ロックバンドの存在意義を示した「ツタロックDIG Vol.14 OSAKA」現地レポ
Rolling Stone Japan / 2024年7月15日 12時0分
「ツタロックDIG LIVE Vol.14」が2024年6月22日に大阪の心斎橋BIGCATにて開催された。今、チェックしておきたい次世代のシーンの主役を集結させる「ツタロックDIG」は2021年より規模を拡大し、大阪では3度目の開催となる。今年はFish and Lips、berry meet、TRACK15、606号室、レトロマイガール!!、ガラクタ、トンボコープ、アルステイク、moon dropと、期待を集めるロックバンド9組が出演。9組それぞれの個性がふんだんに出たこの日のライブレポートをお送りする。
【画像を見る】9組の熱いライブ写真(全122枚)
Fish and Lips(Photo by @松本いづみ)
1組目はオープニングアクトのFish and Lips。
西村大地(Vo.Gt)、岩本柊平(Ba)、岩田雄大(Dr)からなる、3月に高校を卒業したばかりのスリーピースロックバンド。登場した3人はステージ上で気合を入れ、「埼玉、フロム鳩ヶ谷! Fish and Lips始めます。よろしくお願いします!」という西村の言葉から「HERO」がスタート。
時刻は12時20分とまだ開場中であったが、鳴り響き出したロックバンドの確かな音に目掛け、観客はどんどん前に詰めてくる。そして手拍子、拳もみるみる増えていき、サビではフロアからも歌声が聴こえるように。
曲が終わって拍手が起こった後、西村から「オープニングアクトなんですけど、そういうのもひっくり返せるように一生懸命頑張ります。よろしくお願いします!」と話し、「会いたくなったら」がスタート。演奏中「会いたかったよー!」と西村はフロアに向けて叫ぶ。フロアも「こっちもやでー!」と言わんばかりのウェルカムな反応で、既に早耳リスナーには彼らの音楽がしっかり届いていることが分かる。そして盛り上がりそのままに間髪入れずラストの「青春ロックを歌って」をスタート。10代の少年達が、BIGCATという大きなステージの照明に照らされながら、堂々としたライブを行い、サビで合唱を巻き起こす姿は、間違いなくロックヒーローの原石といえよう。最後はより情感たっぷりに<ギターがある 音楽がある なんて素晴らしい青春だ>と歌い上げると、万雷の拍手が巻き起こった。そして「ツタロック大阪へ、ようこそ!」と西村が叫び、次世代の若手ロックバンドを発掘するイベント、「ツタロックDIG LIVE Vol.14-OSAKA-」が幕を開けた。
berry meet(Photo by @松本いづみ)
2組目に登場したのは東京のスリーピースロックバンド・berry meet。
SEこそしっとりとしたものだが、たく(Vo.Gt)の「berry meetです! よろしくお願いします!」から1曲目の「煌めき」のギターイントロが始まると、もう一気に3人らしいハツラツとしたPOPロックの世界に変わる。この曲はただ明るいだけでもなく、曲中でリズムの緩急も何度も変わっていってアトラクション性も高い。その完成度もあって、しっかりBIGCAT”全部”を愛で包み込んでいた。そんな空間で2曲目「純情」が始まると、すぐにクラップの嵐。たかなり(Ba)といこたん(Dr.Cho)の力強く骨太なビートも、よりフロアを煽る効果を出して、ラスサビのハモリは会場との一体感が大炸裂した。
続くMCでたくは「今日は来てくれてありがとう。”沢山皆に会いたい”という気持ちからberry meetというバンド名を付けました。バンド始めてから1年以上経ったのか。沢山の人が僕らと出会ってくれて、今日もこんなに沢山の人が来てくれて、berry meetというバンド名に恥じないバンド活動ができているんじゃないかと思っています。ありがとう!」と感謝を伝え、「今日実は満月なんですよ。6月の満月ってストロベリームーンと呼ばれてるらしくて。berry meetのベリーと月、ムーンと言ったら、この曲を演るべきじゃないかって思いました」と「月が綺麗だって」を披露。サウンドやMVの印象からクリスマス時期のイメージが強い曲でもあるが、先ほどのMCもあり<君に会いたくなって>という言葉が今日という場所にもしっかり刺さる。ただ涼やかで感傷的な気持ちを抱いたのも束の間。攻撃的なベースラインが鳴り出し、一気にダークで危険な香りを漂わす「幸福論」が始まる。サスペンス的な赤色な照明に染まった会場は虚をつかれた様子もありながら、このビートからは逃れられない。踊り出すしかないフロアだった。
