スタイルにもっとも影響を与えた人というと?
ニア:良い質問ね。たぶん、エイミー・ワインハウスじゃないかな。正直に言って、私は彼女の音楽をかなり熱心に聴いて育ったから。それに、若い時はジャズもよく聴いていて。ロネッツも大好きなの。ロネッツのような60年代のモータウンも、すごく大きなインスピレーションを与えてくれた存在。ダイアナ・ロスもそう。だから、エイミー・ワインハウス、ロネッツ、シュープリームス時代のダイアナ・ロスの中間っていう感じかな。
―デビューアルバムの『Silence Is Loud』は、フロア映えするジャングルの強力なビートがありつつ、これまで以上にソングライティングを重視した作品だと感じました。
ニア:ええ。このアルバムで私は、異なるジャンルの音楽をジャングルに乗せるという実験を試みていて。そういうことは以前から探求していたんだけど、今回はそれをより深く掘り下げることに挑戦している。
―このアルバムには、ブリットポップの影響があることも公言していますが。
ニア:ブリットポップというよりも、よりギターサウンドが前面に出ている感じというか。「Cards on The Table」はかなりブリットポップっぽいヴァイブがあると思うし、「Unfinished Business」もそう。これは、キングス・オブ・レオンに多大なインスピレーションを受けていて。私は彼らのローファイなギターのサウンドプロダクションが大好きだから。それにおかしなことに、フー・ファイターズなんかもね(笑)。それと、私は2000年代のポップミュージックもよく聴いていて。ナターシャ・ベディングフィールドとか。彼女は2000年代、本当に素晴らしいポップソングを書いていた。ソングライティングの面において、彼女には多大な影響を受けていると思う。
―ギターサウンドを全面に出すにあたって、インディ畑のアーティストで、今回の共同プロデューサーであるイーサン・P・フリンは助けになりましたか?
ニア:ええ。このアルバムをイーサンと一緒にプロデュース出来たことは素晴らしかった。彼はものすごい才能の持ち主で、色々な楽器を操るマルチプレイヤーでもある。彼自身のアーティストとしてのプロジェクトも本当にすごいし。彼はシンセサイザーのようなハードウェアを色々用いてスパイスを足してくれた。彼が作ったサウンドは、とある瞬間に出来たものを閉じ込めているから、もう二度と同じようには作れないの。だから、彼と一緒に仕事をしたことは間違いなく私の作品をもう一段上に押し上げてくれたし、それは彼なしでは実現しなかった。彼と一緒に仕事をすることが出来て、本当に良かったと思ってる。
―「Silence is Loud (Reprise)」はイーサンの助言で作られた曲だそうですね。
ニア:あの曲はアルバムで一番の挑戦だったな。私の曲の中で、唯一ジャングルのドラムが使われてない、ピアノによる純粋なインストゥルメンタルに、私の声が乗っているだけだから。私は感情的な歌詞を表現する時、敢えてブレイクビートの後ろに隠してしまうことがあるの。だから、この曲は私にとって大きな挑戦で。クレイジーなジャングルトラックを作るという考えから抜け出して、基本的にピアノだけのバラードのような曲を作るというのは、また他とは違ったチャレンジだったと思う。
―アルバムのアートワークや最新のアーティスト写真では、ユニオンジャックのイメージを意識的に使っていますよね。イギリス的であるということは本作のテーマのひとつなのでしょうか?
ニア:そうね。ジャングルは明らかにイギリスの音楽だし、私自身もイギリス人だから。ユニオンジャックの旗は、パンクミュージックやパンクカルチャーに触発されたものだと思うし、そういう使われ方をされてきたと思う。でも、こういう非常にイギリス的なイメージに対する反応というのはとても興味深くて。色々な人の色々な意見に触れるのは、本当に面白かったな。
―イギリスは人種のメルティングポットであり、それこそジャングルをはじめ、多人種・多文化の融合で生まれた音楽もたくさんあります。その意味でイギリスはエクレクティックな国だと言えますが、あなたの言葉でイギリスらしさを定義するとどのようになりますか?
ニア:それは常に進化しているんだと思う。もちろん私はイギリス人だから、イギリスを代弁するべきだとは思うけど、あなたが言ったように、イギリスはとても多文化な国だから。イギリスをイギリスたらしめているものはたくさんあると思っていて。特に音楽に関して言えば、インディ、ロック、ポップ、ダンスミュージックと色々なタイプの音楽があるし、アートの面でも本当にたくさんの素晴らしいアーティストがいる。すべてを語り尽くすことは出来ないけれど、イギリス出身のアイコン的存在はたくさんいて、私も間違いなくそういう人たちからインスピレーションを得ているの。
―あなたは以前から、クラブミュージックが黒人文化にルーツを持つことを強調してきました。その一方で、本作ではブリットポップをはじめとするインディロックのような白人中心的だった音楽文化にも愛情を表明しています。そのように人種を超えて多様なルーツに対して敬意を払うことが重要だという意識は、このアルバムに込められていると言えますか?
