Saluteが語るUKガラージ、フレンチタッチ、ゲーム音楽、リナ・サワヤマと日本文化の融合
Rolling Stone Japan / 2024年7月13日 11時0分
日本が誇るカルチャーとして語られがちなビデオゲーム。Y2Kリバイバルの流れでもたびたび取り上げられてきたが、近年の音楽シーンに与えている影響も大きい。PlayStation 2などのゲームソフトで用いられていたBGM、特にドラムンベースやガラージがクラブシーンのトレンドと合流し、再解釈の動きが見られる。
サルート(Salute)ことフェリックス・ニャジョは、音楽の都ウィーンで生まれ育った、ナイジェリア系オーストリア人プロデューサー/DJ。1996年生まれの彼もまた、そういったカルチャーを受容して育ったのだが、そんな彼の1stアルバム『True Magic』が、老舗レーベルNinja Tuneからリリースされた。13歳で音楽制作を始めて15年、若くしてキャリアを積んだ彼の満を持した今作は、バックボーンであるゲーム音楽へのオマージュ、彼の人生を支えてきたクラブミュージックへの愛が詰まった、コンセプチュアルな力作だ。
ゲーム音楽や日本文化、クラブミュージックの中でもフレンチタッチへの愛着、今作に参加したリナ・サワヤマとなかむらみなみなどゲスト陣、拠点とするマンチェスターの音楽シーン、そして彼のクラブミュージック哲学まで。今年4月、Rainbow Disco Clubでの来日時に話を訊いた。(質問作成・文/hiwatt、取材・小熊俊哉)
ゲーム音楽や日本文化からの影響
—今回はRainbow Disco Clubでの来日ですよね。あなたがフェスを絶賛しているポストを見かけましたが、改めてどこがそんなによかったのでしょう?
サルート:全部だよ! 音楽がちゃんとトッププライオリティに考えられているフェスだって本当にわかるんだ。日本に来ていつも思うのは、日本のオーディエンスは幅広いジャンルにオープンで、心から音楽を好きなんだってこと。ダンスフロアで一緒に踊ったらひしひしと伝わってきた。Rainbow Disco Clubのファウンダーたちと話す機会があったんだけど、みんな本当に音楽が大好きで、まさに音楽が人生。ラインナップもすばらしいし、ロケーション、サウンド、照明、プロダクション、フード……どれをとっても完璧。会場に足を踏み入れただけで、これはきっとすばらしいフェスになると感じたし、実際そのとおりだった。1週間くらい滞在したかな。Xでもつぶやいたけど、仕事以外でまた絶対に参加したいと思えるフェスの一つだね。
Rainbow Disco Clubは15年も続いていながら、3000人のキャパシティを保っている。金を稼ぎたいだけなら毎年規模を大きくしていくこともできるのに、サイズを維持していてクオリティの犠牲を選択していない。それは、純粋に最高のものを作りたいという彼らの姿勢を表わしている。イギリスやヨーロッパのフェスでも、最初はみんな音楽を第一に考えているんだけど、フェスのクオリティを落として、だんたんと金儲けに走っている光景をよく目にするんだ。Rainbow Disco Clubはそうじゃない。年々よくなってるし、今年はこれまででベストだったと話していた。15年かけて作り上げられたものは、やっぱり特別だよ。
この投稿をInstagramで見る salute(@saluteaut)がシェアした投稿 2024年4月、Rainbow Disco ClubでのDJ
—実際に日本を訪れてみて、もしくはインターネットを通じて、日本のカルチャーから影響を受けてきた部分はありますか?
サルート:一番最初に挙げるべきはインターネットからの影響だね。日本に来たのは去年が初めてで、ビジュアルの美しさ、クリーンさにすごく感銘を受けた。ティーンの頃は、日本の80年代の広告動画をYouTubeでよく見ていたんだ。すごく刺激的だったし、ダイナミックなビジュアルが強く印象に残った。その影響もあって、僕の音楽は視覚的なセンスとも類似性があると思っているし、自分で意識していることでもある。日本に来て感じたのは、ダンスミュージックのシーンは小さいけれど、すばらしいDJがたくさんいること。日本で出会ったDJはセレクトやスタイル、どの点においてもハイクオリティだよ。それから、僕は日本のジャズフュージョンが大好きなんだ。角松敏生、カシオペアにT-SQUARE。ティーンの頃からずっと聴いていて、大事な音楽の一つ。彼らのサウンドは、僕の音楽表現に表われていると思う。
—別のインタビューで「自分のサウンドをユニークなものにしているのはシティポップ、80年代ソウル、ゴスペルといったエレクトロニックでない音楽の影響だ」と語っているのを見かけました。そのあたりを具体的に聞かせてもらえますか?
