ジーザス&メリー・チェインが語る決定的名作『Psychocandy』制作秘話
Rolling Stone Japan / 2024年7月24日 20時0分
ジーザス&メリー・チェイン(The Jesus and Mary Chain)のフジロック出演を記念して、来年リリース40周年を迎えるデビューアルバム『Psychocandy』を振り返ったインタビューをお届け。伝説的シューゲイズ・デュオが、彼らの傑作の着想源となったガール・グループやポップの低迷について語る。「僕らがバンドをやりたいと思ったのは、ラジオからクズのような音楽が聞こえてきたのがきっかけだったんだ」
即座にザ・ロネッツ「Be My Baby」と認識できるドラムパターンと、これまでに録音されたものの中で最も不快に歪んだギター・フレーズを携え、オルタナティブ・ロッカー、ジーザス&メリー・チェインは、この30年で最もコピーされたロックンロール・サウンドの一つの基盤となるものを録音した。このグループが「Just Like Honey」で示した混沌と静寂の融合、そしてこの曲で幕を開けるアルバム全編——バンドの1985年の傑作『Psychocandy』である——は、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインやブラック・レベル・モーターサイクル・クラブ、ア・プレイス・トゥ・ベリー・ストレンジャーズやその他のインディ志向の反逆児たちの作品に鳴り響いている。その耳障りなサウンド——「Never Understand」「You Trip Me Up」といったシングルではリズム・ギターが鳴っているのか? あるいは単なるフィードバックなのか?—-は、ジーザス&メリー・チェインが後続のアルバムでは決して再現することがなかったものだ。
本誌は、常にユーモアたっぷりのジム・リードを捕まえ、バンドがいくつかの制御不能なギター・ペダルでいかにして全英を—-その後、世界を——ひっくり返したのか語ってもらった。
—『Psychocandy』を作っていた時の最も鮮明な記憶といえば?
ジム:覚えているのは、僕らがレコーディング工程にかなりプロフェッショナルな姿勢で臨んでいたことだ。おそらくは、僕らがぐでんぐでんに酔っ払ってスタジオに雪崩れ込んでレコードを作った、みたいなことをみんな想像するだろうけど、当時のスタジオにはアルコールもドラッグも無かったんだ。僕らはスタジオ入りし、出来る限りいいレコードを作ろうと作業を始めた。後年のレコーディングは、あぁ、酷いものになっていったけど、あの当時は僕らにはかなりプロフェッショナルな職業倫理が備わっていたんだ。
—アルバムの曲を書いていた頃にはどんな音楽を聴いていましたか?
ジム:パンク系のものはメリー・チェインに多大な影響を与えていたよ。その後はヴェルヴェッツやストゥージズに真剣にのめり込んだ。80年代は当時の音楽シーンの動向にはあまり興味がなかったんだ。あの頃、僕らに吐き気を催させなかったバンドは、ザ・バースデイ・パーティやエコー&ザ・バニーメンぐらいだった。実際のところ、僕らが他ならぬバンドをやりたいと思ったのは、ラジオからクズのような音楽が聞こえてきたのがきっかけだったんだ。「どうして聴こえてくるもの全てがあんなにも酷いんだ?」って感じだったからね。それが主たる原動力だったんだ。酷い代物だったということがね。
—具体的には、どんなクズがあなたをイラつかせたのでしょう?
ジム:パンク・シーン隆盛の時期、NMEは僕らにとってのバイブルだったんだけど、ある号を買ったら表紙がキッド・クレオール&ザ・ココナッツだったんだ(笑)。「これは酷い……。これは間違っている!いったい何が起こっているんだ?」と思ったのを覚えているよ。そして、ニュー・ロマンティックスの連中やその類いのくだらないものもそうだ。僕らは思ったよ「どうも物事が間違った方向に行っていて、僕らがそれを覆さなければいけない」って。
—なんと大きな十字架を背負うことに。
ジム:あぁ、僕らは事態を改善したと思うよ。
—アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンからも影響を受けていたというのは本当ですか?
ジム:あぁ。彼らがロックドリルやチェーンソーなどで古い洗濯機を鳴らしてレコードを作るなんて驚きだよ。ある意味、僕らのギター・プレイに対する姿勢は少し似てるかもしれない。バンドを始めた時、僕らはほとんど演奏できなかったんだ。ある意味それはギターをより興味深い方法で使うことになる。どう演奏すればいいか分からない時、それは音楽ではなくノイズになるからね。
名曲「Just Like Honey」が生まれるまで
—『Psychocandy』では耳障りなギター・サウンドが聴こえます。それはどの程度スタジオで作られたのですか?