ニア:ええ、間違いなくそうだと思う。私は明らかにイギリスのブラックミュージックに影響を受けているけれど、白人のイギリス人アーティストの中にも尊敬していて、愛してやまない音楽を作る人たちがたくさんいるから。この作品は、そうしたアーティストからもすごく大きな影響を受けている。カルチャーとサウンドのメルティングポットがとても好きなの。そういうものが私の人生の大部分を占めているし、このアルバムの制作にも大きな役割を果たしていると思う。
—デュア・リパは新作にブリットポップの影響があることを公言していて、AGクックもブリットポップをモチーフにしたアルバムを作りました。レイチェル・チヌリリもブリットポップの現代版だと言われています。今年になってイギリスの若いアーティストがブリットポップを取り上げることが増えたように感じますが、こうした状況に対する意見を教えてください。
ニア:すべてのことは一定のサイクルで巡っているんじゃないかな。20年か30年のサイクルかどうかは分からないけど、その中でブリットポップはまた、最初のブームの頃から戻って来ているように思う。だから、AGクックのような人たちがブリットポップ的な音楽を作っているというのは、すごくエキサイティングなことだと思う。単なる流行で終わらせないような気がするから。2回目のブームはどんなサウンドを生み出すのか、当時とはどんなところが違っているのか? そういうものを聴けることにとてもワクワクしてる。もちろん、90年代後半とは明らかに違ったサウンドになっているはずだし。新しいアーティストが、彼らなりにどんな解釈でサウンドに落とし込むのか、それを見守るのがすごく楽しみ。
ドラムンベース復興について、ソニックマニアと日本への想い
―エモーショナルジャングリストを自称する通り、あなたの書く歌詞はエモーショナルで内省的です。作詞はあなたにとってどのような意味を持つ行為だと言えますか? アルバムではセンシティブな家族の問題にも触れていますが、心の奥底に秘めていた感情を吐き出すことで浄化されるような感覚があるのでしょうか?
ニア:ええ、間違いなくそう。私は感情を表に出すようなタイプではないし、どちらかというと自分の感情をしまい込んでしまいがちだから。音楽を作ることは、自分自身を表現したり、感情を爆発させたりするのに最高の手段だと思う。もちろん、自分の感情から何かが生まれて、それをアートとして表現していくわけだから、その点においても音楽は素晴らしいものだと思う。だから、このアルバムの制作を通して自分が感じているものを消化出来たのはとても良かったし、私の20代半ばという時期をナビゲートしてくれるものになったと思う。そういう意味ではこのアルバムはとてもエモーショナルな作品になっていて。内省的な視点を以てダンスミュージックを作る瞬間というのはとても心地よいし、そこから生まれた作品がまたどんな感情を呼び起こしてくれるのか、っていうのはとても興味深いから。
―では、このアルバムは具体的にどんなエモーションを捉えたアルバムだと感じていますか?
ニア:異なるムードが色々詰まったアルバムだと思う。多幸感、悲しみ、孤独、愛を求める心、無償の愛……色々な感情があるけれど、このアルバムは、そうした感情と一緒に旅をするようなものにしたかった。だから、曲によってフィーリングは違ったものになってる。ハッピーな気分の時はラブソングを、悲しい時や孤独を感じた時は「Crowded Roomz」のような曲を聴きたいっていう、その時々の私の感情が込められてるの。
―最近はピンクパンサレスやピリ&トミーなどをきっかけに、クラブカルチャーに馴染みがない若い世代もTikTokを通してドラムンベースを聴くことが増えていると思います。非常に興味深い傾向だと思いますが、こうしたトレンドやピンクパンサレスたちが成し遂げたことに対してはどのような考えを持っていますか?
ニア:ポップミュージックを聴いているような人たちがダンスミュージックに挑戦するのは、本当にクールなことだと思う。どんなジャンルとの邂逅も素晴らしいことだと感じている。ポップアーティストが、ダンスミュージックをサブジャンルとして捉えていないことを発見する入り口になるかもしれないから。そうした人たちは音楽の奥深さに触れて、音楽のルーツや歴史、その音楽の先駆者について知ることも出来る。だから、そうした形でこのジャンルに光が当たるのはとても良いことだなって。
―いまはメインストリームのポップミュージックでも、ドラムンベースのビートが使われることが増えましたよね。
ニア:そうね。ここ4年くらい、ドラムンベースのビートを使う人が本当に増えたと思う。ブランドの広告なんかにも使われるようになったし、そうしたクロスオーバーがとても盛り上がっている。それってとても良いことだと思っていて。子ども時代の私のように、そのビートを聴いて、これはなんだ?って興味を示すキッズがいるかもしれないから。私があのリズムが本当に好きだったみたいに、ずっと聴き続けているうちにプロデューサーやアーティストに辿り着いて、そこからジャングルやドラムンベースを発見するかもしれない。そのうち、オーセンティックなアンダーグラウンドミュージックを聴くようになるかもしれないでしょ? だから、私はこの状況をすごくポジティブに捉えてる。
―イギリスではジャングルやドラムンベースはずっと根強い人気があるジャンルですが、近年、クラブシーンでまた大きく盛り上がっているという実感はありますか?