サルート:僕はクリスチャンの家庭で、ゴスペルを聴きながら育った。特に90年代のゴスペルはたくさん聴いてきたよ。80年代のシティポップやソウルもそうだけど、ゴスペルって本当にドラマティックかつソウルフルな音楽で、僕はずっと魅了されてきた。そういう育ってきた環境は、自分の音楽スタイルにも反映されていると思う。アグレッシブでハッピーな感じって言えばいいかな……サンプルで使う音楽も、80年代のソウル、日本のジャズフュージョンが多いね。僕のルーツで、親しみを感じるんだ。
—80年代のソウルで特に好きなのは誰ですか?
サルート:そうだな……一瞬チェックしていい?(スマホを見ながら)グレン・ジョーンズはお気に入り。彼は70年代後半から80年代に活躍したアーティストで、プロダクションに艶やかなシンセを使っているのがいいんだよね。アリシア・マイヤーズもすばらしい。彼女は70年代後半から80年代前半に活躍していた。ワン・ウェイ(One Way)、エンチャント(Enchantment)は、70年代ファンクの影響を受けているんだけど、シンセをたくさん使っている。僕はエアリーで艶やかな音楽が好きなんだ。
—あなたはオーストリア出身とのことですが、そちらに何歳まで住んでいたのですか?
サルート:18歳まで住んでいたから、子供時代はずっとオーストリア。それからイギリスに移った。家族はいたってスタンダード。父はタクシー運転手で、母は看護師。ごく一般的で平穏なワーキングクラスの家庭だよ。子供の頃から音楽は近くにあって、親はファンク、ソウル、レゲエ、ゴスペルをよく聴いていた。母は教会でコーラスをやっていたし、兄はキーボードを弾いていた。音楽的には豊かな家庭だったんだ。それ以外では、ハウスやテクノだね。この2つは当時オーストリアでビッグシーンだった。泳ぎに行ったら大音量でハウスやテクノが普通にかかっていて、子供ながらに耳にしてたんだ。そうそう、ドラムンベースも人気だった。
—そういった音楽の多くは、ビデオゲームを通じて出会ったそうですね。
サルート:10〜11歳の時はずっとNintendo DSやPlayStation 3で遊んでいた。ゲームのサントラからはかなり影響を受けたし、音楽だけを聴くのもすごく好きだった。とくに長沼英樹が手がけた『ソニック ラッシュ』のサントラを聴いた時は衝撃的だった。ブレイクビーツやジャングルのハードなコードがたくさん入っていて、あんなに手の込んだサントラは聴いたことがなかったよ。そのサントラをきっかけに、エレクトロニックミュージックに興味を持ち始めた。聴いていてすごく気持ちよかったんだ。10歳の僕には、どうやってこんな音楽ができるのか想像もできなくて、それが音楽づくりへの興味の発端になった。僕のサウンドはゲームのおかげだよ。
—今作っている音楽も、ゲームの影響を受けているってことですね。
サルート:僕が遊んでいたゲームからの影響が大きいかな。サウンドが過剰で、複数のことが同時に作動してる、みたいな。僕の音楽もそう。密度が高くて、とにかく詰まってる感じ。ゲームミュージックってプレイヤーを刺激するのが目的で、そこに惹かれるんだよね。僕のサウンドにも、そういった要素が含まれていると思う。
—あなたが特に好きなゲームのサウンドトラックは?
サルート:さっきも言った『ソニック ラッシュ』はずっと好きで、iPodにダウンロードしてまで聴いていたのはこれだけだったと思う。タイムレスで、今でもよく聴いているよ。スノーボードゲームの『SSX On Tour』は実際の曲がサントラになっていて、よくキュレーションされている。ボノボにクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ……いろんなアーティストが入ってるよね。それから『FIFAストリート2』も好きだな。音楽的にはジャングルで、ペンデュラム、グライムのアーティストも参加している。当時のダンスミュージックの方向性がうまく切り取られてると思うよ。
『True Magic』で実践したクロスオーバー
—最新作の『True Magic』を聴いて、アートワークさながら、作品全体としてプレイステーションでレースゲームをプレイしているような感覚に陥りました。どのようなコンセプトで作られたのでしょうか?
