マネスキン伝説を今こそ総括 大熱狂を巻き起こす4人の革新性、日本との特別な絆
Rolling Stone Japan / 2024年7月31日 19時0分
8⽉17⽇・18日開催のサマーソニック2024にヘッドライナー出演するマネスキン(MÅNESKIN)が、昨年12月の来日公演の模様を収録した日本限定ライブアルバム『LIVE IN JAPAN - RUSH! WORLD TOUR -』をリリースした。ここ日本で大熱狂を巻き起こしてきた彼らの歩みを、本誌でたびたび取材・執筆してきた音楽ライター・新谷洋子が振り返る。
「”あの時サマソニでマネスキン観た?”と後々語られるような、ひょっとしたら伝説化する可能性を秘めたパフォーマンスを目撃したのかもしれない」と当時本誌のライブ・レポートに書いたものだが、今から思えば日本における彼らの伝説は実際、2022年のサマーソニックで始まったと言って過言ではない。そしてあれから2年が経ち、バンドとして全く異なる局面に立つマネスキンが、今度はヘッドライナーとして同じステージに帰って来る。今やこの世代では極めて希少な、フェスのヘッドライナーを務められるロックバンドとして。
2022年8月のサマーソニックにて(Photo by Mitch Ikeda)
初めて日本を訪れた2年前の彼らは、ならばどんな局面に立っていたのか? バンドにとって重要なターニングポイントとなった2021年5月のユーロヴィジョン・ソング・コンテスト優勝後、その勢いに乗って、同コンテストのエントリー曲「Zitti e Buoni」以下シングルを次々にヒットさせたバンドは、みるみるうちに世界規模でブレイク。低迷していたロック界に久しぶりに現れた救世主として、大きな驚きを伴いつつ歓迎されたものだ。「大きな驚き」というのは言うまでもなく、マネスキンが想定外のアウトサイダーだったからである。
2021年5月のユーロヴィジョン・ソング・コンテストにて
そう、高校時代にバンドを結成した彼らのホームタウンは、ロックとは縁遠いイタリアのローマ、歌詞にはイタリア語が混じり、ブレイクのきっかけはユーロヴィジョン。優勝してもたいてい人気は欧州圏内に限定されるのに、マネスキンはボーダーを突き抜けた。なぜって彼らの場合、グラマラスなファッションや派手なステージングといったビジュアル・インパクトに留まらず、表向きの物珍しさに依拠した好奇心を、真のファンダムに引き上げられるだけの力量を備えていた。それは曲の良さであり、メンバー全員のスター性とショウマンシップであり、卓越した演奏力/歌唱力であり、ゆえのライブ・パフォーマンスの素晴らしさであり、そのベースにあるのが下積み時代に励んだバスキングだ。
ダミアーノはいみじくも次のように当時を振り返って語っている。「僕らはなんとかして人々の目を引きたいという一心でライブをやっていた。そういう意味で、僕らはずっと同じような意識でライブ・パフォーマンスに臨んでいるとも言える。つまり会場が大きくなってスペースが広がったら、その分だけ自分も動いてやるぞ、最大限に利用してやるぞっていうのが基本方針。これは僕らの場合、あらゆることに該当するんじゃないかな。環境の変化に無意識のうちに適合するっていうか。だから今の僕らのライブ・パフォーマンスを形作っているもののうち、75%くらいはローマのストリートでのバスキングで培ったと言えるね」(2023年12月の本誌とのインタビューより)。
『Chosen』収録の人気曲「Beggin」のパフォーマンス映像(2021年)
ローマのストリートで腕を磨いた4人は次いで、ロックバンドには敬遠されがちなオーディション番組(彼らの場合はイタリア版『Xファクター』)に出演して知名度を上げ、メジャー・レーベルと契約。さらに上を目指し、これまたロックと決して相性がいいとは言えないユーロヴィジョンに出場したことで、世界を照準に入れる。つまりバイアス無しに取り組んできたひとつひとつの試みを、ステップアップにつなげてきたわけだ。
