リル・ヨッティが明かす、変化し続けるラッパーの野心的ヴィジョン
Rolling Stone Japan / 2024年8月13日 17時30分
異彩を放つアトランタ出身のラッパー、リル・ヨッティ(Lil Yachty)がサマーソニック初出演。トリッピーなロックサウンドに舵を切った昨年リリースの『Let's Start Here.』で世界中を震撼させ、今年のコーチェラでは「Lil Boat」という名の巨大ボートと共にパフォーマンスを披露。とあるライブ映像がネットミーム化したのも記憶に新しい。一筋縄でいかないキャリアを歩んできた彼が、問題作に込めた野心的ヴィジョンを語った。
2016年、当時19歳で赤い髪が印象的だったリル・ヨッティは、ヒップホップの世界におけるZ世代を象徴する存在として、シーンに彗星の如く登場した。「Minnesota」等のユニーク極まりない楽曲は多くの注目を集めたが、伝統的なラップの信者たちからは、時折披露されるお世辞にも上手いとは言えない歌も含めて、ヒップホップを冒涜するド素人の「マンブルラッパー」だと揶揄された。それでも、ヨッティは萎縮したりしなかった。それ以降、多くのアーティストがマンネリズムに陥るなかで、ヨッティは次々と新しいことに挑戦し続けてきた。「何をしようと俺の勝手さ」と彼は語る。「ウケるかもしれないし、そっぽを向かれるかもしれない。人生は一度しかないんだ、やりたいようにやるさ」。
彼の最新作『Let's Start Here.』は、これまで以上に挑戦的なレコードだ。サイケデリック・ロックに急接近した本作では、ヨッティは友人たち(アレックス・G、マック・デマルコ、MGMTのベン・ゴールドワッサー、エグゼクティブプロデューサーのSADPONYとパトリック・ウィンダリー)からなるバンドのリードシンガーに徹している。本作で描かれるのは、甘美なメロディと「僕ってすごくプリティ」という自己肯定感に満ちた夢見心地なランドスケープだ。現在26歳のヨッティは、作品のミステリアスなムードを損ねたくないという理由で、本取材を通じてアルバムの制作背景について多くを語ろうとしなかった。デビュー当時のフレンドリーさは影を潜め、最近では公の場で以前のように饒舌に語ることは少なくなっている。「当時は若かったからね。世間知らずだったんだ」。筆者との会話における主なテーマのひとつだった成長することについて、彼はそう口にした。
それでも、テキサスとニューヨークを含む各地で6カ月間にわたって行われたレコーディングの過程について、彼は「楽しかった」と話している。制作途中の楽曲を、ケンドリック・ラマーやJ・コール、エイサップ・ロッキー、ドレイク、タイラー・ザ・クリエイター等の「スーパースターたち」に聴いてもらう機会もあったという。「みんな興奮してたよ。あれは自信になったね」と彼は話す。
タイラー・ザ・クリエイターの助言
ー2022年にロサンゼルスで行われたリスニングパーティの場で、あなたは『Let's Start Here.』というタイトルについて、自身のキャリアの第2期の幕開けという意味もあると語っていました。第1期をあなた自身はどう捉えているのでしょうか?
ヨッティ:楽しみながら学んでいる感じだった。今も同じだけどね、俺は自分が発展途上にあると思っているから。すごく若かったし、自分の居場所や目的、この世界の常識を理解することに精一杯だった。素晴らしいスタートを切れたと思うよ。様々な経験を楽しみながら、いろいろと模索し続けていたんだ。
ーヒップホップの世界は、成長の途上にある若いアーティストにもっと寛容であるべきだと思いますか?
ヨッティ:どうだろうね。どうでもいいって気もする。俺は誰かから認められたくてやってるわけじゃないから。世間からの肯定って重要視されすぎてるよ。
ー今作の制作のきっかけになったのは?
ヨッティ:タイラー(・ザ・クリエイター)からの電話だった。以前からやりたいと思っていたけど、彼と話してスイッチが入ったんだ。
ーその電話の内容はどういうものだったのでしょうか?「やりたいことがある」というあなたの姿勢を、「じゃあやればいい」と彼が後押しした感じでしょうか?