サルート:その感覚は、まさにコンセプトどおり! 全体のコンセプトはこうだ。君はレースに参加していて、いろんなステージにトライしている。そして、君が選んだ車の名前は”True Magic”ーー実は、このコンセプトは完成するまで定まってなかったんだ。エグゼクティブ・プロデューサーのカルマ・キッドとアルバムを聴いて、ビジュアル的にもサウンド的にも、すべてモーションとスピードに関連していることに気づいた。80年代の日本車が好きだったのもあって、そのアイディアを組み合わせて今のコンセプトに行き着いた。カラフルで明るくて、マリオカートで遊んでるような感覚を表現してるよ。
『True Magic』アートワーク
—今、世の中が暗い時代とされるなかで、すごくアップリフティングな印象も受けました。そういった作品を意図的に作ろうと思った部分もありますか?
サルート:意図的かどうかは分からない、結果的にそういった印象になっただけかな。僕の場合、悲しい出来事を曲にしたとしても、曲自体が悲しいテイストになったりはしなくて、どちらかというとユーフォリックなサウンドになると思う。それはやっぱり、ダンスミュージックやフレンチタッチといった、エナジェティックでアップリフティングな音楽が好きだから。80年代のソウルや日本のジャズ・フュージョンもそう。それらの音楽体験がダイレクトに作品に反映されている。もちろん、ダークでヘヴィなダンスミュージックも好きだけど、個人的にはアップリフティングの方が好きなんだよね、作るのもそっちの方が楽しい。
—フレンチタッチを踏襲した「maybe its you」のような曲があります。あなたはスターダスト「Music Sounds Better With You」のリミックスをDJでの十八番にしてきた印象ですが、フレンチタッチはご自身やシーンにとって、今改めてホットなサウンドだと言えるでしょうか?
サルート:今人気を集めてるシーンなのかどうかはわからないけど、フレンチタッチは、iPodに入れてずっと聴き続けてたくらい、初めてハマったハウスミュージックなんだ。僕の音楽的アイデンティティの大部分を占めてる。すごくシンプルだし、ハウスミュージックが苦手な人も楽しめる可能性が高いと思う。その身近さが好きだし、聴いた瞬間に惹きつけられるものがある。ハウスミュージックに詳しくなくても、聴いた時におもしろいと思わせる要素は、僕が音楽で表現したいことでもあって、このアルバムで特に意識していたことなんだ。
—そのあたりの音楽性の原体験はどういったものですか?
サルート:MTVでMVを見たりはしていたけど、基本的にはYouTubeだね。10〜12歳の頃はクラブに行ったりもしないし、クラブカルチャーのことは何も知らなかった。当時知っていたのは、YouTubeで見つけたダフト・パンクくらいじゃないかな。ビジュアルにすごく惹かれたんだよね。それからディグりはじめて。ジャスティスとか、Rude Recordsをチェックしたりとか……基本的にはインターネットだね。
—あなたが今のUKガラージ主体のスタイルとなったのは2021年頃からだと思いますが、UKガラージはまさにその頃から再びトレンドになったわけで、ムーブメントの最盛期にこの作品をリリースしたのは意義深いと思います。現時点であなたは、ここ数年のUKガラージムーブメントをどのように総括しますか?
サルート:今と昔のUKガラージはまったく別物で、2021年以前のUKガラージは、どこか懐かしいものとして捉えられていた。クレイグ・デイヴィッドに代表される、初期のUKガラージだよね。90年代後半から2000年代前半にかけてこういったことをやり始めたのはアーマンド・ヴァン・ヘルデンだった。それから2018〜2019年、コンダクタのKiwi Rekordsをきっかけに、違うジャンルの影響を受けながら再構築されて、UKガラージはノスタルジアの枠から抜け出したと思う。僕の作品もそう。ガラージのサウンドはありつつ、フレンチタッチとうまくクロスオーバーしている。このハイエネルギーな二つを組み合わせると、可能性は無限大だからね。今のUKガラージはすごくフレッシュで、ガラージにおもしろい影響を与えていると思う。
—もちろん、現行のUKガラージ・ムーブメントの前にはディスクロージャーの活躍が大きかったわけですよね。彼らも最新作にゲスト参加していますが、あの二人はあなたにとってどんな存在なのでしょう?