しかも、マニアックなロック知識を備え、その様式美を随所に引き継ぎながらも、Z世代に属しクイア・アイデンティティのメンバーを含むマネスキンは、ロックを自分たちの形に合わせてアップデート。マッチョイズムを拒絶し、ジェンダー・フリュイディティとインクルーシヴィティを前面に押し出す。ポスト・ジャンル時代に適ったサウンド表現も然りで、デビューEP『Chosen』(2017年)にはエド・シーランやブラック・アイド・ピーズのカバーも収録。続いて1stアルバム『Il Ballo Della Vita』(2018年)では自分たちの雑食性をオリジナル曲に消化し、ラップと歌を交えるダミアーノのボーカル・スタイルにも合ったそのファンキーでメロディックな路線を、ヘヴィなミクスチャー・ロックやガレージ・ロックに昇華させたのが、2ndアルバム『Teatro dIra:Vol.1』(2021年)だった。
『Teatro dIra:Vol.1』収録の「I WANNA BE YOUR SLAVE」はバンド最大のアンセム、今年1月に「THE FIRST TAKE」でのパフォーマンスも公開
これが結果的に多くの人の耳を捉えたわけだが、一発屋で終わらないためにどうするのか? 彼らは試しにマックス・マーティンやジャスティン・トランターといったメインストリーム・ポップ界で活躍するプロデューサー/ソングライターたちとコラボしたりしながら(最初の成果が2022年春のシングル『SUPERMODEL』だった)、新たな可能性を模索し始めた。
そんな時期に、初めて日本を訪問。東京・豊洲PITでのウォームアップ・ギグを経て、8月20日の午後に東京会場のマリンステージに立ち、初っ端から『Zitti e Buoni』で突っ込んでいった僅か45分のショウで彼らは、一切説明を必要としないサウンドとヴィジョンのロックンロール・マジックで来日を待ちわびていた満場のオーディエンスを驚愕させ、バンド自身も初対面のオーディエンスの熱量に圧倒され(「日本人は大人しいんだって散々聞かされてきたけど、嘘っぱちじゃないか!」と驚くダミアーノのMCが思い出される)、最上級の相乗効果を生み出すことになった。
2022年8月、豊洲PITにて(Photo by Yoshie Tominaga)
2度目の来日までに果たしたスケールアップ
そして次に日本にやって来るまでの1年半も、彼らにとって重要なステップアップの時期となる。晴れて第65回グラミー賞の新人賞にノミネートされたマネスキンは、2023年1月に待望の3rdアルバム『RUSH!』を発表。前述したマックスのほかにもアメリカや北欧のヒットメイカーたちの手を借り、4人それぞれに異なる嗜好を積極的に反映させてサウンド表現に幅を持たせた同作はヨーロッパ各国のチャートでナンバーワンに輝き、英国で最高5位を獲得したほかアメリカでもトップ20入りを達成。
その後のツアーではグラストンベリー・フェスティバルに初出演して、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンのステージに立ち、イタリアでは巨大スタジアムで凱旋公演を行なうなど各地で大舞台を踏み、12月にいよいよ東京と兵庫での計4回のアリーナ公演を売り切るジャパン・ツアーを、みごと成功させるに至ったわけだ。
『RUSH!』収録、昨年12月の来日公演ではアコースティック・セクションの核を担った「TIMEZONE」。大人気コミック「BEASTARS」とのコラボレーションMVも話題に
2023年9月、NYのマディソン・スクエア・ガーデン公演で「HONEY!(Are u coming?)」を披露
このうち、12月3日の東京・有明アリーナ公演の模様をフルに収めたアルバム『LIVE IN JAPAN - RUSH! WORLD TOUR -』が、サマーソニックを控えたこのタイミングで日本限定で発売された。 ”マネスキン合唱の手引き”なるブックレットも添えられていることから、予習には最適のライブ盤と言える。
LIVEで歌えるマネスキン合唱の手引き画像