続くMCでは3人は和やかに今日BIGCATや3月幕張メッセでの「ツタロックフェス2024」に出れたことへの感謝を話した後、「バチバチに盛り上がる」という新曲「溺愛」のコールアンドレスポンスのレクチャーに入る。フロアからは「大丈夫!」と「誓います!」とレスポンスするのだが、もう認知はバッチリ。演奏中の多幸感は結婚式を5分に凝縮したと言っても過言ではない。そしてラストの「図星」へ。ここでギターが鳴らなくなるハプニング。しかし、そこは昨年急速に注目を集めてから、それに見合うだけ鍛え上げてきたたかなりといこたんの力強い演奏力、3人のマイクワーク、そしてここまででフロアと作り上げてきた一体感パワーによって、より多幸感は高まった時間となった。ラスサビ前にはギターも復活し、しっかり演奏しきった彼らは「また来ます!」と宣言。「優しいフロアで楽しかったです。ありがとう!」とたくが話し、フロアを後にした。
TRACK15(Photo by @松本いづみ)
3組目は地元大阪からTRACK15。
蓮(Vo.Gt)がリハーサルで宇多田ヒカルの楽曲の一節を歌った瞬間でさえ、一気に会場の空気を変えた彼らは「プラネタリウム」からスタート。今が昼であることを忘れるほどの”暗”も活かした照明と星の煌びやかな情景が一瞬で浮かぶ寺田(Gt)の洗練されたギターが鳴り響く。疾走感のあるサウンドも相まり、本当に僕らは夜の山へ星を見に夜間ドライブをしている感覚に陥る。
挨拶の後、「BIGCAT、飛べますか?」と言って始まったのは「シティーライト、今夜」。しっかりフロアは躍動し、Bメロでは「パン、パパン」のリズムの揃ったクラップが鳴り響く。わずかこの2曲でもTRACK15とあなただけの空間を日常を忘れるほど作り上げる。最後は「1、2、3、JUMP!」の掛け声でより一層フロアは飛び跳ねた。
MCで「皆が「やっぱり音楽って最高やな」って思って帰ってもらえるように、あわよくば帰り道のイヤホンから流れる音楽がTRACK15の音楽であるようなライブをして帰ろうと思います。よろしくお願いします!」と話した後、「話したいこと」をスタート。ここでも優しい手拍子の発生と「歌って!」の合図でフロアも歌い出すなど、音楽を通して繋がりを感じ取れる時間が流れる。そのまま前田(Dr)のリズムの良いドラムの繋ぎから「朝起きたらもう13時やったっていう曲やります」と「私的幸福論」を投下。高橋(Ba)の優しいベースもあり、ちょうど昼の時間に聴くこの曲を聴くと、休日の昼ならではの解放感が生まれ会場は満ち溢れる。本当に夜に昼にと、彼らに時間を操られている感覚が続く。夢の中にいる感覚にも近いかもしれない。
再びMCで蓮は「このステージに立たせてもらえて本当に嬉しいです」と感謝を伝えた後、「『ツタロックDIG』っていうイベントは僕らにとって本当に憧れで。1年前もこのBIGCATで『ツタロックDIG』があったんですけど出れなくて、悔しくて、メンバー4人で見に行ったことをすごい覚えています。その時は関係者の方に『TRACK15って大阪でバンドやってます』ってCD渡して、名刺渡して、よかったら聴いてくださいって挨拶してたのが1年前。そこから自分達の信じる音楽とやり方で、なんとか今このステージに立つことができました。でも、俺らの力じゃないと思っていて。それはいつも言うんですけど、俺らがどんだけ良い音楽をして、良い演奏をして、良い歌を歌っても、聴いてくれる皆がいないとなかったのと同じだから。いろいろ毎日選択肢がある中に、ライブハウスに来てくれて本当にありがとうございます」と話すと会場からは大きな拍手。「これからも1年前と変わらず、自分達の信じた音楽で、やり方で、皆と一緒に1年前にはなかった音楽をどんどん作って、また皆に会いに来ようと思います!」と感謝を伝えた後、新曲「青い夏」をラストに披露。クリアなサウンドと歌声が慈雨のように降り注ぎ、宣言通り彼ららしさは残りつつ、また違った感触も残る1曲となっている。またこの曲も、夏以外に聴いても、夏の情景に閉じ込めてしまうのだろうな。日常から時間という概念を忘れたい人、TRACK15の音楽をイヤホンから流し、彼らのいるライブハウスに行きましょう。