サルート:14〜15歳の頃からのファンで、すごく影響を受けてきた。2013年、たしか『Settle』(1stアルバム)をリリースした後の頃にライブに行ったんだ。ダンスミュージックをキッズ世代に広めた第一人者で、彼らの影響はこのアルバムにも反映されてる。僕が『Settle』で体験したように、ハウスミュージックを聴き始めたばかりのティーンたちに、「ガラージっていいかも!」って『True Magic』を通して感じてもらえたら嬉しい。『Settle』は、ダンスとポップの絶妙なクロスオーバーを成し遂げた見事なアルバムで、10年後、僕のアルバムもそんな存在になっていたらいいなって願ってる。ちょうどディスクロージャーのガイ(・ローレンス)ともそう話したところだった。
i'm so proud to present "lift off!" with my pals @disclosure, out now everywhere taken from my album TRUE MAGIC which drops at midnight. real special feeling making music with heroes of mine pic.twitter.com/Sl193OaZkq — salute (@saluteAUT) July 11, 2024
—『True Magic』には、日本とも縁のあるリナ・サワヤマが参加しています。昨年、あなたの公演に飛び入り参加していましたよね。彼女との交流とコラボ曲「saving flowers」について聞かせてください。
サルート:リナとは2015年に知り合った。彼女の1stアルバムのうちの1曲をプロダクションしたり、他の曲でも関わったことがあったから、彼女との付き合いは長くて。彼女がアイコニックなポップスターへと成長していく過程を近くで見てきた。今回のアルバム制作で、2番目に作り始めたのが「saving flowers」なんだ。去年の初旬のファーストセッションでインストゥルメンタルを作っていた時、曲の方向性、ボーカルのあり方がすごく鮮明に見えてきて、それを実現させるには誰がふさわしいか?と考えた時、僕と近いドラマティックな音楽を作っているリナが浮かんだ。彼女の声はすごくパワフルだし、日常を逸脱したポップスターであるリナの存在は、まさにパーフェクトだった。ブレイクダウンに彼女の声が入ったらこの曲はすばらしいものになるって確信したんだ。それで連絡したらオッケーしてくれて、すごく嬉しかったな。
リナ・サワヤマとサルート
—日本からもう一人、なかむらみなみが参加しています。彼女が参加した経緯と「go!」という曲について教えてください。
サルート:去年、Itoaが彼女とコラボした曲「Oh No」を聴いたことがあって。彼女の声はすごくいいと思ったし、エレクトロ・プロダクションによくマッチしたフローだった。かなりタイトなラッパーだよね。僕のDJセットでも彼女の曲を使っていて、東京のCircusでプレイしたこともある。彼女の曲を使うようになったのと同時期にアルバム制作をやっていたこともあって、一緒にやらないか聞いてみようって思ったんだ。このアルバムでフィーチャリングしているのはポップでソウルフルなアーティストが多いから、UKダンスのコンテクストとは違うアプローチのアーティストを入れたらきっとおもしろくなると思ったんだよね。それで彼女にInstagramで連絡して、ビートを送ったら気に入ってくれて。ボーカルを入れて送り返してくれたんだけど、それがすごくよくてさ。ビートと彼女の声は絶妙なコントラストを生んでいて、珍しいコンビネーションになった。
—今作はバンガー揃いですが、ご自身の中で最も気に入っている曲を教えてください。
サルート:お気に入りの曲はたびたび変わるんだけど、今はレア・センとの「softly」だね。彼女の声はすごく心地よくて、サウンドはエアリーで、すばらしいとしか言いようがない。アルバム全体はすごくドラマティックだけど、この曲のおかげで穏やかな瞬間が生まれた。全部トゥーマッチな感じにはしたくなかったから、この曲の存在は重要なんだ。こういったテイストの曲を作るのは初めてだったけど、納得できる作品が作れて嬉しいよ。あとは、みなみとの曲も気に入ってる。その2曲が今のお気に入りかな。
マンチェスターとの繋がり、”blackness”と政治性
—話は変わりますが、マンチェスターを現在の拠点にしている理由は何故ですか?
サルート:子供の頃はずっとウィーンに住んでいて、イギリスに戻って最初に住んだのはブライトンだった。でも街を出たかった、変化がほしくてさ。ロンドンは高すぎてちょっと住めないし、それでマンチェスターにした。選んだ理由はいくつかあって、まず友達がたくさん住んでいたこと。ボンダックス(Bondax)もいたし、カルマ・キッドも当時は住んでいた。経済的にもやっていける街だった。引っ越してきてから気づいたのは、マンチェスターにはすばらしいミュージックシーンがあること。ロンドンに比べたら、もちろん小さな街だけど、すごく豊かな歴史があるんだ。ハシエンダみたいなクラブがあって、アンビエント、テクノ、ハウス、グライム……多様なシーンが同時に存在してる。ここに来て8〜9年になるけど、今でもすごく楽しんでるよ。ラブリーな人がたくさんいて、マンチェスターは僕のホームだね。
サルートがリミックスしたカルマ・キッド「Say U Luv Me」
—私(hiwatt)の個人的な興味として、Mutualismであったり、Blackhaine、Rainy Miller、Space Afrikaのようなマンチェスターのアンダーグラウンドシーンに非常に興味があるのですが、彼らとの交流はありますか?