初の単独ツアーにして1万5千人を収容するアリーナを夜な夜な一杯にした彼らはちなみに、映像などによる演出に頼らず、サポート・メンバーを加えることもせず、4人だけ、音楽だけで2時間にわたってオーディエンスと向き合うことを選んだ。それは、ライブ映えを意識して作ったという『RUSH!』への自信の表れなのか? 実際インダストリアル・ロックからパワーバラードまで実に多様な、伸びしろがたっぷりある曲を同作で用意した彼らは、まさに4つ首のモンスターと表すべきスリリングなパフォーマンスで広大な会場を揺らし、「TRASTEVERE」と「TIMEZONE」のアコースティック・セクション然り、「I WANNA BE YOUR SLAVE」から「KOOL KIDS」までアップビートな曲で走り切るクライマックス然り、どこを切っても濃密な音楽体験を分かち合ってくれたものだ。
このジャパン・ツアーは同時に、年季の入ったロックファンだと思われる人々からドレスアップした若い女性のグループまで老若幅広い層のオーディエンスを動員し、マネスキンの音楽がいかに短期間に、日本に深く広く浸透したかを如実に物語ってもいた。洋楽離れが進む中、近年これほどの規模とスピードで海外の新人バンドが成功を収めた例はほかに思い付かないし、過去2度の来日で築いた絆あってこそ、今回たった8カ月のインターバルで日本に帰ってきてくれるのだろう。我々だけではなく、彼らにも前回のパフォーマンスの記憶が残っていることは間違いなく、それをさらに鮮烈な記憶で更新し、次につなげられるよう願いたいところだ。
2023年12月2日・有明アリーナにて(Photo by Fabio Germinario)
マネスキン SUMMER SONIC 2024予習プレイリスト
また今回の来日に関しては、マネスキンの公演前夜に開催されるソニックマニアに、ヴィクトリアがDJとして出演するというサプライズもある。昨年一番聴いた作品としてミス・バッシュフル×DBBDによるダーティー極まりないミニマル・テクノEP『Hot European Summer』(メキシコ系アメリカ人シンガー兼ラッパーとドイツ人プロデューサーによるコラボ作品)を挙げていた彼女は、ダンス・ミュージックへの造詣も深く、さる3月から5月にかけて、マイアミからイスタンブールまで20の都市のクラブでプレイする初のDJツアーを敢行したばかり。短いセットではあるが、東京でも手腕を披露してくれるのである。そんな別の顔を持つベーシストが、片や70年代のカシオペアのアルバムをヘビロテしているドラマーとリズム・セクションを構成しているのだから、マネスキンというバンドが面白くないわけがない。そして、今後何を仕出かすかも分からない。
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マネスキン
『LIVE IN JAPAN - RUSH! WORLD TOUR -』
発売中 ※CDのみでのリリース
CD2枚組・完全生産限定盤
〈特典)
・LIVEで歌えるマネスキン合唱の手引き(Are U Singing?)
・全16Pカラー・ブックレット
・漢字ロゴステッカー
・ツアー・セットリストレプリカ
・解説・歌詞対訳
CD購入:https://ManeskinJP.lnk.to/liveinjapan
マネスキン SUMMER SONIC 2024予習プレイリスト
※終演後、当日のセットリストを反映
配信:https://ManeskinJP.lnk.to/SS2024NW
SUMMER SONIC 2024
2024年8⽉17⽇(⼟)18⽇(⽇)
東京会場:ZOZOマリンスタジアム & 幕張メッセ
⼤阪会場:万博記念公園
※マネスキンは8⽉17⽇(⼟)東京会場、18⽇(⽇)大阪会場に出演
公式サイト:https://www.summersonic.com/
SONICMANIA
8月16日(金)幕張メッセ
開場:19:00/開演:20:30
※VICTORIA(MÅNESKIN)が0:10〜PACIFIC STAGE出演
公式サイト:https://www.summersonic.com/sonicmania/
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