606号室(Photo by @松本いづみ)
4組目も大阪から606号室。
昇栄(Vo.Gt)が「606号室始めます。どうぞよろしく」と挨拶すると、すぐさま「君のことは」の印象的なキーボードのイントロが円花(Pf.Cho)によって鳴らされる。ゆうあ(Ba)とくわ(Dr)のリズム隊の2人もいきなりトップギアを入れた躍動感のある演奏を見せ、初のBIGCATという舞台での気迫が1曲目から伝わる。そのまま昇栄は叫ぶように「あなたのことは全部分かってあげれないけど、あなたが苦しいと思う夜くらいは、俺たちの音楽で支えに来ました。『いつだって青春』!」と次の曲に繋げる。力強さをそのままに、この”正解のない世界”を生きる難しさを正直に歌うこの曲のメッセージを、フロアもしっかり受け止めてクラップや拳で反応する。そして畳み掛けるように「大親友、おざきゆうあ」という掛け声と共に空間を揺らすようなベースが鳴らされて「抱きしめてやる」がスタート。ひょっとしたらこのバンドをピアノロックの優しい歌ものバンドと思っている人も多いかもしれないが、シャウトもあるし、力技でBIGCATに名前で刻んでいこうとする圧力を感じた。
いつにも増してパンキッシュな前半を終え、MCに入る。来てくれたことへの感謝を伝えた後「『ツタロックDIG』は実は出るのが3回目で。1回目はオーディションで東京(『ツタロックDIG LIVE Vol.12-EXTRA-』)のオープニングアクトを出させていただいて、2回目も東京(『ツタロックDIG LIVE vol.13』)のクロージングアクトで15分間の演奏させてもらって、今日3回目で30分もらいました。ありがとうございます」と話すとフロアから拍手が起こる。その後、ゆうあが止めても昇栄がBIGCATでどうしても話したかった猫の話をして和やかになった後、周りからバンドを始めることを反対されながらもメンバーが1人ずつ増え、夢を追ってここまで来たことを話し「まだギターも弾けない時に、18歳の僕が1人ベランダで書いた曲を」と言って「静寂の夜に」を始める。徐々にメンバーの音が重なっていく様が魅力的なドラマチックなバラードだが、それは紆余曲折を経てこの4人が出会い、今BIGCATに揃っている背景と重なる。続けて「なかなか思い通りにいかない日々の中で、あなたが新しく来る朝を愛するように歌います」と優しい空気に包み込むナンバー「明日になれば」に繋げた。
「まだまだいけますか、BIGCAT! 次の曲、めちゃくちゃ楽しい曲やるんで俺たちと一緒に歌ってくれますか? 跳んでくれますか!」と問いかけて始まったのは「スーパーヒーロー」。全員が手を掲げながら跳びはねるフロアは1人だけの力ではない特別な何かに溢れる。この日が体調不良からの復帰ライブとなった円花が力強く手を上げながらキーボードを弾く姿は印象的だった。そして「ラスト1曲! 俺たちから最大の強がりなラブソングを」と「未恋」を演奏。2度のツタロック出演からも慢心せず、歩みを決して止めず掴み取った4人だからこそ生まれた満員のフロアから上がる何百もの拳とフロアに振ってもしっかり返ってきたサビの合唱。これにて終了かと思いきや「やっぱりこんなんじゃ終われないんで!」と2度目の「抱きしめてやる」を投下。30分でも最後まで切れなかったこの気迫。まだまだ大きなステージに連れて行ってくれることを予感させた。
トロマイガール!!(Photo by @松本いづみ)
5組目は大阪北摂からレトロマイガール!!。関西勢3連発であり、本日最後の関西勢。
1曲目の「君と夕焼け」の人懐こいメロディはグッと会場を掴み、そして花菜(Gt.Vo)も会場の1人1人の”君”を見渡して指差しながら「いけますかー?」と会場を煽る。自然体に、それでもしっかり右肩上がりに会場の温度を上げていき、後方のお客さんも元気に手を振る。続く「映画で会いましょう」では、変わらず花菜のボーカルは真っ直ぐ入ってきながら、あやき(Ba.Cho)とひらおか(Dr .cho)のBメロやサビでの<ねぇねぇダーリン聞いてよ>のコーラスも印象的。ライブだからこそ感じる、3人からの強いエネルギーに会場は包まれていた。