ジム:あれはまさにカオスだった。ふと浮かんできたんだ。僕らはギター・サウンドをできるだけ変わったものにしたかった。めちゃくちゃに歪んだサウンドを求めていて、持っていたペダルをたくさん使ったんだ。ほとんどそのまま使ってるよ。そのまま繋げば、信じられないぐらい金切り声を上げるんだ。それがあのサウンドだった。
—とはいえ、ギターの周囲に反響するリヴァーブもあのサウンドのとても重要なパートです。
ジム:リヴァーブは、レコード制作に慣れていなければ、スタジオ経験が浅い人が使うようなものに思えてしまいがちなんだ。思うに、僕らは60年代のバンド——60年代のガール・バンドとかそういったもの——に夢中で、全てはそこから生まれたようなものだ。
—「Just Like Honey」や「Sowing Seeds」に「Be My Baby」のビートを使ったのは、そういったガール・グループの影響ですか?
ジム:えーっと、奇妙なことに、実際それは意識して決めたものじゃなかったんだ。あのレコードを作って、人々がそれを指摘するまで、僕らは気づいていなかった。あの時は、あのビートが曲の雰囲気を決定づけたように思えたから…
—無意識だったと?
ジム:なんというか、きっとそうだったと思う。誰かが「なぁ、『Be My Baby』のドラムビートを使ってみないか?」と言ったようなことは無かったよ。そんな風にあれが出来たわけじゃないんだ。
—「Just Like Honey」の歌詞は、蜂の巣にまつわるもので、「Cut Dead」にも蜜蜂を追い回すことが歌われています。当時、蜂で何かあったんですか?
ジム:おぉ、なんと。知らないよ(笑)。ああいった歌詞がどうして出てきたかなんて、あまりにも昔のことで覚えてないよ。
—2015年の『Psychocandy』再演ショウ以前には「Cut Dead」や「My Little Underground」が演奏されたことはありませんでした。これらの曲へと立ち返るのはどれほど奇妙な感覚でしたか?
ジム:唯一奇妙だったのは、僕らの誰もがどうしてあれらの曲を当時演奏しなかったのか覚えていないことだ(笑)。かなりの影響力があると多くの人たちが捉えていると思われるこのアルバムを僕らが作り、そこには当時わざわざ人前で演奏することもないと思う部分があった、ということさ。それらをどうして演奏しなかったのかは本当に分からないよ。
—「Just Like Honey」のビデオクリップはまるでアンチ・ビデオのようです。この制作過程で覚えていることは?
ジム:あまり覚えていないんだ。あの頃の僕らのビデオは全て——少々変な物言いだけど——僕らはモンキーズみたいなビデオを作りたかったんだ。モンキーズのTV番組のようなものを、そして彼らの曲のようなものとちょっとしたビデオ・クリップができれば、と。それが初期メリー・チェインの全ビデオの青写真だったんだ。
「You Trip Me Up」のビデオ監督がどんな風にしたいか訊いてきたのを覚えているよ。僕らはまさに彼にこう言った。モンキーズみたいにしたい。さらに「ビーチで撮ろう、確実に日差しがあるところでね」と言ったんだ。そして、僕らはイースターの時期に数日間ポルトガルに行ったんだけど、連日の土砂降りだった。およそ10分ぐらい日が差してきて、あんな風にビデオが出来たんだ。
—『Psychocandy』の後続となる1987年の『Darklands』で、フィードバックが鳴りを潜め、ストレートなロックンロールに重点が置かれたのはどうしてですか?
ジム:『Psychocandy』第2弾を作るよう強要されていると感じたからね。それはメリー・チェインの流儀に反するんだ。同じことをそっくりそのまま繰り返したくはなかった。なので、あの時、僕らはアルバムごとに異なる声明を発しようと決めたんだ。そしてそれは僕らのキャリアを通じて続けられている。全てのアルバムはそれぞれが独立したアイテムだ。それはまるで、アルバムごとに新たなバンドが生まれたようなものだったよ。
【関連記事】ジーザス&メリー・チェインが語るデビュー40周年の現在地とフジロック「日本に行くのは最高の経験」
From Rolling Stone US.
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2024年7月26日(金)27日(土)28日(日)新潟県 湯沢町 苗場スキー場
※ジーザス&メリー・チェインは7月28日(日)出演
公式サイト:https://www.fujirockfestival.com/
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