ヨッティ:はっきりとは覚えてないんだけど、彼にすごく刺激されたことは確かだよ。具体的なアイデアを伝えたわけじゃないけど、「心と魂が何かを生み出したがっているのなら、それを形にするべきだ。でもやるからには徹底的にやれ。近道しようとするな」って言ってくれた。
2024年4月21日、コーチェラにて撮影(Photo by Timothy Norris/Getty Images for Coachella)
ー具体的なファーストステップはどういうものでしたか? アルバムで各楽器を演奏しているアーティストたちにコンタクトしたのでしょうか?
ヨッティ:彼らはそれ以前からの友人だよ。誰かに電話をかけたら、その人が別の誰かを紹介してくれるっていうパターンで、芋蔓式に広がっていった。このコンセプトは以前から俺の頭の中にあったし、突如湧いて出てきたわけじゃないんだ。
ー初期のセッションで印象に残っていることは?
ヨッティ:みんな気心の知れた間柄だったからスムーズだった。今作の収録曲にかなり近い状態の曲を、俺は既にたくさんストックしていたんだ。まったく新しいことにチャレンジしようとしたわけじゃないんだよ。俺は物心がつく以前からこういう音楽を聴いていたんだ。リスナーにとっては新鮮かもしれないけど、俺にとってはすごく馴染みのある音楽なんだ。でも、それをどうやって形にすればいいかを知ってるわけじゃなかった。すごくハードルの高いことをやろうとしているっていう自覚はあったよ。(ピンク・フロイドの)『The Dark Side Of The Moon(狂気)』のようなアルバムを聴いて、そういうレベルの作品を作ろうとするのってかなり無謀だからね。
ー過去のインタビューでは幻覚剤について言及していますよね。今作の制作において、それはどの程度重要なファクターでしたか?
ヨッティ:まったく重要じゃない。ゼロだよ。ドラッグをやってレコーディングするのは俺のやり方じゃないんだ。過去に何度も試したことはあるけどね。気分が高揚するサウンドを生み出すのに、ハイになる必要はないんだ。
ー幼い頃からいろんなタイプの音楽に触れていたとのことですが、これまでに「白人の音楽」というレッテルを貼られたことはありますか?
ヨッティ:もちろんあるよ。まったく気にしてないけどね。俺はそう簡単にイラついたりしないんだ。俺は俺の好きなようにやる、それだけさ。このレコードを白人の音楽呼ばわりするやつはたくさんいるけど、どうでもいいよ。白人の音楽って一体何なんだろうね。
「本物」として認知されたい
ーあなたはこのアルバムを作った理由のひとつとして、「クラウドラップやマンブルラップと決別し、本物のアーティストとして見られるようになること」だと話しています。クラウドラップやマンブルラップとカテゴライズされる人々が、他のジャンルのアーティストと同じように評価されるべきだという見方についてどう思いますか?
ヨッティ:まさにそれだ。他人がどう考えてるかは分からないよ。俺はそういう人々の代弁者ってわけじゃない。俺は俺の労働倫理やクリエイティビティについて話すだけで、他人のことに口を挟む気はないよ。俺はアーティストとして認知されたい。自分はマンブルラッパーじゃないし、クラウドラッパーでもない。でも俺は別に、すべてのクラウドラッパーを代弁してるわけじゃない。これは全部俺自身のことなんだ。その点ははっきりさせておきたい。これは俺なりの労働倫理であって、他人とそれを共有してるわけじゃない。馴染みのないジャンルについて学んだり、何かをやり遂げるための方法について思案することに、誰もが多くの時間を割こうとするわけじゃないから。
ー多くの人があなたのコメントに敏感に反応し、歪んだ解釈をする向きもあるように思います。ヒップホップの世界には伝統主義者が多く、新しいことに挑戦しようとするアーティストは邪道だと批判されがちです。
ヨッティ:おかしいよね。型破りな才能の持ち主をこき下ろすのは、いつだって王道を支持する人たちなんだ。「お前は本物のラッパーじゃない。こんなのはニセモノだ」ってね。あらゆる人を満足させることなんて不可能なのにさ。
リル・ヨッティは今年6月、ジェイムス・ブレイクとのコラボ作『Bad Cameo』をリリース
ーあなたは過去にラッパーとしてのスキルを証明しようと努めた時期もあったと語っています。今振り返ってみてどう思いますか?
ヨッティ:良かったと思ってる。批判があったおかげで成長したし、強くなれたと思う。努力することでヒップホップの何たるかをより理解できたし、その美学について知ったから。その過程で俺は学び、自分の武器を研ぎ澄ましていったんだ。
ー押し付けられたイメージが自身のキャリアの足枷になっていると感じたことはありましたか?