「昨日配信開始された新曲をやります」と披露されたのは「夏が過ぎて」。軽快なドライブビートと持ち味のコーラスワークで魅せるだけでなく、あやきのボーカルパートもある楽曲。会場はしっかり盛り上がった。
ここでMCに入り、花菜が挨拶をした後「BIGCAT楽しんでますか?」と聞くと当然と言わんばかりの拍手が秒で返ってくる。「我々は大阪を拠点に活動しているんですけど、大阪のバンドマンは皆BIGCAT大好きなんですよ。デカいし、楽しいし。今日はいっぱい友達も出ているので、皆見て帰ろうと思ってます。よろしくお願いします」と話し、「高校生の時に作った曲を」と「24時」を鳴らす。ここまでとはうって変わってしっとりとしたバラード。本日唯一の女性ボーカルが歌う、自分の後悔や情けなさも丸裸に伝わるこの楽曲に、学生世代の女性が多く見えたフロアもじっくり受け取っているように見えた。そしてライブ前日に配信されたもう1つの新曲「落陽」も披露。ギターが唸り上げ、地面から突き上げてくるようなイントロから始まり、雄大さを感じるサウンドはステージ上の3人の果てしないスケールの大きさを感じさせるには十分な1曲だった。
「またパワーアップして帰ってきます。ありがとうございました。レトロマイガール!!でした!」と最後のMCをした後、ベースの軽快なリズムが鳴って始まったのは「グッドバイマイタウン」。<大丈夫さ>と繰り返し歌うこの曲と最後まで伸びやかな歌声とサウンドに自然とクラップも起きるし、何より彼らにフロアが安心感を感じているのが伝わる。シンプルに楽しい気分なのに、うっかり涙が出る人もいたのではないだろうか。そして「最後、みんなで楽しんで帰れますか!」と猪突猛進な楽曲「バンジー!」を投下。ひらおかのドラムプレイもエンストするんじゃないかというくらい止まらない。間違いなく1つのアトラクションを体感した気分にさせてライブは終了した。
人は圧倒的な草原とか山とか海とかの自然を見ると心が安らぐもの。レトマイのライブにはそれを思わせるような音の力がある。だからこそこの長尺イベントの中盤という難しいポジションでも存在感を示すことができたと感じた。
ガラクタ(Photo by @松本いづみ)
6組目に登場したのは名古屋からガラクタ。
まずは疾走感のある「どこか」でスタート。ここまで登場してきたバンドに負けないスピード感とエネルギー。こた(Gt)も何度も前に出てギターを弾き倒して会場を盛り上げる。勢いそのままに「一生片想い」「1分1秒」と息を落ち着かせないナンバーを畳み掛ける。
MCではる(Vo.Gt)は「BIGCATというバンド史上1番デカいキャパでやらせてもらってます」と感謝し、「ですけども、いつも通り宝物みたいなライブを届ければと思うので、最後までよろしくお願いします!」と力強く話した。そして優しくギターを鳴らしながら「大切なラブソングを歌います」と「ラブレター」を演奏。「今日ここに来てくれた1人1人に」という言葉通り、BIGCATというキャパにいる人数分の胸にしっかり届いていた。続く「相変わらず、愛変わらず」も温かみのあるバラード。会場全体がゆっくりと体を揺らす様は、そよ風に揺れる稲穂のよう。2曲ともひろと(Ba)の優しいベースラインが聴き込まれ、最後のちゅうじょう(Dr)のドラムが丁寧に叩き終えるまで、しっかり引き込まれていた。他のイベントで見た時もそうだが、このバンドは本当にバラードを周りに惑わされず、しっかり届けて結果を出してくれる。”これが自分達の戦い方”という自信を感じて見ていて気持ちいい。
続くMCでは「今日は長尺なんで適度に水分補給して、休憩して楽しんでください」と気遣いながらも、「リハでもやった新曲を皆でブチ上げてやっていきたいんですけど皆できますか!」と他のバンドに負けじと盛り上げようとする気の強さも見せる。ちゅうじょうのドラムのリズムにすぐフロアは高々としたクラップで応え「いいね!」とはる。そしてクラップが鳴り響き続ける中、新曲「UFO」を披露。心をほぐすようなこのサウンドはこれからもライブに欠かせない楽曲となるだろう。