サルート:個人的につながりがあるわけじゃないけど、2年前にSpace Afrikaのプレイを観たことがあるし、Rainy Miller、Blackhaineもそう。マンチェスターのコミュニティってすごく密接で、お互いをリスペクトしてるんだ。彼らの音楽は、インダストリアルで生っぽくて、まさに旧工業都市のマンチェスターを表している。彼らはUKシーンにおけるマンチェスターの重要性を説明するぴったりな例だね。
—あなた自身、マンチェスターのシーンに属しているという認識はあるんでしょうか?
サルート:そうだね、マンチェスターではハウス、テクノやもちろん、ガラージパーティーも多いし、古いベース・ミュージックのシーンもある。マンチェスターだけじゃなく、リーズやリバプールも含めてイングランド北部にはいろんなシーンがあって、クールなハウスやガレージのサウンドを作ってる才能に溢れたアーティストがたくさんいる。そのシーンの中にいると思ってるよ。
https://www.youtube.com/watch?v=qZs2GuscWvY
—今作はNinja Tuneという老舗レーベルからのリリースですが、この出来事はあなたに変化をもたらしましたか?
サルート:ようやくその時がきたっていう感じかな。アルバムをリリースするのは、活動を始めた当初からのゴールとしてあって、Ninja Tuneからリリースすることは、アーティストとしてのアイデンティティを確立することを意味しているし、本格的に取り組むタイミングが来たと感じた。音楽へのアプローチも変化してきて、アルバム制作に関して言えば、以前はシングルのことばかり考えていたけど、ここから数年間はインパクトのあるプロジェクトをやりたいと思うようになった。Ninja Tuneのようなレーベルは、僕がリスペクトする数々のアーティストをサポートしてきて、彼らと一緒なら自分が目指すべきアーティスト像に向かっていけると思ったんだ。
—過去のインタビューで「自分はオーストリアで育ったので、ハウスやテクノは白人の音楽ジャンルだと思い込んでいた」と語っていたのも印象的です。ダンスミュージックと出会い、今自分で作っていることは、ご自身のアイデンティティにどのような影響を与えてきたと思いますか?
サルート:ハウスやテクノの起源について語っている人はあまりいないよね。若い頃は黒人が作った音楽だと知らなくて、ハウスミュージックを作り始めてから歴史を勉強してようやく、シカゴやデトロイトのブラッククィアのコミュニティから誕生した音楽だってことを知った。その事実は僕のアイデンティティに誇りを持たせてくれたし、シーンとのつながりをより強く感じられるようになった。ホワイトウォッシュされて見えなくなっていたダンスシーンのルーツ、”blackness”の存在に気づかせてくれたんだ。この歴史を知らなかったら、やっぱり白人が作った音楽だと思っちゃうよ。ハウスやテクノは、いろんなコミュニティが混ざり合って生まれた音楽なんだ。その歴史は僕を励ましてくれたし、今こうやって一部を担えていることを誇りに思ってる。
—先ほど「ハッピーな音楽を作りたい」とおっしゃっていましたが、一方で、ダンスミュージックは広い意味で、政治性も伴う音楽だと思います。あなた自身における音楽に政治性があるとすれば、それはどういったものですか?
サルート:僕の場合、必ずしも音楽に政治性を持たせる必要はなくて、それよりもプラットフォームをどう使うかということに関心がある。不平等な問題について発言する場所を持っているなら、それを利用するのはすごく大切だと思うんだ。多くのアーティスト、特に影響力のあるアーティストは政治的な発言をしないよね。ダンスミュージックは抑圧から生まれた音楽で、ハウスやテクノのプロテストミュージックとしての精神を受け継ぎたいと思ってる。僕は恵まれたことに大きなプラットフォームを持つことができているからこそ、抑圧された境遇にいる人々に代わって声をあげることへの責任を感じている。不平等な状況があることに多くの人に目を向けてほしいし、状況を終わらせるためにも協力したいと思ってる。
サルート
『True Magic』
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14058
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