ヨッティ:特にないね。俺はずっと努力してきたし、ラップと世間からの評価に関して言えば、人一倍頑張ってると今でも思ってる。最近はどう思われようが気にしなくなったけどね。
Photo by Tom Harrisson
ーアワードやラジオでのエアプレイ、それにフェスティバルといった観点において、あなたが言わんとしていることは、ラッパーに貼られるレッテルとどの程度関係しているのでしょうか?
ヨッティ:まったく無関係だね。俺にとってはどうでもいいことだよ。俺は特定のジャンルに縛られまいとしているだけで、それはラッパーというキャリアに伴う報酬や労働とは何の関係もない。俺はいろんなタイプの音楽を作りたい、本当にそれだけなんだよ。それが世間に評価されるかどうかや、アワードにノミネートされるかどうかはまったく別の問題だ。
ー今後もそのクリエイティブプロセスとモチベーションに基づいて作品をリリースし続けることで、特定のオーディエンスに対して何かを証明しようという思いはありますか?
ヨッティ:特にないね。今回のアルバムだって、何かを証明したくて作ったわけじゃない。本物のアーティストとして認知されたいという思いはあるけど、その目的に基づいてアルバムを作ったりはしない。ただ優れた作品にしたかっただけで、ラップのアルバムを作るよりもこういうアプローチの方がいいと思ったんだよ。
ー自身のレーベルであるConcrete Boyzの動向について教えてください。
ヨッティ:今俺が一番やりたいことだね。最近は毎日のようにスタジオに入って、誰かと一緒に何かしら作ってる。まだ知られていない、特別な才能を持ったアーティストたちさ。ホットで斬新な、世間をあっと言わせるような作品をリリースするつもりだ。夏頃に本格的に始動させるつもりだから、楽しみにしててよ。
今年7月リリース「Lets Get On Dey Ass」のMVにはConcrete Boysのクルーも登場
ーゼイン・ロウ(Apple Music)とのインタビューで、ドキュメンタリーを制作していると話していたように思うのですが。
ヨッティ:もう仕上がってるんだけど、おそらく公開しないと思う。俺は基本的にインタビューが好きじゃなくて、自分の考えを口にするのが煩わしいんだ。全部洗いざらい話して、あとはステージの裏に引っ込んじゃうみたいなさ。「インスピレーションは? いつ誰と何について話し合った? この作品を作った動機と背景は?」。そういう質問に全部答えると何もかも伝わってしまって、もう特別なプロジェクトではなくなってしまうんだ。だから俺は意図的に、アルバムについて話すのを避けようとしている。作品を構成する要素や驚き、そこに隠されたクールな何かを明かしてしまいたくないんだよ。何もかもがシェアされてしまうっていうのは、今の音楽業界の問題だと思う。語れば語るほど、作品の神秘性が失われていくんだ。
ーそういうミステリアスな面を持つアーティストにこそ最も惹かれると?
ヨッティ:昔は今のようにソーシャルメディアが一般的じゃなかったからね。インタビューを受けるアーティストも、何もかも語ったりはしなかった。カニエも『808s & Heartbreak』や『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』について多くを語ろうとはしなかった。基本的なこと以外は伏せておくことで、聞き手に想像力を働かせる余地を残していたんだ。「制作プロセスはどんなだったんだろう? どうやってこんなサウンドを作ったんだろう? セッションはどんな感じだったんだろう?」。それがアートの醍醐味なんだよ。
ーあなたはこれまでもずっと、自身や作品について語りすぎないことを意識していたのでしょうか?
ヨッティ:いや、俺のインタビューはネット上に無数に転がってるよ。若かったからね、無知だったんだ。当時の俺は、口を開こうとしない同世代の人々の代弁者になろうとしていた。「誰も言わないなら俺が言う」みたいなね。でも、今は自分のことしか話さないことに決めているんだ。
From Rolling Stone US.
リル・ヨッティ
『Let's Start Here.』
再生・購入:https://umj.lnk.to/LilYachty_LSH
リル・ヨッティ&ジェイムス・ブレイク
『Bad Cameo』
再生・購入:https://umj.lnk.to/LY_BadCameo
SUMMER SONIC 2024
2024年8⽉17⽇(⼟)18⽇(⽇)
東京会場:ZOZOマリンスタジアム & 幕張メッセ
⼤阪会場:万博記念公園
※リル・ヨッティは8月17日(土)東京会場、18日(日)大阪会場に出演
公式サイト:https://www.summersonic.com/
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