そしてここから再び畳み掛けゾーン開始。まずは彼らの名前を広めた「アイラブユーが足りないの」。間奏では「ツタロックそんなもんか。もっといけるっしょ!」と煽り、応えたフロアに「最高!」とコミュニケーションもバッチリ。そしてさらなる新曲「デートしよ!」を投下。「どこか」や「1分1秒」に匹敵する高速ショートチューンに全員のテンションは大盛り上がり。そして息つく間もなく「貴方依存症」に繋ぐが、4人のリズム感は終始強固で崩れないし、どの曲のワードもスッと入ってくる耳馴染みの良さがあるから、会場も一体感がすぐ生まれる。そして最後は再び「1分1秒」をプレイし、最後の力を振り絞った彼ら。バラードでも、ミディアムチューンでも、高速ショートナンバーでも、心にキラキラとしたものを沢山送り届けた30分だった。
トンボコープ(Photo by @松本いづみ)
7組目はトンボコープ。
近未来を感じさせるようなエレクトロなSEで登場した4人は「ストーリーモンスター」からスタート。素人目にもすぐ分かるテクニックの高さとキャッチーさの共存。Bメロでの「声を聞かせてくれ!」という雪村(Vo.Gt)の声かけでしっかりシンガロングが起こる。そらサンダー(Gt)のギタープレイの熱も後ろまで届き、でかそ(Ba)と林(Dr)のリズム隊の重みのある高速ビートも、さらにそこに拍車をかける。「トンボコープです、どうぞよろしく! まだまだやろうぜ!」と言って続けたのは「過呼吸愛」。中毒性のある語感のリズムと演奏の飽きさせない展開によって、細胞レベルでこの音楽が体内に入ってきていることが分かる。自分の音楽を楽しむツボを、いつの間にか解析されていた気分だ。
「今日は見に来てくれてありがとう!」とMCを始めると、初BIGCATの感想を話し始める。でかそは「映画館みたいですね。広いステージって隠れて(最前の端の方が)お客さん見えなかったりするんですけど、全部見えていいっすね……いいっすね〜!」とまったり話す。雪村も「今日はドラムの龍之介からもらった長袖で来ちゃったんですけど、めちゃくちゃ暑いです。でも頑張ります」と話す。雪村は「3月、幕張でのツタロックフェスに出た時にもらったイベントTシャツも日常生活で着ています」とのこと。ツタロック愛、多めです。
「最高の音楽をやって帰ります!」と言って始まったのは「独裁者」。始まった途端に力強いドラムとフロアのクラップが融合し、サビでは自然とフロアが横に手を振り「最高の景色だ!」と楽しそうに伝える。レインボーでカラフルな照明も彼らとこの楽曲を映えさせる。そしてそこからハイテンションのロックチューン、「風の噂」がスタート。個人的にも彼らの魅力を全部詰め込んだような楽曲だと思っているが、フロアもここまでライブでしてきた様々なリズムのクラップ、拳、ジャンプ、シンガロングといった反応を全て引き出されていて、それは<世界で一番幸せ者にするからさ>という歌詞通りであることを証明していた。
続くMCでは、定番となっているでかそピースの時間。せーのと言ったら全員でピースを掲げながら「イエーイ!」というこれ。しっかりピースフルな空間を作る。その後もたこ焼きを80個買って車内に落としてしまった話などをまったり話す。そんなリラックスもしながら最後雪村は「BIGCAT憧れていたので出られたことが嬉しいですし、この後も最高なバンドが出てくるので、最後まで楽しんでください! トンボコープでした!」と話して、「Now is the best!!!」を投下。彼らを知らしめた楽曲でもあるこの曲でのクラップの一体感はさすが。そして最後は雪村がギターを置き「皆で歌える曲持ってきました」と「喜怒哀楽」を演奏。ゆったりとしたドラムの”ドン・ドン・ダン”のリズムに合わせた手拍子のリズムからは曲名通りあらゆる1人1人の感情が零れ落ちていくのが分かる。終始何百人ものあらゆる感情をピースフルに受け止めた彼ら。それを可能とする曲は、非常に強固で、器の大きさも尋常ではない。大型ロックフェス出演も増えているが、もう何万人と受け止める準備はできている。
アルステイク(Photo by @松本いづみ)
8組目は岡山からアルステイク。