ニア:UKだけじゃなくて、オーストラリアやニュージーランドでもジャングルが盛り上がっているっていうことは意識してた。本当に根強い人気があるから。特にニュージーランドでは、ジャングルはかなり大きなシーンで。ここ数年、ツアーで周っていたから、アメリカのジャングルシーンが大きくなりつつあるのを知ることが出来て良かったし。東欧やアジアでもそう。最近アジアを周って、日本のジャングルシーンを見られたことも嬉しかった。大阪のRyotaとか、日本には他にもクールなDJがたくさんいる。今は本当にジャングルシーンにとって世界的にすごくエキサイティングな時期だと思う。だから、ジャングルを引っ提げて世界中を周るのが本当に楽しみだし、同じような音楽を愛する人たちと繋がるのも楽しみで。
―では、あなたが音楽面、もしくはメンタリティの面で何かしらシェアしていると感じる同世代のアーティストを挙げるとすれば?
ニア:良い質問ね。でも正直、私は自分自身の独自の音楽づくりに集中しているから、自分と他の人たちを較べることはすごく難しくて。尊敬する人たちはたくさんいるけれど、決してその人たちと私が似たようなことをやっているとは思わないし。でも、最近のアーティストで、特に新しいアルバムを出したばかりのチャーリーXCXはすごく好き。彼女の新しいアルバムが大好きだし、彼女が標榜している芸術性みたいなものにとても惹かれる。かっこよくて、すごくアイコニックな存在だと思う。アルバムのキャンペーンもすごくクールだったし。
―あなたはクラブカルチャーにおける女性やLGBTQ+の地位向上を積極的に訴えています。今後クラブカルチャー全体として、それを成し遂げるために必要なことは何だと思いますか?
ニア:一番重要なことは、おそらく音楽を通して伝え続けることだと思う。多様性は色々なことをもっとすごく興味深くしてくれるし、バックグラウンドの違う人たちや違う道を歩んできた人たちがいることで、より包括的で包容力に富んだものにしてくれる。それに、自分の好きなことやずっとやりたかったことをやっている人たちを見れば、自分もそれに打ち込んでみようという気になるかもしれないでしょ? だから、もっと代弁者が増えれば、物事はもっと面白くなると思ってる。
Photo by Lola Banet
―ソニックマニアで早くも二度目の来日が決まっています。どんなステージを期待していいですか?
ニア:日本でまたプレイ出来るのが本当に楽しみで。日本のフェスティバルでプレイしたことがないから、ずっとやってみたいと思ってたし。前回(昨年9月)は東京と大阪ですごく楽しい時間を過ごしたから、もうすぐ戻って来られることにすごく興奮してる。前回は200人キャパくらいの狭い箱で、すごく暑くて汗びっしょりになっちゃったから、今回はフェスティバルのステージでプレイ出来るのが嬉しい。映像も一緒に持って行けるように、今年に入って友だちが手掛けてくれたの。私のフェスティバルでのエネルギーを日本に持ち込めることにとても興奮しているし、日本のフェスティバルは初めてだから、どんな風に受け入れてもらえるかワクワクする。それにもちろん、ラインナップに加えてもらったことに本当に感謝しているし。
前回来日時の映像
―今回はDJセットになるのでしょうか? それとも、最近披露しているバンドセットも取り入れる予定ですか?
ニア:楽器は入らないけど、DJしながら同時に歌うから、ちょっとしたハイブリッドという感じね。なかなかのマルチタスクなんだけど、私の作る音楽には合っているスタイルだと思う。客席を盛り上げつつ、自分の歌を歌ってパフォーマンスも披露出来るから。私自身、すごく興奮しているし、きっとソニックマニアにぴったりだと思う。
―同じイギリスからはアンダーワールドとヤング・ファーザーズも出演しますね。
ニア:アンダーワールドは大好き。彼らは本当にすごいし、出演時間が重なっていなければ、彼らのセットを観られたらすごく嬉しいな。ヤング・ファーザーズのことは、最近リリースしたアルバムで知ったの。彼らもとてもクール。だから本当に超楽しみ!
ニア・アーカイヴス
『Silence Is Loud』
発売中
再生・購入:https://umj.lnk.to/NASIL
SONICMANIA
8月16日(金)幕張メッセ
開場:19:00/開演:20:30
公式サイト:https://www.summersonic.com/sonicmania/
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