板付で始まった彼らはまずゆっくりとひだか(Vo.Gt)がギターを弾きながら「ワガママ」を演奏し始める。優しくも力強く鳴らされるこの楽曲は、どちらかと言えばうっとり聴いていた自分がいたのだが、アウトロが徐々に大きくなっていき、ひだかは「岡山! アルステイク! ライブやりに来ました! よろしくお願いします!」とボルテージが上がっていき「嘘つきは勝手」を開始。のん(Ba.Cho)のステージを駆け回る躍動感、あむ(Dr.Cho)の演奏とコーラスも力強さを増していく。「思い出も生傷もカサブタも全部見せて帰ってください。よろしく!」と告げて始まった3曲目は「裸足と裸足」。フロアに言った通り、ステージ上の3人も人生全部を乗せて、楽器を通して、本気で音にして、表現していく様が伝わる。
MCでひだかは「俺らのこと初めて見る人もいると思うし、全く曲を知らない人もいると思うんですけど、ライブハウスって初めましてで顔も知らないのに、名前も知らないのに、心の中にスッて入ってきちゃう音楽がいっぱいある。それがライブハウスだと思っているんで。知ってても知らなくても、言葉に、メロディに、耳を澄まして、いろいろ思い出してください。最後までよろしくお願いします」と話す。そして「大阪に何回も来てた時の歌」と「(終わりの続き)」を披露。ゆらゆらとした恋心を歌い、クライマックスでは青の照明をバックにひだかとのんが背中合わせになるシーンは感動的だった。
再びMCに入りツタロックへの感謝を伝えた後、過去3回のBIGCATでのツタロックで今回が一番動員が多いことを話し、フロアにも感謝を伝えると会場から拍手。そして「今日いろんなバンドがいたと思うけど、ツタロック”ライブ”なんで! 初めてのBIGCATであなたの目の前でしっかりしっかりロックバンドやって帰ります。よろしくお願いします!」と告げると、ここから20分は攻撃力が一層高い時間に。「ロックに騙されていることに気が付かないほど信じてる」「未完成のまま」「わんちゃん」と続け、ひだかも「一番熱い時間に!」「今日はっちゃけないでどうすんの⁉︎」とありのままの熱量を見せる。まだ中盤戦なのにあむはスティック放り投げるし、8曲目「チェリーメリー」では、ステージを所狭しと駆け回っていたのんがいよいよフロアに降りてきた。そして遂にMCで「今日は大人しめの人多いですよね」と言われたフロアからもダイブが出始める。「作品から商品に成り下がるバンドいる中、俺らのライブはどう見える⁉︎」という問いもあったが、まぁ正直この熱量をどう書き表せればいいのか悩んでいる私がいるのが答えだろう。「ダメ彼氏」も投下した後、「疲れてないですか?」と聞くと今日一番野太い声が上がり、これまでの様相とはやはり変わっていることが分かる。そこから「走れ」「踊れ」と駆け抜けていく中で、ひだかは1人フロアに降りてギターを掻き鳴らして会場と歌うフロアライブ状態になる場面にも。最後は「ライブハウスじゃない時もいつか笑えますように」という言葉から優しい歌「心」を情感たっぷりに演奏。ロックバンドとしてのパスをトリのmoon dropに繋げた。
moon drop(Photo by @松本いづみ)
そしてトリはmoon drop。
「サヨナラCOLOR」のアコギの優しいSEで登場し、浜口は息をスーッと吸って「ヒメゴト」を歌い始める。どこを切り取っても泣きメロとなる極上のバラードを鳴らす姿は神々しささえ感じるが、優しく寄り添ってくれる気の良いお兄ちゃん達とも感じる。ここまでの8バンドを見たフロアも沢山の感情を放出し、少しハイになった状態とも思うが、そういうのもまとめて包み込んでくれた。
そして「ツタロックの皆さん! 俺たちは準備万端なんですけど遊べますかー!」と問いかけると大歓声。そして「踊ろうぜ!」という言葉で始まったのはアップテンポのナンバー「ラストラブレター」。この日最後と分かってるフロアも思い思いの手拍子を鳴らして呼応する。清水(Gt)も前に出てギターソロを見せ、坂(Ba.cho)もステージを裸足で駆け回り、原(Dr)のドラムの音も実に瑞々しい。
「大阪最高です。ありがとうございます!」と浜口が叫んだ後にフロア全員のお手を拝借して始まったのは「どうにもならんわ」。”パンパパン”のクラップのリズムから「いくよ!」の合図で拳も高々と上がる。「恋してる⁉︎」と問いかけていたが、多分それは今だろう。続けて浜口がギターを持ち替えて始まったのは「夏を迎えに来た」という新曲「閃光花火」。ソリッドなギターサウンドが非常にクール、浜口の歌唱も胸に迫ってくるものがある。曲終盤には圧巻のシンガロングが巻き起こるパートがあり「最高の声でした!」と浜口も感謝する。
MCでは「この時間まで残ってくれてありがとうございます!」と感謝する。ツタロックのイベントには多数出演していることと、トリを任せられたことへの感謝も忘れず同時に「ここまで繋いでくれたバンドがいっぱいいるわけですよ。だから任されたこのステージ、中途半端なライブはできん! だからもう一度言わせてくれ。俺らがmoon dropです! よろしくお願いします!」と決意表明し「しっかり焼き付けろよ!」と「君に捧ぐ」を始める。歌と演奏だけでなく「ありがとう、見えてるよ!」「泣くな笑え笑え!」「生き辛いならまたここに帰って来い!」という言葉でもBIGCATに天井知らずの愛を積み上げる。
そして「最高に幸せだったんですけど、皆はどうですか! また会おうな!」という言葉からラストの「水色とセーラー服」を投下し、感動のフィナーレとなった。
その後、アンコールに応え登場した4人。フロアに向かって問いかける時間があり「今日初めてライブハウスに来た人?」と問いかけるとチラホラと手が上がる。その第1歩に感謝し「好きなバンドや好きな曲に救われてここにいると思うけど、そこに今日が含まれますように!」と「ex.ガールフレンド」を演奏。<君の歌を歌ってるんだよ>という歌詞があるが、恐らくフロアにいる1人1人がそんな曲を発掘できたのではないだろうか。そして最後に「『ツタロックDIG OSAKA』、これにて終了です!」と浜口が叫び、大団円となった。
とにかく全てのバンドがフロアに真正面からぶつかっていったのが印象的だったこの日。moon drop以外憧れの初BIGCATというラインナップだったが、呑まれることなく、果てのないスケール感に将来性を感じずにはいられない。これからロックバンドというものの存在意義を間違いなく加速度的に大きくしてくれる9組。でも普段は小さなライブハウスにいる9組。ぜひ気になった方はこれからもライブを見に行って、心と心のコミュニケーションを深めてほしい。
Text by 遊津場
Fish and Lips
セットリスト
1. HERO
2. 会いたくなったら
3. 青春ロックを歌って
berry meet
セットリスト
1. 煌めき
2. 純情
3. 月が綺麗だって
4. 幸福論
5. 溺愛
6. 図星
TRACK15
セットリスト
1. プラネタリウム
2. シティーライト、今夜
3. 話したいこと
4. 私的幸福論
5. 青い夏
606号室
セットリスト
1. 君のことは
2. いつだって青春
3. 抱きしめてやる
4. 静寂の夜
5. 明日になれば
6. スーパーヒーロー
7. 未恋
8. 抱きしめてやる
レトロマイガール!!
セットリスト
1. 君と夕焼け
2. 映画で会いましょう
3. 夏が過ぎて
4. 24時
5. 落陽
6. グッドバイマイタウン
7. バンジー!
ガラクタ
セットリスト
1. どこか
2. 一生片想い
3. 1分1秒
4. ラブレター
5. 相変わらず、愛変わらず
6. UFO
7. アイラブユーが足りないの
8. デートしよ!
9. 貴方依存症
10. 1分1秒
トンボコープ
セットリスト
1. ストーリーモンスター
2. 過呼吸愛
3. 独裁者
4. 風の噂
5. Now is the best!!!
6. 喜怒哀楽
アルステイク
セットリスト
1. ワガママ
2. 嘘つきは勝手
3. 裸足と裸足
4. (終わりの続き)
5. ロックに騙されていることに気が付かないほど信じてる
6. 未完成のまま
7. わんちゃん
8. チェリーメリー
9. ダメ彼氏
10. 走れ
11. 踊れ
12. 心
moon dropセットリスト
1. ヒメゴト
2. ラストラブレター
3. どうにもならんわ
4. 閃光花火
5. 君に捧ぐ
6. 水色とセーラー服
En.ex.ガールフレンド
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